表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生彩放つ無神世界  作者: 美緑
〜第六章〜血潮化生の影渡り
53/89

英雄室への呼び出し

長く、光を含んだような茶色い髪の女性のもとへ、

小さな影がぱたぱたと駆けてくる。


角を生やした子どもだ。

髪色は母親と同じ茶色だが、まだ幼いせいか、

淡くやわらかな色合いをしている。


子どもは女性の足元にたどり着くと、

息を弾ませながら何かを差し出した。


「ねぇねぇ、ママ!見てみてぇ〜!」


「ん?なになに〜?……わぁ!すごいね!

 もしかして、それ、自分で作ったの?」


その声音からして、女性は間違いなく母親だ。

差し出された小さな物を覗き込むと、

ぱん、と手を叩いて子どもを称える。


「うん!そぉだよ〜!」


子どもは誇らしげに胸を張り、得意満面で言った。


「あのね、ここに僕の力を組み込んでぇ、

 ()()()()()()()()()()にしたんだぁ!」


「すごいじゃん!

 さっすが私の子!天才だ!」


母の言葉は惜しみなく明るい。


子どもが握っているのは、掌に収まる小さな時計だった。

母親は再び賞賛を送り、今度は思い切りその小さな体を抱きしめる。



しばらく、微笑ましい親子の笑い声が続いた。

だが、ふと母親が何かを思いついたように目を見開く。


「そうだ! それに、私の力も組み込めないかな?」


「ママの力を……?」


子どもは首をこてりと傾げる。


「うん!

 親子の力を合わせて、めちゃくちゃすっごい時計、

 作っちゃおうよ!」


「えぇ?!す、すっごいやつぅ?!

 ……うん!作りたい!」


小さな体が弾むように跳ねた。

その無邪気さが、母の顔をさらに緩ませる。


「へへっ。じゃあ、手伝ってくれるかな?」


「うん!いいよぉ!」

「いい子!ありがとう!」


母親は嬉しさを隠しもせず、

子どもの頭をこれでもかというほど撫でまわす。

子どもはくすぐったそうに笑いながらしがみついた。


そして二人は──

まだ未完成の、小さな時計を

まるで宝物のように両手で包み込んだ。




✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿



「むにゃ……、その時計は……、猫……」


「……何言ってんの、探偵」

「ふげッ?!」


寝ぼけた意識に声が飛び込んできた瞬間、私は弾かれたように起き上がった。

此処は誰で私は何処…じゃなくて!


「ハッ…レイン?!う、腕は?!」


視界にレインを認識した瞬間、私は焦りながら彼女の腕を掴んだ。

……くっついてる。というか、完全に治ってる。

昨日、確かに切断されたはずの腕が、きれいに元の姿を取り戻していた。


「見ての通りよ。ソフィアのおかげで……

ほら、すっかり元通り。完治したわ。

あー……それより、昨日はごめんなさい」


レインは自分の腕を示しながら、深々と頭をさげた。


「え?! いや、そんな! 謝らなくていいよ……!

確かに焦ったし心臓止まるかと思ったけど……

理由があったんでしょ?

自分の身より優先して、あいつを倒したかった理由が……。

逆に……事情も知らないのに止めて邪魔して、ごめん……」


私がそう言うと、レインは伏せたままの視線で口を開く。


「ええ。……理性が飛ぶぐらい、私はアイツを憎んでる。

正直、この世に存在してはいけないって本気で思ってる。

……消してやりたいのよ。世界から」


「……そう、なんだ……」


私は胸の奥がきゅっと掴まれるような感覚を覚えた。


「私さ……まだ全然、みんなのこと知らないんだよね。

過去とか、仇とか……。

知らないから、どうすればいいか分からなくて……。

昨日も……動けなかった。ごめん……」


暗い声を漏らす私を見て、レインがふっと笑う。


「さっきから何で探偵が謝るのよ。……ほら、顔上げて。

昨日のアンタの行動は、正しかったわ。

実際あのあとリハイトと、珍しくソフィアにも怒鳴られたしね。

……止めてくれてありがとう。

この命が自分だけのものじゃないって、忘れてたわ」


「……うん」


でも、私は顔を上げられなかった。

レイン個人の願いは……守れなかったかもしれないから。

するとレインが――

ガシッ!

