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生彩放つ無神世界  作者: 美緑
〜第八章〜必然の出会い
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視る

❅*┈✼••┈┈┈┈••⋆͛ ✼ ⋆͛••┈┈┈┈••✼┈*❅

《リハイト視点》




「はぁ……もういいや。

とりあえず竜眼の力を試す。

お前、何か喋ってみろ」


アロマルム様の異能を受けてからというもの、やたらと手のかかる二人に振り回され続けていた俺は、燥ぐ探偵に向かってそう言った。

遊びじゃないと言っているのに、どうしてここまで騒げるのか。

……本当に、お子様の相手は骨が折れる。


「そりゃ試練のためだし、答えるけどさ……」

『人に頼み事する態度じゃないよね、それ?』


俺の言葉……というより態度が気に食わなかったのか、探偵はジトッとした目で俺を睨みつけ、口を尖らせた。


「うるさいな」


「ムッキィィィー!!!」

『コイツ、ムカつく。ぶん殴る』


変わらぬ態度で適当に返してみると、探偵の幼稚な本心が、即座に俺の視界へ流れ込んでくる。

……不思議な感覚だ。


アルテは、いつもこんなにも鮮明に、

俺達の本音を視ていたのか……。


「……。」

そう思った瞬間――

少しだけ、苛立ちが胸を掠めた。


こんなにもハッキリ本心を覗いた上で、

危なっかしい行動をやめない事に対して……だ。

毎度毎度、俺達に心配かけやがって……。

そろそろ冗談抜きで医務室のベッドに括り付けておくべきだろうか?



「ふむ……なるほど。

やっぱり探偵は、バカ(みたいに正直)だな」


「はぁ?!なんだってぇ?!」

『やっぱりパンチより蹴り飛ばしたい!! 今すぐ!』


俺が率直な感想を口にすると、

探偵は隠す気もなく怒りを爆発させた。

物騒な思考については……一先ず、見なかった事にしてやる。


……それよりも。

やはり、度を越した正直者の探偵では、

あまりにも“覗き甲斐”がない。


俺は視線を動かし、今この瞬間、誰よりも逃げ足が速くなっているであろう存在を追った。

分かりやすく俺の視界を警戒しているアルテは、少し距離を取った位置にいる。

今すぐ捕まえて、あれこれ問い詰めてやる事もできるが……

……いや。

こうも常に本心が流れ込んでくるのは、思っていた以上にしんどい。

視覚から得る情報量が一気に増えたせいか、ただ会話するだけでも、いつもの倍は神経を使う。


そう思いながら目頭を押さえていると――

先程まで神足で俺の視界から逃げ回っていたアルテが、いつの間にか隣に立っていた。


「だ、大丈夫ですか師匠?!

無理はなさらないでください……。

慣れないうちは、

長話や複数人との会話を控えた方がいいですよ」

『……疲れますからね。色々と』


彼女は簡潔な本音を織り交ぜながら、

直接“瞳”に語りかけてくる。

俺はそれを見ながら、内心で『ちょうどいいところに来たな』と思い、問いかけた。


「……慣れさえすれば、

視えないようにもできるのか?」


「……できますよ。

私も普段は極力、瞳の力を抑えています」

『油断すると、すぐ視えてしまいますけど……』


アルテの反応を見るに、

この力を常に抑えておくのは、相当難しいらしい。

使うよりも“抑え込む”方が難しい能力……か。

……正直、俺の性には合わない。



「……」

『眼を閉じる時と同じです。

何も視たくないと強く意識すれば……

多少は抑えられるかと』


溜息を吐いた俺に、

アルテは抑え方を“直接”伝えてきた。

言葉ではなく、瞳を通して。


「さてはお前……。

口頭で説明するの面倒くさがってるだろ」


考えている事が手に取るように分かる今、敢えて指摘してやると、アルテは気まずそうに視線を逸らし――


「……」

『あ……あはは〜…。

伝われば何でもいいかな〜って……』


またしても、心の中だけで返事をしてきた。


「ほぉ……お前にしては随分生意気だな?

