物語のように
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「あちゃー……これは悲惨だな」
私達——正確には、ほとんどグリフィスさんが——
変異種を何匹か討伐した末に辿り着いたのは、
三人の班員達が食い殺された現場だった。
転がる遺体を前に、
グリフィスさんは一瞬だけ目を伏せ……
それから淡々と作業に入る。
一人ひとりを丁寧に布で包み、
手慣れた動きで同じ場所に寝かせていく。
……迷いがない。その手際の良さが、
彼がどれだけこういう光景を見てきたのかを物語っていて……
胸の奥が、じわりと冷えた。
「……いやぁ、やっぱさ。
悔いの無い死に様って、憧れるよな〜。
俺、死ぬ時はちゃんと
別れのセリフ遺したいわ〜」
「え……死に様って……。
それ、どういう意味?
あと今そういう話するの、不謹慎だよ」
思わず眉を顰める私に、
グリフィスさんは気にも留めず、
手を止めないまま言葉を続ける。
「だって考えてみろよ。
誰でも死ぬ時って、
自分じゃ予測できねーじゃん?
だから大抵の奴は、
ポックリ、あっさり逝っちまう。
どんなにイイ奴でも、関係なくさ」
包んだ布を整えながら、
彼は淡々と、
けれど……どこか噛み締めるように言った。
「……でも、それって
なんか悔しくね?」
「……悔しい?どうして?」
思いの外、
深い話になって、私は自然と耳を傾けていた。
「えー?フツーに悔しいだろ。
ってか嬢ちゃん、お前はいいの?
ヒトリボッチで死んでも、いーの?」
一瞬、こちらを見る。
「ここまでさ、せっかく
マジメに苦労して生きてきたのに。
せめて仲イイ奴とかに
ちゃんとオワカレしてーじゃん?
そう思わねー?」
「……たしかに。
死別とかのお別れなら……一人は、やだ」
私が小さく頷くと、
グリフィスさんは少しだけ目を細めた。
……でも、その笑みは、どこか寂しそうだった。
「だろー?……あーあ。
ろくな死に方できる奴ってさ、やっぱ“物語”の中で
選ばれた存在なんじゃねーかな〜って、思うンだよな」
遺体の方へ、視線を向けながら。
「ドラマチックな演出でさ、
スポットライト浴びて退場できるのって、
重要人物とか、
ちゃんと爪痕残せる奴ばっかじゃん?
モブなんて、描写すらネーし」
……詩的な言葉が、静かに空気へ溶けていく。
私は何も言えず、ただ小さく頷いた。
「……そうかも」
「あ〜……羨ましいなぁ。
主人公とかいう大層な存在じゃなくてもいーからさ。
死ぬ時ぐらい、
俺もスポットライト、掻っ攫えネーかなぁ〜……」
「……グリフィスさん」
気付けば彼は、
亡くなった班員達に向かって
静かに弔いを捧げていた。
「コイツらもさ……
皆、気の良い奴だったんだ。
それでも、死んじまった。
俺が看取ってやる間もなく、孤独に……」
その背中から、
さっきよりもはっきりと、
彼の寂しさが伝わってきて——
私は、耐えきれずに口を開いた。
「……でも。
グリフィスさんに覚えててもらえるなら……
この人達も、少しは……報われるんじゃないかな?」
気休めにもならない言葉だったかもしれない。
それでも——
「……どうだろうなぁ。
ハハ……」
力の抜けた笑い声。
「……でも、
そうだったら……いいよな」
その後に落ちた沈黙が、重くて……。
私は、もう一度
話題を変えるように、言った。
「……グリフィスさんって、
結構、詩的な事言うんだね」
すると彼は、
いつものヘラヘラした調子に戻って言う。
「だろ〜?こー見えて俺、
文系の芸術に力注いでんだぜ?
なんなら自作の本とか出してるし」
得意げに胸を張る姿に、
私は思わず安堵して、笑った。
「へぇ〜、意外。
……まぁ、機会があったら読んであげるよ」
「え〜?
