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生彩放つ無神世界  作者: 美緑
〜第六章〜血潮化生の影渡り
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滅びを願う者の名を

「……えっと」


「はぁ…やっぱり分からないか。まあいいさ。

聞きたかったことは聞けたからな。

探偵、もう楽にしていいぞ」


私が英雄室に呼ばれた理由は、昨日の夜……

レインと二人きりになった後の事を報告するためだった。

聞かれたまま、リハイトは彼の質問にぺらぺら答えていたが、いくつか返答できない部分があった。


──彼が私たちに合流した“その後”についてだ。


そもそも、私はリハイトがあの場に来てくれた事すら知らず、その事実に彼自身驚きもしていたが……

なぜだか、すんなり納得もしていた。


「はーい…なんかごめんね、リハイト。

私、本当に…あの後の記憶無いんだよね」


「いや、気にするな。それに……

こうなる予想はしていたからな」


……予想?まあ、私はあの後、気絶していたらしいし。

魔力切れで、意識がぶっ飛んでいたのかもしれない…。


そんなことを考えていると、ある可能性が浮かんだ。

──もしかして“あの夢”が関係しているのでは? と。


「あ…でもねリハイト、

私、思い当たる節があるんだ」


「ふむ……言ってみろ」


「……実はね――」


私は、これまで体験してきた不思議な出来事や夢の中の事をゆっくり説明した。

リハイトは目を丸くして驚いたが、そのあとは少し迷いながら“昨日の私の様子”を教えてくれた。


なんでも昨日の私は、まるで別人格が芽生えたような

口ぶりで、あの異物を一人で追い払ったという。


……おいおい、私強すぎか?……ってそんなわけない!

絶対 “あの人” だよね?夢の中の人だよね??

発言の一つ一つが妙に偉そうだし。多分あの人、めちゃ強い!


リハイトから聞くと、あの人は自分を“監視役”と名乗ったらしい。

……いや、何のだよ。


「…まさか……いや、それは無いか……」


「……ん?」


彼は何かを呟いたが、何が“無い”なのか教えてくれないまま、首を横に振った。


「いや何でも。それより……

今日見た夢はいつものとは違ったんだろ?

