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生彩放つ無神世界  作者: 美緑
〜第六章〜血潮化生の影渡り
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破壊者を滅する光

❅*┈✼••┈┈┈┈••⋆͛ ✼ ⋆͛••┈┈┈┈••✼┈*❅


二人を追っていた俺の耳に、甲高い……聞いたこともない探偵の悲鳴が飛び込んできた。


呑気で阿呆な、あの探偵が……泣き叫ぶ?


「……ありえない」


嫌な予感が、背中を氷みたいに撫でていく。

俺は反射的に神足を発動し、

声のした方向へ、地を裂く勢いで走り出した。


…余計な思考を巡らせているせいか、

神足のスピードが落ちている気がするが…仕方ない。 心配なものは心配なのだから。



“まだ化け物が残っていたのか?”

そんな想像は、本来なら鼻で笑える程度の小事だ。

探偵と一緒にいるのは、英雄レイン。

彼女が本気で動けば、あんな怪物なんざ問題にもならない。

――よほどのことがない限り。

その「よほど」を、俺は考えたくなかった。

だが、脳裏に勝手に浮かんでしまう。


まさか……あいつの前に――

胸の奥が、ずしんと沈む。

吐き気にも似た焦りが喉を締めつける。


「クッソ……!無事でいろよ……!」


“もしも”が膨らむ前に、

俺は手に握っていた通信機を苛立ちのまま投げ捨てた。


どうせ繋がらない。

こんな時に限って、役に立たない。

走る理由なんてもう一つしかなかった。



レインが――

唯一、冷静に対処できない“存在”が現れたのだとしたら……。


「……ッ」

そんな最悪の仮定を振り払うように、

俺は更に地面を蹴り込んだ。


「頼む……間に合え……!」


風を裂きながら、俺はただ前だけを見て走った。




❅*┈✼••┈┈┈┈••⋆͛ ✼ ⋆͛••┈┈┈┈••✼┈*❅




「はぁ…はぁ…なんで…なんで、効かないのよ!」

「ッ?!何やってんだ、レイン!」


探偵の叫び声、そして入り乱れる魔力の残滓。


それらを追いながら、俺はほとんど反射で駆け抜け、ようやく二人の元へ辿り着いた。



そこで目にしたのは――


地面を深々とえぐるほどの魔力痕と、

周囲の建物を容赦なく巻き込んで、

制限なしの古代魔法を連発しているレインの姿……。


いつもなら、魔力の消費だの、戦況だの、

周囲への被害だの――

本人なりに色々考えながら、冷静に動く彼女。


それが今では、ただ“何かを壊すためだけ”に

魔法を放っているようにしか見えなかった。


「……」

俺は足を止めた。

そして悟った。


最悪の事態――

ついさっき頭をよぎった、あの悪い予感が、見事に的中してしまったのだと。


レインは片腕を失ったまま戦っていた。

治癒魔法で応急処置をした痕跡はある。

だが出血は尋常ではなく、本来なら魔力を削る余裕もない状態だ。


…何考えてんだ、マジで……。

とはいえ処置そのものは完璧で、致命傷ではない。

さすがはレインだ。

そこは安心できる。

だが――同時にわかった。


今のレインは“言葉”じゃ止まらない。

彼女が相対している“ヤツ”は、纏う魔力の質からして普通じゃない。


見ただけで脳が拒否するような、あの圧…。


彼女の宿敵――と呼んで差し支えないだろう。


ヤツがここにいるということは、今回の内戦……

その中心にいるのはまず間違いなくコイツだ。

はぁ……また面倒事が増えやがったな…。

と、大きくため息を吐いたその時。


……?

探偵の姿が、どこにもないことに気づいた。



彼女はレインと一緒にいたはずだ。

なら傍にいるはず――

「……。」

焦りが喉を焼くように広がった。


ひとまずレインに一通り補助魔法を掛け、

戦いを任せる決断をしてから、俺は探偵を探した。


「?! ……探偵?おいッ!探偵!」

そしてすぐに見つけた。


レインから少し離れた瓦礫の影……。

彼女は地面に倒れ、意識がない状態だった。


「……。」

胸が一気に冷える。


俺は駆け寄り、探偵の肩を抱き起こして揺さぶった。

まずい…反応がない。

表情の変化もない。

まさか……死――


しかし、


その最悪の想像が脳内で言葉になる前に――

俺の耳に、規則正しい音が届いた。


「ンッスウウゥ……」

「……は? コ、コイツ…」


……寝てるのか?