何その謎の上から目線。チョーウケる。
……ま、仕方ねーから
機会があったら読ませてやるよ」
そんな軽口を叩き合いながら笑う。
……やっぱり、この人には笑顔が似合う。
——それは、きっと彼だけじゃない。
ここに倒れている人達も、
皆……そうだったはずだ。
……もし、この戦いが
グリフィスさんの言う“物語”だとするなら。
どうか、皆が笑顔で終われる
ハッピーエンドでありますように。
……私はそう願って、
そっと両の手を合わせた。
*⋆↜꙳┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈໒꒱꙳↝⋆*
《グリフィス視点》
探偵が次に向かう部隊は、
「疾風の堅守隊」……翠嵐様の部隊らしい。
探偵の口から翠嵐様の名前を聞いた瞬間……
俺はブルりと、体を震わせた。
……翠嵐様と関わりたくない。
俺は“とある理由”から、
彼女と極力関わらないようにしているのだ。
翠嵐様の友達だと主張する探偵に、
俺はこっそりそれを伝えた。
すると探偵は、心底不思議そうな顔をして
こう尋ねてくる。
「何で?……もしかして
アルテの事、嫌いなの?」
……いいだろう。
そこまで気になるンなら、教えてやる。
だが俺は、その“理由”を探偵に教える前に、
いつかの……
翠嵐様とのやり取りを思い返した。
*⋆↜꙳┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈໒꒱꙳↝⋆*
俺が大隊長に任命されたのは、五年前の事だ。
当時の俺は、十三歳。
大隊長なんて大役を務めるには若すぎる……
と思われるかもしれないが、
帝国軍に所属しているのは殆どが子供だ。
勿論大人もいるが、他国……
元々エデンカル帝国の外で生活していた者ばかりだった為、
軍に所属してから日が浅い大人達よりも、
子供達の方が階級が高かった。
……まぁ、それは現状あンま変わらずだけど。
俺が帝国軍に入った理由は、
リハイト様の下で働きたいと思っていたからだ。
十年前の大戦争で、
俺は魔物に殺されかけていた所を、リハイト様に救われた。
命の恩人である人について行きたい……
ただそれだけの単純な気持ち一つが原動力だった。
有難い事に、
俺には魔法や戦闘の才能や素質があったらしい……。
そのおかげで、特に苦労する事もなく、特殊部隊への入隊が決まった。
まぁ……
そこから大隊長という階級に行き着くまでが大変だったのだが……。
ようやく憧れの人の下で働けるようになった時、
俺はリハイト様に、大戦争の時の感謝を伝えた。
すると一瞬だけ驚いたような顔をされた後、
すぐに「……覚えていない」と言われてしまった。
それは当然だろう。
あの時から既に彼は英雄で、
人を助けるのは当たり前だったのだから。
助けた人間全てを覚えていたら、逆に驚く。
だから、いくらリハイト様に
「知らない」「覚えていない」と言われようとも関係ない。
俺が覚えていればいいだけだ。
大隊長になってからは、
執拗いくらいリハイト様について回った。
そうする事が許される階級になったのだから、
この立場は活用してナンボだろう。
事あるごとに仕事を要求し、リハイト様の為に自分が出来る事を探す。
命を救ってもらった恩を、
これで返せているとは到底思えないが……
それでも出来るだけの事をしてみせた。
それから一年が経ち……。
始めは困惑していたリハイト様も、
俺の扱いに慣れてきたのか……
少し鬱陶しげにしながらも、仕事を任せてくれる事が多くなった。
そして、ある日――。
