天より降りし声
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デボティラが暴れ回った後の里は、
それはもう……かなり悲惨な状態だった。
……つ、疲れた。
みんなで魔法を使って片付けているのに、
まったく終わる気配がないよ。
私は崩れた建物の瓦礫を魔法でまとめながら、
ぐるりと辺りを見回す。
折れた柱、砕けた壁、
枯れてしまった庭の植物達……。
そして極めつけは、
里の象徴でもあった教会の大崩壊――。
ついさっきまでお祭りの音や光でにぎわっていたはずのこの場所が、同じ世界の光景だなんて信じられない。
「……はぁ」
目に映るものすべてが荒れ果てていて、
自然と肩が落ちてしまう。
瓦礫を民家から離れた場所へ運んでいる途中、私は誰も近寄らなくなった教会の前まで来た。
崩れた屋根の隙間からは風が吹き抜け、泥や瘴気で汚れた外壁は汚れ……かつての神聖さなど、影も形もない。
これは流石に……建て替えないとだめか。
瓦礫を地面に下ろし、
私は自然と教会へ近づいていた。
思い返せば、この場所に入ったのは一度だけ。
あの日……
ここで初めてソフィアとデボティラに出会ったんだ。
結局デボティラとはほとんど関わらずじまいだったけど……。
なんて、少し前の思い出を懐かしみながら、
壊れかけの扉に手を伸ばした……その時だった。
中から、かすかな声が聞こえた。
「ねえ、レインちゃん……。
これからも……この里を一緒に守ってくれる?」
「……えぇ、もちろん」
――ソフィアとレインの声だ。
盗み聞きするつもりなんてなかったのに、タイミングを完全に逃してしまった私は、そのまま固まってしまった。
……何となく、入りづらい。
「私達は同じ里を守る“盟友”だもの。
貴方と運命を共にする覚悟は、とっくにできているわ」
盟友……?
どういう意味なんだろう?
不意に聞こえた馴染みのない単語が気になって、私は思わず、扉の隙間から中を覗いた。
「レインちゃん、ありがとう」
するとソフィアがレインの手をそっと握っていた。
けれどレインは、申し訳なさそうにその手をやんわりと離し、深く頭を下げた。
「お礼なんて、とても受け取れないわ……。
むしろ今までごめんなさい。
貴方とデボティラの関係を修復するために、私……
何の役にも立てなかった。
彼女がこんな騒動を起こす前に、
もっとやり方に口を出すべきだった。
そしたら、もっと……」
沈んだ声に、私の胸も痛くなる。
それでも……
レインは一度俯いたものの、
すぐに顔を上げてソフィアと向き合った。
「……いいえ、今さら悔やんでも遅いわね。
デボティラの分まで――いえ、それ以上に。
私は貴方を支えるわ。
ソフィア……もう一度、約束しましょう」
そう言うと、レインは小指を立てて、自身の手を彼女へ差し出す。
「うん……うん。約束だよ。
ずっと一緒にいて……。
もう誰かがいなくなるのは……見たくないよ……」
ソフィアは一瞬だけ目を見開き、そして強く頷いてレインの小指に自分の指を絡ませた。
それは……
────え、指切り?
魔法契約とかじゃなくて?
魔法のあるこの世界では、約束事は絶対に破られないよう魔法で厳重に結ぶのが一般的だ。
口約束や指切りなんて、簡単に破れてしまうのに……どうして魔法を使わないんだろう?
そう考えた瞬間、ふとその理由が思い浮かんで、私はハッとした。
――二人の間には、
魔法なんていらないほどの絶対的な信頼があるんだ。
「……二人は凄いなぁ」
それは勝手な想像だけれど、胸の奥がじんわり温かくなる。
私は扉越しに、小さくそう呟いた。
すると──
「…流石にそろそろ気になるから聞くけど。
覗き見するなんて、随分いい趣味してるわね、探偵?」
というレインの声が確ッ実に、こちらへ向けられ…
私はカチンと、その場で固まった。
盗み聞き&覗き見という、バレたら気まずいダブルコンボをかました私には、言い逃れのカードなんて一枚も無い。
だから諦め半分、恐れ半分で、そっと扉の隙間からもう一度中を覗く。
「まだまだ詰めが甘いわね、ひよっ子。
魔力がダダ漏れよ」
うわぁお……レインもこっちを見てた。
扉の先では、当然の如く…こちらの存在など、とっくに気が付いていたであろうレインがこちらを見ていたので、私達の目はバッチリ合ってしまう。
というか…私の想像していた以上に、レインが間近まで接近して来ていたので、殆ど彼女の顔しか見えない…。
顔に影がかかった不穏な笑顔……。
圧がヤバイ。すっごい怖い。
「や、やっほ〜……いやぁ〜、その……
たまたま通りかかったら色々聞こえちゃって、
気になって……つい……ご、ごめん!」
言い訳下手かッ、私!
