風光る巡り逢い⑵
私はアルテと暫く行動を共にすることになった。
彼女はこの国に詳しいらしく、道中色々な地名や歴史を教えてくれた。
この星は"コピルム"といい、芸術を愛する神々が創った世界だったらしい……。
その為、この世界に生きる生き物は、誰しもが自分に合った様々な"芸術"を大切にしているとか。
例えば……絵を描く事や、歌を歌う事…それから園芸、料理、裁縫、掃除、文章を書いたり計算したり、建築、医療、武道に政治まで……数え切れない程、芸術はとても幅広い。
……しかし、芸術は大切にされ続けていても、今は神々の仰が無くなってきているそうだ。理由は気になるが、それについては、もっと詳しい事情を知る彼女の知人がいるらしく…私の記憶がすぐ戻らなければ、コピルムの歴史を聞きに行く事になった。
それから…私が時計の力によって訪れたこの場所は、"エデンカル帝国"という大きな国らしい。
この星は現在、多くの大陸が強力な瘴気によって汚染されていて、瘴気によって滅ぼされた地は”瘴廃国"と呼ばれているそうだ。そして其処には、誰も足を踏み入れる事ができないとまで言われているらしく、とても人が行くべき場所ではないのだと、アルテは教えてくれた。
私が目覚めたあの地も、瘴廃国だったのだろう。
……彼処はまるで地獄だった。
ちなみにこの星で国と呼べるほどまともな地は、此処"エデンカル帝国"と、魔界にあるという “モルダーシア"のたった二国しかないのだとか。
星の殆どを……瘴気ってそんなに恐ろしいものだったのか…。
もしあのまま、あの場所にいたら…そう考えると、ゾゾゾッと鳥肌が立った。
コピルムに残されたたった二つの国は、どちらも土地が広く地名も多かった。
小さな国を合併して帝国となったエデンカルは、環境や気候の異なる地域がいくつもあるらしい。
一方魔界国は、瘴廃国程ではないが瘴気の影響を受けていて、土地は広いが、その殆どが魔物の住処らしい。
とても行く気にはなれない……。
でも私の事を異国の客人と呼んだアルテは、私がモルダーシアから来たと思っていたらしい。
帝国以外でまともに過ごせるのがモルダーシアだけだからかな…。
……気になることは多いが今はこのぐらいにしておこう。
常識的な知識はまだまだ足りないが、この世界について少しは学ぶことができた。……と思う。
そういえば本当に今更だけど…
どうしてアルテは、見知らずの私にここまで尽くしてくれるんだろう....?
彼女が優し過ぎるのか……あ、もしかして…私がちびっ子だからか?
私はアルテよりも背が低く、魔法も使えない。
さっき湖で確認したけど、私は髪の色がピンクで子供っぽいし、顔つきも幼く見える。
流石に記憶のない子供を置いていけないからか、どうなのかは分からない……でもアルテはあまりにも面倒見が良すぎるのだ。
私がそんな疑問を聞くと、アルテは……
「それが私の...私達の役割というだけですよ。
人々の命、生活、環境を守る...。
謂わば、帝国の守護者です。
国内で困っている誰かを助けるのは、当たり前...
なので、負担に思う事はないですよ。
...勿論謝礼もいりません」
と、淡々と言った。
自分は当然の事をしているだけなのだと。
「私達」と言うからには、他にも何人か同じ仕事をしている仲間がいるんだろうな……。
「まだ大人じゃないのに、そんな大変そうな仕事を....凄い...」
仕事内容の詳細まではよく分からないが、大勢の人を...国を守るのは、相当苦労する事だろう...。
しかも命を守るって……どれだけ危ない仕事なんだろう..。
尊敬と不安の眼差しで彼女を見ると、
アルテは私から少し目を逸らして…
「……この国では、
子供が大人と同じ仕事をこなす事自体、珍しくありません」
と小さく呟いた。
えぇ……まさか...この国、子供に重労働をさせる程人手が足りないのか...?
なんでそんな事になっているんだろう...。
そもそも瘴気っていつから世界に広がったんだ?
……私が何を考えてもどうにもならない、それは分かっている...。
でも何故か...どうしても思考を止められない……。
「そういえば…」
頭を抱えて考え込んでいた私の横で、
またも話題を変えるように、アルテが問いかけてきた。
「魔物と戦った経験はお有りですか?」
「魔物?!ないない!!
