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生彩放つ無神世界  作者: 美緑
〜第四章〜帝国軍
30/89

‧✧̣̥̇‧祝福の竜‧✧̣̥̇‧

英雄達(みんな)の話を聞いた後、

私は彼らよりも早く会議室に入室させられた。

どうやら英雄は最後に入室する決まりらしい…。

その辺のルールを知らない私は、そういうものなのかと納得して、一人寂しく会場に向かった。


✿ ✿ ✿


会議時間が近くなると、当たり前だが用意された席が次々と埋まっていく……。

しかし、英雄達(みんな)はまだ来ない。


……最後って、言葉通りホントに最後なのね…。

この広い会議室の中、知り合いが一人もいない私は、だんだん心細くなってきて……思わず縮こまってしまう。


さらに……

私は辺りを見渡して、気がついてしまった。

会議に参加している隊員達は皆、

"軍服"を身に纏っているという事を…。


え、いや、待って……私この場に座ってていいの?

服装……めっちゃ浮いてるんだけど……。

うぅ…なんか、居心地悪い…。あぁ……うぅ…!

…みんな、早く来てぇ……!

遂には心の中で祈り出す始末…。

自分の心の弱さが際立って心底情けなくなった。




──すると……


「――これより、

“神域の五英雄”が、会議場へ入室されます。

全員、起立を……」


私の願いが届いたのか…

ただ会議の予定時刻になっただけなのか……。

入場宣言が響き渡り…

重い会議室の扉が、外から叩かれた。


……や、やっと来てくれた。

友達(みんな)が同じ場所にいてくれる安心感…。

それを改めて感じながら、私は胸を撫で下ろして、

多くの視線が集まる扉を見つめる。






しかし――

──────ギイィィィィッ……。


入り口が開いた瞬間――

『ッ……!』


……会議室の空気が、急に"冷えた"。



『……。』


先程までの小さなさざめきすら消え…

周囲の隊員や貴族たちが、揃って背筋を伸ばし、言葉を飲み込む。……誰も、喋らない。

まるで息をすることすら許されないようで、世界から音がすっと消えていった。


「ッ……」

私も周りの反応に釣られてしまい……

不思議な緊張感に包まれた。

この場にいる全員が呼吸をひそめながら、

英雄達の入室を見守る。



「第一英雄…コンド・アズラーイール・クトール・エデンカル様、ご入室」

名前を呼ばれ、最初に現れたのはコンドだった。


彼が一歩踏み込んだだけで、室内の空気の重さが変わる。

それは、英雄だからというより――

“皇族”として生まれ持つ威厳故だろうか…。

世界が彼を軸に回転していると思わせるほどの威光が宿っているようにすら感じた。


金糸の軍衣をまとった彼は、背筋をまっすぐに伸ばし、まるで玉座に向かう王のように歩いてくる。


ッかっっっこいい…!今のほんとにコンド?!

恐らく初めて……皇帝候補らしい彼の態度を見た私は、軽く感激してしまった。

あんなに立派になって……!

気分は何故か、親目線だ。


おい誰だ、コンドの事

ウジウジしてるだの消極的だの言ってたのはッ…

…ンあぁ私だよッ!バカッ!

私は過去の自分の発言を撤回したくて悶えた。

本当に、いつか不敬罪で訴えられるかもしれない。



「――第二英雄…

ソフィア・ラファエル・ロンサール様、ご入室」


そうして……私が心の中で一人大騒ぎしていると、次はソフィアが入室してきた。


彼女は、いつにも増して儚さに磨きがかかった…

ガラス細工みたいな雰囲気を纏っていた。

誰もが「触れたら壊れる」と思ってしまいそうな…

それでいて“戦場に立つ者の凜とした強さ”を感じる。


ソフィアはいつ見ても可愛いくって綺麗だなぁ…。

なんて見惚れていると、


「――第三英雄…

レイン・メティス・スレッド様、ご入室」

続けて、レインが姿を現す。


彼女は、知性溢れる優雅な笑みを浮かべつつも、どこか張り詰めた気配を纏っていた。

“微笑んでいるのに、なぜか背筋が伸びる”…。

魔法授業ではあの素敵な笑顔に何度怯えたことかッ!


