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生彩放つ無神世界  作者: 美緑
〜第八章〜必然の出会い
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誰よりも優しい異能



「おはようございます」


「アルテ……おはよう」


その日の朝。

日がすっかり昇ってから、私はアルテと、

昨夜……夢の中で起きた出来事について話し合っていた。


「昨日はびっくりしたよ。

まさかアルテが、あの人に協力してたなんて……」


私は寝間着を脱ぎ、外出用の服に袖を通しながらそう言った。

……まったく。アルテは、こちらから聞かないと大事な事をなかなか話してくれないんだから。


「それは……すみません。

夢の中での出来事でしたので、なかなか言い出せなくて……。

あの方とは、最近になって夢の中でお会いしたんです。

それと……実は、私だけでなく

他の英雄(みんな)も、既にあの方に会っています」


アルテは申し訳なさそうに目線を落としながらも、

そんな情報を私にカミングアウトしてくれた。

またまた知らない情報をありがとう……。

まさか内戦の時、この身体を使われた時以外に、

あの人が自ら皆に接触していたなんて……驚いた。


誰の夢にも入り込める、まるで夢魔のような得体の知れない存在。

それなのに私達を害する事はなく、むしろ英雄達の事を誰よりも見守り、危険な時には警告をくれ、時には異能や使い魔といった“力”まで授けてくれる。

どこかお節介で、秘密だらけの、不思議な人。


確かに……少なくともタルタニュクス様は、私達の味方と言える存在だとは思う。

でもそれは、あの人に何度も助けられた私だから分かる事であって、アルテ達からしたら夢で会ったばかりの…初対面同然の相手に違いないのに……。


「……ねぇ、アルテ。

どうして、あの人に協力しようと思ったの?」


なぜ彼女が協力してくれたのか知りたくて、私は首を傾げる。

するとアルテは、まるでタルタニュクス様が語っていた言葉をなぞるように、静かに答えた。


「……私達は、貴方に出会ってから

何度も、貴方の言葉や行動に救われてきました。

そんな貴方に出会わせてくれたのも、

貴方に私達を救う為の異能を授けてくださったのも……

あの方なのだと知ったからです」


アルテは自分の胸にそっと手を当て、私に向かって柔らかく微笑む。


「異能の事まで、聞いたんだ……」


その穏やかな表情を見ても、私は胸の奥がざわついてしまった。

自分の異能を、今まで皆に話せずにいた後ろめたさ。

もし――自分の心に、私の力が干渉していたと知ったら……皆は、どう思うんだろう。

冷や汗が背を伝う。

でも、そんな私の不安を知ってか知らずか、

アルテは変わらぬ明るい笑顔を向けてくれた。


「他の皆さんも、きっと私と同じ気持ちだと思います。

探偵さんが、いつも私達の為に行動してくださっている事を知っていますから……。

だから、私達も貴方の為にできる事があるのなら、協力したいんです」


「……私が、あの人に指示されて

皆の心情に首を突っ込んでたって知っても……友達で、いてくれるの?」


恐る恐る口にすると、アルテは迷いなく頷いた。


「勿論ですよ」


「今までずっと……

自分の異能の事、皆に黙ってたのに?」


「貴方に異能があった事は……

正直、とても驚きました。

まさか、私の眼でも視えていない力があったなんて……」


異能の事は、特に不安だった。

アルテの眼にすら映らなかった、私の秘密。

それすら受け入れてくれるというのなら……私は――


「……」


「でも、そんな事……

どうだっていいんです」


「……え?」


祈るような気持ちで俯いていると、アルテはきっぱりと言い切った。


「貴方が、その力を

悪用するような人じゃない事くらい……

私、とっくに知っていますから。

だから、関係ありません」


そう言って、先ほどよりもずっと――ずっと澄んだ笑顔で、私を見た。


「ッ……アルテ!」


私は彼女の喜色満面な様子を見て…ようやく自信を持つ事ができ、

高鳴る気持ちをぶつけるように彼女の胸に飛び込んだ。


「心の傷を癒す力……

探偵さんの異能は、誰よりも優しい異能(ちから)ですよ」


アルテは私を拒む事なく抱きとめ、宝物を扱うように、温かな腕で包み込みながらそう言ってくれた。

その瞬間――

私の中で、何かの糸がプツンッ…と切れた音がした。



「ッ皆の為に使ってた力でも……

最初から、隠さずに全部話せばよかった……。

でも、不安だったの……私は……

皆の事も、皆が苦しんできた事も、何も……知らなかったから!

部外者の私が何をしても、ただ鬱陶しいだけなんじゃないかって……

どう関わればいいのか……ずっと、迷ってた!」


瘴廃国から帝国に来てから今まで、胸の奥に溜め込んでいた想いが、一気に溢れ出した。

明るく振る舞ってきたつもりだったけど――私だって、不安だった。

記憶が思い出せない事だけでなく、皆との関係も……全部に自信が持てなくて、誰にも共感なんてしてもらえないって諦めて……。

それはどこか不誠実で、不確かな物だった。


「……でも、それでもね!

アルテに……皆に助けてもらった

あの日から……私は、皆を救いたいって、

ずっと思ってた!!

……ちゃんと、本音だよ!」


私は皆への心からの想いを、包み隠さず叫んだ。

この先、皆に対してこんなに不誠実なままでは向き合えないと思ったから。

…ようやく、その覚悟ができた。

だから皆に何を言われても……私は、もう大丈夫だ。



「えぇ……分かっていますよ。

私も、皆も……この先、何があっても……

貴方を、信じています」


しかし……

私が、何を言われるか身構えていると、アルテは目を閉じて…ただそう言った。

その時、彼女は眼で私の心を視なかった。


……本当に、信じてくれている。

本音が視えてしまうアルテが、敢えて眼を閉じて…こうまでして、心から私を信じてくれているのに……私は、一体何をうじうじしているのか。

寧ろ、ここまでしてもらって皆を信じられない方が……よっぽど馬鹿なんじゃないだろうか?



「アルテ……私、皆が好き……。

本当に…大好きなの……!」


「知っています。

私も、貴方が大好きだから」


アルテの言葉が嬉しくて……

皆からの信頼が光栄で、幸せが溢れて……

私は彼女の腕の中で、思わず泣いてしまった。


やっぱり私の心に偽りは無い。

きっとこの先何があろうと……私も、皆の幸せを願い続けるだろう。

だってこんなにも…英雄達(みんな)は、私にとって大切な友達なのだから。


「……それに。

まだ話せていない秘密は、私達にもありますから」


「え?」


「……いえ、なんでもありません。

今は、まだ」


私の頭を撫でているアルテが、小さく何かを呟いた気がしたが……

この時の私には聞き取る事が出来なかった。


自分の秘密をようやく包み隠さず伝えられた事、そしてソレを皆に受け入れて貰えた事が嬉しくて……それどころでは無かったから。






――そして、その後。


私がアルテにしがみついたままリハイトのもとへ行くと、

案の定、彼からは見慣れた冷めた視線が向けられた。



……ねぇアルテ。


リハイトも、私の事情をあの人から聞いてるんだよね?

本当に私の事、友達だと思ってくれてる?

この目、どう見ても友達に向ける目じゃないよね……?


そんな不安を胸の片隅に抱えながらも、私達は神殿へ向かう為、町を後にした。

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