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生彩放つ無神世界  作者: 美緑
〜第八章〜必然の出会い
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奪還作戦

✧︎✧✦┈┈┈┈.✦·········✦.┈┈┈┈✦✧︎✧




「ッ……」


それは、本当に突然の事だった。


取り繕う余裕など一切なく、

私は反射的に胸を押さえ、膝から地面へと崩れ落ちる。


……心が……頭が……身体中が……いたい。

いたい……痛い……痛い、

痛い痛い……痛い痛い痛い……ッ!!


内側から引き裂かれるような激痛が、

容赦なく私を襲う。

息を吸う事すら苦しくて、

視界が滲み、意識が遠のいていく……。



「おいッ……大丈夫か?!」

「ッ?!アルテ?!」


倒れたまま、耐え難い痛みに意識を失いかけていると、すぐに師匠と探偵さんの声が聞こえた。

駆け寄ってきた二人が、私の身体を支えてくれる。

顔を上げると、すぐ傍に二人の顔があった。


……あぁ、また心配させちゃった。情けないな。

そんな呑気な考えが浮かんでしまうあたり、

本当に頭がうまく働いていないらしい。



「……師匠……探偵さん……

すみません……私……」


やっと絞り出した声は、

自分でも驚くほど小さく、掠れていた。


……この痛みの原因は、私が一番よく分かっている。

でも、今までずっと平気だったのに……

どうして……このタイミングで……?



「……これは一体……」


普段の何倍も鈍くなった頭で必死に考えていると、

不意に師匠が私を見て、そう呟いた。


……きっと、その視線の先にあるのは、私の――

"闇に侵食されつつある"、白翠色の髪。

闇の侵食も、この痛みも……原因は、きっと同じ。


"シュウ"に心臓へ埋め込まれた、闇の力だ。



初めてアロマルム様の神殿を訪れた、あの日……。

私は二人に、シュウと出会った事と、

アロマルム様が彼に襲われた事しか話していない。


心臓に闇の力を埋め込まれた事や、罠かもしれないと分かっていながら、パーティーの招待状を受け取った事は……どうしても、言い出せなかった。


アロマルム様にも、

仲間に頼るよう言われていたのに…。

結局、今の今まで……

二人にも、他の皆にも、何一つ話せなかった。


……でも、もう誤魔化せないよね。

パーティーの開催は、もうすぐだ。

いつかは必ず、知られてしまう。


そう分かっていた私は、心の中で静かに諦めた。



「……実は、黙っていた事が……」


観念して口を開いた瞬間――

険しい表情の師匠と、探偵さんの視線が私を捉える。



その目は、話が終わるまで……

一度も、私から逸れる事はなかった。





︎✧︎✧✦┈┈┈┈.✦·········✦.┈┈┈┈✦✧︎✧




「ッンの……ドアホッ!!」

「ッンもぉ〜……アルテッ!!」


「ごめんなさい……」



すべてを話し終えた後、

私が二人に怒られたのは言うまでもない……。

息の合ったお説教に、

私は悄げる事しかできなかった。


木陰に座らされ、暫く安静にするよう言われた私は、大人しくそれに従う。



「ったく……どうしてお前は、

いつもいつも……」


そう言いながら、師匠は私を見て大きな溜息を吐いた。

呆れと苛立ちが滲むその表情を見ていると、もっと上手く隠して……いや、そもそも完璧に隠し通してしまえばよかったとさえ思ってしまう。


心配させたくなかった。

それが、黙っていた一番の理由だった。



……でも正直に言えば、

師匠が私を案じて、魔界へ行かせまいと止めるかもしれない――という事を危惧していた。


「……。」


それでも、今回ばかりは……

たとえ誰にどれだけ止められても、私は行く。

あの子を……

華暖を助ける為に、魔界へ。





「まぁ……今回は、遅くとも…

いや、本当に遅すぎだが……。

自分から白状したから、許してやる」


……けれど、師匠の口から出たのは、

思いもよらない言葉だった。


「え……」


思っていたよりもずっと落ち着いた声で、

師匠は、私の隠し事を――

それどころか、魔界へ行く事さえ、否定しなかった。


「ただし、パーティーの日程と時間だけは教えろ。

俺も行くからな」


「行かせて……くれるんですか?」


理解が追いつかず、

情けない声が口からこぼれる。


そんな私を見て、

師匠は強い眼差しを向け、静かに言った。


「妹を取り戻したいんだろ?