私はレインの鬼増し増しスパルタ授業を思い出しながら震え……それでも、彼女(恩師)の堂々たる姿勢に目を輝かせずにはいられなかった。




さて……次はリハイトかな。

私はレインが着席するのを確認してから、扉に視線を戻し、彼の入室を待った。


「……っ?」

でもなんだろう…おかしいな……。

すごく……寒い…。


「――第四英雄…

リハイト・ウァプラ・ルクス様、ご入…」

──────バタンッ。


急にまた室内が冷えたと思ったら…

アナウンスが終わるより先に、リハイトは滑り込むようにして姿を現した。


「……ッ!」

私は彼を見て、思わず驚く。


てっきり…帝国軍関係者に嫌がらせする為に

リハイトが氷魔法でも使っているんじゃないかと…

……そう思っていたのに、

彼の周りには、魔力の跡すらも視えなかった。


……でも気の所為なんかじゃない。

冷たいのだ。本当に…冷たい。

リハイトの歩調…その一歩一歩が、

胸の奥に“氷の杭”みたいに突き刺さってくる。


彼は"何もしていない"……それなのに、

近くを通られた瞬間――

「ッうぅ……!」

背筋に冷水をぶっかけられたみたいな震えが走り、

思わず肩が跳ねた。


無表情。…無感情。……無音。

その“空白”のような気配が、逆にこちらの鼓動を速める。


私はまだ"戦場"というものを知らない。

……でも、

リハイトからは、確かに“戦場”の匂いがした。

彼は、ある意味……一番、この帝国の英雄らしいオーラを纏っていると言えるのかもしれない。




「――第五英雄…

クエレブレの小夜翠嵐様、ご入室」


最後にアルテが入室すると、扉の隙間から吹き込んだ微かな風が、私の頬を撫でる。

窓は閉まっているのに……

まるで、彼女が外の風を連れてきたみたいだ。


「あ……あったかい…」

そういえば…今は夏だった事を思い出す。

リハイトのせいで冷えた空気が、アルテの風で暖められ……部屋に季節が戻ってきた。


彼女が歩くと、それに従って風は吹き……

見えない羽ばたきの気配だけが音を立てる。

そして彼女が席に座ると、その瞬間

風がふっと収まり、静かな凪が訪れた。


……まるでアルテの入室そのものが、

穏やかな“嵐”であったかのように。



「……。」

彼女は自身の席から、

会場にいる全員を"竜眼"で()渡していた。


疾しい事なんて何も無いけど……

あの眼に視つめられると、どうも落ち着かない。


竜眼は風が全てを包み取るように…

逃げ場のないほど優しく…隈無く、

人の"内側"へ触れてくる……。

だからこそ、彼女の前では隠し事なんてできないのだ。

嘘も、偽りも……全て、無意味。


だけど……

アルテは身内以外にその事を秘匿している。

それを知っている存在は、

果たして……この部屋にどれだけいるのだろう?



……竜眼の事知ってる人は、

アルテの身内か味方のはず…だよね。

そう考えて、私は視線を動かす。

しかし、私の席からは全体を見渡す事が難しく……

「……全然見えない」

隣や下の席しか覗けなかった。


すぐ近くにアルテや英雄(みんな)の味方がいればいいのに…なんて、薄い希望を抱いだけれど、

悲しい事に……少なくとも私の周りにそれらしい人はいなかった。


目に映る誰もが"英雄(えいゆう)"の視線ひとつに怯え、

期待し、縋りついている……。


少なくとも…"英雄"を過剰に心酔したり崇拝してるような人に、英雄達(みんな)は心を開かないと思う。…ので、却下。

とりあえず私の近くに座ってる隊員に用はない。


「……はぁ…」

周囲に頼れそうな人がいない事に落ち込んで肩を落とすと、会場に再びアナウンスが響く。


「定刻になりましたので、帝国軍会議を始めます」


慌てて顔を上げると、全員が背筋を伸ばして立っていたので、私もシャキッと立った。


すると…

──────ガタンッ。


座っていた英雄達(みんな)が立ち上がり、

それぞれ"英雄の挨拶(誓い)"を口にする。


「紺青の炎の加護があらんことを」

「白藤の雨の加護があらんことを」

「黄金の月の加護があらんことを」

「天青の氷の加護があらんことを…」

「白翠の風の加護があらんことを」


「……。」

う"ッッッわぁ……。


私は思わず顔を顰めてしまった。

あの挨拶、帝国軍(ここ)でも英雄(みんな)に使わせてるの?!

あれって…確か、英雄が挨拶を贈った相手のこと守る誓い……とかだったよね?