なんだか誤魔化すのも後ろめたい気がして、もごもご言葉を詰まらせた末に出た言葉がこれだ。
いや…酷い、酷すぎる。
私が正直に謝ると、レインは呆れたように深くため息をつき、壊れた扉を押し開けた。
「はぁ……
別に怒ってないから、入りなさいな」
そう促されるまま中に足を踏み入れた瞬間──
私は、思わず目を剥いた。
───女神像が、倒れてる。
ステンドグラスは粉々。
祭壇のロウソクは折れ曲がり、聖書は瓦礫の下に埋もれていた。
聖堂の面影はかろうじて形だけで、
あとは荒れ果てた残骸ばかり…。
「教会が……」
あまりの崩壊具合に、私は思わず呟く。
……ソフィア大丈夫かな…。
この場所は、彼女が長い間、拠り所にしてきた居場所だ。思い出がどうあれ、失うのは辛いはず。
そんな心配をしながら視線を向けると、
倒れた女神像の前で、ソフィアは静かに佇んでいた。
その背中は小さく、しかし何かを噛みしめているようにも見える。
「ソフィア?」
ただ静かに……
女神像を見つめ続ける彼女が不思議で声をかけると、
ソフィアは振り返り、柔らかく微笑んだ。
「壊れても、直せるから大丈夫だよ」
そしてそう言った後、
私が返事をするより早く──
今度はレインにも向けて言葉を紡ぐ。
「大丈夫……神様は、私達の事見捨てたりなんてしてなかったんだよ。ずっと……」
「え?」
どうしていきなり神様の話が出てきたのか理解できなくて、私は首を傾げる。
すると脈絡の無い言葉に戸惑う私の横で、
レインだけが小さく目を伏せた。
「……そう。聞こえたのね」
「うん」
「……え? 聞こえた?」
どうやら…この会話に置いていかれているのは、私だけのようだ。
…お願い待って!二人とも!至急、説明求む。
当然のように会話を続ける二人に、私は全力でクエスチョンマークを飛ばした。
「ねぇちょっと、神様って……
どうしていきなり──」
「教会が崩れた時……神様の声が。
創造主様の声が、聞こえたの……」
うーん…駄目だ、分かんない。
私は、ソフィアが何を伝えたいのか分からなくて困惑した。
それでも彼女は、私の事を気に止める様子も無く、意識も少し朦朧としているようで、
また女神像の方へ視線を向けてしまう。
…すると、そんなソフィアに代わって、
レインが私に声をかけてくれる。
「……ごめんなさい、探偵。
今はちょっと疲れているみたいだから、許してあげて。ソフィア、里のみんなを治療して回った後なのよ。
力を使いすぎて、反動で睡魔がね……」
そう言われてよく見れば、なるほど……確かにソフィアは目元がとろんとしている。
このまま放っておいたら地面で寝落ちてもおかしくない。
とはいえ…教会は崩壊していて、
当然ソフィアの部屋も無事では無い。
「とにかく、一度私の屋敷へ連れて行きましょう」
そうして……
私達はソフィアをそっと支えながら、崩れた教会を後にした。
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「…ソフィアは特殊な体質で、
"天耳"という力を持っているの。
これは普通の人には到底聞こえない声や、
遥か遠くの声まで拾ってしまう力よ」
レインは屋敷に着くなり、ソフィアをそっと寝かしつけてから、先ほどの“神様の声”について説明してくれた。
なるほど……だからあんな事、言ってたんだ。
でも気になるのは、ソフィアが
「教会が崩れた瞬間に聞こえた」って言っていた事だ。
もしかして今までは聞こえていなかった…?
じゃあ、教会自体が何かを遮っていた、って事?