……確かに、こんな分かりやすい罠、

危険すぎるとは思うし、本音を言えば……

お前みたいなへっぽこを、魔王城――

敵の本拠地になんて、行かせたくない。

……だが、家族の問題を、無理に止める権利なんて……俺には、無いからな」


言葉を失う私をよそに、師匠は続ける。


「それに、俺が止めたら……

次こそ本当に、黙ったまま

一人で突っ込んで行くだろ?」


「う"……」


……図星だった。私なら、間違いなくそうしていた。

そこまで見透かされていた事が恥ずかしくて、

私は顔を伏せる。



「……協力させろ。仲間だろ?」


「勿論、私も協力するよ!!

アルテ一人を、

そんな危険な所に行かせないから!」


情けなくて、どうしようもない私に……

二人は、尚も声をかけてくれた。


「……二人とも…」


その言葉が胸に染みて……

危険を顧みず協力しようとしてくれる二人の優しさが、心に沁みて……

今度はさっきとは違う痛みが、胸の奥に広がる。



……どうして…

どうして、そんなに優しくしてくれるの……?

私、何も返せていないのに。

迷惑と心配ばかり、かけているのに…。


「ッ……ありがとう…」


瞳から溢れる涙を止める事もできず、

震える声で、感謝を伝えるのが精一杯だった。

…二人が、どうして私なんかを助けてくれるのかは……理解しきれない。


でも、もし立場が逆だったなら。


私も、きっと……

命を懸けてでも、二人を救いたいと思う。




力の入らない手で、二人の手を握りながら、

私は、師匠からの"あの問い"を思い出し、目を閉じた。


───『お前達にとって、"大切な存在"とは何だ?』



……大切な存在。


それは私にとって、命を懸けてでも護りたい存在。

家族も、仲間も、友人も……

そして、その中には、師匠と探偵さんも含まれている。


……もし、これが自惚れでなければ。

二人も、私を……

こんな情けない私を、"大切"だと思ってくれているのだろうか…?


