芸術心祭
月日は巡り、
エデンカルは“秋”と呼ばれる季節になった。
私が英雄たちに出会ったのが、花が咲き乱れる“春”。
帝国軍に入り、大規模な内戦任務に参加したのが、あの容赦ない“夏”。
……つまり、私が帝国に来てから、もう半年ほど経ったというわけだ。
最近は、あのドタバタ続きの日々が嘘のように、
驚くほど穏やかだった。
というのも、国境警備を強化したおかげか、魔界側からのテロも襲撃もなく、内戦も一度も起きていない。
……とはいえ、残念なこともある。
加護の宝珠を悪用して聖獣を汚し、
コンドの大叔父であるユーゴさんを殺害した犯人。
カテドールフェアリーの聖水を汚染した犯人。
人間と魔族の二種族対立を煽り、
大きな内戦を引き起こしたレインの仇——。
これら三大事件の犯人はいまだ捕まっておらず、
調査だけが続いている。
平穏といえば平穏だが……
とても“平和”とは言い切れないのが、この国の現状だ。
それと、最近もう一つだけ変化があった。
私の夢の中に高頻度で現れていたあの人が、
ほとんど出てこなくなったのだ。
なんなら、この一週間は一度も姿を見ていない。
聞きたいこと、山ほどあるのに!
ンもうッ!サボらないでよねッ!
用がある時に限って来ないなんて……!
……こほん。
ダメだ、あの人のことになるとつい熱くなってしまう。落ち着かないと。
さて、そんなこんなで秋を迎え、ついに——
多くの民が長らく待ち望んでいたあの祭りが始まった。
“芸術心祭”だ!
そういえば、なぜ秋に祭りをやるのか気になって、以前ソフィアに尋ねたことがある。
すると彼女は、「芸術活動がしやすい季節だから」だと教えてくれた。
“芸術の秋”なんて言葉あるくらいだし……
なるほど納得だ。
聖水や神具の管理も万全だった。
あれ以来、一度も聖水が汚されることはなかったのだ。
警備を強化し、私とソフィアとレインが交代で見張りを続けてきた成果だろう。
犯人はまだ見つかっていないものの、不治の病を祓う “逆さクラゲの舞”も、この調子なら問題なく行えるはずだ。
——うん、楽しみだ!
支度を整えた私は、胸を弾ませながら家を出た。
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「おっはよう! コンドー! ソフィアー!」
カッドレグルントの教会の外で、
私はコンドとソフィアを見つけて手を振った。
「おはよう、探偵!」
「あ、探偵さん! おはよう!」
二人とも、今日は特別な日とあって、
いつも以上にしっかりおめかししている。
コンドは、皇族が揃って“逆さクラゲの舞”を観賞するということで、
ロイヤルオーラ全開の豪華な衣装に身を包んでいた。
まるで絵本から出てきた王子様みたいだ。(実際、皇甥様だけど!)
「コンド、かっこいいね!今日は一段と輝いてる!」
「ありがとう、探偵!
……君に言われると、なんだか照れるな」
おおう……本当にキラキラ度が上がってる気がする。
皇族の輝きってレベルが違う。
コンドの皇族スマイルを食らった私は、眩しさでよろめきながら、今度はソフィアに視線を向けた。
彼女は今日、“逆さクラゲの舞”で病を祓う薬を空中に撒きながら舞うという大役を任されている。
そのため、他の舞手よりもずっと複雑で繊細な装飾が施された、光を受けてふわりと揺れる煌びやかな衣装を身につけていた。
薄い布が幾重にも重なっていて、まるで妖精だ。
「ソフィアはいつも可愛いけど、今日は……
すっごく綺麗だね!」
「えっ、そ、そうかな……?
えへへ、嬉しい……ありがとう、探偵さん!」
微笑むソフィアが可愛すぎて、胸のあたりがギュッとなる。
……女の子の笑顔ってどうしてこう可愛いんだろう、ほんと。
「じゃあソフィア、僕はそろそろ行くね。
舞、楽しみにしてるよ! 頑張って!」
「うん、頑張るよ……!」
私が悶えている間に、コンドはそう言って歩き出した。
こういった大きな行事では、皇族としての仕事が山ほどあるのだろう。
次期皇帝候補の彼にとって、こうした場での立ち振る舞いは民からの評価に直結する。
——コンドも頑張れ!
私は遠ざかるその背中に、こっそり全力のエールを送った。
コンドが去り、私とソフィアの二人きりになると、
彼女はふっと表情を緩め、今までの感謝を伝えてくれた。
「……そうだ、探偵さん!
今日まで神具と聖水の管理を手伝ってくれてありがとう!おかげで無事に、お祭りを開けたよ」
「ううん、私はちょっとしか手伝ってないよ。
一番大変だったのはソフィアだし、管理の中心はレインだったでしょ」
大したことじゃないのに……、律儀な子だなぁ。
そう思いながらも、ソフィアの言葉は素直に嬉しくて、胸にあたたかく残った。
───しかし、楽しい時間は長く続かない。
「それでも私ね、探偵さんに──」
「ソフィア様」
ソフィアが続きを口にしようとした瞬間、
デボティラが姿を現した。
……げぇ。デボティラだ。
何度か嫌な態度を取られた経験がある私は、
心の中でだけ盛大に嫌そうな声を上げた。
(声に出さなかっただけ褒めてほしい、ほんと……)
「あ、デボティラ……」
「そろそろ行きましょう、ソフィア様」
「え? で、でもまだ時間が……」
「今宵は“完璧”でなければなりません。
確認すべき箇所が多くありますので……早く」
有無を言わせぬ口調でソフィアを促すと、
デボティラは私に見向きもせず、そのまま教会へ入っていった。
ほぉう?……無視、か。
嫌味よりはマシだけど……なんか複雑。
「……そっか。“完璧”に、ね。
……わかったよ、デボティラ。
……それじゃ探偵さん、またあとで───」
「ねぇソフィア、ちょっといい?」
教会に入ろうとしたソフィアを、
私は引き止めてしまった。
直感が、妙に強くざわついている。
今、言わないといけない気がしたのだ。
「……?」
彼女は、不思議そうに私を見つめる。
……言いにくいけど、はっきり伝えておきたい。
私は息を整え、ソフィアに向かって言葉を紡いだ。
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