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生彩放つ無神世界  作者: 美緑
〜第五章〜宝珠の行方
39/89

難易度は、最難関


「…この試練…明らかに…突破させる気ないよな?」

地面に転がったまま、リハイトが低く呻いた。


「まさか…ここまでとは……」

横でぐったりしているアルテの声も、乾ききっている。


「どう…して……

試練に……参加さえできなかった私まで…」

私はというと、髪が爆発したみたいになって

ボッサボサだ。


……そう、"全員ボロボロ"だった。



試練が始まって数十分。

どれだけ倒しても、目の前で“無限湧き”みたいに増える魔物の山。

上空で戦うリハイトとアルテは連携を崩され、そのせいでなぜか私にまでも魔物が怒涛のように押し寄せてきて――

結果、三人まとめて床に沈んでいた。


そこへ、足取り軽く近づいてきたのは……

この状況を生み出した張本人(アロマルム様)…。


「すまない、君達に言いそびれていたよ…。

一応、僕の試練は"最難関"らしい。

やはり今の君達には難しいようだね…」


さらりと言ってくるアロマルム様。

なにその“今思い出しました”みたいな言い方…!


リハイトが顔を上げて、ほんの数秒だけ沈黙したあと、低く返す。


「…それは、先に言っておいてほしかったな…」


するとアロマルム様は爽やかに笑った。


「いや〜君達があまりにもやる気に満ち溢れていたから…ついうっかり☆」


……☆?

なァにこの状態見て星つけとるんだ、この神様ッ


私は勢いよく上体を起こし、

相手が神だということも忘れて怒鳴った。


「うっかり☆…ッじゃない!