「……。」


この星で、最も軽いのは"命"だと言われている。

それでも……少なくとも、私にとっては。

命一つでさえ、重すぎる。


だからこそ、

"私の命"を、誰かに背負わせる覚悟は……

やっぱり、まだ持てない。




でも――


「いつも護ってくれるアルテを、

今度は私に護らせて!」


「一人で背負う癖、治せよ」


……きっと、

この人達は、それを許してくれない。



「……ありがとう」


だから私は、その手を取った。




✧︎✧✦┈┈┈┈.✦·········✦.┈┈┈┈✦✧︎✧




ようやく体調と痛みが落ち着き、

普段通りに話せる状態になった私は、

シュウとのやり取りを改めて……事細かに、

二人へ説明していた。


木陰を抜ける風が、少し、冷たく頬を撫でる。

呼吸も安定し、頭もはっきりしてきた今なら……

あの時の違和感を、きちんと言葉にできる。



「一つだけ……

今振り返ると、おかしな点があって」


そう切り出すと、私は、

あの時は気づけなかった……シュウと対面した際に感じた“違和感”を、二人に共有した。



「おかしな点??」


「話を聞く限り……

特に引っかかる部分は無かったがな」


二人は揃って首を傾げ、互いの顔を見合わせる。

その様子はどこか微笑ましくもあったが、これから口にする内容を思うと、自然と表情が強張った。



「……シュウの心が、読めなかったんです」


「……は?」


私の言葉に、

師匠は理解が追いつく前に声が出た様子で…

丸く見開いた目をこちらに向けた。


「え……アルテ、竜眼があるのに?」


探偵さんも驚いてはいたが、

きっと、師匠ほどの衝撃は受けていないだろう。


師匠は――“体験した”ばかりだ。

だからこそ、その異常さが、

より鮮明に理解できてしまったのだと思う。


「……冷静さを欠いていたとはいえ、

心の中が“視えない”なんて……

普通なら、あり得ないんです……。

師匠なら分かってくださると思いますが、

力を制御していないと……

勝手に視えてしまうものですから……」


……そう。

たとえ冷静さを欠いていたとしても、

竜眼で"意図せず心が視えなくなる”事は、今まで一度も無かった。

自分の意思に関係なく視えてしまう事はあっても、

力を抑えられていない状態で、視えなくする事は――“できない”はず、なのだ。


「竜眼を阻害していたのが、シュウ本人の力だったのか…呪いによるものだったのか……あるいは、私の知らない別の力なのか……。

原因は分かりませんが、向こうが、私の力に対する何らかの対策を用意しているのは……間違いないかと……」


「ま、まぁ……

そりゃ……そうだろうな……」


師匠はまだ動揺を隠しきれない様子で、

「面倒だが、仕方ない……」と続け、

溜息を吐きながら視線を逸らした。



「一つ……気になってたんだけどさ」


原因不明の力による妨害。

手詰まりに近い情報の少なさに、私と師匠が黙り込んでいると……

不意に探偵さんが手を挙げ、そう言って私を見ていた。


「何でしょう?」


問い返すと、探偵さんは

私が身に着けているブローチを指さして、口を開く。


「アルテと同じブローチ……

どうしてシュウが着けてたの?」


「……え」


その言葉で、

私はシュウと出会った瞬間の記憶を、

鮮明に、思い返す。


――そうだ。

それも、おかしい。


私と同じブローチを胸に飾っていたシュウ。

互いにその存在を指摘する事もなく、

疑問に思う事すら、しなかった。


今になって……探偵さんに指摘されて、ようやく気づく。

新たな、違和感。


……でも、どうして?

どうして“彼は”、反応しなかったのだろう…?


本来なら……

“私は”、このブローチを“持っていないはず”なのに。



「前に私が……そのブローチの事聞いたら、

“恩人”から貰ったって言ってたよね?」


シュウはアルテの妹を攫った魔王だし……

その“恩人”じゃないでしょ?

そう言って、不思議そうに首を傾げる探偵さん。



「えっと……」


私は……どこから説明すべきか分からず、思わず頭を抱えた。


事は、そう単純ではないのだ。

それに……

今はまだ、この件について不明瞭な点が多すぎる。

私の見解や憶測でしか語れない話を、

はたして二人に話すべきなのか……。



「……魔王が、なぜお前と同じブローチを身に着けていたのかは分からない。

……それでも、“恩人”に貰ったそのブローチを、

お前が“毎日”身に着ける理由は……

あるんじゃないのか?」


探偵さんへの返事に詰まり、私が黙り込んでいると、

師匠もブローチに視線を落とし、そう言った。


「それは……」


「俺は、お前の言う“恩人”とやらの、顔も名前も知らないが……意味もなく、そのブローチをお前に渡したとは思えないんだ」


核心を突くその言葉に、

今度は私の方が目を丸くする。


「…………」


「まだ俺に……俺達に、

話していない事があるのか?」


言葉を失い、ブローチを握ったまま俯くと、

師匠は私の手を掴み、そのまま顔を覗き込んできた。

この距離では、目を逸らす事すら意味を成さない。



「リハイトが知ってる内容も含めて、

私にもアルテの恩人の事……

もっと詳しく聞かせて欲しい!」


私、まだ何も知らないもん!

