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生彩放つ無神世界  作者: 美緑
〜第九章〜強化訓練
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特別演習


「なんか……二人、距離近くない?」



ここは魔源月の賢部隊、執務室。


レインやキーマ、そして私を含めた隊長格が、

山のような書類と向き合う為の部屋だ。


静かな室内で羽根ペンの擦れる音が続く中……

私はふと視線を上げて、

妙にパーソナルスペースが狭い二人の上官を見てしまい、

思わずそんな言葉を零していた。



「そうか?」


不思議そうに首を傾げながらこちらを見るのは、賢部隊副長のキーマ。

彼は部隊長であるレインのすぐ隣に腰掛け、事務作業を進めているのだが……問題はそこじゃない。


さっきから彼の片手が、ずっと……。

本当にずっと、レインの髪を一束つまんで、指先でくるくると弄んでいるのだ。

それなのに、当の本人であるレインは一切気にした様子もなく、

何枚もの書類に目を通しながら、淡々と仕事をこなしている。


「私……レインは、そういうの

鬱陶しがると思ってた」


思わず不満を滲ませた声でそう言えば、私は少しだけ唇を尖らせる。

私がやったら、絶対に嫌がるくせに……!

そんな小さなヤキモチを胸に抱えながら。


……すると、ほっぺを膨らませた私をしばらく眺めていたレインが、何でもない事のように、とんでもない一言を口にした。



「まぁ……

彼は、私の元婚約者だからね」


「……え?」







――ッえぇぇぇぇ!?!?


あれ?え?き、聞き間違い……?!

いや、でも今確かに…


「……あぁ! わるいわるい!

そういや探偵に言ってなかったな!

俺たち、前に婚約してたんだよ」


うん聞き間違いじゃなかった。

朝からとんでもない情報をありがとう。


あまりにも信じられず、一瞬自分の耳を疑った私は、キーマの口から本日二度目の「婚約」という言葉を聞いて、ようやく現実を受け入れ始める。


「こ、婚約……って、え?

それに……元?」


急な情報量の多さに頭が追いつかず、

私はこめかみを押さえた。



「彼が隣国の王だった頃、

私は良家の娘として婚約させてもらっていたの。

でも今は、私がスレッド家の当主だから……

他所へ嫁ぐ事ができなくなってしまったのよ」


必死に関係性を整理しようとする私に向けて、

レインは落ち着いた口調で、丁寧に説明してくれる。


「それに俺の国も、十年前の大戦で

なくなっちまったからなぁ……。

瘴廃国の王じゃ、

レインに釣り合わないだろ?」


続けて、

キーマも苦笑しながらそう言った。


「……なるほど。そういう事か」


二人の話を照らし合わせ、ようやく全体像が見えた私は、納得の声を漏らす。

……が、次の瞬間。


「ッンもー!!

いきなり二人揃って、ろくな説明もなく

『自分たちは元婚約者だ〜』なんて言うから、

私、てっきり複雑な事情でもあるのかと……!

割と本気で心配しちゃったよ!!」


勢いのまま文句をぶつけると、

二人は申し訳なさそうに――いや、楽しそうに?