まるで俺が、この力を抑えられないと確信しているみたいだ」


力を扱いきれていない俺に対し、敢えて心を覗かせる態度。

それはつまり、今の俺なら必ず視える……いや、"視えてしまう"と確信しているという事だ。

……ここまで露骨だと、流石に癪に障る。


『えぇ、そうですね』

「簡単には、無理ですよ」


……そして。

アルテに言われた通り、必死に“視ない”事を意識していた俺に、彼女ははっきりと……否定ではなく、“肯定”を返した。


「……は?」


あまりにも予想外で、間抜けな声が漏れる。

言葉よりも先に流れ込んでくる、揺るぎない本心。

珍しく毅然とした態度のアルテに圧され、瞬きを繰り返す俺に、彼女は続けて伝えてきた。


『……物心つく前からずっと、この力と向き合ってきた私でさえ……完璧には抑え込めないのですから』


だから、たとえ師匠でも簡単には扱えないですよ――

そう、口でも言いながら。



「…それは……しんどい、な」


咄嗟に出たのは、やけに単純な言葉だった。

だがそれは、間違いなく――

この力を扱った俺自身の、"率直な感想"だった。


するとアルテは、


「……えぇ、とても……」


一瞬だけ目を見開き、柔らかく微笑んだ。

そして少し間を置いてから、今度は静かに言う。


「貴方の言葉は、

いつも素直ですね」


……今の彼女には、本心は“視えない”はずなのに。

それでも、今のが俺の本音だと、確信したような口ぶりだった。


「……どうなってるんだ」


能力が無くても、平然と心を見透かしてくる目の前の“相棒”に。

俺はただ、言葉もなく驚かされるしかなかった。




❅*┈✼••┈┈┈┈••⋆͛ ✼ ⋆͛••┈┈┈┈••✼┈*❅




「質問一。今日は朝食を食べて来たか?」


結局……

俺はあの後も、瞳の力を抑え切れなかった。


なので制御は一旦諦め、アルテと探偵の協力を仰ぎながら、竜眼の性質を探る為に二人へ質問を投げかけていた。


「もっちろん!今日は

バターたっぷりのパンだったよ!」

『美味しかった。

……ところで、今日の昼食なんだろ?』


……朝食の話をしていたはずなのに、コイツはもう昼食の事を…。うん、腹ぺこなのはよくわかった。

俺は探偵の呑気な心情を一通り把握すると、

次にアルテへ視線を向ける。


「はい、きちんと朝食を

摂る事は大切ですから」

『また子供達と朝食の時間を

ずらしてしまったけれど……』


……なるほど。

単に「食べたか否か」だけでなく、相手がその時の光景を鮮明に思い浮かべていれば、付随する情報まで流れ込んでくるらしい。

アルテの言う“子供達”とは、おそらく彼女がこれまで拾い上げてきた孤児達の事だろう。


竜眼は便利な力だとは思う……が、同時に、この眼の前で秘め事を考えるのは、あまりにも無防備だ。

……プライバシーが筒抜けにも程がある。



「じゃあ質問二。好きな食べ物は?」


「美味しい物なら全部好き!」

『食べ物の事考えてたらお腹空いた』


…うーん、コイツは本当に食べる事しか考えて無いのか?

別に構わないが…普段からこんなしょうもない事を考えているのだろうか?


