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生彩放つ無神世界  作者: 美緑
〜第八章〜必然の出会い
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二度目のお泊まり会

「明日、アロマルム様に会いに行く」


「急だなぁ……」


芸術心祭の後……

帝国軍本部では、あの場に居合わせた軍人全員が、

それぞれ事件の報告書を作成していた。


私も例に漏れず書類をまとめ、提出のために資料室へ向かっていたのだが、

その途中、廊下ですれ違ったリハイトに声を掛けられたのだった。


「破壊者が本格的に動き出したんだ……。

俺達だって、焦ってるんだよ。

未だにアルテとレインの宝珠は、在り処さえ特定できていないからな」


そう言いながら、リハイトは私の手から報告書を受け取る。

紙の擦れる音が、静まり返った廊下に小さく響いた。


「それもそっか……」


私はその言葉に、素直に頷いた。

……破壊者がここまで派手に動き出したとなると、

邪神復活との関係性が高い可能性もある…。

皆が邪神に対抗できるようになるためには、やっぱり加護神様の協力が不可欠だ。


「そういえば、ソフィアの宝珠が教会内にあった事……

リハイトは知ってた?」


「レインから聞いて、最近知ったばかりだ。

悪用された件もあって……ソフィアとレインが、宝珠の情報を伏せていたらしい。

……それでも結果的に、

宝珠を管理していた教会内に破壊者がいた訳だが」


ソフィアの宝珠が、あんなにも身近な場所で管理されていたことを、直前まで知らなかった私が問いかけると、リハイトは心底残念そうにそう答えた。


「そっか……。あ! なら、

またアロマルム様の試練、受けるつもり?」


少し気まずい空気を感じて、私は以前リハイトとアルテが受けた試練のことを思い出し、咄嗟に話題を変えた。

するとリハイトは、ゆっくりと首を横に振る。


「受けたいところではあるが……

アルテから聞いた通り、

今のアロマルム様は力が万全じゃない。

さすがに無理だろうな」


「そっか……

魔王からの襲撃があったんだよね」


「あぁ……」


私達が宝珠の力でアロマルム様の神殿を解放した、あの日。

私とリハイトが町へ戻った後、

魔界モルダーシアの魔王が神殿に侵入し、アロマルム様を襲った――と、アルテから聞いた。

あれから何ヶ月も経っているのに、未だ回復の兆しは見えないらしい。


「あの神様を弱らせちゃうなんて……

魔王、恐るべしだね……。

アルテは、そんな相手と戦わないといけないのか……」


思わず頭を抱えて呟くと、

リハイトは少し間を置いてから言った。


「俺は、魔王よりも……魔王の母親。

“魔女”の方が恐ろしいと思うけどな」


「魔女って……たしか、魔王を操ってる人だよね?

自分の子供を呪いで操るなんて……酷すぎるよ……」


アルテから聞いた、魔王とその母親……

魔女の話を思い出し、私は背筋が寒くなるのを感じた。


自分の子供にさえ躊躇なく呪いをかける母親なんて……いくらなんでも非道すぎる。

そんな私の様子を見てか、

リハイトは小さく溜息をつき、魔界についての情報を付け加える。


「魔界には、非道な思考回路を持った奴が多い……。

それに、あの国は帝国と違って、身分制度がかなり厳重だ。

お前には関係ない話だと思いたいが……

もし、あの国の貴族が

わんさか集まるような場に行く事があれば、

言動には充分気を付けろよ?」


「わ、わかった……。

バチバチの貴族社会なんて関わりたくないけど……

何があるかわかんないもんね」


リハイトの忠告に頷きながらも、内心ではげんなりしていた。


……そんな話を聞いたら、ますます魔界に関わりたくなくなるよ。

この先ずっと、魔界の貴族と関わることがありませんように!!


「……。」


……なんて祈ってみたけれど。

今まで私の祈りが天に届いた試しなんて、ほとんど無い。

だから、その効力については、最初から期待していなかった。



✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿


〜その日の夜〜



「探偵さん、こんばんは」


「こんばんは!