「お前に重要な仕事を任せる」
リハイト様にそう言われた俺は、彼からの信頼を感じ、
浮かれながら詳細もろくに聞かず、その仕事を受けた。
……だが、受けてから少し後悔した。
「次の演習は堅守部隊と合同で
行う予定なんだが、
忙しくて俺は打ち合わせに行けない。
演習内容はこの書類に纏めておいたから
俺の代わりに、それを持って
“翠嵐”と打ち合わせして来い」
……これが、
リハイト様から受けた指示だ。
リハイト様の代理――
それを任されるなんて凄い事だし、
本当なら喜ぶべきなのだろう……。
「……。」
だが俺は、頭を抱えた。
……打ち合わせ相手が、
“翠嵐”様だったから。
これはあくまで俺から見た印象だが、
翠嵐様といえば……
英雄の中でも、一番謎に包まれている人物だ。
英雄以外と関わるのは、
常に自分の率いる部隊の部下達のみ……。
眠たげで大人しそうな見た目とは裏腹に、打たれ強く、
強かであり、貴族特有の礼儀礼節を崩さない。
俺は人とのコミュニケーションで困った経験は、あまりない。
人と話すのは得意だし、
誰とでも基本的にフランクに、気楽に関わってきた。
……でも、翠嵐様が相手となると話は別だ。
彼女はリハイト様の“相棒”。
彼の友人であり、仲間であり……“対の英雄力”を持つ相棒だ。
常に一番近くでリハイト様を支える存在――
そう考えると、どう関わっていいのか分からなかった。
そもそも当時の俺は、
彼女と直接関わる機会がほぼ皆無だった。
そんな相手と、いきなり一対一で話し合わなければならない事になり、困惑した。
「それになーんか
怖いんだよなぁ〜……翠嵐様って」
翠嵐様の執務室。
その扉へ手を伸ばしながら、
俺は独り言のようにそう呟いた。
すると――。
「あらまぁ……それはそれは……。
理由は存じ上げませんが、
怖がらせてしまったようで、すみません」
……後ろから、
落ち着きのある柔らかな声が聞こえてきた。
……。
どうやら一番聞かれてはまずい人に、聞かれていたようだ。
「……ッす、翠嵐様……」
「御機嫌よう、隊長さん」
顔を青くして振り返ると、
いつの間にか、そこには翠嵐様が立っていた。
俺が挨拶をする前に、
翠嵐様は優雅な仕草でお辞儀してみせる。
その、異常なまでに普段通りの様子を見て、
俺はますます顔を青くした。
普段怒りを表に出さない人ほど、怒らせると怖い……。
多くの人間と関わってきた自分の中の経験が、
そう言っている。
「ど、どもッス……あの……
今の、聞こえて……。
やっぱ怒ってる……ッスよね?」
恐る恐る、翠嵐様に問いかける。
もし気分を害されていたら……
せっかく重要な仕事を任せてくれたリハイト様に、顔向けできない。
「ええ、それはもう。
現在進行形で憤りを感じておりますとも」
笑顔のまま放たれたその一言に、
俺はとんでもない焦燥感に苛まれた。
「すンません……」
やってしまった……何とかしなくては……。
リハイト様から初めて重要な仕事を任された事もあり、
当時の俺は軽くパニックになっていた。
今考えても我ながら情けないが……
どうすればいいか分からず、
俺は結局、その場に突っ立っている事しか出来なかった。
──沈黙。
気まずい空気が、じわじわと広がる。
……もう帰りたい。
だが、そう思った時――。
不意に翠嵐様は、
それまで取り繕ったように浮かべていた上品な笑顔をやめ、
少し呆れたような表情で口を開いた。
「……冗談ですよ。
気にしておりませんので、
顔を上げてください、隊長さん」
その言葉に、
俺は目を丸くして呆けた。
「え、冗談って……マジすか?
