❅*冥府へ誘う冥導者*❅
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地下に沈む空気は、湿り気と鉄の匂いが混ざり、やけに重たく感じた。
ここは帝国軍本部の地下、尋問室――
罪人の叫びも、吐いた嘘も、ここに来た時点で逃げ場はない。
俺、リハイトは、
今、目の前で縄に拘束された“人間サイドの内戦主導者”と向き合っていた。
もう一時間以上、こいつの愚痴と責任転嫁を聞かされている。
頭が痛くて仕方がない。
「ッなんでだよ…どうしてだ!
人間側に味方してくれなかったんだ!
お前だって俺達と同じ“人間”だろうが!」
主導者は喉が枯れるほど叫び散らし、
自分が被害者であることを疑っていない。疑う気もない。
俺は、ため息をひとつ落として答える。
「俺達の仕事は、帝国と民の守護だ。
お前達の私怨まみれの内戦に加勢する義理はない」
そう言うと、主導者はさらに声を荒らげた。
「先に襲ってきたのは魔族だ!
俺達はただ反撃しただけだ!
それなのに罪人扱いだと?!
こんなのおかしいだろ、どう考えても!」
まただ。
同じ言い訳を何十回聞いたか、もう数えていない。
関係の無い一般市民を戦に巻き込んでいなければ、
コイツやコイツが率いた仲間達の処罰は、
幾分か魔族達よりも軽くなる可能性があった。
…だが、コイツらは抵抗できない者達を大勢 巻き込んでしまった。
これは揺るがない……既に起きてしまった事実。
俺でも擁護する事は叶わないだろう。
「何度も言うが…」
俺は淡々と、だが少しだけ語気を強めて返す。
「原因が何であれ、結果としてお前達は
抵抗できない一般市民を巻き込み、大量の命を奪った。
それが“戦争犯罪”だ。
罪人扱いされるのも当然だろう」
沈黙。
ようやく理解したのかと思った――が、甘かった。
数時間後…。
ついに主導者は肩を落とし、絞り出すように言った。
「……認める。
市民を巻き込んだ事は、確かに…俺達の罪だ…」
だが、その後に続いた失言が、俺のこめかみに熱を灯した。
「だけどな……それが罪なら、
お前達英雄は、俺達を遥かに超える大罪人じゃないかッ」
思わず、握る拳に力が入ってしまう。
「……今、何と言った?」
主導者はにやりと唇を歪め、
“言ってやった”とでも言いたげな顔で続ける。
「十年前、お前達は帝国外にいた人間すべてを見捨てた。
帝国だけを結界で護って、他国の奴らは切り捨てた。
俺の家族も…外にいたんだ!」
声が震えていた。
怒りではなく、醜い怨嗟で。
「お前達は戦わずに逃げた!
保身のために帝国に籠り、見捨てたんだよ!
人殺しはお前らだ、英雄様よ!!」
胸の奥で、何かが軋んだ。
だが俺は、怒りを押し殺し、逆に氷のような声で吐き捨ててやる。
「俺達があの時結界を張らなければ、
この帝国ごと消し飛んでいた。
お前も、お前の仲間も、一人残らず死んでいた」
挑発に乗るな。落ち着け。
わざと視線をそらし、吐き捨てるように呟く。
「あの時、何もしてくれなかった奴等が…
――助けられた側が、随分と偉そうだな?」
少し愚痴が混じってしまったが、
ここまで派手に煽れば、俺の気は幾分か落ち着いた。
案の定、主導者は怒り狂う。
「――ッ全部!全部、全部、全部!全部お前らの責任だ!
星一つ満足に守れない無能共が!
俺の家族を返せ!