ホント危なかったよッポンコツか!」


「あはは!ポンコツときたか!まいったなぁ!」


でもアロマルム様は全然堪えていない。

反省ゼロである。

むしろ笑いが増してる。ニッコニコだ。

なんなんだこの人……いや神様。



✿ ✿ ✿ ✿


───その後…。


十分ほど休んで、ようやく立ち上がった頃。

アロマルム様は、さっきまでの軽さが嘘みたいに……それでいて穏やかな声で言った。


空気が、一瞬で“講評モード”になる。


「二人共、だいぶいい連携がとれていたよ。

 でも…改善点は、まだまだある。」


リハイトもアルテも背筋を伸ばす。

私までつられて姿勢が良くなった。


アロマルム様はまず、リハイトに視線を向ける。


「先ずリハイトくん…君は、保険をかけ過ぎだね。

安全に…確実に…それは悪いことでは無いけれど、

戦闘時は常に“決め手を素早く見極め”、最短で仕留める力も必要になってくる…。

実際、今回の試練では決め手が遅れたことで敵が増え、大変だっただろう?」


返す言葉がないのか、リハイトは眉を寄せたまま小さく頷く。


次にアルテへ。


「次に翠嵐くん…

君は、自己犠牲的な行動が少々目立つね…。

連携はできていたから、協調性が全く無い訳ではないけれど…。敵の攻撃から仲間を庇おうとし過ぎだ。

君の守備がどれだけ固くとも、一人で大勢を庇い続けていては、結局……誰も守りきれない。

もっと周りに目を向けて、仲間を信じてごらん?」


アルテはぎゅっと拳を握り、真剣に聞き入っていた。


……すごい。

この短時間で、英雄達の癖も弱点も全部見抜いたんだ。


アロマルム様の言葉には不思議と重みがあって、

私まで背筋を伸ばしてしまう。


……さすが加護神。

英雄が強くなるには、加護神の言葉に耳を傾ける必要がある――

なんとなく、そう思わされた。


そうして――

ぐだぐだで倒れていたのが嘘のように、

私達三人はすっかり“反省会モード”に突入していたのだった。


✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿



リハイトとアルテが、試練で得た反省点を話し合うために少し離れると、

その場には私とアロマルム様だけが残った。


……静かだ。

魔物の残滓も消え、

さっきの地獄みたいな光景が嘘みたい…。


「…はぁ」


私はその静けさに押されるみたいに、

ぽつりと弱音をこぼしてしまった。


「…私、ほんとに力になれないなぁ……」


友達なのに……

アロマルム様みたいに鋭く分析する事も、立派な言葉を掛ける事もできなかった。

胸がじんと痛んで、溜息が漏れる。


するとアロマルム様は、私の横でそっと腰を下ろし、穏やかな声で言った。


「そんな事はないよ、探偵くん。

君ほど彼等の力……いや、

彼等の“支え”になれる存在はいないさ」


気休めじゃない。

そう感じるほど真剣で、あったかい声音だった。


なのに、私はまた口が動いてしまう。


「……でも私、特別優れた存在でもないし……

ただ、誰でも言えるような普通の言葉しか……」


「――その通り。“本来なら”ね」


アロマルム様は優しく笑んだ。

でも、その笑みに混じる影が胸をざわつかせる。


ゆっくりと視線を試練場へ向けて、彼は語りはじめた。


「君の言う“普通”……それは、もう帝国の民には残っていないんだ。

たった一欠片さえもね」


「……残っていない?」


私は思わず聞き返した。

けれどアロマルム様は静かに頷く。


「彼等は、神への感謝も信仰も忘れてしまった。

なのに、自分達を助けてくれる“絶対的(神のよう)な存在”は欲しがる……。

それが本能なのか、弱さなのか……僕にも分からないけれど」


彼の横顔は悲しげで、でもどこか諦めではなく、深い慈しみがあった。


「そこで彼等は、神ではなく――

古くから“神に近い力”を持つ存在と信じられてきた、《英雄(かれら)》にそれを求めた。

ずっと昔から……神話の時代からずっとね」


神話時代……。

想像もできない果てしなさに、私は息を飲んだ。


「でも、そのせいで皆忘れたんだ。

英雄とて、自分達と同じただの“生き物”であるということを」


アロマルム様の声が少し低くなる。

そこには苦い色が混じっていた。


「英雄へ重荷を押し付け続けた結果……

民は“自分の身を守る努力”をしなくなった。

今のエデンカルの人々が戦闘も防衛も……すべて軍や英雄任せなのは、その名残だよ」


あぁ……あんまりだ。

胸が締め付けられた。


努力を放棄して、それでも強さを求めて…。

なんて身勝手なんだろう……。


私が顔を歪めていると、アロマルム様は続けた。


「力ある者が崇められ、権力を持つ。

強さを誤って求め続けた証だ。

……“皇帝”という座も、色々と複雑だけれどね」


軽く肩を竦めながらも、その声色には寂しさが滲む。


「彼等は連鎖するように、大切なものを忘れていった。

もう、神が創り出した“ただの美しい芸術品”ではない。

芸術を生み出す“生き物”になったんだ。

美しいものを生み出すたびに、彼等自身は芸術から遠ざかっていく」


「生き物……」


胸の奥がざわざわして、喉がきゅっと痛くなる。


英雄…あの子達は、

そんな世界でずっと、戦ってきたの……?


私はアロマルム様を見上げた。

すると彼は私と目を合わせ、静かに…

でも力強く言った。


「“強さ”とは、美しさでもある。

どれだけ追い詰められても、運命に振り回され、縛られ続けようとも諦めず、努力を怠らない……あの子達は美しい。

僕はずっと、そう感じているよ」


その時アロマルム様の声が少しだけ震えた…

…気がした。


「本来なら、英雄(あの子達)が帝国を守る必要なんてなかった。

誰だって……努力すれば強くなれる。

君だってそうだろう?

