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生彩放つ無神世界  作者: 美緑
〜第九章〜強化訓練
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英雄たる代償


「おはよう、探偵ちゃん。

今日はよろしくね」


ソフィアとレインの過去を観た、その翌日――

私は、ソフィアが隊長を務める“慈雨の治癒隊”を訪れていた。


特別演習の初日は、この部隊にお世話になる事になっている。



「ソフィア!おはよう!!

こちらこそ、よろしくお願いします!」


穏やかな笑顔で迎えてくれるソフィアに、

私も思わず笑顔で挨拶を返した。


そのまま彼女に案内され、二人で治癒隊の訓練場へ向かうと、

まだ朝も早いというのに、

すでに一人で朝練を始めている姿があった。


「アリア!おはよう!!」


「おぉ!おはよ、探偵!

今日はよろしくね!」


駆け寄って声をかけると、

アリアはすぐにこちらに気づき、快活に挨拶を返してくれた。


「アリア、おはよう」


私の少し後ろから、ソフィアも続けて声をかける。

するとアリアは、

体の向きをソフィアの方へと変えながら――


「お!ソフィア、おはよう。

今日は……うん。

見たところ、“代償”は問題なさそうだね」


……そう言った。



「……え?」


その言葉を聞いた瞬間、

私はぴたりと動きを止めてしまった。


「なに……代償って……?」


聞き間違いだろうか、と自分の耳を疑いながら、

思わず目を見開く。


驚きのあまり零れた私の呟きを聞いてか、

アリアは少し不思議そうに首を傾げ、私を見た。

そしてすぐに、視線をソフィアへ戻して口を開く。


「ソフィア……。

もしかして、まだ“代償”の事……

この子に教えてなかったのかい?」


「……うん」


ソフィアは、どこか気まずそうにしながらも、はっきりと首を縦に振った。

その反応を見て、

アリアは小さく息を吐き、再び口を開く。


「……ならさ、この機会に

まとめて話しちまったらどうだい?