俺は探偵の思考回路に一抹の不安を覚えつつ、

再びアルテの心を覗く。


「んー……私は、甘い物も辛い物も

人並みに好きですけど……

強いて言うなら、酸味のある

さっぱりした食べ物ですね」

『この前レインちゃんに貰った

オランジェット……美味しかったな……』


アルテは少し考え込むように視線を泳がせてから、真面目に答えた。

……やはりこちらは具体的だ。

誰から菓子を貰ったかまで分かる。

彼女の想像力のせいか、この眼の力が相当凄いのか……それとも、アルテが竜眼の性能を理解した上でこちらへ情報を提供してくれているからなのか……判断がつかないまま、俺は次の問いを口にした。



「質問三。好きな色は?」


しかし……その瞬間だった。

ここまで即答していた探偵の様子が、目に見えて変わったのは。


「好きな……いろ……?」

『私は、どの色も好き……いや、違う…』


顔色が僅かに曇り、

視線が落ち着かなく揺れ始める。


「え、えっと……好きな色は……ピンク……だと思う」

『ピンク色が浮かぶ…。……けど、どうして?

……あれ?私、何で、この色が好きなんだっけ……?』


戸惑いながら答えた探偵は、

そのまま自分の内側へ沈み込むように思考を巡らせ始めた。


今のは……

探偵の失った記憶に繋がるような問だったのか?

探偵の動揺が予想以上で、俺も判断に迷ってしまう。


「……えっと……わ、私は、緑系の色が好きです」

『探偵さん……どうしたんだろう……?

心配……。

でも、今は視てあげられないし……』


アルテも異変に気付いたのだろう。

俺の質問に答えながらも、彼女の視線は探偵から離れなかった。


「探偵さん。

私や師匠が傍にいますから……大丈夫ですよ」

『……貴方は、私が護りますから』


アルテは、迷いなく探偵に歩み寄り、

包み込むように腕を回した。


すると……


「え……あ!ご、ごめんアルテ!

ちょっと最近、色々あって……

でも……もう大丈夫!ありがとう!」

『今のは……記憶、だったのかな……

でも、ピンクが好きな理由までは思い出せなかった……』


その穏やかな声色が、

探偵の強張った心をゆっくりと解いていく。


……やはりアルテは、

心が視えなくとも相手の状態を察している。

それは魔法や異能とは別の、

彼女自身の感覚なのかもしれない。


竜眼がなくとも、人の心を読み取る。

いや……相手が必要としている言葉を、必要な瞬間に差し出せる力。

それは、"才能"――。

アロマルム様の異能でも、俺には移せない類のものだろう。

少なくとも、"視えている"状態の俺より、アルテの方が相手への適切な対応を心得ているのは確かだ。


人が持つ力は、それぞれ違う。

俺には俺の才があり、

彼女には、彼女だけの才がある。

それを改めて理解できただけでも、それぞれが生まれ持った能力を、他者が完全に扱えない事の証明としては充分だ。



「……。」

『私……どうしてこんな些細な事も

思い出せないのかな』


……そんな俺の内省など知らず、

探偵はまだ考え込んでいた。


「……良かったな、ピンク頭で。

好きな色なんだろ」


思い出せない記憶は、無理に掘り返すものじゃない。

いつまでも沈んでいる探偵を見兼ねて、俺は彼女のストロベリーブロンドの髪を一瞥しながら言ってやる。


「はぁ?……まぁ気に入ってはいるけど……」

『ピンク頭って……なんか失礼だな』


不服そうに言い返しつつ、自分の髪に触れる探偵。

その様子に、もう思考は完全に逸れている。

……まったく。

本当に、手のかかるやつだ。




「……質問四。お前達にとって

大切な存在は、何だ?」


その後……

探偵が問題なく応答できる状態に落ち着いたのを確認してから、俺は質問を続けた。


だが今度は、これまでの当たり障りのない問いとは少し趣を変える。

質問を始めた時から、純粋に二人の事をもっと知りたいと思っていたのは確かだ。

だがそれ以上に――

この力が使える今だからこそ、知っておきたい事があった。


「それは沢山だよ!

