呪縛紐の使い道
アルテとコンドの“友人”に会うため、私達は町のさらに奥へと向かった。
その途中、小さな子どもが二人、雪を蹴りながらコンドの方へと駆け寄ってきた。
「コンドさんだ! 一緒に遊ぼ!」
「町長、あっちでボール蹴りしようよ〜!
みんな待ってるんだ!」
どうやら子ども達はコンドと遊びたいらしい。
もうすぐ暗くなるし、こんな寒いのに元気だなぁ……と感心していると、彼は困ったように笑いながら子ども達を説得し始めた。
「ごめんね、二人とも。今日はお客さんがいるんだ。明日じゃダメかな?」
「えー……せっかくみんな集まってるのに〜!
じゃあ、遊ぶのやめてコンドさんに付いてく!」
「ぴーちゃん、町長と一緒にお客さんカンゲイする! ついてっちゃダメなの〜?」
コンドの説得で遊びは諦めたものの、今度は「ついて行く!」と強請り始めた。
コンドはそんな子ども達に少し困った顔をして、私の方を見た。
「探偵……この子たちも一緒に行っていいかな?
家に着くまでの間だけ」
「うん、もちろん!」
彼は申し訳なさそうな顔をするが、私はむしろこの可愛い子ども達と仲良くなりたかったので嬉しい。
即答すると、コンドはほっとしたように笑った。
「助かるよ、ありがとう」
彼がそう言うと、子どもたちも頭を下げてくれる。
「ありがとう、お客さん!!」
「今度お客さんも遊ぼ〜ね!」
か、かわいい……!
私は小さな二人に挟まれて、心の中で悶絶した。
子ども達は鳥族らしく、コンドと同じで耳の形が羽のように尖っている。
一人は人間寄りの男の子で、もう一人は鳥に似た顔立ちの女の子。
何方もまだ幼いせいか、体中がふわふわの羽毛に包まれていた。
そんな二人に、目の前でピーチクパーチク騒がれると、私はもう我慢できなくなって――
ポスッ……わしゃわしゃあ……。
「うわあ! びっくりしたよ〜お客さん!」
「頭なでてくれるの? もっともっと!」
……撫でてしまった。それも思いっきり…いや、これは不可抗力だ。
ふ、ふわふわ……癖になる……!
私の止まらないナデナデは意外にも大ウケで、子ども達は何度も私の手に頭を押しつけてきた。
アルテとコンドは、微笑ましそうに私達の戯れを見守っている。
こうしてすぐに懐いてくれた子ども達は、道中色々な面白い話をしてくれた。
私がその中でも特に気になったのは、この豪雪についての話だった。
「ねぇお客さん、雪の化け物って知ってる?」
「雪の化け物…? 何それ、気になる!」
「この町にいるんだよ! おっきいんだ!」
「毎晩夜中になると大きな声で鳴くの!
うおおおお!って!」
子ども達は声を張り上げて怪物の鳴き声を真似した。
「うわぁ…怖いね。でも、どうして“雪の化け物”って言われてるの?」
今のところ、ただの夜鳴き迷惑怪獣だけど……。
なんて心の中で考えていると、子ども達はさらに続けた。
「夜中に化け物が鳴くと、雪が強くなるの!」
「そうなの! 鳴き声が聞こえると寒くなるの!」
「鳴き声が聞こえると……雪が強くなって寒くなる?」
それ、もしかして今の異常気象と関係あるんじゃ……?