具体的にどう違ったんだ?」


「んー……なんていうか……いつもは変なモヤ……

リハイトの言う“監視役”と話すだけなんだけど、

今回のはまるで……“誰かの記憶を覗いてる”みたいな?感覚だったんだよね」


「誰かの?……それは、お前が無くした記憶ではないのか?」


「いやだって、私あんなに大人じゃないし……ブツブツ……」


夢に出てきた二人の容姿を話すと、リハイトは再び首を傾げる。

夢の親子は柔らかな茶髪だったし、年齢もまるで違う。

私はストロベリーブロンド寄りの金髪で、種族も魔族じゃない。


どこを比べても一致しない。

さっき鏡で自分をじっくり見たばかりだから確かだ。


「それにしても昨日の異物……。

内戦どころか、ヘブンキャスタを狙うなんて……

一体何考えてたんだろう?」


夢の話はひとまず置いて、

私は異物や内戦について呟いた。

するとリハイトは淡々と、とんでもないことを言った。


「おそらく……帝国への侵略が目的だったんだろうな」


「し、侵略?!それってつまり?!」


私は思わず椅子から跳ね上がった。

するとリハイトは真剣な表情で続ける。


「魔族が内戦に関わっている時点で、間違いなく魔界モルダーシアは今回の騒動を黙認していたんだろ。

わざと内戦を大規模化し、英雄を全員そこに集め……

手薄になった王都に侵入する。

王都はエデンカルの司令塔。

そこを破壊すれば、帝国全土の防衛が落ちる。

その隙に、攻め入るつもりだったんだ。一気にな」


「それって……本格的な戦争じゃん……

まさか今回の騒動は、宣戦布告……?」


「いや、テロ行為だろうな。

成功すれば侵略、失敗すれば切り捨てる――それだけだ」


「め、迷惑な話だなぁ……」


魔族が帝国を治めたら、絶対この国、崩壊する。

こんな帝国でも一応は成り立ってるのに。


リハイトはさらに続ける。


「だが、これでモルダーシアに反撃する理由は得た。

正式な皇帝が不在で強く出られなかったが、

奴らが先に手を出した以上、手加減は不要だ。

正当防衛として動ける。

それに……今回の事で上層部も動き始めている。

……今後また攻めてくるようなら、奴らにも死人は出るだろう」


死人……まあ、戦争が起きる以上は仕方ない。

でも、大量殺戮なんて嫌だ。

もうちょっかい掛けてこないでほしい。切実に。


それはそうと、私の中に一つの懸念があった。


「……でも本当に帝国への侵略“だけ”が目的だったのかな?」


ぽつりと呟くと、リハイトが肩をぴく、と動かした。


「……と言うと?」


「え?えっと、なんか……他にも別の目的がある気がして。

そうだな…例えば……」


「……この星の破壊、か?」


「?!…ま、まあ、簡単に言えば……」


ずっと考えていたことを言い当てられ、

私は目を丸くした。


リハイトも同じ事、考えてたんだ。


「王都の大図書館には、英雄や加護神、

さらには創造神の神話や……

邪神への対抗手段が記された資料がある。

量は少ないが、失われれば困る。

もしそれが目的なら、奴らは“破壊者”だろうな」


「…破壊者……?」


初めて聞くはずなのに、不思議と聞き覚えがある。

……どうして? どこで?


「邪神を支え、星の滅亡を望む者。

この星の“反逆者”だ。

ここ最近の事件も、破壊者の仕業だろう」


「でも……今年に入るまで十年間、

そんな動き無かったんだよね?

どうして急に……?」


私の疑問に、リハイトは誰もいない室内で

小さな声のまま答えた。


「……邪神の復活が近いのかもしれない」


「そんな?!

だってアロマルム様はまだ時間があるって……!」


「確かに二十年以上の猶予があるはずだった。

……だが、破壊者が急に活発化している以上、

何かあると見るべきだ。

邪神はこの星を襲った際、他の星にも破壊の力を使い、弱って“一時的に退いた”だけだ。

復活すれば必ず戻ってくる。

……もし、復活を早める方法があるなら、

予定より早くてもおかしくはない」


「だから今、警戒するべき……か」


「そうだ。

俺達はまだ誰一人として英雄力を覚醒させていない。

対抗手段が無い以上、疑いすぎるくらいがちょうどいい」


「……破壊者はどうしてそんな……

邪神に協力するなんて……」


「邪神に協力して何の得があるのか……

それは分からん。だが確かに“この星への不満”はある。星を破壊したくなるほどの、不満がな」


「不満……そんなもの、誰にでもあるのに。」


なんでもかんでも思い通りになる都合のいい世界なんて、この星以外にもきっと無いだろう。

完璧で、誰もが満たされる世界などあってはいけないのだ。

己の欲に溺れるがままなんて、みっともない…絶対御免だね!

私は破壊者に対して否定的な感情をつよーく心に宿した。


「分かり合える自信……ないや」



✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿



余談ではあるのだが──。



私とリハイトが会話を終えた頃、

私をこの部屋に呼んだ張本人であるレインが、

ウォーカー君を連れて戻ってきた。

両手いっぱいにお茶とお菓子を抱えて。


「探偵、お疲れ様。

これ、ウォーカーからの差し入れよ」


「わぁ!ウォーカー君の紅茶だ!」


「お疲れ様、探偵さん!」


「ウォーカー君ありがとう!

レインも、お菓子ありがとう!」


私は二人に感謝しつつ、出されたものへ遠慮なく手を伸ばし、口いっぱいに詰め込んだ。

紅茶の香り、焼き菓子の甘みにほっぺたが落ちる。

……ムフー!!美味しすぎるーっ!!


