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生彩放つ無神世界  作者: 美緑
〜第七章〜破壊讃歌
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毒の香辛料

「会場の準備は……うん、問題なさそうね」


ガリア様と別れたあと、祭りの開始までまだ少し時間があったので、私達三人は、そのまま雑談しながら暇をつぶしていた。


そんな時——不意に、聞き覚えのある声が遠くから届き、私はそちらへ視線を向けた。


そこではレインが、民達と一緒に祭りの最終確認をしていた。


「わっ、レイン!! おはよー!!」


嬉しくなった私は、

勢いのままレインへと駆け寄った。


……。

この時あまりに夢中で、うっかりリハイトとアルテを置き去りにしてしまったが……

まぁ、あの二人のことだし、後からゆっくり来てくれるだろう。



「あら、おはよう、探偵」


私の声に気づいたレインは、

ぱっと笑みを浮かべて、こちらを向いた。


「ちょうど良かったわ!

実は今、貴方を探していたのよ」


「え? 私を?」


探していた……と言われて思わず首を傾げる。

……どうしてレインが私を探してたんだろう?

理由を考えてもさっぱり分からず、首はどんどん傾くばかりだ…。


「ええ、前にお祭り用の料理を考えてもらったでしょう?」


そうして、ほぼ直角になるまで傾ききったところで、ようやくレインが理由を教えてくれた。


「それがもう出来上がったそうよ。

毒味も済んでいるから、お客さんより先に試食させてもらえるらしいの」


「ええー!! 本当に?! いいの?!」


——そうだ、そういえば私、

祭りで出す料理の候補をいくつか選んでいたんだった!


レインの言葉に私は思わず飛び跳ねる。

どうしてこんな楽しみをまるっと忘れていたんだろう!

どんな味になったのかなぁ! わくわく! ドキドキ!

跳ねて浮かれて、水素みたいに軽やかになっている私を見て、レインは微笑みながら言った。


「ふふっ、もちろんよ。

……というわけで、運んできてくれる?」


「はい、ただ今お持ちいたします!」


「よろしくね」


レインに命じられた民の一人が、料理を取りに駆けていく。

私はその背中を眺めながら、まだ見ぬ料理への期待をどんどん膨らませていた。


どんな出来栄えなんだろう…!

どんな味付けで、どんな人が作ってくれたんだろう……!

その答えが分かる瞬間を想像するだけで、胸が高鳴った。


✿ ✿ ✿ ✿


それからしばらくして――


待ち望んでいた料理が、湯気と香りをまといながら運ばれてきた。


もちろん、リハイトとアルテも私の後を追って来てくれて、

これから四人で仲良く、お祭り料理の試食会といこうと思う。



「ご試食していただくのは、こちらの料理でございます!」


威勢のいい声とともに、料理を運んできた民が皿を差し出した。


皿の上に鎮座していたのは、

“雷香辛料”という強烈な香りを放つピリッとした香料と、

翠山に生息する魔獣――“葉角鹿”の肉を贅沢に使った

《雷華麻辣串》という料理だった。


葉角鹿は脂身が少なくさっぱりした味わいだが、

草のような独特の青臭さがあるため、

こうして香りの強い香料と合わせて調理されることが多い。

私は数ある香料の中でも、口の中でパチパチ弾ける

雷香辛料の食感が面白くて、迷わずこれを選んだのだ。


「まぁ!翠山の料理を選んでくださったのですね!

葉角鹿、大好きなんです!」


「麻辣か……定番だな。まぁ、悪くないんじゃないか?」


アルテとリハイトが覗き込みながらそう言う。

……よし、反応は悪くなさそう。

少なくとも料理選びは失敗していないみたいで、私は胸を撫でおろした。


「料理はもちろんだけれど、なかなかいい食材を調達してきたのね?

探偵、あなたセンスあるじゃないの」


今度はレインが料理を見て、にこりと私を褒めてくれた。

よっしゃ、食材選びもクリア!