この子は、信頼できるんだろ?」


その言葉に、ソフィアはもう一度――

今度は迷いなく、しっかりと頷いた。


「そうだね……探偵ちゃん。

訓練までまだ時間があるから、

ちょっと二人で話そう」


「……うん、わかった」


どこか覚悟を決めたような表情のソフィアにそう言われ、

私は彼女について歩き、治癒隊の執務室へと案内される。



――これから聞く話が、

きっと簡単なものではないのだと、

胸の奥が静かにざわついていた。






✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿






「それでソフィア……

“代償”って、一体なんの事?」


執務室に通され、座り心地の良いソファに腰を下ろした途端、

私はさっきから胸につかえていた問いを、改めて口にした。


ソフィアは一瞬、言葉に詰まったように視線を逸らす。

……けれど逃げる事はせず、

やがて静かに息を吸って、重たい口調で語り始めた。



「実はね……

私達が扱う“英雄力”には、

それぞれ違う“代償”が伴うの」


私は、その言葉を自分なりに噛み砕くようにして問い返す。


「五人全員が……

それぞれ別の代償を抱えてるって事?」


「……そういう事になるね」


ソフィアは、先ほどよりもさらに表情を曇らせながら、

ゆっくりと頷いた。



「皆の代償って……

具体的には、どんなものなの?」


代償の内容や、それがどんな影響を及ぼしているのか――

それを知りたくて、私は続けて問いかける。


するとソフィアは、私の反応を確かめるようにじっと見つめてから、

不安を滲ませた瞳のまま、こう返してきた。


「……誰の代償から聞きたい?」


質問に質問で返されて、私はすぐに理解した。

五人分を一度に話せるほど、

簡単な話ではないのだろう。……と。



だからこそ、

一人ずつ……順番を、私に委ねてくれたのだ。



「じゃあ……レインから」


普段、一番近くでお世話になっている人。

私は迷わず、そう答えた。


ソフィアはその返答を聞いて、真剣な表情で頷き、

英雄力と代償について、

ゆっくりと……言葉を選びながら説明してくれる。



「レインちゃんの英雄力は、“奇跡の力”。

自分の魔力だけじゃなくて、

仲間の魔力まで回復できる……本当に凄い力だよ。

……でも、その分、代償も大きくて……」


そこまで言って、

ソフィアは一度言葉を切った。

私は思わず息を詰める。

喉が小さく鳴り、無意識に唾を飲み込んでいた。


……一体、どれほど重い代償なのだろう。

そう身構えた、その直後。


「レインちゃんは……

“人の顔を識別できない”んだ」



「……え?」


どれだけ覚悟していても、

その言葉は、私の想像をはるかに超えていた。


「そんな……それって……」


動揺で、言葉がうまく続かない。



「私達の顔も……

どんな表情をしてるかも、

レインちゃんには、見えてない」


そう言って、ソフィアは小さく笑った。

――けれどそれは、

どう見ても無理に作った笑顔だった。


胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。


それに……

あれだけ一緒に過ごしてきたのに、

レインがそんな代償を抱えている事に、

私は今までまったく気づかなかった。



「レインちゃん、凄いでしょ……

顔が分からなくても、

魔力で“誰か”を判断できるんだって」


ソフィアはそう言いながら、片手を前に差し出し、

その掌に自分の魔力を集めてみせる。

紫色を帯びた魔力は、

私の目には、小さな海月のように揺らめいて見えた。

……きっと、私よりもずっと魔力量の多いレインは、

魔力探知や識別の能力も格段に高いのだろう。


だから、

魔力で人を見分けている……と言われれば、納得はできる。


けれど――

人の顔が見えない事。

表情が読み取れない事。

……それが、どれほど辛い事なのか。


家族同然の仲間の顔ですら、

あの綺麗な瞳に映る事がないなんて……。


「……。」


私はレインの苦悩や、胸の内を想像して、

自然と俯いてしまっていた。



するとソフィアは、少しだけ間を置いてから――

次の代償……

今度は、リハイトの代償について語り始めた。


「リハイトさんの英雄力は“共鳴の力”。

魔物や魔獣はもちろん、

聖獣や神獣にまで心を通わせ、

仲間にできる……とても素敵な力。

……だけど、その代わりに」


一拍置いてから、ソフィアは静かに続ける。


「彼は、“魔力の自己回復”ができないの」


「ッ……?!」


その言葉を聞いた瞬間、

私の脳裏に、翠雨様の姿がよぎった。


……まさか、リハイトも。

同じように衰弱してしまうんじゃ――?