逃げなかったから、魔法も使えるようになった」


私はハッとした。


「英雄に神の代わりなんて務まらない。

その力も、術師によっては廃れる……。

結局は努力なんだ。

でも……皆、いつか努力も芸術も手放すのかもしれないね」


「……芸術って、どんなものなんですか?」


口に出した途端、後悔した。

軽い気持ちで聞くような話じゃないと。


「僕にも……分からない」


でもアロマルム様は、ふっと微笑んだ。


「神である僕でさえ、“至高の芸術”が

どんなものかは……ね」


そして……優しく肩に手を置いてきた。


「でもね探偵くん。

君が“普通のこと”だと思っている言葉や行いは……

あの子達には、ちゃんと美しく映っているはずだ」


「…私の、普通が……」


「うん。どうかそのままでいてほしい。

力を求め、力に依存するこの国では……

英雄達の強さは孤独に繋がる。

だから君のような存在が必要なんだ」


アロマルム様は、まっすぐに私に向き直った。


「僕達加護神は、人々に呼び戻された…

…魂だけの“仮初の神”。

邪神討伐にしか介入できない端役だ。

……だから頼むよ、探偵くん」


胸が熱くなって、息が詰まる。


「…神様……」


彼は少し微笑み、遠くにいるリハイトとアルテへ目を向けた。


「さて……あの子達を呼んでこようか」


私は小さく頷いた。

英雄達の背中を見つめながら――

自分にできることを、もう一度考えた。



✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿



二人が戻ってきた頃には、私はようやく砂まみれの自分の髪を整え終えたところだった。

アロマルム様は、まるで何事もなかったかのように――いや、むしろ胡散臭いくらい完璧な笑顔を浮かべて言った。


「今日の試練のお詫びに、

君達にいい情報を提供しよう!」


『いい情報…?』


私達は揃って首を傾げた。

……笑顔のせいで詐欺師みたいだな。

リハイトなんて、警戒しすぎて眉が完全に「困り虫」みたいに曲がっている。


「その情報…とやらは、本当に…いい情報なのか?」


「勿論!なんてったって、君達が今一番困っている“加護の宝珠”の話だからね!」


加護の宝珠……。

その言葉に、胸が跳ねた。

それって…まさか、もしかして…!

神様なら犯人がわかる…かも?!


期待して、私は一歩前へ出た。


「神様…まさか、犯人がわかるの?」


するとアロマルム様は……なぜか少し…残念そうに、

でも頷いて答えた。


「…分かるけれど……教えられないなぁ」


「ッええ~~~!?なんでぇ……」


私の声が虚しく試練場に響く。

すると即座にリハイトが詰め寄る。


「そいつのせいで人が死んでるんだぞ?

何故犯人を隠す必要が?

これ以上、被害者を増やす訳には…」


「勿論、それもわかっているよ。

……ただね、

加護神(僕達)は現世の出来事に直接干渉できない…。 

…元より加護神とは、そういうものなんだ。

どれだけの人が死のうと……

犯人を探し出すのも、制裁を与えるのも、

英雄(君達)……つまり“生者”の役目なんだ」


アロマルム様の声は穏やかだけれど……

その奥には絶対の線が引かれていた。


リハイトは悔しそうに拳を握りしめるが、

やがて溜息を落とす。


「……加護神(あなた方)にも色々と、制約があるんだな…」


「だからこそ!」


─────するとそこで、

アロマルム様は、ぱっと空気を変えた。


「ヒントだけはあげよう!