英雄の皆や、帝国軍の仲間……

私にとっては、みーんな!大切な友達だから!」

『もっちろん!リハイトもね!』


「家族は勿論……仲間や友人も、

私にとって大切で……

失いたくなくて……護りたい存在です」

『護る覚悟はある……けど……

私はまだ……』


二人は、迷う事なく答えた。

探偵はいつも通り真っ直ぐで、

アルテは静かだが、芯のある想いを滲ませている。

……アルテの後半の思考が、途中で途切れるように曖昧だったのは少し気になる。

だが、この質問に対して嘘を吐いているようには感じられなかった。


……今は、深く追及しないでおいてやるか。

俺は一度気持ちを切り替え、

続けて次の質問を投げかける。



「質問五。お前達は……

俺の事を、どう思ってる?」


「えぇ……そんな事聞いて、

一体何を知りたいわけ?」

『リハイト…?う〜ん……リハイトは……真面目…戦闘が強い……魔物とか魔獣と仲良しになれて凄い……。あとは……意外と仲間思いで……でも、すっごいめんどくさい奴』


……よし、わかった。こいつは後で締めよう。

探偵の余計な本音ばかりが瞳に流れ込み、

俺は内心そう決めた。



「師匠の事……ですか……」


俺が無言の圧を探偵に向けていると、

アルテが手を口元に添え、小さく呟いた。

彼女は暫く考え込むように視線を伏せ……やがて意を決したように俺を見上げると、静かに言葉を紡ぐ。


「……尊敬していますよ。ずっと昔から。

……勿論、これから先も」

『私の命の恩人……芸術の師匠……。

沢山の苦楽を共にしてきた同胞で、頼れる仲間……。

そして、掛け替えの無い友人……。

一言では表せない程、貴方は私に……色んなものを与えてくれました』


穏やかに微笑むその表情を見れば、

心を視るまでもなく――

それが"本心"だと分かってしまう。


……俺自身、彼女が向けてくる敬愛を疑った事はなかった。

だが、ここまで真っ直ぐに、嘘偽りなく気持ちを向けられると……流石に胸の奥が揺れる。

アルテは本当に、俺を“師”として……そして、俺個人を大切に想ってくれているのだと――

改めてその想いを知り、不覚にも口元が緩みそうになった。



「そこまで尊敬される程、

特別何かを吹き込んだ記憶は無いんだが……。

まぁ……上辺だけの気持ちじゃないのは、

これでよく分かったよ」


でも……個人的には、“ただの友人”として

対等に見てもらいたいんだがな。

そう続けて伝えると、アルテは僅かに目を見開き、

そして恥ずかしそうに口を開いた。


「貴方と対等だなんて……畏れ多い、です」


彼女はそれだけ言うと、

顔を伏せてしまう…。


「そんなにかよ……」


確かに、俺が彼女の命を救った過去はある。

恩を向けられるのも無理はない。

だが、ここまで明確に対等な立場を拒まれるとは……少しばかり堪える。



「まぁ……いいや。

竜眼の力は把握できた。

次は……お前の番な」


俺は僅かな動揺を押し殺し、

今度はアルテに異能の検証を促した。

すると……


「! はい……が、頑張ります」

『ぁゎゎ……どうしよう……手が震える』


「気負うなって……」


まだ俺の力を扱う心の準備が整っていなかったのか……緊張して声を震わせるアルテは、体を小さくしてしまった。

視れば心の中も大パニック状態。

……頼むから落ち着いてくれ。


「そうだよ、翠嵐くん。

これは、試練じゃない。あくまで、お互いの能力を把握する為のお試し会……のようなものだ。

上手く扱えなくとも、問題は無いさ。

君が少しでも、リハイトくんの力を理解出来ればいいのだからね」


無駄にプレッシャーを感じている彼女をどうすべきか悩んでいると、それまで静かに様子を見守っていたアロマルム様が、そう言ってアルテの背を優しく押した。


「……はい」

『うぅ……』


“上手く扱えなくても問題は無い”