そう言って飛びついてくる探偵さんに挟まれれば、

完全に動けなくなってしまう。


……どうしよう、逃げ場がない。

それでも暫くは黙秘を貫き、抵抗してみたが……

やはり、二人の圧には勝てなかった。



「…ッン〜!……はぁ……。

わかり…ました……。

確証のない話でも構わないのなら……

パーティーの開催日までに、

知っている事……私の憶測を、すべて伝えます」


私は情けなく白旗を上げ、

二人を納得させる返答を口にする。


「構わないに決まってるだろ」


「そうだよ!絶対聞かせてね!」


明るい表情でそう言われてしまえば、

少しだけ……

いや、かなり……

一人で思い詰めていた自分が、馬鹿らしく感じた。






「まぁ……それはそうと、だ」


探偵さんの全力抱擁で身動きが取れない私を見て、

師匠は話題を切り替えるように口を開く。


「向こうがお前への対策を用意しているのに、

俺達が何の下準備も無しで乗り込む訳にはいかないよな?」


その言葉を聞いて彼を見ると、師匠は、

『───やられっぱなしは、気に食わない。』

……そう言わんばかりの、

怜悧狡猾な笑顔を浮かべていた。

これは、とてつもなく悪い事を企んでいる時の顔だ…。



「……えぇ、それは勿論です」


私は即座に頷く。

私だって、何の策もなく乗り込むつもりなど甚だ無かった。

今回こそ、確実に……妹を、取り戻す。


その為なら――

“どんな手を使ってでも”、勝ちたい。




「……でも、具体的にどうするの?」


探偵さんは、私にしがみついたまま首を傾げる。

その問いに……

私は、ひっそりと考えていた“ある策”を口にした。


「そうですね……たとえば……」





︎✧︎✧✦✦✧︎✧




「な、なかなか思い切った事するね……。

……でも、それでアルテが全力で戦えるなら、

私はいいと思う!」


「些か危険すぎるが……いいだろう。

サポートは任せろ」


私の策に、

二人は意外なほどあっさりと賛成してくれた。



……この作戦が失敗すれば、

帝国や皆を、さらに危険に晒す事になる。

リスクは、あまりにも大きい。


けれど――

何の策もなく、私がドミシオン様に敗れれば……

この星が、消えてしまうかもしれない。



……だからこそ。

ほんの少しでも、良い未来へ繋げる可能性を高める為に……

私は、“本来の力”を使う。


家族と、この星を救う為に。

……力を出し惜しむ事など、できない。



「じゃあ、これで決定?

なら、三人で作戦会議しようよ!」


探偵さんが意気込むが、

師匠は一度それを制し、私に問いかけた。


「当日は、俺らだけじゃないだろ。

アルテ、このパーティーは誰と行くつもりだったんだ?」


「雅火と永護です」


同行者を家族に絞るつもりだった私は、

その二人の名を挙げる。


「……あれ、破天さんは?」


探偵さんの問いに、

私は少し間を置いて答えた。


「破天兄さんは……

今や、小夜家の当主なので……」


翠雨様が亡くなり、

次期当主として育てられてきた破天兄さんは、

正式に小夜家を継いだ。


いくら妹の為でも、

山の領地と民……その全てを預かる兄さんを、他国へ連れ回すわけにはいかない。

……まぁ、本人は行く気満々だったけれど。


「あ……そうだったんだ…。

……ごめん」


申し訳なさそうに頭を下げる探偵さんに、私は首を横に振る事しかできなかった。

きっと翠雨様の事を思って……気を遣ってくれているのだと分かるからこそ、軽々しい言葉は返せない。


「でも、師匠と探偵さんが一緒に来て下さるなら……

二人には、お留守番してもらいます」


「そうだな……。

翠山の民達も今は不安だろうし、

山を守れる者が減りすぎるのも良くない」


私の考えに、師匠も賛同してくれた。


「だが、永護は連れて行こう。

あいつは腕の立つ護衛だからな。

お前が暴走した時、俺一人だと骨が折れる」


……でも、永護は予定通り連れて行く事になりそうだ。


「は、はい……わかりました…」


まぁ……一先ず、

これでパーティーの同行者は確定だろう。


今後の予定や、二人との“例の約束”の日程を決め終えると、

私は、ようやく立ち上がる事を許された。





✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿

〜おまけ〜(帰り道の話)