膝から崩れ落ちそうになった。

本気で手遅れだと思って焦った俺を殴りたい。

……ついでに、この絶望的に呑気な寝顔も殴りたい。


前髪を避けた先には、戦場とは思えねぇほど平和な顔で眠る探偵。

怒りと安堵と呆れと、名前をつけられない感情が全部混ざったものが胸の中で膨張した。


「探偵……お前……戦闘中に居眠りするとは……

随分と……命の扱いが粗末なものだな!」


俺は怒りの行き場を探すように声を荒げた。

普通、眠らないだろ。死にたいのかコイツは。


───その時。


「うわッ?!」


飛んできた流れ弾に気づくのが……一瞬遅れた。


足をかすめ、焼けるような激痛が走る。

だがそんなこと気にしてられない。


こいつが生きてるなら、まず叩き起こす方が先だ。


俺は再び探偵の体を揺さぶった。

ッ死にたくなければ、今すぐ起きろ……!

そうやって揺すりながら、ふと気づく。


……さっきまで爆発しそうだった怒りが、

いつの間にか“心配”に変わっている事に。



探偵は別に、古くからの仲間じゃない。

家族でも兄弟でもない。

他よりだいぶマシな――

いや、かなり良い性格した“知人”だ。

…ただそれだけだ。

それだけ……ではあるが…。


「……例え俺にとってお前が他人だとしても、

俺達に“情”を向けてくる奴の生死を

どうでもいいなんて、思えねぇんだよ……!」


叫ぶ自分がみっとないと思いつつも、止められなかった。


俺は知っている。

英雄達が前に進めるようになったのは探偵の力だ。


コンドの自信の源になり、

アルテの弱音を引き出せる唯一の存在で……。

…カッドレグルントの件だけじゃなく、レインやソフィアと協力して芸術心祭の為に神具の見張り番をしていた事も知ってるし……感謝してる。


お前がいなければ、すべて今と違っていた。


……まだお前にしかできない事が、この帝国には残ってる筈だ。お前はそれでも…こんな所で終わっていいのか?