そうしてリスのように頬っぺを満パンにしていると……。


「……。」


そんな私を、

レインはじとーっと呆れ顔で見つめていた。


「ん?どうしたのレイン?」


「……やっぱり、一応アンタに礼儀作法、

叩き込んでおこうかしら」


「へ? 今から!?」

ちょっといきなり過ぎやしませんか、レインさん。


せめて……

このお茶とお菓子だけは、口に含み……と、食い意地を張って、私がさらに詰め込もうとした瞬間…


「探偵?」

流石に止められた。


…顔の上半分に影を落としたレインに。


「英雄やウォーカー、キーマなんかは気にしないけど──王族や貴族は違うのよ。

アンタ、これからも私達に付き合う以上、"もしもの時の為"にも礼儀作法くらい備えておきなさい」


「うぅ……わかった……。

身につけておいて損は無いもんね。よ、ろしく……よろしくお願いし……します?レイン…様?」


観念して口の中をからにした私は、そう言って姿勢を正した。

思えば、私が敬語を使った機会、数える程しか無かった気がする。

これは……猛勉強しなければ。



「惜しいわね。“よろしくお願い致します”よ」


「よ、よろしくお願い致しますッ!」


直された通りの言葉を繰り返すと、

レインが満足げに頷いた。


「よく出来ました。さ、その調子で行くわよ探偵!」


「う、うん……じゃなくて、は、はい!」


こうして私の為の、レインによる礼儀作法レッスンが幕を開けた。



✿ ✿ ✿ ✿



───数時間後。


「はい探偵。 'ありがとう' は?」


「心より…感謝申し上げます」


嘘みたいだが、私は別人かと思うほど丁寧に話せるようになっていた。


「すごいよ探偵さん!とっても優雅になったよ!

今すぐ社交界に出ても上品で素敵なレディーだよ!」


ウォーカー君がぱちぱちと手を叩いて褒めてくれる。

……ウォーカー君、本当に天使か?

今日の白い衣装も相まって、光が差して見えるぞ。


「コイツが“レディー”って……ふはっ。

キャラ崩壊もいいところだな。愉快」


…それに比べて、何なんだリハイトはさっきから!

彼は私の成長を褒めるどころか、似合わないと煽り倒してくる。

…だが、こんな挑発に負けてたまるものか!

と思い、私は小さく咳払いをして、

なるべく丁寧な言葉使いで答えてやった。


「失礼を承知の上で申し上げますが、

その評価は承服いたしかねます」


「ぷっ……元を知ってると

猫かぶってるようにしか見えねぇ……」

…厶ッカあ"ぁ"ツヴぅクぅヴ!


…と、落ち着け私!丁寧で優雅に!冷静にぃ……!!

私は心の中で自分にそう言い聞かせる。


…そういえば、今日のリハイトはいつもの三割…

いや、五割増しぐらい煽ってくる…何かあったのか?


「……ふっ…ふはッ」


ちょっと心配になって見たら、また吹き出された。

えぇい!そんなにお淑やかな私が面白いのかコノヤロウ!!



「ムカッ…う"ヴン"!ところでレイン様。

わ、私の言葉遣い……いかがでしょうか?」


この調子でリハイトに付き合っていたら、せっかく被った猫さんがすぐに吹っ飛んで行ってしまいそうだったので、私は咄嗟にレインに話しかけた。


「よく頑張ったわ!

貴女、なかなか飲み込みが早いわね!

──さて、それじゃ今日はここまででいいわ。

言葉遣い、元に戻していいわよ」


「よっっっしゃぁ!リハイト!

さっきのムカついたから、一発殴らせろ下さいませ!!」


許可が降りた瞬間、私は売られた喧嘩を買いに行ったが……思ったより丁寧な言葉遣いが抜けず、変な言い回しになってしまった。


礼儀正しい言葉使いを叩き込まれた後すぐ元に戻すのも中々難しい…。

一方で、私の発言を聞いたリハイトはすぐさま拳に魔力を溜めて返答してきた。


「あ"?英雄に向かって喧嘩仕掛けるとは

中々いい度胸してんな、やんのか?」


「ごめん遊ばせ」

……怖すぎて秒で謝った。


勝てない喧嘩は買うもんじゃあない。


「ねぇ……なんか色々混ざってるわよ探偵」


レインは呆れつつも、どこか楽しそうに言った。

礼儀作法の道は険しいが、

先生がレインならなんとかなるだろう。


よーし!魔法も礼儀作法も、全力で頑張るぞー!

……私はリハイトから逃げつつ、拳を上げてやる気だけは示した。


──ところで誰か助けて。


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