前にリハイトも「元々ここは教会じゃなかった」とか言ってたし……
デボティラは破壊者だったから妙な改築や細工をしていても不思議じゃない。
そう考えてみると──うん、ありえる。
……まぁ、そもそも私のデボティラへの評価が最底辺なのもあって、「あの人ならやりかねない」でだいたい説明がついてしまうんだけど。
「そうだ、そういえば……前にコンドが言ってた。
皆それぞれ"奇特な体質"を持ってるって」
「奇特な体質、ね…」
ソフィアの天耳を知って、
私はコンドとの会話を思い出した。
もちろんこの情報も手帳に全部メモしてあるので、
コンドの体質だってばっちり覚えている。
「コンドがエコロケーション使ってくれた時に教えてくれたんだよ。
リハイトは神足で、アルテは竜眼…いや、"他心"って言うのかな?」
「あら、エコロケーションを見たのね」
私が手帳のページをめくると、
レインが当然のように横から覗き込んでくる。
……あれ、私、最近レインに手帳覗かれすぎでは?
ガードがガバガバなのかな?……いや、別に見られて困るような事は書いてないからいいんだけど……なんというか、その……躊躇無いな。
……なんて、ぼんやりしている間に、
レインが私の手帳の余白に何かを書き加えた。
見ると、示されたページには新しい筆跡で
二つの名前が並んでいる。
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・ソフィア……天耳
・レイン………言霊
ーーーーーーーーーーーー
「……探偵。“言霊”は、どんな時に必要なものだったかしら?」
そう言って、レインはすっと背筋を伸ばし、先生モードに切り替わった。
その声音に、私は自然と考えを巡らせる。
「えっと……魔法を使う時、精霊や使い魔に送る合図が詠唱で、
その詠唱に込める力が言霊。
どんな魔法を使いたいか、何を具現化したいか……
それを言霊に乗せる事で、思い描いた魔法が形になる、だよね?」
「そう。言霊は言葉に宿る力。
そこに込める意思が大きいほど、力も強くなるわ」
レインは小さく頷きながら、淡々と自分の体質について語り続ける。
「私は、その言霊を“詠唱以外”でも操れるの」
「え、凄すぎ……」
あまりにも軽く言われたせいで、私の反応まで軽くなってしまった。
というか、ほとんど反射で口から出た言葉だ。
魔法を介さず、言霊を直接使う――
それって、どういう事なんだろう。
「言霊そのものはね、口にした言葉通りの“状態”を現実にする力よ。
そうね、例えば……」
そこまで言うと、
レインは私の傍でふよふよと宙に浮いているホノに視線を向けた。
そして、何気ない調子で言葉を紡ぐ。
『ホノは、魔力が欲しくなる』
『モ……モフ……フゥゥゥ……』
次の瞬間、ホノの体がきゅっと縮み、
梅干しみたいにシワシワになった。
――こ、これは……!
魔力が足りなくなった時の反応だ!
『ホノは、毛が伸びる』
『モファァ……』
続けて放たれた言葉と同時に、
ホノの毛がもこも事伸び始めた。
あっという間に顔のパーツが埋もれ、
……ケサランパサランみたいになっている!
「す、凄い……!
本当に、レインが言った通りになる!!」
思わず声を上げる私とは対照的に、
レインは肩をすくめるだけだった。
「大した事はできないわ。
そのくせ、使うと魔力の消費が激しいの。
だから、なるべく使いたくない」
その表情には、ほんのわずかな疲労が滲んでいて。
――彼女の言葉が、決して謙遜ではないと伝わってくる。
「それに……
発言した事が、そのまま現実になるなんて。
制御できなければ、厄介でしかないでしょ?」
一拍置いて、レインは静かに続けた。
「……強力な力には、それ相応の代償が伴うものよ」
その呟きも、きっと本当なのだろう。
確かに、こんな力を制御できなかったら……
考えただけで、背筋が寒くなる。
それでも……
「皆、ほんと凄いなぁ……
うん、もう“凄い”しか出てこない」
英雄達の力は、知るたびに底が見えなくなる。
どれだけ言葉を探しても、
彼らの常識外れな力量に見合う賞賛は見つからない。
ただ、ただただ――
圧倒されるしかなかった。
…とまあ、それはそうと。
ふいに、もう一つ聞きたい事があったのを思い出して、私はレインに身を乗り出した。
「あとさ! ソフィアに言ってた“盟友”…って何?」
「はぁ〜……貴方、私達の会話、盗み聞きしてたんだったわね〜?」
「ヴッ……」
しまった。
そうだった…さっき私、盗み聞きしてたんじゃん!