マジで気にして無いンすか?」
「あら……叱責をご希望で?」
「や、それは勘弁してほしいッス」
何はともあれ、助かった……。
本当に気にしていないのかは分からないが、
少なくとも俺を追い返すほど怒っている様子は無い。
「……まぁ、何故わざわざ”私の執務室の前”で
あのような事を仰られていたのかは、分かりかねますが……。
本当に、気にしておりませんから」
「……ッス」
ごもっともな言葉を投げられ、
俺は内心で色々考え込んでしまった。
その後の打ち合わせでも、
俺は緊張やら何やらで色々やらかしたが……
翠嵐様は、どんなにヘマをしても咎める事なく、
最後までフォローしてくれた。
翠嵐様が俺の上官である事は確かだが、
そのあまりにも手厚いサポートに、
彼女が自分より年下だという事も忘れ……
後半はほとんど頼りきってしまっていたと思う。
……何度思い出しても情けない。
*⋆↜꙳໒꒱꙳↝⋆*
「……隊長さん、どうされました?」
打ち合わせが終わり、資料を整理した後。
どうやら俺は無意識のうちに、
翠嵐様を直視していたらしい……。
気づいた時には、翠嵐様が訝しげに首を傾げ、
死んだ魚のような……光の無い目で、俺を見ていた。
「翠嵐様って……」
そしてそんな彼女からの問いに、
何を思ったのか俺は──
「?」
「目つきが悪いだけで
性格は尖って無いッスよね」
性懲りも無く、
なんとも失礼な発言を返した。
「ッ……突然何を言うかと思えば……。
貴方、“オブラート”という言葉、ご存知?!」
思考は自由ですが、せめて発言だけでも包み隠すように……
と続けて言いながら、
翠嵐様は俺を軽く睨み、むくれてしまった。
次こそ本気で怒られるかもしれない……。
そう思い、慌てて言葉を紡ぐ。
「す、すンません……。
でもその、悪気は無くって……」
「……悪気があったら困ります」
翠嵐様は背を向け、ますます頬を膨らませる。
……だが、
この日は少なくとも、まともに対談をしたからだろうか……。
この時の俺はもう、翠嵐様の為人を、
ある程度知った気になっていた。
だから、遠慮もせず、口を開いた。
「そッスね……あ〜……
うまく言えないンすけど……。
ただ……今までちゃんと
向き合ってなかった事に対して、謝りたくって……」
しかし思っていた以上に、
伝えたい事を言葉にするのは難しい……。
口が、上手く回らない。
――自分の命の恩人であるリハイト様の相棒である貴方に、
どう接するべきか分からなかった事。
ろくに知りもせず、勝手に苦手意識を抱いていた事に対する罪悪感。
……失礼な発言に目をつぶってくれた優しさや、
その後も丁寧にサポートしてくれた事への感謝……などなど。
言いたい事は山ほどあるのに、どうしても言葉にのせられない。
それでも今、気持ちを伝えなければ。
少しでも良好な関係を築かなければ――。
そう感じた俺は、たどたどしく、口を開いた。
「つまり、その……」
「……私も、貴方と同じです」
「……え」
しかし俺がまともな事を言う前に、
翠嵐様がそれを遮った。
まるで俺の考えも、想いも、
全て見透かしているかのような瞳……。
その視線に、
俺は思わず口を閉ざし……彼女の言葉を待った。
「私も嘗て、師匠に……
リハイト君に、命を救われた身なのです」
……衝撃だった。
……知らなかった。
俺は翠嵐様の事だけでなく、リハイト様の事さえ……
二人の関係すら、まともに知らなかったのだ。
思いもよらない
”彼女と自分の共通点”をカミングアウトされた俺は、
またも間抜けな表情を晒し……
目を見開いて、翠嵐様を見つめた。
それはさも滑稽だったのだろう……。
翠嵐様は、くすりと笑い――。
「共に師匠を支えましょう。
私は貴方と“同士”として、
手を取り合っていきたいのです」
友好の証を示すように俺の手を取ると、
その手をしっかりと……握ってみせた。
「貴方とは良い関係を築けると、
私は信じています」
彼女が手を離すまで、俺は呆然としていた。
「……あのッ!」
……だが、離れた瞬間、
慌てて言葉を紡ぐ。
「俺なんか、翠嵐様と比べるのも
烏滸がましいレベルッスけど……
それでも、魔獣隊の大隊長として恥ずかしくないように、
リハイト様を支える役目は、きっちり果たしてみせるンで!