宝珠の在り処を教えてあげるよ。

英雄全員にきちんと試練を受けさせるのも、

僕等の役目だからね」


一転して得意げな笑顔になるアロマルム様…。


「宝珠が悪用されたり、隠されていたから今まで英雄の力になれていなかったけれど、神殿を開放してくれた今なら、僕でも少しは役に立てるよ!」


「……宝珠で神殿を開放しなければ、試練を受けられない以前に、加護神の知恵や力を借りられない…か。  加護神達の力が必要な今…確かに宝珠の在り処は有益な情報だな」


リハイトは宝珠の重要性を理解したようにそう言った。

するとアロマルム様は、少し考えた後に口を開く。


「まずは……そうだね…。

盗まれたコンドくんの宝珠を

いち早く彼の手元に戻しておきたい…。

…よし、少しだけ時間をおくれ」


あ、でも絶対これ、

場所以上は教えてくれない顔だ…。


「盗まれたコンドくんの宝珠は……

聖獣のそばにあるね」


案の定、場所の“ヒント”はざっくりだった。


「聖獣…!それって、まさか……

攫われたカッドレグルントの?!」


祠から連れ去られてしまった聖獣を思い浮かべて問うと、アロマルム様は首を横に振る。


「…いいや、それとは また違う個体だね。

カッドレグルントの聖獣は"冷の聖獣ジーギス"。

そして…今回盗まれた宝珠を持っているのは"日の聖獣フェニシア"という聖獣だよ」


「ッ…!日の聖獣……ですか…」


その名前を聞いた瞬間、

横のアルテがぴくりと反応した。


「ん?アルテ、知ってるの?」


「…ええ。翠山の山域に祠があります。

ただ、幼い頃に…少しだけ足を踏み入れただけなので…場所は曖昧ですが」


山の気配を思い出すように、

アルテは胸に手を当てた。


「なら…

探すのはお前に任せた方が良さそうだ」


リハイトが言うと、アルテは小さく頷いた。


「場所までは…教えてもらえないみたいだしな」

「ふふっ…その通りだよ、すまないね…」


アロマルム様は申し訳無さそうに言うが……

その表情は、やはり笑顔のままだ。


「細かい場所までは…ね、教えられないんだ」


いやいや、

そこが一番欲しいところなんだけど!?


心の中でツッコミながらジト目でアロマルム様を見つめるが、そんな私をよそに、彼は涼しい顔だ。


「…英雄の力どうこう以前に、

宝珠全部取り戻せるか不安になる…」


落ち込んで頭を押さえると、

アロマルム様がこちらをちらりと見て、意味深に呟いた。


「これでも、だいぶ貢献できたと思うけどね。

それに…君達なら、きっと成し遂げられるよ。“最期”までね」


「え……最期って……どういう――」


しかし、

私がその言葉の真意を問いかけるより早く…


「──そうだ三人共、これを飲むといい」


神様は今の話題を跳ね飛ばすように、

不思議な小瓶を差し出してきた。


「うわッ、何だこの怪しい色の液体……」


その途端顔を顰めたのはリハイトだ。

見れば確かに深海みたいな深い…色の濃すぎる青の液体。

う〜ん……絶対飲んじゃダメな色だ。

匂いを嗅ぐと――潮の香り。


「海水…ですか?」

「いいや、癒やし効果を極限まで強化した“聖水”だよ!」


首を傾げたアルテに、アロマルム様はそう答える。


「……。」


だから……

信じがたい言葉を聞きつつも、私達は意を決して…


──────ゴクリッ。


……飲み干した。














『───ッしょっっっっぱ!!』


そして同時に、盛大にむせる。


ッうっっっげぇ…しょっぱすぎる…ッ!

人が飲むものじゃない…飲んじゃいけない味だ。

くそぅ…なんて悪質なイタズラなんだッ!許せん。


私は涙目でアロマルム様を睨んだ。


「神様ッ…!やっぱりコレ

これただの海水じゃんか!!」


「あッはッはッは! 三人共、いい反応だねぇ!」


楽しそうに転げ回る神。

私は思わず頬をぷくーっと膨らませる。


「揶揄っただけかー!」


「探偵さん、気持ちは分かりますが落ち着いて…。

獣神様は、ただ揶揄っている訳ではないようです。

確かに味は、かなり…えぇ、かなり壊滅的でしたが…

先程の傷は全て治っていますから」


今にもアロマルム様に飛びかかりそうになっていると、アルテが宥めてくれて……

そこでようやく気付く。

肌の痛みも、服の破れも、動きの重さも――

全部消えている事に。


「大した技術だな…。流石“神”と言ったところか」


リハイトが感心すると、

アロマルム様は胸を張った。


「その聖水は、加護神の一人である”聖水神”が創ったモノなんだよ。味以外は完璧だろう?

……さて、三人共傷は治ったようだし…

そろそろ動き出すとしようか」


そして、すっと表情を引き締める。


「では…星の命運を背負いし英雄達。

まずは、全ての宝珠を取り戻そう。

邪神が攻めてくるまで、まだ時間はある。

無理せず、確実に力をつけていくんだ。

───加護神の神殿、

その全てを開放する任務を開始する」


『───承知』


リハイトとアルテが力強く返事をし、私の腕を軽く引いて歩き出す。……けれど、私はふと足を止めた。

先ほどの…アロマルム様の一言が、

どうしても胸に残っていたから。



そういえば…“最期”って……なに……?


振り返ると、

アロマルム様は何も答えず、

ただ穏やかに……笑うだけだった。


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