私は心の中でひっそりガッツポーズを決める。


「うんうん!!だよね!だよね!

それじゃあ早速……いっただきまーーす! もぐっ!」


そして嬉しさのあまり、私は誰よりも早く串を手に取り、豪快にかぶりついた。


「あっ、ちょっと探偵! お行儀が悪いわよ!」


「もぐっ! はぐっ!!」


「おい……がっつくなよ、みっともない……」


レインとリハイトの呆れた視線を浴びたが、そんなのは慣れっこだ。

(それもどうかと思うが……)

それでも気にせず、“試食”の範囲は守りつつ、しっかりと堪能した。


「ん〜!美味しい!

前に食べたやつよりちょっと辛めで、香り付けも強いけど癖になる味〜!

止まらない〜!」


「もう、まったく……。少しはゆっくり味わいなさいよ……?」


レインは呆れながらも、特に止めずに見守ってくれる。


「ん……?あれ……?この味……スターアニス?

おっかしいな〜、私こんなの用意してないんだけど……?」


しかし暫く食べ進めたところで、

私は自分が調達した覚えのない香辛料が混ざっていることに気づき、首を傾げた。


「え?……雷香辛料に加えてスターアニス?

味が変わっちゃうじゃない」


レインも不思議そうに料理を覗き込み、眉をひそめる。

疑問を解決するために――

私はもう一口、料理を放り込んだ。

……どさくさに紛れて楽しんでいるわけじゃない。断じて!


「ん〜? でもちゃんと美味しいよ?

あ……確かにちょっと辛いけど」


「味が崩れてないなら問題ないのか……?」


リハイトも怪訝そうにしながら、

追加の香辛料について考え込んでいた。



その時――


「雷香辛料にスターアニス……?

それに、この感覚……。これはまさか……」


アルテが何かに気づいたように、皿を睨みつけつつ低く呟いた。

そして…


「探偵さん、その料理……念のため、それ以上食べないでくださいね。

……絶対に」


彼女はそれだけ告げると、ぱっと振り返り、

風のような速さでどこかへ走り去ってしまった。


「え、食べるなって……どういう……アルテ……?」


何を思い、どこへ行くのか……。

気になって声をかけようとしたものの、

彼女は私が反応するより早く姿を消していた。



……というか、あれ?

なんか皆、アルテがいなくなったことに全然気づいてない!

……すっごい影薄いなアルテ……。


「レ……レレ、レイン様!!

た、たた、大変でございます!!」


アルテの行動や、周囲の妙な空気を気にしていたその時。

突如として、カテドールフェアリーの民達が

羽音をバサバサ鳴らしながら、慌てふためいた様子で駆け込んできた。


「あ、あなた達?!

そんなに大勢で……騒々しいわね。

お客さんに提供する料理に砂埃が入ったら大変じゃない。みんな、少し落ち着きなさい。

それで……?そんなに慌てて、一体何があったの?」


さすがのレインも、予想外の騒ぎに少し動揺しているようだった。

ここまで取り乱した民が一度に押し寄せてくれば、

誰だって身構えずにはいられないだろう。



「そ、それが……」


レインに促された民の一人が、

真っ青な顔で息をのみながら報告を始める。


「ッその料理の毒味役たちが、

次々と倒れてしまったのです!!

その料理は、恐らく……毒入りです!!!」


『え……、えぇーーッ!?!?』

……な、なんですとーーッ!?!?


私達は揃って凍りつき、思わず目を剥いた。


……え、嘘……聞き間違い?

この料理に……毒??

私は口元を押さえ、震えが止まらなくなる。


だって、もしそれが本当なら……

今、私の体内にも毒が――?!


「毒味役が……それって、全員?」


毒の強さを想像してしまい、胃がぎゅっと縮まる。

私は震え声で、報告した民に恐る恐る問いかけた。


「は、はい……料理を食べた時には毒の症状を訴える者は一人もいなかったのですが……

今になって、バタリバタリと……!」


……あ、終わった……。

めっちゃヤバい毒かもしれん……。


民の言葉に私は真っ白になった。


だって、私……毒味役の人たちより絶対、

沢山の毒食べちゃってる……。

し、死ぬ……?死んでしまう……?!