帝国軍に入った時、英雄の力になる為に軍に入りたいんだって、お前が……自分で言ってたんだぞ。

理由は…この際、どうだっていい。

どんな理由であろうと、お前は悪意なんてもの持ち合わせていないだろうから。

なんにせよ……途中で退場なんて、一番ダサいんだぞ。


「確かに……俺はまだ、お前を信頼しきれてねぇ。

だけど、お前の意思を否定する気は毛頭ない。

…本当に最後まで来たいなら……

まずは……自分を守れよ」


そのまま、何度も何度も揺さぶった。

自分でも理由がわからないほど必死に。


「少しは……期待してんだよ……

お前の決意が……言葉だけじゃないって……!」


囁くような声で呟いた瞬間――


「……。」

探偵の瞼が、ゆっくりと上がった。



「ッ! ……探偵!」

胸に積もっていた重さが一気に抜け落ちる。


だが、それを悟られたくない俺は、

わざと溜息混じりに言った。


「……はぁ。

お前もレインも……ついでにアルテも……

後でまとめて説教な」


探偵の肩から手を離し、距離を取る。

アルテのしょげた顔が頭をよぎったが……関係ない。

未遂とはいえ彼女も無茶をしたのは事実だし、説教は当然。


俺は探偵を引きずるようにして安全圏まで運び、

その場に座らせた。

珍しく……彼女は反抗もせず黙って従う。

あまりにも素直すぎて逆に不安になるが、

今は目覚めただけで充分だ。

俺自身も、緊張の糸が切れたせいか

思わずその場にへたり込む。


ほんと……なんで俺の周りには、

自分の命を軽く扱う奴らばかり集まるんだ。


「……。」


……いや、違うか。

英雄や軍人なんて、結局“そういう奴ら”だ。

他人を優先して、自分を後回しにする。

だからこそ、

俺が許せるのは少ない数だけなんだろう。

そう思ったら、余計……胸の奥が妙に痛んだ。




俺は英雄になった後──

ある出来事をきっかけに、身内以外へ情を向けないよう、自分を固く取り繕ってきた。

それは幼かった俺が、

自分の心を守るために必死で編み出した防御策だ。


今でもその性質は変わらない。

だからこそ、

探偵という存在は俺にとって規格外だった。


記憶喪失。瘴廃国から来た異国民。

本来なら守られていればいい立場のはずなのに、

探偵は自ら戦う力を求めて努力し、

敢えて、俺たちと肩を並べて戦う茨の道を選んだ。


……それだけじゃない。


人々が絶望して目を背けた神話や星の現状に向き合い続け、改善策を探し、希望を決して手放さなかった。


仲間でもなんでもない頃から、彼女は変わらず俺達を“英雄”ではなく、ごく普通の“人”として扱う。接する。


見返りを求めず向けられる、民からの情──

それは、俺達が長い間忘れていた種類の温かさだった。


……だからこそ、いつの間にか俺は、

閉じた心を開きかけていたのかもしれない。

……俺達を、ただの人として気にかけてくれる奴は少ない。

それがどれほど居心地がいいか、分かってしまったから……

期待、してしまったんだ。


身分にも役目にも左右されない、

利害関係でもない、ただの──

"普通の友人"になれるんじゃないか、と。


失えば苦しむことも、また置いていかれることも、

俺が一番よく知っているのに。

それでも、俺は余計な情も希望も捨てきれずにいた。


先ほど心の中で叫んでしまった言葉を思い返し、

自分の甘さに顔が歪む。

……ハッ、ほんと笑えねぇ。


思考が脱線し続けるのを振り払い、

俺はレインへ視線を向ける。


彼女は相変わらず高度な魔法を惜しげもなく放っているが、あの膨大な魔力量は味方でも気が遠くなるほどだ。

本来なら、理性を失っているようなやつと共闘するなんて避けたいが、今回ばかりは相手が悪すぎる。


俺は素早くアルケミーを喚び、戦闘態勢へ入る。


そしてそのまま

レインの元へ戻ろうとした、その時──


「……ッ?」


探偵が突然……

俺の腕をガシッと掴んだ。


「……なんだ?

こんなところで寝てた言い訳なら後にしろ──」


『英雄の子らよ……落ち着け。大人しくしていろ』



「……は?」


訳のわからない言葉に、思考が止まる。


──誰だ、こいつ。


探偵……いや、

その“中身”から滲み出る違和感に全身がざわつく。


振り払おうとしたが、びくともしない。

そうだったこいつ怪力だった。

諦めて問いただそうと振り返った瞬間──

身体が、未知の力でぎちりと拘束された。


「ちょっと!なんなの?!離して!」


「な、なにするんだ探……いや、お前は誰だ?!」


どうやらレインも拘束されているらしい。

嫌な予感が背中を撫でる。

まさか、探偵……何かに取り憑かれているのか?


『余は、全てのは…。……いや、“監視役”だ。

身体の自由を奪った後で言うのも妙だが……

安心しろ。余は決して、お前たちの敵ではない』


「監視役……?

じゃあ、これは一体なんの──」


とても信用しきれないので問いただすと、

"監視役"は、俺の問いかけを無視し……

レインの宿敵である異質な存在を鋭く睨みつけた。


『ゼウス……随分と落ちぶれたものだ。

……最早お前は"生き物"ではなくなってしまった』


そう呟くと異質な敵に向けて、

監視役は見慣れない水晶を掲げる。

目を凝らすと、それは…

俺達の探している"加護の宝珠"によく似た球体だった。


『わァ!!キレイ!!君ノ星、すてキだネ!!』


それを見て異質な敵は何故か歓喜しながら跳ねる。

…なんかキモいなアイツ。

おそらく変態の類だろう。関わらないほうがいい。


『なんと……嘆かわしい』


監視役は球体を高く掲げる。

次の瞬間、異質な敵はそれめがけて狂ったように突進した。


『ほしいナ!ほしいナ!!ちょウだイ!!』


『そして──なんと、愚かな』


監視役が冷え切った声で呟いた瞬間、

球体から眩い光線が放たれた。


「……っ!!」


…俺はその光を見て、目を剥いた。

レインも同じ光を見て、固まっていた。


その光は、どこまでも明るく…

何よりも……この世の、どんなものよりも…

確かに、美しかったのだ。


『い"、いだイッ?!イタいネ?!なんデ?!』


光線に焼かれた異質な敵は、 悲痛の声を上げて藻がく…。


悲鳴。

焦げた臭い。

破裂するような音……。


光が消えると、異質な敵は焼けただれ、髪は焼失し、見るも無惨な姿に変わっていた。

それでも消滅しないあたり、正真正銘の化け物だ。



『ぅア…綺麗ナノ…もっト、集メ…ないト』


異質な敵は呻き声を上げながら、這いつくばって逃げて行く……。


俺達の拘束はいつの間にか解けていて、

レインはそれを逃すまい…と、追おうとしていたが……


「待ちなさッ……あ…」


酷使し過ぎた体が流石に限界を迎えたのだろう…。

貧血症状を起こし…そのままその場に倒れてしまった。

どう考えても無茶のし過ぎだ。

仕方がないとはいえ、今回は流石に危なかった。


「……。」


…あのレインが、あんなにも理性を捨ててしまう敵。

それが今後絡んでくるとしたら……厄介極まりない。


そんな事を考えながら監視役……

もとい探偵に目を向けると、

彼女も力を使い果たしたのか、レイン同様…

バタリと、地面に倒れていた。


ならば……と、

今ヤツを追えるのは俺しかいないと判断して、

足を踏み出そうとした俺も…


「──いッ…?!」

流れ弾に当たった足が使い物にならず、蹲った。


そうしている内に異質な敵は逃げて行く。




「あー…勘弁してくれ」


俺は事の面倒くささに本気で泣きたくなった。

ふざけるな。

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