その内容をこんなに堂々と本人に聞くなんて……馬鹿なのかな?
これではこんな内容盗み聞きしてました!と言っているのと同じだ…。
そっとレインを見ると、案の定あの不敵な笑みが浮かんでいた。
私は冷や汗を流しながら、潰れた蛙みたいな声を出すしかない。
「もういいわ。……本当に気にしてないから」
しかし彼女は、そんな私の眉間を指で軽く押すだけに留めてくれた。
デコピン覚悟でぎゅっと目をつぶっていたせいで、
私の顔は相当ひどかったに違いない……。
外から差し込む柔らかな光に、静かに舞う埃がきらめいていた。
レインは背もたれに軽く寄りかかりながら、
ゆっくりと言葉を選ぶように続けた。
「盟友っていうのはね、
同じ使命を持つ仲間であり……
固い絆で結ばれた友でもあるの」
その声音はいつもより少しだけ穏やかで、
どこか懐かしさを滲ませていた。
……まるで、大切な思い出をそっと撫でるみたいに。
彼女は足を組み直すと、まっすぐこちらを見据えた。
その金の瞳に、
淡く灯る過去の記憶の色が揺れている。
「探偵、共守領制度については知ってるわよね?」
「うん! ロンサール家とスレッド家が同じ領地……
カテドールフェアリーの領主を務める制度だよね!」
私が元気よく答えると、レインは小さく頷き、テーブルに置かれた湯気立つカップへ視線を落とした。
香草茶の匂いがほんのり広がる。
「そう。通常は一つの領地に一つの管理者がいるものだけど、
私達共守領主は互いの力を合わせて同じ領地を守っている」
落ち着いた声。
その横顔は、いつもの皮肉っぽさよりも、責任を背負う者の静けさに近かった。
「この共守領制度は、
ロンサール家とスレッド家の御先祖様……嘗ての”英雄”が創ったものなの」
レインは指先でテーブルを一度、軽く叩いた。
まるで記憶の扉をノックするように。
「この地が“カテドールフェアリー”と名付けられるよりずっと昔。
神話時代から、この場所には神々の休息地、レモラリクマと呼ばれる建物……天泣神社があった」
語りながら、彼女は窓の外に視線を向けた。
薄曇りの空に、木々の影がゆらり揺れる。
「それに因んで、この地の名前もレモラリクマと呼ばれていたそうよ」
「へぇ……そんな昔の呼び名があったんだ」
小さく呟くと、レインは続ける。
「レモラリクマには、
創造主である神様が封じられているとされ、多くの者が恐ろしがった。
この地に伝わる不治の病は、神話時代以降から存在していたのだけど、
それが神の祟りや呪いと言われるようになってから、
神社の扱いは更に酷いものになったわ」
レインは苦々しげに眉を寄せた。
彼女の声がわずかに沈む。
「不治の病は……神様のせいじゃないでしょ?」
私の問いに、レインは肩を竦めた。
その仕草は、正解のない問題を扱う研究者のようだった。
「違うとは言いきれないけど、証拠なんて無いし、そうであるとも言えないわ。
まぁ、人々が恐れた結果、生み出されたデマである可能性の方が高いわね」
「そっか……」
少し胸が重くなる。
レインはゆっくりカップの縁を指でなぞった。
「ただ……その不治の病の脅威は本物だった」
語りのトーンが変わる。
空気がひやりと冷えるのを感じた。
「指すような痛みが全身を襲い、肌は赤く変色して腫れ上がる……
多くの人々は病によって苦しみ、その命を落とした」
今まで深く知らなかった治の病……私はその症状を知り、息を呑む。
語るレインの横顔はどこか悲しげだった。
まるで……その光景を実際に見てきたかのようだ。
「そんな病から人々を守るために奔走したのが、
ロンサール家とスレッド家の英雄だったの」
しかし、自身のご先祖様の事を口にすると、
彼女は背筋を伸ばした。
「二人は生涯をかけて病に対抗する術を模索し、
遂にワクチンを創り上げ、この土地の人々を救った」
「あのワクチンを創った英雄……」
私はレインの言葉を聞いて、思わず呟いた。
その偉業の重さが、胸に響く。
「そして、多くの苦難を共にした二人は固い絆を結び、
互いの子孫達も手を取り助け合えるように、”盟友”の誓いを立てた」
彼女の瞳が私をまっすぐ捉える。
「こうして生み出されたのが共守領制度……そして、盟友という絆よ」