「え……っ」

血の気が引くのが……

自分でもはっきり分かった。


「あ、えっと!」


するとそんな私の様子に気づいたのか、

ソフィアは慌てたように言葉を重ねる。


「リハイトさんはね、

ポーションやレインちゃんの力で

魔力を回復できるから大丈夫だよ!!」


その一言で、

ようやく息ができた気がした。


「……よ、良かったぁ……」


想像していたほど致命的な代償ではなさそうだ。


……けれど、それでも。

魔力が“自己回復しない”というのは、

やはり相当きつい。


魔法使いにとって魔力は、

体を巡る酸素や血液と同じようなものだ。

通常なら、睡眠や食事、日々の生活を送るだけでも、

少しずつ自然に回復していく。

だからよほどの無茶をしない限り、

魔力が完全に底を尽きる事なんて、

まず起こらない。


……でも、リハイトは違う。


自然回復ができない以上、

補給が途切れれば、

最悪の場合、魔力枯渇で命に関わる状況に

陥る可能性だってある。

そこまで考えて、私は小さく身震いした。


……よし。

これからリハイトには、

魔力回復ポーション、毎日差し入れしよっと。




「えっと、それじゃ……アルテは?」


二人分の代償を聞き終えたあとだったからこそ、

私はある程度、英雄力に伴う“代償”の重さと危険性を理解していた。

理解してしまったがゆえに……

それでもなお、恐る恐る次の代償を聞く。


するとソフィアは、また少しだけ間を置いてから、

静かに語り始めた。


「アルテちゃんは、“神獣の力”。

神獣と同等の力を引き出したり、

神獣に変身できる……不思議な力で……

代償は……」


「……代償は?」


そしてまたしても、そこで言葉を切る。

私は続きが気になって、思わず身を乗り出した。



「アルテちゃんは……」


「……うん」


話しづらそうに口を動かすソフィアに、

私は無意識に、強めに相槌を打ってしまう。

そして――



「……治癒魔法が、扱えないの」


消え入りそうな声で、ソフィアはそう告げた。




「……え?」


思いもよらない代償の内容に、私は首を傾げる。

一瞬、

意味を取り違えたのかとすら思ってしまう。


「確かに前にアルテ自身から、

治癒魔法は難しくて扱えないって

聞いた事あるけど……

でもアルテだって、

簡単な治癒魔法くらいなら使えるでしょ?」


レインやリハイトとはあまりにも違う代償……というか、これ代償なのか?と思ってしまうレベルの些細な代償に、私は唖然とする。

……これの何が問題なの?


頭に疑問符を浮かべたままの私を見て、

ソフィアは小さく首を横に振った。


「初歩的なものでも、扱えないの。

……それが、あの子の代償だから」


「あ……」


その一言で、

私はようやく“本当の意味”に辿り着いた。


……あぁ。

これは確かに……致命的だ。



腕や足を繋ぎ直すような高度な治癒魔法は、

熟練した術者でなければ扱えない。


でも――

擦り傷、打撲、骨折程度の“初歩的な治癒魔法”なら、

魔法が使える者であれば、誰だって扱える。

……そう、“誰だって”。




「……なるほど。

皆がアルテに過保護になる理由、

よくわかった……私も過保護になりそう」


私は思わず、頭を抱えながらそう呟いてしまった。


戦場での小さな怪我は、決して侮れない。

けれど治癒魔法が使える魔法使いなら、

自分で治せる限り、魔力が尽きるまで戦える。

だからこそ、

内戦の時、突き指程度で救護テントに運ばれた先輩を揶揄ったりできた。

それは勿論先輩が治癒魔法を使えるから。



……でも、アルテは違う。


どんなに些細な怪我でも、

自分の力で治せないんだ。


もし一人でいる時に怪我をしたら?

助けてくれる誰かが、近くにいなかったら?

最悪の光景が、簡単に思い浮かんでしまって、

背筋が冷たくなった。


あぁ……なるほど。

リハイトとレインが、

アルテの単独行動を必死に止めようとする理由が、

今なら痛いほど分かる。



「自分で怪我の治療ができないのに……

それでも、積極的に戦いに行っちゃうから

困っちゃうんだよね……」


ソフィアは眉を下げ、

本当に困ったようにそう言った。

私は、普段のアルテの姿を思い返しながら、

強く頷いて声を上げる。


「そうそう!

あの英雄として生き急ぐ感じ!

直してほしいよね!

呪いの影響とは言え……心配だもん!」


……けれど。


その言葉を聞いたソフィアは、

一瞬だけ目を見開いて――

そして、

そのまま俯いてしまった。



「……うん。

……死に急がないで、ほしい」


その呟きは、私の言葉を肯定しているはずなのに……

どこか、決定的に違って聞こえた。


“生き急ぐ”と、“死に急ぐ”。

その二つの間に横たわる溝に、どこか嫌な違和感を感じる。


……まさか、とは思う。

けれど、それ以上、私は何も聞けなかった。



――聞いてはいけない。


なぜか、そう感じてしまったのだ。

……嫌な予感ほど、

当たるものなのに。




「そ、そうだ!次!ソフィアの代償は?」


……これ以上、悪い方向に考えてはいけない。

私は必死にそう自分に言い聞かせて、

話の軌道を無理やり修正した。


……杞憂だと、いいんだけど。



「私の英雄力はね、

皆が考えているほど万能じゃないんだ……」


ソフィアは、私の内心を訝しむ様子もなく、静かに口を開く。

その声音は落ち着いているのに……

どこか覚悟を含んでいた。


「“治癒の力”は、

“死んでいない限り、どんな怪我も回復させられる”。

……けど、この力を使えば使うほど、

術者である私は、猛烈な眠気に襲われるの。

……まぁ、これは探偵ちゃんも知ってるよね?」


「あ……うん。

ソフィアが眠くなっちゃうのも、

英雄力の代償だったんだね……」


私は頷きながら、ふと思い出す。


――大きな力には、

それに見合う代償が必ず伴う。


……前に、レインがそんな事を言っていた。


「そういえば……前にレインが、

“大きな力にはそれに見合う代償が必ず伴う”

って言ってたな……。

もしかしなくても、この事だったのかも……」


代償の存在を、

レインはずっと前から仄めかしてくれていたのかもしれない……。

そう考えると、自分の察しの悪さに嫌気がさす。



「睡魔に襲われるだけなら、

まだいいんだけどね……」


ソフィアは、また意味ありげに言葉を切った。


「……え?