私じゃ返り討ちに合うだけだし....」
魔物を見るだけで体が竦んでしまう。そんな私が戦うなんて有り得ない。
勿論、あの絶望的状況と恐ろしい魔物の襲撃というダブルパンチを食らったから竦んでしまった……という可能性もあるが…。
「では、私が戦い方を伝授しましょう」
「え...ヤダ怖い」
「魔法に興味が有るのでは?」
「いや、魔法は魅力的だけど……魔物に興味はない…」
そう…魔法は魅力的だ、魔法だけは……。
「近頃魔物が増えていて...
この国で長生きする為には戦いは避けられないかと。
実は私あまり戦闘は得意ではなくて……
貴方を完璧に守りきれるとは断言できません」
(……要は「自分の身は自分で守れ」ってことだ。)
「ヴッ……」
恐らくこれも彼女の仕事の内なのだろう……。
アルテは誰かに教えられるぐらい魔物と戦ってきた事があるのか…。
そう考えるとなんだか複雑な気持ちになる。
この子も自分と同じ子供なのに……と。
「分かった...でも怪我するのは嫌だな...」
「ご安心を、援護は得意ですので」
私の応えに満足したのか、アルテは嬉しそうに笑顔を向けてくれる。
絶対に怪我などさせません!…という意思が溢れ出る程、誇らしげに胸を張る彼女の姿を見て、少しだけ安心した。
...生きる為なら仕方ない。
私は魔法だけでなく、自分に合った力を見つける為、戦闘に使える能力について学ぶことにした。
「戦闘に使えるのは魔法だけではないのです。
この世界には様々な"力"があります」
「例えば?」
「魔法、魔術、呪術、錬金術、魔音術、妖術...これが代表的な力です。 これ以外にも数え切れないほど力は存在します。 力は自分だけの型を創ることが出来るので、種類と可能性は無限大です」
「そんなにあるんだ……じゃあ、じゃあさ!私も、自分の"力"を創れるの…?」
自分だけの力が創れる…それはなんて魅力的なんだ!
と目を輝かせる私を見て、アルテはふふっと笑い…
「勿論です。基本の魔法型を使えるようになれば、
"なんでも"できますよ」
と言った。
なんでも……魔物を消し飛ばすとかも?
…なんて物騒な事を考えながら、私は更に質問を続ける。
「じゃあアルテも自分だけの力を創ったの?」
「はい」
問えばアルテはすぐに答えてくれた。
「私の力は妖魔混合魔法と言って、
妖力と魔力を掛け合わせて使う特殊魔法です」
……しかし、何やら難しい単語が出てきてしまい、私は首を傾げてしまう。
結果、基本の魔法学をもっと学んでからでないと混乱してしまう為、難しい技の話はまた今度……という事になった。
記憶も無いし、この世界の殆どの事が分からない今の私には、まだ理解できない事ばかりだ。
だからこそ、もっと勉強しようと思えた。
…この世界で生き抜く為に。
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魔法を使うには精霊や使い魔が必要だが、私には相棒がいない。
しかし、そんな私でも魔法を使える方法があるらしい。
どうやって魔法を使うのかアルテに聞くと、
「魔物と実際に戦う時に教えます」
と言われたので渋々……的になる魔物を探すことになり…。
町へと続く道に沿いながら魔物を探していると、なんと道端に白いヒラヒラしたものが漂っていた。
また白い布?!
「ッふ……でももう怖くないよ。おばけなわけないからね!」
さっきもおばけじゃなかったし、今はアルテが隣にいるし、物理攻撃や魔法が効くヤツなら怖くない。
そんな事を考えながら白い布を見て笑う私に、アルテは教えてくれる。
「あれは"白練てる坊”と呼ばれている小型の魔物です」
「へぇ……魔物なんだ…」
フワフワと漂う小さな布の塊……てる坊。
彼女はそんな"てる坊"を魔物だと言ったが……とても魔物には見えない。
私達を見てもヒラヒラ揺れているだけで、顔付きも意外とキュート……。
白練てる坊は、ずいぶん可愛らしい生き物に思える。
私を襲った魔物とは比べ物にならない程、ザ・無害って感じ。
「かわいい...」
あんなに無害そうな子を魔法の的になんて……できない!