「ぐわッ?!」


私の頭を掴み、強制的に顔を上げさせた。


かなり勢いがあったので、

お互いの顔が急に接近して視界が定まらない。

…うぉ、だいぶ近いな。


「探偵……。相手の事情を知らないなら、相手の為にどう動けばいいか……なんて、わかる筈ないじゃない。 逆に、伝えても無いのに自分の事 、完璧に理解されてた方がおかしいでしょ?」


レインはそう言いながら私の目を覗きに込んで来る。

わぁ、美形……っじゃなくて!


「た、確かに。……じゃあさ。

少しでいいから、レインのこと教えてよ。

私、もっと皆の事知らないといけない。

知りたいの、ちゃんと…。ダメかな?」


私はようやく混沌とした思考の渦から出て、彼女に向き合った。

…色々悩むのは、皆の事知った後じゃないと、出る解決策も出ないよね。

今は何も知らないから、 聞くしかないんだ。


「勿論…いいわよ、話すわ。

なんならもうこの際色々語ってやるわよ。

沢山迷惑かけたしね。

…それに…アンタになら、話していいと思ったから」


レインはそう言うと、私の顔から離れて行く。

これで普通の距離に戻った。


「……で、何から聞きたいの?」


「じゃあまず、昨日のアイツとの……関係とか?」


私が一番聞きたかった事を単刀直入に聞くと、

彼女は表情は変えず、淡々と答えた。


「……私ね。

 アイツに殺されたのよ。自分の家族を」

「え……」


「十年前…。

きっと皆そこで、人生の歯車が大きく狂ってしまったのよ。…私もそうだった」


レインの声色は淡々としているのに、その奥は酷く冷えていた。


「十年前の大戦争が起きたあの日…。

戦いが終わって屋敷に戻ったら……そこは死体の山だった。

この事件を話している時点でお察ししてくれていそうだけれど、

この事件の犯人は昨日のアイツよ…。

……あの異物はね、殺した相手の容姿や能力を、まるまる奪う力を持っていたの。

…私の家族を殺した理由は、"加護の宝珠"を奪う為だった」


彼女はそこまで話すと憎らしげに溜息を吐き、 自分の額を抑えた。

髪の隙間から覗いた彼女の額には、ソフィアと同じように英雄の紋章が濃く刻まれている。


レインの宝珠が異物に奪われたとなると……

レインの加護の宝珠も探す…いや、奪い返す必要があるのか。

…と、私がついつい宝珠に思考を引っ張られていると、


「と、言っても…ね?」


レインは自分の話に集中するよう促しながら

またも私の頬に手を当てた。


「悪用する為でもなんでもなくて… ただ綺麗で欲しくなったから奪いに来たのよ。 どうやら異物は、カラスみたいに綺麗な物が大好きらしくて…。

宝珠は、私の屋敷で管理されていたから…  宝珠を守ろうとした私の家族は、皆…  殺されてしまった。」


言葉が重く降り積もる。


「幼い頃から英雄業を担っていた私にとって、

家族達の存在がどれ程支えになっていたか……なんて、

アイツには永遠に理解出来ないだろうけど…」


「……酷い」

…それしか言えない。


『普通の言葉では英雄達の心は救えない』

あの人の言い分は間違っていなかったのだと、改めて痛感する。

いや……というより、残念ながら大正解だと思う。



「……以上よ。

とてもじゃないけど、あのふざけた態度、我慢ならない。

もう自分自身でこの醜い復讐心が、制御しきれないの…

私は本気で、アイツを憎んでる」


私は何も言えなくて、黙り込んだ。


「探偵……?」


「あ、いや…そんな事されたら、私でも赦せないと思って……色々考えちゃった」


黙り込んでしまった理由を話すと、レインは心底意外そうな表情をする。


「……あら意外。

てっきり止めると思ってたわ。私の復讐心」


……?