英雄(みんな)と"一緒に戦うべき軍"がその挨拶強要するって……あぁ…ホントにどうかしてる…。


帝国の救いようのなさは百点満点だ。

あまりにも酷過ぎて私が目眩を起こすと、


「では、議題の第一項目から始める」


コンドの声掛けにより、

会議は、張りつめた静けさとともに始まった。


そういえば……と、

私はある違和感に気が付く。

今回の会議の議題に“異国の客人”として名前が載っている割には、誰一人として"私に視線を向けてこない"のだ。

好奇の眼差しも警戒も……何もない。


いや、その方がありがたいんだけど…!

……それでも落ち着かず、余計な考えが頭をぐるぐるして、会議の前半はほとんど内容に集中できなかった。



「ふむむ……ユウゴ様を襲った犯人の証拠……

これまた、なかなか見つけ出せぬものですな……」


「これだけ広い帝国内で犯人を絞り込むには…事件現場にあった証拠が少な過ぎるのですよ…」


「そもそも…

ユーゴ様が異変を早く報告してくだされば……」

「いやぁしかし、皇族の指示には逆らえんしのぅ……」


気付けば、カッドレグルントの事件についての話し合いが始まっていて……そんな会話が飛び交う。

頭を抱えているのは、位の高い貴族や軍師たち。

話題は真面目なのに、愚痴じみた溜息が混ざる空気は重い。


「今回の聖獣事件……犯人とその動機は未だ不明だ。

だが、この数カ月で証拠は着実に集まっている。

……このまま順調に事が進む事を祈る。

一先ず、皆の協力に感謝を」


そう告げたのは、コンドだった。


普段はのほほんとした彼なのに、今は入室時同様…

“上に立つ者”の口調と姿勢を保っている。

真っ直ぐ前を見据える横顔は、やはり次期皇帝候補と呼ばれるだけの威厳を帯びていた。


やっぱり私の助言なんて必要なかったなぁ…。

なんて考えながらコンドを眺めていると、

「……あ」

不意に、彼と目が合った。…それはもうバッチリ。


目を逸らすのも躊躇われたので、私はとりあえず心の中で彼を応援した。

(えっと……が、がんばれ〜…?)

軽く手も降ってみると、コンドは声を出さず…小さく笑い返してくれた。

するとその一瞬だけ、

場の緊張がふっとほどけたように感じる。


「……会議の議題に載せられていた為、

皆、既に知っているとは思うが……」


少しの間を置いて、彼は場へ向き直り――口を開く。


「ぜひ、僕から紹介させてくれ。

彼女が“異国の客人”、

聖獣事件で大いに貢献してくれた恩人だ」


そして、そこで私を紹介したのだ。


「ッ?!」


……へ? い、今言うの……?

なんの覚悟も準備もしていなかった私に、それまで怖いほど向けられなかった場の視線が一斉に刺さる。

「……あれ?」

…その時一瞬ではあったけど、魔力の流れを感じたのは気の所為だろうか……?

私は不思議な魔力跡を探して、首を傾げた。


「彼女の助けがなければ、

町は多大なる損傷を負うところだった。

彼女の働きに見合った謝礼として……

“住居”“地位”そして“権利”を与えたい」


しかし、私が魔力反応の原因を見つけるよりも先に、コンドは話を進める。


“住居”“地位”“権利”……。

謝礼の内容を聞いた途端…ざわっ、と空気が揺れた。


「コンド様……その……」

「……どうした?」


慎重そうな軍師の一人が控え目に手を挙げると、

彼はその軍師に発言を許す。


「この帝国での暮らしを考えているのならば、仕事…

つまり、彼女に"役職"を与えるのも必要な事かと…」


「……あぁ、勿論"それ"も考えていた」


軍師の言葉を聞くと、

コンドは再び会場全体へ向けて言葉を放った。


「我ら英雄は民を守るため、常に優秀な逸材を求めている。

そこで……」

───その瞬間だった。


コンドが発言し終えるよりも早く、英雄全員(みんな)が立ち上がり……"青薔薇の紋章"が輝く黒いカードを、揃って掲げる。


「彼女を……帝国軍へ推薦する」

『?!』


続く彼の言葉に、誰もが息を呑んだ。




でも、肝心の私は……


「……?、?!え?」推薦…?

それに、何だろうあれ……?皆の…名刺?