……などと考え、いつまでも攻撃するのを躊躇っている私を見て、アルテは棒読みで言った。
「群れになると人々を滅多打ちにする事もできるとても恐ろしい魔物ですね~」
「よしアルテ!魔法教えて!」
身の危険を感じた私は直ぐにてる坊を倒す決断をした。
もう二度と見た目が可愛いからという理由で魔物に近づく事は無いだろう。絶対に……!
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魔法を使う為には、準備が必要らしいので……私達はさっきよりもてる坊から離れた位置に移動した。
「今の貴方に使えるのは、コネクト魔法というものです」
「コネクト...繋がる?」
素人にも簡単にできるのかな?と心配する私だったが、
「はい、コネクト魔法は私の"手を握る"……それだけで使えます」
「簡単だ!」
驚くほど準備は単純だった。
アルテは両の手に黒い手袋をはめていたが、
魔力回路の邪魔になるからと右手の手袋だけ外し、私と手を繋いだ。
「少しの間、このまま握っていてください」と言われたので、繋いだ手を見つめて、ただじっと待った。
緊張するけど……楽しみだな魔法!
ワクワクと胸を高鳴らせながら手を繋いでいると、不思議な感覚が私の身体に流れ込んでくる。
「なんだか力が湧いてくる気がする……気のせいかな?」
「いいえ、気のせいではありませんよ。
それが魔力です。今は手を通して、私の魔力を貴方に注いでいるんです」
そう、魔力が私の体内に巡りだしたのだ。
今なら私でも、なにか魔法を使えそうな気がする…!気がするだけで魔力の使い方はよくわかんないけど!
なんて考えながら魔力を感じていると、アルテが私の手を離し、てる坊の方を向いた。
…どうやら魔力の受け渡しは完了したらしい。
「今日は、貴方に合った武器を創ってみましょう。
その武器で、てる坊を討伐します」
武器……?創る?
それを聞いて私は、頭にクエスチョンマークが立てた。
「武器を創る?それって魔法なの?どちらかといえば……錬金術じゃない...?」
「錬金術は創り出した物体をその形のまま、永遠に維持できる高度な技です。
それに対して魔法は、必要な時、一時的に具現化させる事ができる比較的簡単な技なのです」
は〜!なるほど……なんとなくだけど分かった。
う〜ん、魔法や力は、覚えることが多そう…。
これは一日じゃ習得できなそうだ。
「魔法は発想力...想像力が大切です。
その二つを早く使いこなせるように頑張りましょう。
では、早速……先ずは扱いやすい武器の型を意識してみてください」
とアルテに言われたが……どうしよう思いつかない。
そもそも武器…使ったことないしなぁ……あ、そうだ!
私は彼女の武器を参考にする為、
「アルテは、普段どんな武器で戦っているの?」
と聞いてみた。
するとアルテは、少しだけ考えるような素振りを見せた後、
「口頭より実物の方が分かりやすいと思うので、お見せしましょう」
と言い、左手を空に翳した。
すると直ぐに、煌めく光に包まれた何かが現れ、彼女はそれを掴むとこう言った。
「弓です」
「わぁ……!本当だ!」
アルテは魔法で創り出した弓を私に手渡して、じっくり観察させてくれた。
その弓は思ったよりもずっと軽く、子供でも扱いやすい大きさだった。
美しく細かい装飾が施された弓矢は、日光の光に照らされて輝きを放ち続けている。
「綺麗!…でも、毎回同じ見た目とか型を考えるの?」
これだけの物を戦闘がある度に一から考えて創るのは、私には多分向いていない。
とゆうか……うん、できないな。
不安そうに私が聞くと、アルテは首を横に振って教えてくれた。
「流石に戦闘の度に武器を変える…なんて事はありません。
一度自分の武器を創り上げてしまえば、毎回同じ物が出てきてくれますから安心してください」
「良かった。なら、気合入れて考えなきゃね!」
……とは言ったものの、
やはり私には想像力、発想力が足りないようで…。
持ち運びやすくて、簡単に扱えて……?う〜ん…武器……ブキ?