まだ他にもあるの?」


私が思わず身を乗り出すと、

ソフィアは一度、深く息を吐き――

意を決したように続ける。



「……“命に関わるほど酷い怪我をした患者”を治療する時、

その患者の“生命力”を削らないといけないの」


「……そう、なんだ」


正直、少し驚いた。


でも同時に、

ソフィア自身に眠気以外の直接的な代償がない事に、

胸を撫で下ろしてしまった自分もいた。



……ここまで聞いてきた後だ。

過剰に心配してしまうのも、無理はない。


ソフィアの英雄力――“治癒の力”は、

普通の治癒魔法とは一線を画す。

蘇生術に近い治療すら可能で、

完治までにかかる時間も桁違いに短い。


どれだけ高度な治癒魔法でも、

所詮は“治療”の域を出ない。

英雄力の性能には、どうしても敵わない。


……そんな力に、代償が伴わないはずがない。


だから私が、ソフィアの身を大袈裟に案じてしまうのも、

きっと当然だ。



「私は患者を治療して、

無理やり延命させる事はできるけど……

なんのリスクもなしに、

元通りにはしてあげられない」


ソフィアは憂いを帯びた表情で、

本当に辛そうにそう言った。


「……つらいね」

……なんて、あまりにも無力な言葉。


それしか言えない自分が、情けなくて仕方なかった。

でも、自分が経験した事も無い苦悩の気持ちを分かった風に共感して慰めるなんて……そんな図々しい真似はとてもできなかった。


人を助けられる力があるのに、

その行為が別の苦しみを生む――

それがどれほど悲しい事か。

人一倍優しいソフィアが、今までどれだけ心を痛めて……

それでも英雄力を使ってきたのか……。

それを考えるだけでも、哀切極まりない。



「……。」


切ない気持ちに包まれながらも掛ける言葉を探していると、

その沈黙を破るように、ソフィアがぽつりと口を開いた。



「この事を知った軍の上層部や一部の人は皆、

私達の力を……期待はずれの“欠陥品”だって言うんだ」



「……は?」


それを聞いた途端、

間抜けな声が、勝手に漏れてしまう。


……理解できない。

今……なんて?


全身が、バチバチと音を立てて

火花を散らしているみたいだった。



「……探偵ちゃんも、がっかりしたで――」

「そんな事ないッ!!!」


続けて悲しい事を言うソフィアの口を、

私は叫びながら塞ぐ。


「……え?」


私の突拍子のない行動に驚いているのか、困惑しているのか……

ソフィアはただ目を丸くして私を見ている。

…が、そんな彼女に構う事無く、私は張り上げた声を出す。


「そンッなのさぁ!

神様じゃないんだから、完璧じゃないの当たり前じゃん!

ろくに神様信仰してもないのに

都合のいいとこだけは神の所業同等のもの求めちゃってさ?

……ほんッとバッカみたい!!

そもッそも!

自分達はソフィアや英雄の皆と

対等な立場で口出せる程努力もしてないくせに!!何様?!

あ"〜も"〜!!

ほんッとに!腹立つぅ!!!」


「た、探偵ちゃん……?」


民やら帝国やら何やらに対して色々言いたい事や怒りが込み上げて……それら全部を言葉に乗せ一気に吐き出すと、幾分か気持ちが落ち着いた。

ソフィアが困惑した様子でこちらを見ても、もう気にしない。


「あ、えっと……つまりね!

がっかりなんて、絶対しないよ!