その言葉が効いたのか、アルテの声は先程よりも僅かに落ち着いていた。


「では、師匠……お願いします」

『失敗したくない……失敗できない……』


「あ、あぁ……よろしくな」


アロマルム様の手が離されると、アルテは意を決したようにそう言って、俺へと手を差し伸べた。

俺もその手を取り、応じる。

……が、力を使う前に、つい口を寄せて囁いてしまう。


「気負うなって言ってるだろ」


俺としては、

それで少しでも肩の力を抜いてやりたかったのだが……

また顔を伏せられただけだった。



❅*┈✼••┈┈┈┈••⋆͛ ✼ ⋆͛••┈┈┈┈••✼┈*❅




『リミット……解除!』


普段、俺が行っている通りの動作を真似て、

アルテが英雄力を発動させる。

瞬間、俺の身体が淡く光を放ち――

そのまま光に呑み込まれた。



「うわぁ……す、すごいよアルテ!!

リハイトが……

リハイトが竜になっちゃった!!」


少し遅れて届いた探偵の声で、

俺は自分が無事に神獣竜へと変身できたのだと悟り、

手始めに、竜化した手足を動かしてみる。


「……ふむ」


……問題ないな。

視線を落とせば、そこには白翠色の鱗と毛に覆われた手足があった。


『見た目は……アルテと大差ないな?』


視界に移る自分の身体を見てそう言うと、

探偵は首をぶんぶんと横に振った。

……それはもう思いっきり。


「全ッ然違うよ!なんか……可愛くないもん!」

『でも……強そう!』


……一瞬、「張り倒すぞ」と言いかけたが、

探偵の本心を視て、振り上げかけた手を抑えた。


別に可愛くても嬉しくはないが、

可愛くないと言われるのは、単純に腹が立つ。

とはいえ……強そう、と思われるのは悪くない。



『……他に、

もっと具体的な違いは無いのか?』


鏡が無い以上、第三者の意見が頼りだ。

自分の容姿が気になって問うと、今まさに俺の力を抑えているアルテが、苦しそうな表情のまま答えてくれた。


「顔に浮かぶ模様……

それと、体格が違うと思います……。

能力は私と同じはずなので……

使ってみないと分かりません……が……」

『はぁ……こ、これ、抑えられてるのかな……?』


一度言葉を区切り、彼女は小さく息を整える。


「えぇ、確かに……私なんかより……

ずっと……凄く、強そうで……

とっ……ても、かっこいいです……よ」

『あれ……もう私、いらないのでは……?』


『……そ、そうか』


アルテがあまりにも辛そうだったせいで、後半は集中して聞いていられなかったが……少なくとも、彼女と完全に同じ姿という訳ではないようだ。


「あの……ところで、師匠……

大丈夫……ですか?

苦しかったり……しませんか?」

『私は……しんどいです……』


改めて自分の身体を観察していると、アルテは次第に顔を赤くしながら、そんな事を聞いてきた。

自分の方が相当苦しそうだというのに……。


『問題ない……というか、

お前の方がキツそうだな……』


「えぇ……やっぱり、私には……ちょっと……

いえ、かなり……

手に余る力……みたい、です……!」

『も、もう終わりにして……』


俺の返答に一瞬安堵したものの、アルテはすぐに歯を食いしばり、力を制御しようと踏ん張った。

……見ていて、流石に気の毒になる。


『アルテは、馬に乗った事あるか?』


「?……少しなら……あります」

『そんなに乗らないけど……』


使い慣れない力を何も教えずに苦しませるのは忍びなくなり、俺は口頭で出来る限りの助言をする事にした。


『その力も、乗馬で手綱を握る時と同じだ。

抑えたい時は引く。

んで、全力で放たせたい時は――』


「?!ッ無理です!

師匠を叩くだなんて……!」

『できないですよ!!』


しかし、力の扱い方を指導していると、途中で止められた。

…コイツ……今日は一段と面倒臭いな。


『例え話だ!