「ど、毒味をしたのは……

一時間以上前……だったわよね?」


私が絶望の淵で固まっていると、レインが民に確認を取る。

すると民は大きく頷いた。


「は、はい!」


「厄介だな……少し時間が経ってる…。

これが魔法なら、助かるんだが……」


「えぇ……でも残念ながら魔法の毒ではないわ。

魔力探知に、反応がまったくないもの」


リハイトとレインは、眉を寄せながら、状況を整理している。

確かに、料理からは魔力の気配は一切感じられない。

これは紛れもなく、料理人さんの“手作りの味”そのものだ。


……料理人さんが心を込めて作った、美味しい料理に毒を入れるなんて。

一体誰が、そんな酷いことを……。


私は串を見つめ直し、重たい溜息を吐いた。


料理人さんにとって、料理は芸術だ。

その作品をこんなふうに汚されるなんて、

どれほどの屈辱だろう……考えるだけで胸が痛んだ。



そんなふうに一人沈んでいると――

なぜか、周囲で待機していた民達が

ほっと胸を撫で下ろしているのが目に入った。


……え?

いま安心する要素あった??


彼らの反応を不思議に思って私が首をかしげていると、一人の民が……

絶妙なタイミングで口を開いた。



「ですが、間に合って良かったです……!

皆さんはまだその料理を口にしていないようで……

安心しました!」


『あ…………』



「……え?」



その瞬間、場が凍りつく。


そして――


ゆっくり……揃ったように。

皆の視線が、私へと向けられた。



あぁ……。

…そういえば……

一瞬、忘れかけてたけど私……。



「アンタ……食べちゃったわね……」


「タベチャッタ……」


凍りついた空気の中、

レインが気まずそうに私を見て小さく呟く。


私も――固まったまま、うまく動かない口をゆっくり開いた。



その言葉を聞いた民達は、私とレインを交互に見て……


「…………、ッ!!」


ようやく事態を理解したのか、

再び血の気が引いていく……。




「……探偵」


「な……なに? リハイト」


周囲が青ざめる中、リハイトが静かに名を呼ぶ。

そして一言。


「吐け」


「も……もうゴックンしたから、無理」


「死ぬぞ」

ひッ……


いや、分かってるよ!?

私だって吐かなきゃまずいってことくらい!


でも “今すぐここで吐け” とか言われても……

ど、どうしろっての私!?そんな知識ないよ!!


「無理なものはむ……って、ぐふっふぇッ?!」


「探偵、大人しくなさいッ!!

アンタさっき、とんでもない量食べてたでしょ!?

さあ早くッ!! ちゃちゃっと吐くのよ!! 全部!!」


判断に迷ってオロオロする私へ、

覆いかぶさるようにのしかかってきたのはレインだった。


魔法だけでなく、医療にも精通している彼女にとって、毒物を吐かせる処置など朝飯前なのだろう……。



「え、な、何する気…?ねぇ?!……ねぇッ?!」


私はあっという間に、身動きできない“嘔吐体勢”へと矯正される。


さらに――

レインの魔力が私の体内へ流れ込み、

隅々に行き渡りながら毒を無理やり排出する方向へと誘導していく。


す、すごい……!

魔力って、こんな使い方もできるんだ……!?

……ッじゃなくて、ちょっと待って?!?!

私、まだ心の準備が――!!



「れ、レイ、ン……やめ、

ちょッほんと、ムリィ……って、あ……

う”……お”あ”あ”あ”あ”ぁ”!!!!」



胃がひっくり返るほどの圧に、

私は盛大に――

さっき褒めちぎった“美味しかった毒入り料理”を

きれいさっぱりリバースした。


大勢の民達にガッツリ見守られながら……。


……うへぇ……二人とも、容赦なさすぎ……。


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