むしろ……そんな代償があるのに、

自分の身を削ってまで

頑張り続ける皆の事……

……上手く言えないけど、

……その……

やっぱり、凄いって思った」


私は難しい事を考えるのをやめて、

思った事をありのままソフィアに伝える。


きっとこれが私に出来る……皆の心を癒す方法だと思うし、

私らしいやり方だ。


……喩えそれがどんなに不器用で、

下手くそで……語彙力が乏しくったって、

皆への気持ちだけは本物だから!



「探偵ちゃん……」


……でも、

ソフィアの表情は目を見開いた状態のままで……

私の言葉が響いているようには見えなかった。


……う~んダメか。


私は軽く肩を落としつつも、どうすればソフィアの心に寄り添えるのか、さっきみたいに悲しい事を言わせない為にできる事は無いのか……と、あれこれ熟考しながら口を開く。



「あ〜……ごめん。

やっぱり、言語化むずかしいや……。

もっとこう、

皆の事褒めちぎりたいんだけど、

どうしてもチープな言い回しになっちゃ……」

──ガバッ!!



「……あぇ?」


しかし言葉を発している途中で、

突然ソフィアが私に抱きついてきた。


「???」


何が起きたのか理解できず、なぜ抱擁されているのか……

間抜けな声を出しながら状況を飲み込もうとする私の耳に、

ソフィアの優しい声が響く。


「……ありがとう」


この体勢でお互いの顔は見えないけれど、

ソフィアの声が潤んでいる事に気がついて……

私は余計な言葉を発さず、ただ静かに頷いた。

腕を回してハグを返せば、ソフィアは言葉を続ける。


「私達、ずっと辛かった……。

英雄力の知識は、

本や資料がほとんど残ってなくて……

調べる事も、

誰かに教えてもらう事もできなくて……。

力を使う度に襲ってくる代償が、

怖くて……堪らなくて。

今でもこの力は謎だらけで、

他にも隠れた代償があるかもしれないって思うと……。

……それに、

こんな事、相談できる人も少なくて……」


……長い間、英雄としての役目を背負ってきた少女の本音は、至極当然なものだった。


私は何も言わずにソフィアの頭を撫でる。

するとソフィアは、私の背に回す腕の力を強めて口を開いた。


「思い返してみれば……

デボティラは、私に英雄力を

使わせないようにしてくれてたのかも……。

凄く怖くて、厳しい人だったけど、

私達の事、気にかけてくれて……」


……きっと今でも、ソフィアは後悔しているのだろう。


仕方の無い事とは言え、

彼女が破壊者と関わっている事に気がつけず……

彼女の死を阻止できなかった事を。





「……ごめんね、探偵ちゃん。

話が逸れちゃったね」


しばらくの沈黙のあと、

私たちはどちらからともなく腕をほどき、静かに距離を取った。


まだ涙声のまま謝るソフィアに、

私は小さく首を横に振る。

むしろ、辛い記憶を掘り起こさせてしまったのは私のほうだ。


「ううん……。

私こそ、辛い話させちゃってごめん……」


「探偵ちゃんのせいじゃないよ……。

こればっかりは、仕方ない事だから」


そう言って、ソフィアは再び首を横に振り、

私に「気にしないで」とでも言うように微笑んだ。

けれどその表情には、どうしても拭いきれない哀しさが残っていて——

やがて彼女は、静かに口を開く。



「……最後は、

コンド君の代償について伝えるね。

……でも、探偵ちゃん。

その前にひとつだけ、

“約束”……してほしいんだけど」


突然の言葉に、私は思わず首を傾げた。

ソフィアの顔には悲壮感が色濃く漂い、

冗談や遠慮の入り込む余地はまったくない。


それどころか……

なぜか、ひどく緊張しているように見えた。



「? 約束って……何を?」


「あのね……」






















……。


…………。


………………。


この時ほど——

ソフィアに同情した事は、なかったかもしれない。



デボティラが亡くなった時よりも…。

衰弱していく翠雨様の力を、

彼女が引き継ぐ事になった時よりも……。


私は、ソフィアという一人の少女を……

そして、彼女が担った"この役目"を、心の底から不憫に思った。




この“約束”も。

英雄たちに課せられた運命も。


——それらすべてが、

これから先も、私の胸を恒久に締めつけ続けるのだと。


そう予感させるには、十分すぎるほど

残酷だった。

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