英雄達(みんな)が掲げるカードの正体……というかこの状況自体が理解できず、絶賛困惑中だった。


……いや、困惑しているのは私だけではない。

周りの軍師や貴族たちは驚愕に目を丸くし、

推薦された私よりもオーバーな反応をしている。


「なんと…!英雄様の推薦状とは珍しい…。

……む?!それも全員が…?!」

「ふむ……これは、さすがの私でも二度見するレベルだな。誰か私の頬を抓ってくれ」

「…ふむ、確かに…他国の者とはいえ、彼女の活躍は素晴らしいものばかり……。彼女が入隊を望むのであれば是非迎え入れたいところ…」

「英雄全員からの推薦……ははッ!

これは今後の躍進が期待できますな…」

「英雄殿がそこまでの期待を寄せる逸材ならば…

戦闘に疎い我々が口を出す必要は…無いな…」


……え?英雄全員?!

私も――驚きで固まるしかなかった。

だって聞いていない。

推薦の事は勿論だけど、五人全員(みんな)が私の為に推薦状を?!


『レ、レ、レ、レインッ!!

推薦状なんていつの間に……?!』

『会議の手紙が届いた(あと)すぐよ』


会議中に離れた席から直接聞く訳にもいかないので、

私の言葉をホノに届けてもらうと、レインもヴァルタを通して教えてくれた。

!、言われてみれば……他の英雄達(みんな)にも私の入隊について伝えるとか…言ってた気がする。


『ヴァルタに伝言を頼んだのは、この為よ。

貴方は帝国民じゃないから、正式な推薦が必要だったの』

レインは私を見て優雅にカードを揺らし、

悪戯っぽく微笑む。


『……私も、まさか全員が書いてくれるとは

思わなかったけれど、ね?』


彼女にそう言われて、私は改めて英雄達(みんな)を見た。

彼らの手中に光る青薔薇が、やけに鮮やかに見える。



「彼女は……カテドールフェアリーでも

力を貸してくれました」


コンドに続いて、

柔らかく口を開いたのはソフィアだ。


「瘴気による聖水の汚染は小さな事件でしたが…対処が遅れたら命に関わる問題になっていたかもしれない…。

あの里の巫女として、そして英雄として……

民の為に力を尽くせる彼女の入隊に、私は…賛成です」


その声は芯の強さが奥に見えて…

決して揺らがない彼女の想いが伝わってくる。



「町と里を救った……と言っても、

その実力は如何ほどのモノなのですかな?」

…しかしここで、

数人の意地悪な貴族達が水を差す。


「あぁ!この娘が子どもだからと

疑っているわけではないのですよ?」

「えぇえぇ、疑うだなんてとんでもない!

英雄全員(みなさま)から推薦状を授かる事ができるんですから、当然お強い筈です」

「期待できますねぇ…。"戦局を傾ける"ほどの力を持つ……のでしょうねぇ?」


性悪でねっとりした視線が、次々と私へ向く。

…あぁ……どうしよう。

…少しだけ、怖いかもしれない。

胸の奥がぎゅっと縮まり、

言葉が喉に貼り付いたみたいに出てこない。


「え、あ……そ、その……」

な、なんて言えば…。


初めて向けられた重すぎる不快な圧……。

それに押されてしまい、

私が思わず後ずさりしそうになったその瞬間――


────ッガタン…。

椅子が、鋭く引かれる音が響いた。


「――戦えもしない弱者は、口が達者だな?」

……リハイトだ。


彼が貴族に向ける表情は、もう“無関心”ではなかった。

代わりにそこにあるのは――露骨な嫌悪。


「はッ……くだらねぇ」

その声は、冷水より冷たかった。


「彼女は戦闘時、瞬時に作戦を組む能力に長けている。状況適応力は十分。

何より“生き残る力”があるんだ。

わかるだろ?それだけで、凡百の隊員より価値は上だと」


最後の一言には、殊更棘があった。


『ッ……』

貴族達はぎょっとした顔で固まる……が、

リハイトは相手の反応などどうでもいいとばかりに、

深い溜息を吐いて続けた。


「生き残るのに必要なのは、単純な力だけじゃねぇ。

状況に適応する頭だって必要だ。

……それくらい、わからねぇなら黙ってろ」


ひぇぇッ?!…完全に、性悪達(あいつら)の事見下してる!

というかリハイト…

なんか、いつもより辛辣じゃ……?