ようこそ、私の家へ!」


「ふふっ……こんなに愛らしくて素敵なお家に招いていただけるなんて、光栄です」


その夜、私は自分の家にアルテを招いた。

明日は朝から、あの時と同じメンバーでアロマルム様に会いに行く予定だ。

そのため、前日からアルテにはカッドレグルントに滞在してもらう必要があった。


アルテは普段、この町に泊まる際は宿やリハイトの工房を利用しているらしい。

けれど、コンドとリハイトのおかげで、私にもようやく“家”と呼べる場所ができた。

これからは気軽に立ち寄ってもらえたら……

そんな思いもあって、思い切って彼女を誘ってみたのだ。


誰かを自分の家に招くなんて、これが初めてだった。

だからこそ、お客さん第一号は、

この帝国で一番最初にできた友達であるアルテであってほしかった。


急な招待にもかかわらず来てくれたことが嬉しくて、

全力でおもてなしをするために、あれこれ準備した甲斐もあった。


初めてのお泊まり会は、想像以上に楽しくて、

気づけば時間はあっという間に過ぎていた。




「あの……探偵さん。実は……」


「ん? なぁに?」


夜もすっかり更け、そろそろ寝ようかという頃。

アルテが、何か言いたげにそう切り出した。


けれど、

私が首を傾げて促すと――


「……いえ、やっぱり…

また後で話しますね。

おやすみなさい」


「?……おやすみ」


それ以上何かを告げることなく、

アルテは挨拶を済ませると、すぐに布団へ潜り込んでしまった。


その様子を不思議に思いながらも、私自身も急に強い眠気に襲われる。

結局、彼女を引き止めることもなく、私もそのまま目を閉じた。



✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿



『……依代』


そしてこの日――

珍しく、私の夢に“監視役”が現れた。


久しぶりの再会だというのに、挨拶も前触れもない。

相変わらず、唐突な登場である。


「なんでいつも、どうでもいい時には

ひょいひょい出てくるのに……

私が用がある時は出てきてくれなかったの?

……というか、そもそも監視役、

最近ぜんぜん私の夢に出てこなかったよね?

おかげで睡眠の質は上がったけどさ……」


『すまない……。

だが余とて、お前の傍を離れたくて

離れていた訳ではないのだ』


別に、監視役のせいで、これまで出会った人たちが死んでしまったわけじゃない。

それでも……

ユーゴさんの時や、内戦の時のように、事前に何か分かっていたのなら……。

芸術心祭の時だって、永護みたいに、

一言くらい警告してくれてもよかったんじゃないか。

そんな思いをぶつけるように問いただすと、監視役は思いのほか素直に謝ってきた。


……なんだか、いつもより悄らしい。

正直、調子が狂うからやめてほしい。


「えっと……どういう事?

そっちも、何かあったの?」


言葉の端々から、

監視役にも事情があって、私から離れていたらしいことを察し、

とりあえず理由を聞いてみる。


『……あぁ。少し、面倒な事になってな……。

だがこれからは、お前の傍を離れぬよう努力しよう』


「あ…それは、ありがとう……」


けれど返ってきたのは、私が期待していた答えとは少し違うものだった。

……正直、会っていない間に何をしていたのかを聞きたかったんだけど。

まあ、いいか。


それより……

わざわざ夢に現れた以上、きっと用件があるはずだ。


「それで……今日は、

どんな用があって来たの?」


『うむ……。

英雄達の心を救う役を担うお前は、

そろそろ英雄達一人一人の事をもっと知るべきだと思ってな。

あの子等から直接話を聞いても、

過去や心の傷を知るには、やはり限界があるだろう?』


「それは……そうだけど。

一体、どうやって……」


他人の過去の光景を“観せる”なんて芸当。

そんなことができるのは……アルテくらいしか、思い浮かばない。

私がそう考えていると、監視役は当然のように言った。


『余自ら、竜の子……翠嵐に、

夢見の異能をお前の為に使ってほしいと協力を仰いできた』


「……は?

