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生彩放つ無神世界  作者: 美緑
〜第五章〜宝珠の行方
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前をスタスタ歩くコンドの背中に向かって

私は声をかける。


「ねぇ〜コンドの加護神様の神殿って、

どこにあるの?」


夕方の山道は静かで、

足音だけが規則正しく響いていた。


「えっと……アロマルム様の神殿は

カッドレグルントと翠山の間くらいだったから……

僕の加護神様の神殿は、ヘブンキャスタと

カテドールフェアリーの間だよ」


そう答える彼の手には、

さっきから大きな地図が握られている。

それは帝国全体を描いた広域地図で、

地形だけでなく、五つの点が青い線で繋がれ、

星の形を描いていた。


「ねぇ〜その地図のさ……星印ってなに?」


「ん? あぁこれ? 加護神の神殿がある場所だよ。

点で記してあるんだ。距離が均一でさ、

線で結んだら星の形になったんだ」


気になって尋ねると、

コンドが地図を広げて見せてくれる。


「偶然……にしては綺麗だよね」


五つの点は帝国を囲んでいて、

その配置はどう見ても「たまたま」なんかじゃなかった。


十年前の大戦前……いや、それよりもっと昔。

ソフィアが言ってた“祖先の英雄達”がいた頃には、

もう神殿はあったのかもしれない……。


なんて考えていたら、

ふと別の疑問が浮かんでくる。


「……というかさ、コンド。

今ヘブンキャスタって言った?」


「うん」


「もう夕方だよ?

飛んでも着く頃には夜になっちゃうよね?」


今日だけで――

朝から神殿 → 翠山で試練 → 移動の連続……。

やったことは二つなのに、

ほとんど移動で一日が終わってしまった。


しかもここ翠山は、

帝国でもヘブンキャスタから一番遠い地点。

空を飛んだって数時間はかかる。

うん、流石に広すぎるッ…!

エデンカル広すぎるって……!


私が改めて帝国の広さに目を回していると、

コンドがハッとした顔でこちらを向いた。


「! ……そうだね。明日にしようか」


「ん? なに……なに、なに?!

なんで笑ってるの?!?」


地図を便利魔法でしまいながら、

コンドがニコニコ……いや、ニマニマと笑っている。


今の会話に笑える要素なんて…

多分、一つもなかったはずなのに……。


「いや……ふふっ、いいこと思いついたんだ」


「えッ! いいこと?!なにそれー?!」


いつも以上に楽しそうな彼につられて、

私は条件反射みたいに興味を引かれてしまった。


「ねぇねぇお願い〜ぃ! 教えてよぉ!!」


……早く聞きたくてたまらなくて、

つい勢いで身を乗り出した、その瞬間───

コンドがサッ、と動き、


「───うやぃッ?!?」

私の世界が傾いた。


あっ、これ完全にバランス崩したやつだ!


「……ッ!」

やばいッ!!

地面がドンドン迫ってくる!

ぶつかるッ……!!

──と思った、その時。


「失礼、レディ」

「え…?」


地面へ激突するより早く、

気づけば私の身体は落下を阻止され、

しっかりとコンドの腕の中に収まっていた。


あぁ良かった……転ばなくて…。

コンドにお礼言わなきゃ。

私は安堵の溜め息を吐きながら、彼に声を掛けようと口を開くが───


「あ、ありが…」

「よいしょ」


安心したのもつかの間…

次の瞬間には私の身体がふわっと持ち上がった。


「……う、浮いてる?!」


いや待って、なんで今持ち上げた?

なんでこう、自然な動作みたいにサラッと……!


こ…これは支えてるんじゃない…!


この体制は所謂…"おんぶ"…と、いうやつだ!

子どもが大人によくせがむ、アレ。



「コ、コンドーーー?!?」


い、いとも容易く簡単に!?

あまりにも軽々と…

それも勢いよく持ち上げられたせいで、足が空を切る。


驚いてばたばた暴れる私をよそに、

コンドは無駄のない動きで腕羽を広げ、

そのまま空へ舞い上がる。


「しっかり掴まってて、探偵!