なんでレインの気持ちを止める必要があるんだろう?

……家族殺しを憎いと思うのは普通では?


「え?止めないよ?

悪い奴は、ちゃんと罰を受けるべきだよ。

レインが望んで選んだなら、私は協力したい」


両拳を交互に突き出しながら私がそう言うと、

レインは更に不思議そうな表情をして――


「ふ……あはは!」


思いっきり笑いだした。


「そうよね。罰は受けさせるべきよね。

……ありがとう、探偵」


……?

なにか面白い事があったのだろうか?

今度は私が不思議そうな顔になってしまう。


「? 私、なんか言った?」


「えぇ……、止めないでくれてありがとう。おかげで迷いが一つ消えたの。

ほんと…探偵はいつも、そこら辺に転がってる偽善者達と違って、相手と同じ目線で物事を考えて……その上で自分の正義感を正しく、真っ直ぐぶつけてくれる。

そういうところに……惹かれるのよね、私達は」


「んん?善とか偽善とかは、よくわかんない……けど私、悪い奴は容赦なくぶん殴るよ?」


心做しか、レインの雰囲気が更に柔らかくなった気がするのは、気のせいだろうか……?

……まぁ変わったとしたら、 私の異能力の影響だと思う。

最近は自分の異能力がどんな時に発動されているのか、何となく分かるようになってきた。


――分かったところで、特にメリットもないのだが。


そうやって私が、自分の異能力について

また考えの海へ潜ろうとした――まさにその瞬間。


───バンッ!

勢いよく、部屋の扉が開かれた。


「お、よかった!起きてたか、探偵!」

「みーんな心配してたんだよ?

アンタ、ちっとも起きないからさ〜」


「キーマ!アリア!」


扉を開き入ってきたのはキーマとアリア。

二人とも軍服姿で、怪我一つない。

その様子を見て、心の底からホッとした。


無事で何よりだ…本当に。


「……。」

私はそこで、またも……亡くなってしまった先輩達の事を考えてしまう。…居た堪れないんだよなぁ。



「おや、思ってたよりずっと元気だねぇ!

その様子なら、夕飯は食べられそうじゃないか」


「え……夕飯?」


アリアの声で我に返った私は、"夕飯"というワードに目を丸くした。

まさか…私……。


「えぇ、アンタ。今日まる一日寝過ごしたのよ」


淡々と言い放つレイン。


「え……えぇっ?!」


やっぱりか?!何という事だ!

大した怪我の一つもしていないくせして、呑気に丸っまる一日を寝過ごすなんて!

あまりにも……だらしが無さすぎる!

体力が無いのか…ガッツが足りないのか…。

私は、己の不甲斐なさに目を回しながら口を開く。


「そういえば……

なんか、お腹空いてる……かも……」


さっきまで自覚すらなかったのに、

丸一日何も口にしていないという事実を知った途端…

なんだか急にお腹が空き始めた。


試しに自分のお腹を摩ってみると、

キュルゥ……キュル…。と弱々しい音が鳴った。

「……!」

な、なんてひ弱な音なんだ!