帝国でぬくぬくしてた化け物が!」
撤回しよう…やはりコイツは、ただただ不愉快だ。
俺達の事を何も知らないくせに、知ろうともしないくせに…。
俺だけでなく、仲間達を何度も罵倒しやがって。
――ああ、本当に救いようがないな。
この世界で最も苦しんでいるのは、
“自分たちだけ”だと思い込んでいる。
被害者だという妄想に酔い、そのくせ加害の責任は一切負わない。
ああいうタイプは、底なしに厄介だ。
「……口を慎め」
俺は低く、静かに告げた。
「お前が今罵倒を浴びせている相手は、
英雄である前に公爵や皇族だ。
たとえこの帝国がどれだけ身分差の緩い場所であろうと、
俺達が少しでも不快だと感じれば、即不敬罪に問われるぞ」
主導者は噛みつくように言い返す。
「…ッ!今さら脅しか?
今度は身分の差で俺を甚振ろうってのか!なぁ公爵様よ!
卑怯者!この人でなし!化け物がー!!」
目が血走っていた。
もう理性も、判断も、何もかもが壊れている。
…ダメだな。
「連れて行け」
俺が静かに命じると、
扉の外で待機していた部下達が即座に動いた。
…さて、コイツはどう"処分"されるか。
「はッ!」
「やめろ! 離せぇぇぇ――!!」
主導者は罵声と涙と唾を飛ばしながら、
地下の奥へと引きずられていく。
…仕事が早くて助かるな。
「……。」
その姿が消えたとき、尋問室には静寂だけが残った。
俺は椅子に背を預け、
誰にも聞こえない声でぽつりと呟いた。
「……十年前の大戦で家族を失ったのは、
お前だけじゃない」
言葉は地下の冷えた空気に吸い込まれ、跡形もなく消えた。
俺達は、自分の家族を切り捨ててまで、この帝国を護った。
それが“正しい”と信じるしかなかった。
でも――。
今守っているこの世界が、
果たして守る価値のあるものなのか。
俺の生きる意味も、星を守る意味も。
……アイツらがいなくなれば、全て、何の意味も成さない。
俺は神域の五英雄、氷牙の冥導──
リハイト・ウァプラ・ルクス。
仲間のためなら
化け物にでも
悪魔にでも堕ちてやる。
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【内戦参加者の処遇報告書】
件名:内戦参加者の処遇に関する報告
本報告書は、先日発生した種族間の対立を発端とする内戦について、
現在帝国軍が確保・拘束している主要戦士らの処遇をまとめたものである。
帝国全土を騒がせた本件は、複数の地域を巻き込み、結界都市周辺にも
緊張を生じさせた重大事案であった。
なお、本報告に記載する人数は、既に取り調べを終え処罰・釈放が完了した
一般兵を除き、罪状が特に重く、現在も拘束され裁判の対象となっている主要戦力のみである。
1.確保人数
内戦に参加した戦闘要員のうち、帝国軍が確保した人数は以下のとおりである。
収容区画には常時警備班が配置され、魔力封印装置も稼働中である。
人間側戦力:1,287名 確保
魔族側戦力:741名 確保
2.処遇および司法判断
帝国法では、種族間の差別および対立行為は固く禁じられている。
しかし、本件では双方の主要戦士らが武装集団を率い、
帝国領内で大規模な反乱行為を行ったことが確認されている。
以上の事実を踏まえ、司法局は以下の処遇を提示する。
人間側主要戦力:懲役15年以上 20年以下
魔族側主要戦力:懲役100年以上 600年以下
また、人間側の中心的主導者については、拘束中に死亡が確認された。
3.首謀者追跡および外部勢力への対処
魔族側の首謀者は、戦闘行為において帝国軍隊員数百名以上を殺害した罪により、
死刑相当と判断される。
首謀者は依然として帝国内を逃走中であり、発見次第、即時拘束を指示する。
さらに、今回の内戦においては魔族側の背後に
魔界国家モルダーシアの支援が存在した可能性が極めて高い。
外部勢力の介入は帝国の安定に大きな脅威となるため、国境警備隊への増援を行い、
各防衛結界の強化を継続するものとする。
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──以上。
本件内戦における全容解明および残存勢力の鎮圧には、
引き続き慎重な警戒と情報収集が求められる。
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