えと……ッ、ま、任せてください!」
突然の言葉に、翠嵐様は目を見開いて
驚いたようにこちらを見たが……それも一瞬の事。
彼女はすぐに、こぼれるような笑顔を浮かべた。
「ふふッ……。
それは……頼もしい限りですね」
「……ッス……」
翠嵐様から俺へと、
初めて向けられた曇りも繕いもない自然な笑み……。
褒められたというのに、ろくに返事も出来ず俯く俺に、
翠嵐様はさらに言葉を続けた。
「……では、“これからも”、
期待させていただきます」
「……ッ、はい!」
“これからも”――。
"これからも"…とは……つまり、
翠嵐様は、ずっと俺を見ていてくれたのだろうか?
さほど関わった事の無い俺に、
前から期待してくれていたのだと…自惚れてもいいのだろうか?
嬉しくて、光栄で……
柄にもなく、本気で感動した事を、今でもよく覚えている。
……思い返せば、あの時から、
翠嵐様に声をかけてもらう機会が増えた気がする。
俺も、今では翠嵐様を怖いと思う事は無くなった。
まぁ……どこか掴めない、あの人の事が、
未だに苦手ではあるけど。
……でも、
俺が翠嵐様と関わりたくないと思う一番の理由は――
”別”に、ある。
……その理由とは――。
???「あーーーッ?!
何ッしてるんですかグリフィスさん!!
さては貴方!!“私の”アルテ様を取る気ですね!!」
一途な愛が超重量級で、暴走しがちな一人の嬢ちゃん……。
懸命に翠嵐様を追いかけ回す、“姫”の存在である。
「貴方が恋敵になるのなら!!
私も容赦はしません!!お覚悟ッ!!」
次の瞬間――
窓が、派手な音を立てて開いた。
突然、部屋の中へ侵入してきた小柄な少女は、
山藍摺色の髪を振り乱しながら、瞬時に武器を取り出す。
そしてその体格にまったく見合わない、重たそうな盾を――
俺目掛けて、振りかぶった。
「え、ちょ……
なんて事してンすか?!?!」
「姫様……そこは扉ではありませんよ……」
俺が慌てて声を上げると、
翠嵐様はその少女を見て、呆れ気味にそう呟いた。
……ッて、いや!
そこも確かにツッコむべき部分ではあるンすけど!!
その前にアレ止めて!!
俺、絶対殺されちゃう!!
縋るような視線を向けると、
翠嵐様はようやく、その少女から武器を取り上げてくれた。
「姫様。
人を傷つけては成りませんよ」
「知っています!
ですが、アルテ様と親しげにされている
馬の骨……グリフィスさんを見たら、
いてもたってもいられなくて、つい!!」
翠嵐様に“姫”と呼ばれるこの少女……。
天真爛漫で、破天荒な行動からは想像もつかないが――
十年前の大戦争で瘴廃国が増える前は、
かなり大きな国の第一王女だったとか、何とか……。
……ていうか、馬の骨って……俺の事?
「それでもダメです。
はしたないですよ、姫様」
「愛に勝る上品さなどありません!!」
……なんという愛の強さ。
好いた相手の前でさえ、淑女らしく振る舞ったり、猫を被ったりしない。
決して好意を包み隠さない、その姿勢を見れば――
呆れを通り越して、尊敬までしてしまうレベルだ。
「相変わらず、熱烈ッスね……」
姫の暴走具合は、今に始まった事じゃない。
俺が入隊した頃には、もう既に――
彼女のアプローチは始まっていた。
虚空を見つめて呟くと、
翠嵐様は困ったように、けれど柔らかく笑って……。
「えぇ……まぁ。
懐いてくださるのは、
大変光栄なのですが……」
「さぁアルテ様!!
今日こそ私と、永遠の愛を誓いましょう!!」
「ここまで暴走気味な愛を
向けられると……対応に困ります……」
「ハハッ……」
そうして、
姫を窘める事に手こずる翠嵐様の姿を、
俺は少し距離を置いて眺めていた。
……俺は今でも、
翠嵐様と関わる事を、少しだけ――
……いや、だいぶ避けている。
理由は、勿論。
彼女に恋する姫が、怖いからだ。