早くなにか食べないと……お腹の虫さんが今にも餓死してしまいそうだ。


「ハハッ、なら良かった。

さ、一緒に行こうぜ探偵!早く行かねぇと冷めるからな!」


キーマが手を差し出してくれたので、

私はありがたくその手を握って立ち上がる。

そのままアリアとキーマと一緒に部屋を出る為、

歩を進めると───


「……ねぇ、探偵」

不意にレインが声を掛けてきた。


「食事の後、英雄室に来てくれるかしら?」


「え……英雄室?!?」


なんてこったい。

…と、とんでもない所に呼び出されてしまった…。


"英雄室"とは、文字通り英雄の為に用意された

……超!ベリベリ豪華で特別な部屋の事だ。


一般市民や帝国軍の隊員は勿論、そこそこ位の高い貴族でさえ入るのが難しい部屋……。

私は今そこに招待されてしまったのだ。

しかも、単体で……。


「……う、う、うん!わかった。

お料理掻き込んで、すぐに行くね!!」


「いや、食事はゆっくり食べて来なさいな」


私が動揺しながらそう返事を返すと、

彼女は少し呆れた様子でツッコミをいれてきた…けれど、最後には手をひらひらと振って送り出してくれた。



✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿



「えぇ?!ソフィアの従姉妹ー?!」


帝国軍本部の大食堂…

沢山の料理に囲まれながら

私は驚いて、大きな声を上げていた。


一体何をそんなに驚いたのか…と言うと、

なんとアリアがソフィアの従姉妹…

つまり血縁者にあたるという衝撃の事実を知ったからだった。

私は頭の中の情報を整理しながらアリアに問いかける。


「アリアはルネッタさんの妹で王族……という事は!

ソフィアはただの巫女さんじゃなくて、

海底王国のお姫様でもあるの?」


「まぁ王家の血は混じってるだろうし、

肩書き上はそういう事になるね」


アリアは私の問に頷いてから、器用にナイフとフォークを使い、用意された料理を口に運んでいる。

うーん…流石王族……仕草が綺麗。


「コンドといいリハイトといい、アルテといい…

皆血縁関係が複雑だなぁ……」


私は英雄達の血縁関係を知って目を回しそうになったが……一応今は食事中なので、美味しそうな料理をお皿に盛りつけた。

…ダメだぁ。お腹がすいてて余計に頭がこんがらがってるや…。ちゃんとご飯食べないと!

そう考えて、

草食動物並に口いっぱいの野菜を詰め込んだ。


「おや、そんな事言ったらキーマさんだって

リハイトの従兄弟だよ?」


「あ、それは前に聞いた!」


世界は狭いなぁ…なんて思ったけど、

改めて考えたら今国二つしかないし…物理的にも狭いか。


「おう!リックは俺の従兄弟だぜ!

俺達結構似てるだろ?」


「だから似てないって」


「えぇ?!」


得意げにリハイトとの血縁関係を認め、

あの日と同じ問いを投げてきたキーマに、私はジト目を向けながら否定の言葉を返す。


「納得いかねぇ……」


するとキーマは、お皿に盛ろうとしていたであろう料理を落としかけていた。


「ソフィアはお姫様でも違和感ないけど、

リハイトは違和感しかないや!」


料理を頬張りながらソフィアのお姫様姿やリハイトの王子様姿を想像して、失礼極まりない事を言う私。

すると、アリアが呆れた様子で苦笑いをした。


「アンタ結構失礼だね…」

「あぁ、相変わらず大したもんだぜ」

「えへへ」


また従兄弟(リハイト)が不名誉な事言われてるのに……

何故かキーマはやっぱり褒めてくれる。

それでいいのか従兄(おにい)さん。


そういえばあの日もそうだったけど、

此処は帝国軍区画……。

本人がどこから出てきてもおかしくない場所だ。

…うーん……あとが怖いから発言には気をつけないと。


「まぁ確かに、アンタのそのバカみたいに

真っ直ぐな性格にはかなり好感が持てるけどさ?

アンタはいい子だし、

早くアタシの弟…リアムに合わせてやりたいよ」


自分の発言を少し反省していると、アリアがそう言った。

私は、まだ見ぬルイターナー家の"リアム"に

興味が湧き上がり、透かさず質問する。


「弟さん何歳ぐらいなの?私と同じぐらい?」


「いいや、リアムとアタシは双子なんだ。

だからアンタより歳上さ」


「そっか、でも会えるの楽しみにしてる!」


「そりゃ嬉しいね!

帰ったら早速アンタの事、弟に教えてやらないと」


私が笑うと、アリアも嬉しそうに笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