真に受けんなッ!』


やはり、敬愛され過ぎるのも考えものだ。

…本当に、心の底から切実に……

コイツと対等な関係になりたい。と、思った。



「あ〜……アルテ、大丈夫?」

『これはガッツリ真に受けてるな〜……』


「大丈夫じゃないです……」

『考えたくもない……』


アルテは、探偵の声掛けに力なく首を横に振る……が、これ以上彼女のペースに付き合っていたら日が暮れてしまう。

そう確信した俺は、躊躇なく神獣の力を解放した。


『んじゃ……そろそろ力使うぞ。

ちゃんと抑えとけ』


「ッう?!……むんッ!」

『なんッ……いきなり?!』


不意を突かれたアルテは目を見開きながらも、

必死に“手綱”を引いた。


……が。



『ッそれじゃ弱過ぎる!もっとだ!』


明らかに抑えきれていない。


俺が声を張り上げると、

アルテは愕然とした表情を浮かべた。


「え……これ、全力……」


『俺が暴走してもいいのか?』


「それは駄目ですッ!!」


そうして余計な思考の余地を与えず、

彼女に制御を続けさせたが……

正直、改善は見られなかった。


……そうか。


こいつには、ここまで俺の能力を扱う才がなかったのか…。と、嫌でも分かり……

なんだか複雑な気持ちになって今回の鍛錬は終了した。






「し……師匠……あの……

いつも、本当に……ありがとうございます……。

……あんなに……あんなに大変だったんですね……」


お互いの能力が元に戻ると、

アルテはすぐに頭を下げてきた。


「いや……別に……」

「毎回……私のせいで、あんな難行苦行を……」


「頼む、聞いてくれ……」


「私のせいで師匠が可哀想な思いをしている」……と、嘆くアルテによって、なんだか話が勝手に膨らみ、収拾がつかなくなる。


「二人共、お疲れ様!」


その対応に困り果てていると、

ちょうどいいタイミングでアロマルム様が声をかけてくださった。


「どうだい? お互いの力……

少しは学べたかな?」


「ああ、とても貴重な経験になった」

「自分の力不足を、改めて痛感しました……」


俺の前向きな感想と、アルテの悲観的な感想……。

対照的な返答に、

アロマルム様は小さく笑う。


「ははっ!

少しでも君達の役に立てたなら、何よりだ。

これからも二人で英雄力を磨き、

精進してくれたまえ!」


彼は俺達の答えに満足したのか……

いつもの笑顔でそう言うと、

背中を数回、軽く叩いてくれた。


それだけで……

勇気が溢れ出てくるから不思議だ。


『承知しました』


俺はアルテと声を揃えてアロマルム様へ返事を返す。


……まだまだ英雄力を覚醒させる事は難しそうだが、この調子で鍛錬していけば確実に強くなれそうだな。

課題を与え、助言で支え、試練を用意して下さるアロマルム様に感謝しなければ。




……相棒であるアルテ。

そして、悔しいが……もはや他人とは言えない探偵。


二人の本音を知れた……本音を見れた事が、

今日一番の収穫だったなんて……。


「……。」

口が裂けても言えなかった。





……今更、恥ずかしいからな。






❅*┈✼••┈┈┈┈••⋆͛ ✼ ⋆͛••┈┈┈┈••✼┈*❅





その後、神殿を出ようとした――その時。


「君達に……

伝え忘れていた事があった」


出口の直前で、

アロマルム様に呼び止められた。


「……。」


その真剣な表情を見た瞬間、嫌な予感が胸を締め付ける。


あぁ……聞きたくない。

……聞いては、いけない。


本能的に、そう感じていた。




「実はね……」



――。


話を聞き終えた俺は、

叫び出したい衝動を必死に抑えながら、


「……そう、ですか」


と、かろうじて声を絞り出す事しか出来なかった。


隣では、すべてを受け入れているかのように無表情なアルテと、驚愕に目を見開いた探偵が立っていた。




正直……

その後の記憶は曖昧だ。


気が付けば、三人で神殿の外に立っていた。


アロマルム様の言葉が事実なら……

俺達に残された時間は、もう多くない。



……急がなければ。


レインとソフィア……コンドに、

この事を伝えなくては。











――破滅と崩壊の時は、


確実に……迫っている。



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