《探偵視点》



「ほー……相変わらず、

お前の思考は花畑だなぁ??」


「え……? し、師匠……?」


これは、アロマルム様の神殿からカッドレグルントへ向かう帰り道の話だ。


今の状況を一言で説明するなら——アルテがリハイトを怒らせた。

まぁ……いつもの事なんだけどね。




事の発端は本当に単純だった。

魔王城のパーティーの件、アルテの妹を奪還する為の作戦。

色々な話が一段落して、アルテを立たせ、三人で帰路についた……その時。

まだ体調が万全ではないアルテを、

私とリハイトで支えながら歩いていたら——

彼女が、ぽつりと、こんな事を()()()()()()()のだ。


「私なんかの為に、

二人を危険な事に巻き込んで……ごめんなさい」


……そして、冒頭に戻る。


「お前は馬鹿か??」

「ぁうッ?!」


次の瞬間、リハイトのデコピンがアルテのおでこに落ち、短い悲鳴が上がった。

だが、当の本人はというと——

どうやら、自分がなぜ怒られているのか分かっていないらしい。


申し訳ないけれど、ここは私も止められない。

正直に言って、今回ばかりはアルテが百パーセント悪いと思う。

私達は、危険だと分かった上で、それでもアルテを助けたいと思った。

それなのに、今の言い方では——

まるで「全部自分が悪い」と言っているようなものだ。


……見当違いもいいところだ。

それに何より、

アルテが自分自身の価値を勝手に引き下げているのが、気に入らない。

一体、どれだけの言葉や想いをぶつければ、私達の気持ちに気付いてくれるのだろう。


いや……そもそも、アルテは何も悪くない。

本当なら、彼女だってこんな危険な目に遭う必要はなかった。


——魔女、ドミシオンがいなければ。

魔女がアルテの妹に手を出さなければ。

アルテが長年苦しい想いをする事も、自分を責め続ける事も……

きっと……なかったはず、なのに。



「丁度いい……

実は新しい試作品ができたばかりだったんだ。

早速、試してやろう……お前でな」


「ひぇッ……勘弁してください!」


私が内心で魔女への怒りを募らせていると、

リハイトはアルテの腕をがっちり掴み、逃げられないよう取り押さえていた。

距離が近いせいか、第三者の私から見ても分かる。

アルテの顔色が、みるみる青くなっていくのが。


「うっせ!

それが嫌なら、いい加減——

自分を卑下したり、粗末に扱うな!!」


「うぅぅ……そんな事言われても……」


……まぁ。

アルテが自分に自信を持てないのも、分からなくはない。


あの日、見せてもらった明晰夢の中で——

彼女は、酷く自責の念に苛まれていた。


『──私は……妹を守れなかった……』


あの言葉は、今でも私の胸に残っている。

幼い彼女には、あまりにも辛すぎた過去。

その時についた傷は、私が想像できないほど深く……

今もなお、彼女の心に根強く残っているのだろう。

それが簡単に消えない傷だという事くらい、私にも分かっている。


……でも、もし。

もし彼女が、自分の手で妹を救い出す事ができたなら。

その時は、今よりほんの少しでも——

彼女が、彼女自身を誇りに思えるようになるのだろうか。


……そうだったら、いいな。

そんな願いを、声に出す事なく、私は胸の奥にしまった。



「……そういえばさ〜

リハイトの言う、その“お仕置”って、

アルテは毎回、何されてるの……?

実験……とか言ってたよね?」


重たい思考を振り払い、私は二人に視線を戻して、

前からなんとなく気になっていた疑問を投げかけてみる。


「ふーん? 知りたいか?

いいだろう、教えてやるよ。

今度お前が何かやらかしたら——

嫌というほど体験させてやる」


怪しい笑みを浮かべるリハイトを見て、

私は即座に後悔した。


「え"……いや、それは〜……遠慮しとく」


嫌な予感しかしないので丁重に断ったのだが——

もちろん、そんなものが通じる相手ではない。


「ハハハ……遠慮するなよ……」


「心から遠慮したい」


「何事も、身をもって体験した方が学べるぞ?

お前も知っておいた方がいいだろ。

規則や約束を破ると——

どうなるのか……をな」


「ッひいぃぃ!!」


お願いだから、本当に勘弁してほしい。

私は耐えきれず、未だリハイトに拘束されているアルテに縋りついた。


「し、師匠ッ……!

どうか……探偵さんだけは!

貴方の恐ろし……過激な実験の

実験体にしないで下さい!!」


すると、私の心を視たアルテは、すぐに私を庇ってくれた。


「アルテッ……!」

私は感謝の気持ちを込めて、彼女に抱きつく。

……が。


「よし、わかった。

じゃあお前は付いて来るように」


「ひゃあぁーッ!!!」


次の瞬間、リハイトはアルテと私をいとも簡単に引き離し、

アルテを引き摺るようにして連れて行ってしまった。

しかも、容赦なく神足を使うものだから——絵面が、ひどい。


「アルテェェェ!!」


当然、追いつけるはずもない。

それでも私は、必死に連れ去られていくアルテの背中を追いかけた。



……結局。

リハイトの恐ろしい(?)実験の内容は、最後まで分からなかった。

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