考えれば考えるほど、武器の型が決まらない。
武器の事で頭がいっぱいになった私の手を握り、アルテが魔法の伝授を続ける。
「武器のイメージを思い浮かべながら、体内に巡る魔力を貴方の手の中に集めてください。
魔力を集めたら、武器が具現化するように強く願えば簡単に出てきますよ」
……と彼女は簡単に言うが…やっぱり難しい!
数分……数十分…。
幾ら考えてもイメージが固まらなかった。
アルテには焦らなくていいと言われたが、悩みに悩んだ挙げ句……
ぶき……ぶき…あー!も一!わからないッ!!
もう何でもいいから、早く!私でも扱えるなんか凄いの!出てこーーーい!!!
……と、私はイメージがあやふやなままにも関わらず、半ば投げやりに心の中で願いを唱えてしまった。
すると次の瞬間、
……ぼふんっ!
そんな小さな爆発音が聞こえ、私の手には熱が籠り、不思議な光と共に私の武器?が現れた。
あれ?思ってたより…小さい?
ソレは私の手に収まると、
だんだん光が薄くなっていき……ようやく完全に具現化したのだが…。
「ん…?」
何かがおかしい…。
コレ…このフォルム……
この機能性…この透明感……え、うそ……まさか…まさかぁ……?!
何度も触り、何度も見た。
何かの間違いだと思いたい…間違いであってくれ……。
「嘘でしょぉ…」
私はどうしても、コレを武器だと認められなかった。
だって……
「コレって……"虫眼鏡"じゃない?!」
何故か私は、
何の変哲もない虫眼鏡を創り上げてしまったのだ。
不服と同時に、助けを求めるような表情でアルテの方を見ると、彼女も私の手の中にある武器らしからぬ何の変哲もない虫眼鏡を見て、唖然としていた。
そりゃ、そうだよね……どう見ても武器じゃないし...。
私の心の中は虫眼鏡に対する異論で一杯になった。
いやいやでも!でもぉ!
流石にコレは納得できない...。
「やり直させて...!
今度はもっとちゃんとしたのを...…頑張って、考えるから...!」
縋るように、私はアルテにしがみついてそう言った……けれど、彼女はスッ…と、気不味そうに目を逸らすだけで何も言ってくれない。
あ、嫌な予感...。
その反応を見て私は何かを察した。
「え...ホントにコレで戦うの?!虫眼鏡で?!
もう変えれないの?!...クーリングオフは???」
「.....装飾やサイズは気分で変えられますよ」
焦る私にそう言って、今度は反対方向に目を逸らすアルテ……。
すかさず私はアルテが目を向けた方向に回り込み、問いただす。
「型は……?」
「生憎ですが……無理、なのです…」
明らかに私のせいなのに、アルテはまるで自分が悪いのだ…とでも言い出しそうなほど申し訳なさそうに目を逸らす。
ごめんアルテ…100%私が悪い……。
でも、何故...?なんで虫眼鏡が武器として出てきてしまったのだろう……。
私の軽率かつ浅はかな願いと乏しい想像力のせいなのだろうか...?
それにしても酷い、ひどすぎる。
コレでどうしろと...?ぶん殴る?……いやないな。
アルテも、私のようなケースは初めて目にしたそうで動揺が隠せていなかった。
その後も何度か武器の創作をやり直そうと挑戦したが……駄目だった。
はぁ……私はやっぱり戦いには向いてなかったって事だ。
まぁでもこれで魔物討伐は中止だよね。ちょっと怖かったしラッキーだよ。うんうん。仕方ない、仕方ない。
私は自分にそう言い聞かせてポジティブに考えることにした。
私が一人で納得していると、アルテも
「仕方ないですね..」
と溜息混じりに言ったので、
「じゃあ、町に...」
と私は言いかけた。
……が、
「試してみましょう。虫眼鏡」
アルテはその言葉を遮るように続けた。
「...え?」
私は自分の耳を疑った。
ま、まさかね…?虫眼鏡で討伐なんて……そんなそんな…
「武器として創り出されたものならば、きっとなにか特別な機能がついているはずです。
もしもの時の為に、把握しておきましょう」
「勘弁して...」
結局、私は虫眼鏡を手に取り、てる坊のいる方に向かう事になった。
どうして……。
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