……はぁ?!」


まさかの展開だった。

監視役は普ッ通に、アルテ本人に直接頼みに行っていたらしい。


「え、なんで?!」


私は衝撃の展開についていけず…思わずそう叫んでしまった。

しかし監視役は、何て事無い様子で話し続ける。


『お前も一度、その身をもってあの子の異能を体験しただろう?

傍観者が経験していない出来事を

あそこまで精密に再現し、他者へ伝えられる力は、

あの子の異能以外、この星には存在しない』


「だ、だとしても!

どうしてアルテが、見ず知らずのアンタの案に協力してくれたの?!」


問い詰めると、監視役はあっさり答えた。


『お前に英雄達の過去を観せたいと言ったら、すんなり了承したのだ。

お前が今日まで、英雄達と打ち解けていたおかげだな。

……それに、あの子は竜族の子孫。

もし余の考えが邪なものであれば、

そもそも相手にもしてくれなかったであろう』


……つまり、信頼を得るために、自分の心を覗かせたってこと?


「なら…!まさか……!

アルテは、私が今まで探っても

全然分からなかった監視役の正体とか秘密とか……全部、竜眼で視れたって事?!」


『いや……

恐らく、それ等は視えていないだろう』

……ですよね。


「そっか……流石に分かんないか……。

確かに……それぐらいで分かってたら、

アンタだってとっくに正体明かしてる筈だもんね」


監視役には、これまで何回も何回も正体を隠されて……というか、口ごもられているので、色々と訳ありなのは、何となくだけどわかっている。


でも、まさか私以外の人に監視役が自分から接触しに行くとは思ってなかった…。

…まぁ、夢から出て私の身体乗っ取ってくるぐらいだし、

監視役の手にかかれば、それぐらい簡単にできてしまうのかもしれないけど。


そう考えていると、

私はだんだん…監視役とアルテの接触がどうでも良くなってきた。


「そうですね……残念ながら、

私では、この方の素性を

解き明かす事は出来ませんでした」


「え、アルテ?!」


…と思ったら、また新たな疑問が生まれた。

何故かアルテが(ここ)にいたのだ。

驚く私を見て、彼女は気恥しそうに口を開く。


「先程ぶりですね、探偵さん」


そう言いながら小さく笑うアルテを見て、

私は、寝る前(さっき)彼女が言いかけていた言葉を思い出す。


「あぁ……“また後で”って、

そういう意味だったのか」


アルテがあの時私に何か言いたげだったのは、きっと監視役の事についてだったのだろう……。

そして私が急に眠気に襲われたのも、あの瞬間彼女が私に異能を使ったから…なのかもしれない。

でも確かに、これについては夢の中で話すべき事だと思う。

当事者が揃っていた方が、把握しやすいし。


「それで……

私に、一体何を観せたいの?」


…そんなこんなで、二人の話から状況が大体掴めてきた私は、

そろそろ本題を進める為監視役に問いかけた。


すると、


『……今日は、翠嵐に関わる出来事を観てもらう』

監視役は、考えるような素振りを見せてから口を開く。


『近々……この子に、

大きな危機や試練が降り掛かるやもしれん』


「……危機? 試練……?」


私はそれを聞いて、目を見開いた。

……胸が、きゅっと締め付けられる。


アルテに得体の知れない危機が迫っていると聞いた私は、

監視役に縋り付いて問いかけた。


「ッ何なの、それ?!

これ以上、アルテや……

皆が傷付くなんて、私嫌だよ!」


しかし……

監視役は首を横に振って、アルテの肩に手を置きながらこう答えた。


『それが避けられぬからこそ、

余は“お前”を

英雄達の傍へ遣ったのだ』


その直後――


「あ、ちょっと……!」


私が監視役の言葉に何かを言う前に、

アルテは再び異能を使い、明晰夢の世界を展開した。


視界が、ゆっくりと霞んでいく。


どうして……アルテ。

どうして、何も言わないの?


自分に危機が迫っている…と聞いても、

彼女は監視役の傍で、ただ申し訳なさそうに微笑んでいる。



「ッ……アルテ…」


その表情を胸に焼き付けながら――

私は、そのまま夢の奥へと引き込まれていった。

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