私の頭を、いつもより執拗に撫で始めた。

そのせいで、

今日も朝から私のヘアスタイルは見事に崩壊である。


あまりにも盛大に髪型を乱された私は、

もう整え直す気力もなく……

二人にされるがままになっていた。



「安心なさい、探偵。

今まで私とキーマの仲が拗れた事なんて、

一度も無いんだから」


しかし、気づけばレインの手によって、私の髪は自分で結ぶよりも遥かに綺麗な状態に結い直されていた。


い、いつの間に……。

その完成度に感心していると、

今度はキーマが口を開く。


「でもまぁ……婚約者じゃなくても、

レイを傍で支えられる方法が

見つかって良かったよ」


その言葉に、

私は反射的に問いかけた。


「キーマが軍に所属してる理由って……

まさか、レインの為なの?」


そうだったらいいな、なんて。

少しだけ期待を込めて。


すると――


「いやまぁ、もちろんこの国を守る為

ってのもあるんだが……そうだな……

一番の理由は、それかもなぁ」


予想以上に真剣で、それでいて少し照れた表情で、キーマはそう答えた。


……ん"ッ……甘い。


アロマルム様の話といい、この二人の関係といい。

最近、やけに恋愛絡みの話が多いなぁ……

なんて思いつつも、

私はすっかりこの空気に当てられて、

幸せそうに頬を緩めてしまう。



「そうだったんだ……そっかぁ……

素敵だなぁ……」


きっと……


誰かの恋や愛、幸せに触れただけで、

こんなにも胸が温かくなるのは――

この世界に、

辛くて悲しい出来事が、それ以上に……

たくさん、溢れているからなのだと思う。



「いつか……この星に、

辛い事よりも、幸せの方が

たくさん溢れるようにできたら……

今より、もっとちゃんと

幸せを受け入れられるのかな……」


仲睦まじい二人を見つめているうちに、

気づけばそんな言葉が、自然と口をついていた。


「そうね……そう在りたいし、

そう変えたいわね」


レインは静かにそう答えると、

まだ少し…頬を赤らめたままのキーマの手を、

そっと握ってみせた。






✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿






今日は事務作業の後に強化訓練へ参加し、夕方からは特に予定が入っていなかった。

その為私は、いつものようにレインの魔法授業を受けていた。今日はキーマも一緒だ。


静かな訓練場に、魔力が揺らぐ気配とページを捲る音だけが響いている。



「そうだ、そういえば探偵。

強化訓練の期間中、優秀な隊長格だけが

参加権限を取得できる"特別演習"があるんだけど……

貴方が参加したいなら、推薦状を作ってあげるわよ」


そんな提案を受けたのは、

私が難解な魔導書と睨めっこしていた時だった。


「えっ! 特別な演習なのに、

私が参加してもいいの?!」


願ってもない話に胸は高鳴ったものの、

私はすぐに返事を返せずにいた。


参加したい気持ちは本物……だけど、

「優秀な隊長格だけ」と言われてしまうと、

どうしても遠慮が先に立ってしまう。


自分が、まだまだ新参者である事。

他の先輩たちと比べれば、

自分は決して突出した存在ではない事。

……そんな思いが、

次々と頭をよぎったからだ。



――けれど……。


「えぇッ?!他部隊の演習に参加ー?!」


特別演習の内容を詳しく聞いた瞬間、

そんな小さな遠慮は、あっさり吹き飛ばされた。


"特別演習"とは、

強化訓練期間中に行われる、優秀な隊長格の為の合同演習……。

自分の所属部隊ではなく、他の特殊部隊に加わる事で、普段とは違う経験を積む事が目的らしい。



「隊長格は隊員をまとめるだけじゃなく、

他部隊の特徴を知って、

戦闘時にどう連携を取るかまで

考えなきゃならないからな」


キーマはそう言いながら、動く的を狙って次々と魔法を放つ。

その軌道は無駄がなく、狙いも正確だった。


「そうよ。それに特別演習中は、

英雄と共に行動できるから……

貴方なら飛びつくと思っていたのだけど?」


「え、え?!うそ?!」


レインのその一言に、私は思わず目を見開く。

他部隊の演習に参加できるだけでも十分すぎるほど貴重なのに……

英雄と同じ任務を受け、行動を共にするなんて……。

友人である私ですら、なかなか叶わない事だ。



「で、どうするの? 別に強制では――」

「是非参加させてください!頑張ります!!!」


気づけば被せるように即答していた。


こんなチャンス、

きっと当分巡ってこない。


結局私は、レインの推薦を受けて、

特別演習に参加する事になった。





✿ ✿ ✿ ✿





「……なんだか、先輩たちに悪いな……」



推薦状を受け取った私は、

自分がかなり優遇されている事を、改めて実感していた。


「勘違いしないでちょうだい。

実力が無ければ、貴方だろうが

私は容赦なく参加権を没収するわ」


そんな私の様子を見てか、レインは少し眉を釣り上げ、真剣な表情でそう言う。


「確かに、多少は優遇しているわ。

でもそれでも、探偵を

この部隊の“小隊長代表”として

他部隊に送り出すんだから……

純粋に実力を認めているのも事実よ」


「小隊長代表……」


私は推薦状を見つめ、

その紙を失くさないよう……ぎゅっと、握りしめた。


……正直、すごく驚いた。


レインのおかげで魔法が使えるようになり、

魔物ともまともに戦えるようになったけれど――

まさか、ここまで期待してもらっているなんて、

思ってもみなかったから。



「……やっぱりレインは、

私の最高の先生だ」


収納魔法に推薦状を大切にしまい、

私は勢いよく彼女に抱きついた。


「そんな事言われたら、

優秀な生徒の一人として……

その期待、絶対裏切れないよ!」


「……えぇ。全力で頑張って来なさい」


いつもなら過度な接触は即座に引き剥がされるのに、今日は違った。


レインは、私を

そっと抱きしめ返してくれた。


頭上から降ってくる優しい声色に、

胸の奥がじんわり温かくなって……安心する。



「おっ! いいな探偵!

俺も混ぜてくれよ!」


そうして、ただでさえ心が緩みきっているところに、キーマの追撃ハグ……。

私はもう、泥みたいにぐにゃぐにゃになってしまった。



……でも、たまには。


こんなふうに、

べったり甘やかされるのも悪くない。



私はすっかり放心したまま、改めて二人に抱きつく。


この温もりを、できるだけ長く感じていたい――

そんな事を思いながら。


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