私がそう考えていると、子どもたちは声を揃えて叫ぶ。
「そー! この町の“開かずの祠”にいるの!」
「とっても危ないから、入っちゃダメなんだよ!」
「危ない“開かずの祠”か……。
ありがとう、二人とも! 面白かったよ!」
二人の話が終わったちょうどそのとき、前を歩くアルテとコンドが立ち止まった。どうやら目的の家付近に着いたようだ。
「それじゃあ二人とも、僕はこの子達を家まで送ってくるから、また明日ね」
コンドは私達にそう言うと、子ども達と手を繋ぐ。
「お客さん!またナデナデしてね!」「次は一緒に遊ぼうね!」
コンドに連れられながら、二人は元気よく手を振ってくれた。
「うん!楽しみにしてるね!」
私も大きく手を振り返し、次にあの子達に会ったら何をして遊ぼうかと考えながら、その後ろ姿が見えなくなるまで見送った。
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三人が去ったあと、アルテは細い路地に入って私を手招きした。
路地を抜けると、彼女は一軒の建物を指差す。
「この家です」
「へぇ……なんというか……ノスタルジック、だね」
その建物は他の家々に隠れるようにして建っており、少し古びていた。
……本当に、これ“家”なのかな?
民家というより、どう見ても機材ハウスだ。
「格好いいですよね!このデザイン!
実は地下がとても広いので、外見よりずっと大きいのですよ」
と、アルテは楽しげに言う。
「う、うん。確かに格好いいけど……。
家というより、工場とか工房に見えるかな……」
私は彼女の言葉に頷きながらも、どこか落ち着かない気持ちで建物を見上げた。
庭に張り巡らされた機械回路が、なんとなく不安を煽る。
……が、
それでもアルテが扉に近づいていくので、私も警戒しつつ後に続いた。
────チリリン…。
「……誰だ?」
扉のベルを鳴らすと、奥から低い声が響いた。
「悪いが今は依頼を受けていない。豪雪のせいで材料が揃わなくてな。……まあ、話だけなら聞こう。今は手が離せないから、勝手に入ってくれ」
それを聞くと、アルテはためらうことなく扉を開けて中へ入る。
慌てて私もすぐ後ろに続くが、入口付近には誰もいなかった。
「失礼しますね、師匠」
家の中に入ってからアルテがそう言ったので、(もう入ってるけどね……)と、私は小声でツッコミを入れる。
するとその直後……
「ん……? こんな寒い中訪ねてくるなんて誰かと思えば、アルテか」
……と、先程扉越しで聞こえたのと同じ低い声が発せられた。
その声を辿って視線を動かすと、軍服のような服を着た“人間”の少年が、恐らく地下へ続くであろう階段を上ってくるところだった。
黒髪に灰紫の瞳、肩にかかる髪を無造作に払う仕草がやけに様になっている。
うわぁ…呪縛紐集めてるとか聞いてたけど……やっぱりなんか怖そう……。
私は思わずアルテの背後に隠れる。
……しかし、
「こんばんは師匠。今日は報告があって来ました」
「はいはい、こんばんは……。なあ、アルテ。
後ろの奴は、翠羽が言ってた客人か?」
隠れた直後に視線を向けられて、私はギクゥッ?!と固まった。
ば、ばれた……! いや、確かに全然体隠れてないけど!
「あ……えっと、はい…そう私…そのぉ……」
呪縛紐を集めていて…変わった家に住んでいて…気だるそうで……そんな彼を、勝手に怖そうな人だと思い込んでいたこともあって、私は思わず挙動不審になってしまった。
なんか変なこと言った気がする。
「お、おじゃましてます…! どーも!」
「? どーも、お客人」
今なんで隠れてたんだ?とでも言いたそうな少年からの視線を感じて焦るが、とりあえず挨拶はできた。……できてるよね?
「俺は"リハイト"。
リハイト・ルクス、錬金術師だ」
しかし私が一人で焦っていると、彼……リハイトは、簡潔に挨拶をしてくれた。
私の不審な動きについてはスルーしてくれるらしい…。
……言及するほど興味を持たれていないだけかもしれないが。
「他国の客人なら知らないと思うが、一応“神域の五英雄”の一人でもある。
これから帝国で困ったことがあれば、俺達英雄を頼れ」
?! 英雄……!
