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生彩放つ無神世界  作者: 美緑
〜第六章〜血潮化生の影渡り
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こんにちは先輩

「おい! 新入り! 任務にはそろそろ慣れたか?」


帝国軍本部の野外鍛錬場に、

元気いっぱいな少年の声が響いた。

砂埃の舞う鍛錬場では、魔法の余熱で空気がわずかに揺らいでいて……私が振り返ると、声の主──

例の“先輩”がこちらへ手を振っていた。


新入り、新入り……と何度も連呼してくる、

この少年を覚えておいでだろうか?

そうっ!

名前だけは頑なに教えてくれない、あの人である。


私は魔法の鍛錬に来ていたのだが、

偶然また彼とばったり会ってしまったわけだ。

一通り体を動かし終えた後だったので、汗を拭きながら返事をする。


「うん! 先輩のおかげで、ちょっと慣れてきたよ!

ありがとう!」


先輩にお礼を言いつつ、私は水魔法で自分の体温を下げる。

なんだかんだ言ってこの先輩、結構面倒見がいい人なのだ。

名前を教えない謎ムーブはさておき、聞けば予想以上丁寧に教えてくれるし、助かっているのは事実だ。

大感謝・大感激・土砂降り・雹である。



「ふん! 俺が指導してんだから、当然だな!」


胸を張って誇らしげに言うところも、まぁ可愛い。

ワンちゃんみたいだな……なんて、目上の先輩に対してド失礼な事を考えた後、私は呟いた。


「本当…内戦の時、先輩がしょうもな……

じゃなくて、軽い怪我の治療で仮拠点にいてくれて良かった。もし先輩が死んでたらどうしようって、不安だったから」


「しょうもないってなんだ!

結構痛かったんだぞ、突き指」

……いや、突き指て。確かに痛いけども!


思った以上に ショッボい怪我してんなぁ、先輩よ。

あれは戦争だよ?怪我人判定緩くない?ちょっと自分に甘くない?

もっとこう……致命傷とかさ……いや、願ってないけど。

でもたったそれで治療室に運ばれるのもどうかと思うぞ。

酷い怪我を見てきた後だと、突き指は軽すぎて逆に心配を返して欲しい。


でも、こうして元気に言い返してくれる先輩を見ていると、

胸の奥がふっと軽くなる。

本当に、生きていてくれてよかった。


「でも、今回の内戦……

かなり沢山の人が亡くなっちゃったから、軍の戦力も落ちるだろうなぁ」


破壊者の話を聞いた事で、戦力面の問題を 重視し始めた私は、小さくそう呟いた。 すると、先輩がキョトンと不思議そうな表情をして口を開いた。


「は?……何言ってるんだ? 落ちるわけ無いだろ?

だって、英雄様方がいるんだから」


「え……」


あまりに当然のことのように言う先輩に驚いて顔を上げると、

そこには先ほどまでの明るさを失った、

光のない瞳があった。

ぞくり、と背筋に氷が触れたような感覚が走る。


「せ、先輩……?」


無表情で、ただ一点を見つめるその姿は、まるで人形のようだった。

さっきまで笑っていた人と同じとは思えない。


「で、でもさ、先輩言ってたじゃん。

 俺達は戦える、え……エリートだ、って。

 確かに英雄の力には叶わないけど、

 それでも戦力には、なってるでしょ?」


いつもの先輩に戻って欲しくて、必死に言葉を重ねる。

しかし──


「俺達がいなくとも、英雄様なら全てを守ってくれる。

 英雄様がいれば星は壊されない。

 英雄様こそ、神なんだ。

 俺達はその手伝いをさせて頂いている。

 英雄様の為になるのならば、俺は己の命さえ惜しくない」

……おい先輩、本当にどうした?!


“英雄様英雄様英雄様”……を呪文のように連呼する先輩を止めるべく、私は渾身のビンタを食らわせた。


……が。


「英雄様の為なら……英雄様と共に……英雄様は……」

えー?!むしろ加速してるーーー!?


なんかスピードアップしちゃったんですけどー?!

…どうしよう、なんか余計壊れてしまった。

私が悪いのだろうか…コレ。

流石にここまでくると恐怖や焦りを通り越して冷静になってきた。


「先輩、わかったから……

 え、英雄……様の為に今日も頑張ろー(?)」


「……おう! 頑張ろうな!」

…いや戻るんかい。


心の中で盛大にツッコみつつ、私は安堵の息を漏らした。

どうやら、彼の“英雄様スイッチ”に乗っかると復帰するらしい。

とりあえず頭のネジ……カラクリは 元に戻せた(?)ようだ。


……なんか怖いし、元に戻らなくなったら困るし。

今後、彼の前で英雄の話題は控えよう。平和に行こう。

深く突っ込んではいけない。“触らぬ神に祟りなし”、である。


「じゃあな、新入り!」


そう言い残して、先輩は元気よく鍛錬場を去っていった。


……よし、私も鍛錬もっと頑張らないと。

私と先輩は、仲良くお喋りしていただけだ…

そうだ、今の会話は忘れろ、忘れろ……。


雑念を振り払うため、私は普段の倍の量の魔法を叩き込むことにした。




──なお、翌日になっても先輩には普通に話しかけられた。


けれど、

彼のあの「様子」について誰かに相談する勇気は

……なぜか、どうしても湧いてこなかった。


まるで、帝国軍の奥底に触れてはいけない秘密が

そっと口を閉ざしているようで……

今はまだ、知らないままでいようと自分に言い聞かせたのだった。


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