今から見せたいものがあるんだ!」


「ッッ掴まるから! 落とさないでぇー!!」





──────と、そんなこんなで…


最初は空中でキャーキャー叫んでいた私だが、

数分も経てば──


「うひゃ〜風気持ちぃ〜」


普通に楽しんでいた。


……我ながら、肝は据わっている。それもかなり。



でもまぁ…“コンドの背中なら落ちない”って、

なんかそう確信できたからかもしれない。


それに空中移動は初めてじゃないし…。

その……今回は急に飛んだから驚いただけなのだ。

うん、そうに違いない。

次からは絶対事前告知を求めよう。


私は心の中で変な決意を固めながら、

再び浮遊の散歩を楽しんだ。



✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿



「……コンド、これ……」

「うん」

「え、これ……?」

「うん」


私は、ぽかんと口を開けたまま立ち尽くしていた。


コンドに連れて来られたのはカッドレグルント――の、はずなんだけど。


今、目の前にある“これ”は、見覚えのない建物。

というか……初めて見る“家”。


戸惑う私に、

コンドはただニコニコと相槌を返すばかりだった。


「確か……見せたいモノ、って言ってたよね?」

「言ってたね」

「家……?」


そう、それは"私の家"だった。


小さくて可愛らしくて、

丁寧に造られているのが素人目にも分かる。


壁も屋根も新品の色で、

窓枠には細やかな装飾まで施されていて――

どう見ても“ちゃんとした家”だった。


……ちょっと待て。

コンド、さっき何て言ってたんだっけ?


私は状況が理解できず、

そこで改めて空中での会話を思い返す。


✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿



『"昨日の会議"で、君に住処……

家を用意するって話をしたよね?』


『あ〜!うん、言ってたね。楽しみにしてるよ!』


『それは良かった! 君の家が完成したから、

今からそこに行こうと思ってね』


『へ〜…ぇ?ん??……いま、今からッ?!』


『うん。どうせ身体を休めるなら、

自分の家の方がいいでしょ?』



…………。


………………。


……ッいやいやいやいや!


「……早すぎませんか?」


呆れというより、

本気で困惑しながら私は呟いた。


だって。

"昨日の昼"に話が決まって?

"今日"にはもう家が建ってるなんて――

あまりにも現実味がなさすぎる。


昨日は会議の後、コンドは皇帝候補の会合があって、その後もリハイトみたいに軍事資料を処理してたはず……。



つまり…?

私達がアロマルム様に会っていた、

あの短時間の間に家を建てたっていうことに……?


ま、魔法!? これも魔法の力なの!?


私が半ば現実逃避しながら家を見ていると、

コンドが口を開いた。


「そうかな……? "リハイト"の手にかかれば、

これぐらい朝飯前だと思うけど」


「え……リハイト?

依頼がいっぱいあるから忙しいって……」


依頼書を抱えて工房に戻っていった彼を思い出しながら、私は首を傾げる。


「うん。実はその中に、僕からの依頼――

この家の建設依頼もあったんだ!

一応、僕は皇族だからね。

リハイトがこの家の建設を優先してくれたんだよ」


な、なんだってーーーー!?


衝撃で頭が真っ白になる。

まさか二人が、私のために

ここまで迅速に動いてくれていたなんて……

想像すらしていなかった。


「今頃は、"全部"の依頼を終えているかもね。

彼、依頼者を待たせない質なんだ」


コンドは満足げに微笑みながら、家を眺める。


「え……すご…すごすぎる……」


私の胸には感謝や驚きやら、

いろんな感情が一気にあふれ、

言葉にならないまま家を見つめ続けるしかなかった。


するとそんな私を見て、

コンドが心配そうに尋ねてくる。


「探偵、もしかして……気に入らなかった?」

「いえ、十分です。ありがとう」


ようやく返した言葉は、

ちょっと声が震えてしまったけど……許してほしい。

「動揺するな」と言うには凄い事が起こり過ぎていた…。



✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿




「そういえば……ずっと考えてたんだけど。

コンドが皇帝になったら、英雄達の扱いを改善する法律とか……作れないの?」


素朴な疑問をそのまま投げかけると、

コンドは苦笑まじりに答えた。


「うーん……考えたことはあるけどね。

僕が皇帝になったとして……僕自身が英雄である限り、“自分達を優遇する法律”は極めて難しいと思うよ。だってほら……強い発言力を持つ皇族は他にもたくさんいるから」


「うっわ〜……難儀〜……」

「そうそう。面倒だよね」


私は思わず肩を落とす。

…でもまぁ確かに、そりゃそうか……。

そんな簡単に解決できるなら、コンドだって初めから迷わず皇帝を目指してただろうしね……。




「……じゃあ、そろそろ僕は帰ろうかな」

暫くすると、

コンドは少し笑ってから言った。


「探偵、もし何かあったら何時(いつ)でも、

僕かリハイトに言ってね。

これからは、"同じ町"で過ごしていくんだから」


「あ、うん! わかった。本当に……ありがとう!!」


そう言って別れたあと、

私は新しい家に足を踏み入れた。




あぁ!そうだ…!

ちゃんとリハイトにもお礼言わなきゃ。


その夜。

ふかふかのベッドに身体を沈めながら、

私は静かに目を閉じた。


胸の中はじんわり温かくて――

夢みたいな一日だった。



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