私は続く彼の言葉に目を見開いた。
アルテと同じく彼も"英雄"という立場…称号を持っているらしい。
「あ、私は…探偵……です! よろしく!」
気にはなるが先ずは自己紹介しなければと、私は自分の呼び名を名乗る。
「……探偵、ね。また珍妙な名前を…」
すると彼はアルテの方を向き、何か言いたげな表情をして部屋の椅子に腰を下ろした。
そして二人にも座るように促す。
「私は頼まれただけです……」
アルテは恥ずかしそうに小声で呟き、顔を覆って座った。
探偵って……そんなに珍妙かなぁ?
私はそう首を傾げながら、頭の中では“英雄”という言葉について考えていた。
この町で何度か聞いたけど、他にもいるのかな……?
アルテにリハイト…もしかしてコンドも……?
一人でそんなことを考えているうちに、二人の会話は進んでいた。
「師匠、その格好……仕事中でしたか?」
「ああ、この雪で錬金の依頼が滞ってな。
今は帝国軍の方で魔物討伐をしてた。あとは罠の改良とか」
「確かに……いつ見てもあの服は寒そうです」
「それよりアルテ、要件は?」
「はい。一つ目は、変異種の魔物についてです。
今日、巨大化した魔物に遭遇しました」
「なんだと!? まさか一人で倒そうとしたわけじゃないだろうな……」
リハイトの鋭い視線がアルテを射抜くと、彼女は「えっと……」と慌てて私の方を見た。
そして…
「探偵さんに手助けしてもらったので、一人では……。あ、魔物はちゃんと倒しましたよ!」
と言い訳のような言葉を続けた。
すると直ぐにリハイトが立ち上がって
「……こンッの!お転婆娘!!」
───ペチンッ!
と、アルテの頭を小突いた。
突然の出来事に、私はびくっとして椅子から半分浮き上がる。
な、なにごと!?
「何度規則違反を繰り返す気だ、アルテ。
未調査の変異種とは極力一人で戦うな。小突くぞ」
「もう小突いてますよ…師匠ごめんなさい……」
どうやらアルテは規則違反とやらをしたので怒られてしまったらしい…。一人で巨大化てる坊と戦ったのは、やはりまずかったみたいだ。
「あ、あと…これを渡したくて」
アルテが頭を摩りながら呪縛紐の入った袋を差し出すと、リハイトはそれを見て目を見張った。
「なんだ、この禍々しいオーラ……。
普通の呪縛紐の数十倍、呪いの力が強い…。量もすごいな……合体した個体か」
彼は素材を手に考え込み、やがて地下へ向かう。
私達もその後に続いた。
「素材はありがたく受け取る。
……そういえば探偵も戦ったんだよな?」
「え? うーん…戦ったというより、アルテの魔力を借りて弱点を見つけただけだよ」
まぁ私がいなくてもアルテ一人で勝ててただろうけど…。
先程の戦闘を思い返して肩をすくめると、リハイトは驚きの声を上げた。
「はあ!? 弱点がわかる魔法? 実用的すぎるだろ……」
「え、そうなの?」
彼がどうして驚いているのかわからなくて首を傾げると、アルテが教えてくれた。
「初めて戦う魔物の弱点を即座に見抜けるなんて、とても凄いことですよ。普通は何度も戦って分析するものです」
「確実に弱点がわかれば討伐時間も減るし、損害も少なくて済む」
リハイトは彼女の言葉に続いてそう言いながら、地下の鍵を開けた。
どうやら階段を下りきっていたらしい…。
部屋に入るとそこにあったのは――縄が幾重にも張り巡らされた不思議なオブジェだった。
「リハイト、これ何?」
「素材で作った魔物用の罠だ。今は大型用を作ってる」
私が問うと、彼はアルテから受け取った呪縛紐を罠に取り付け始める。
「な、なるほど……呪縛紐って、そうやって使うのか……」
私は心の中で、彼を“悪趣味”呼ばわりしたことを盛大に反省した。
……これこそ“実用的”だよ。
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