盟友……。
レインはソフィアを寝かせている部屋の方に視線を向けながら、そう言った。
英雄の皆は、家族を戦争で失ってしまった。
だからきっと……英雄達は、皆…お互いが、家族のように掛け替えの無い存在なんだと思う。
仲間なんて言葉だけでは纏められない。何よりも特別な関係。
……静かな余韻が部屋に広がった。
「ソフィアとレインが“盟友”ならさ…」
「ん?」
目を合わせてくれるレインの瞳。
そこで私は、気になっていた事を口にする。
「英雄五人の関係にも……特別な名前があるの?」
すると彼女は一度瞬きをし、
それから顎に手を当てて考え込み始めた。
「英雄五人、私達の関係…。
……それはまだ無いわね。思い返せば深く考えた事が無かったわ。
でも確かに……私達はここまで苦楽を共にして来た入魂の仲だし、
私とソフィアの関係性のように特別な名前が一つぐらいあってもいいかもね…」
そう言うとレインは、指を軽く弾いて魔法を発動する。
途端に本棚から古びた本が数冊ふわりと浮かび、机上へ舞い降りた。
「やっぱり複数人だと関係性に名前を付けるのが難しいけど……」
そのまま彼女は何冊か目を流し読みし、
あるページでぴたりと手を止める。
「“辛友”……なんてどうかしら?」
「辛友…?」
私は聞き慣れない響きに首を傾げる。
なんだか痛々しい漢字だけど……良い意味なのかな?
なんて困惑している私に、
レインは古代語の本を見せてくれた。
でも、開いたページに並ぶのは、古びた文字列……。
古代語の専門的な知識が無い私では、それらの解読が難しくて、
唯一私が判読できたのは “amicus” だけ。
だから結局……このページは、友達に関する内容が書かれてるんだなぁ…というあっさい読解しか出来なかった。
うーん……勉強不足。
そうして私が古代語の本と睨めっこしていると、
レインは小さく笑いながら説明してくれた。
「その本にはね……
“どんな辛い事でも、共に乗り越えていける友こそ宝”って書かれているのよ。
だから、同じ辛さ、同じ痛みを知る同胞へ想いを込めて……“辛友”にしてみたの。
どう? 私達にぴったりでしょ?」
……ぴったりだ。
言葉の意味を知った途端、胸がじんわりと熱くなった。
「うん!すっごく素敵だと思う!」
思わず勢いのままに頷いてしまう。
──しかし、
「名前の意味も、レインの想いも……全部!
皆が知ったら喜ぶだろうな〜」
「え、ちょっと…!皆には絶ッッッ対言わないで…!」
私が跳ねるように褒めた瞬間、レインは耳まで赤くして立ち上がる。
「やっぱり今のなし!忘れて!没よ、没!!」
そして、彼女は本を置いたまま部屋を飛び出してしまった。
「ははーん……?」
一方……
古代語の本とともに置いてきぼりにされた私は、心の中でニヤリと笑う。
さては皆に言うのが気恥しいんだな?
でもそういう事なら大丈夫!
代わりに私が伝えてあげるからね☆
……なんて、
レインが聞いていたら怒られそうな事を考えながらホノを召喚した。
「こんな時だからこそ……皆の絆を高め合わないとね。
……んじゃあ、ホノ! そういう事だから、後は宜しくね☆」
ホノに今までの会話内容を託すと、私は窓を全開にした。
するとホノは、窓まで飛んで行くと、私を見て…
『……モキュ☆』
と、お茶目に鳴いた。
あ……私の真似か、今の。
ホノが私の真似事をしたのはこれが初めてだったので、ちょっと驚いてしまった。
精霊や使い魔が主に似るって本当だったんだ……。
私はゆっくりと窓を開け放ち、夜風に吹かれる。
ホノが星空へ溶けていくのを見送りながら、沈みきった空へ視線を預けた。
──これからも、英雄達の試練は続く。
でも、五人が一緒にいる限り、きっと挫けない。
星を変える事も、邪神を倒す事も……その先の平和を掴む事だって、きっと。
ねぇ……この星を創った神様。
貴方がどこにいるのか分からないけど、もし私の祈りが届くなら……
お願いします。
……どうか、彼等を引き裂く事だけはしないでください。
あの子達は、五人で“ひとつ”だから。
「どうか英雄に、祝福を……」
私は静かに、夜空の彼方へ祈りを捧げた。