今の彼を見ていると、普段の態度が急に可愛く思えてきた。

あれでも牙を閉まってくれていたのね……

どうもありがとう これからもよろしく。



「……彼女の“観察力”と“学習速度”は、

私達が保証いたします」


不快感を隠そうともしないリハイトに戸惑っていると、次はアルテが立ち上がった。


普段は穏やかで、微風のような気配を纏う彼女。

……でも今は、その空気が変わっていた。

風の竜が人の姿を借りて話しているような――

そんな厳かさを放ちながら、アルテは性悪達(やつら)の席まで歩みを進めた。


「彼女は、決して努力を怠らない方です。

……能力不足を疑う必要などありません」


彼女の瞳が、静かに細められる。

竜眼の妖光が宿った視線には、怒りの熱が注がれ…

言葉遣いは普段と変わらず丁寧なのに、

それすらも…まるで刃みたいに鋭い。


「それに……

彼女は、敵の弱点を“一目で”見抜けます。

これは前例のない力…。

あなた方が想像できる範囲の話ではありません

……そうでしょう?」


アルテはそう言い切ると、改めて性悪達を()る。


「ひッ……そ、そうです…ね」

「わ、我らの出る幕なしでしたなぁ…ハハハ」

「えぇ…出過ぎた真似を失礼しました…」


するとその視線を浴びただけで、

彼等は情けない声を上げた。

彼女は、それでも少し……怒りを滲ませて(わら)う。


「ご理解いただけたようで。

ええ、本当に……嬉しい限りです」


『……。』

性悪達(やつら)はその笑顔にも気圧され、口を閉ざした。


…ンベェッだ!

人に意地悪するから怒られるんだぞ〜!

ざまぁご覧なさいッ!ふんっ!

私はそれを見て、すっかりいつもの調子を取り戻す。


リハイトが発する氷のような言葉と、

アルテが静かに乱れ吹かせる怒り――。

その二つは、私を守る壁みたいに思えた。


何より、英雄達(みんな)に認められている事が嬉しくて…

…二人共……ありがとう。

私は自信を取り戻せた。

今までの努力や想いは、決して無駄ではなかったのだ。



✿ ✿ ✿ ✿


その後も……

何人かは懲りずに難癖を付けたり、私の事を遠回しに貶したりしてきた。

でも結局、誰もが英雄達(みんな)の言葉に反論できず黙り込む。


そうして……

長い長い議論の末、私の入隊を反対していた貴族達が押し黙ると、次は階級の高そうな老軍師が口を開いた。


「その方が頭脳派……ならば、

偵察や観測部隊に所属させてはいかがか?」


どうやら この人は私の入隊に賛成してくれるらしい…。

まだ入隊できるか否かも決まっていないのに

所属先を提案してくれるなんて…!

…おじさん、いい人!



「偵察部隊と観測部隊……ね」

そう呟いたのはレインだ。


彼女は老軍師の提案した部隊の名前を繰り返すと、何かを考え込むように、軽く顎に手を添えた。


「おや…ほほっ。

既に他の所属先をご希望でしたかな?」


軍師が目を細め、冗談めかして笑うと、

レインは小さく肩をすくめて、私にちらりと視線を向けた。


「その子、結構高度な魔法が使えるの。

実戦経験が浅いから、多少足を引っ張るかもしれないけど…基本的にはどこでも活動できるはずよ」


彼女からの信頼が滲む言葉を聞いて、

私はニヤけそうになってしまう。……けれど、

会議の空気を壊す訳にはいかないので、必死に耐えた。


するとレインは言葉を続け……


「所属先は彼女自身に選ばせてみたい。

私はそう考えているのだけど……いいかしら?」


なんと、

私に"選択の自由"を与えてくれたのだ。



「ふむ……」

「問題ないでしょう」

「私は賛成です」

「いい考えかと」

他の軍師や隊員達はしばし考えたあと、深く頷いた。


「知者たる賢導者(あなた)がそれをお望みならば…

我々は従いましょう」


老軍師もそう言って微笑むと、

ゆっくりと立ち上がり…杖を床につく。


「では……この件が決定され次第、

事務所にて手続きを」

「えぇ。必要な資料は私が用意するわ」


レインが落ち着いた笑みを浮かべると、

周囲の将校達も安心したように姿勢を正した。


…ッ味方してくれてありがとうございます!

私は、胸いっぱいの感謝を込めて、

老軍師に深くお辞儀をした。

この場で直接言えない言葉は、ホノが届けてくれる。


「ほほほっ…」

すると軍師は、伝言係のホノを撫でながら、

目尻に皺を寄せて穏やかに笑った。


「我々は貴方を歓迎いたしますぞ、お嬢さん。

――どうか、己の道を恐れず進まれよ」


彼はそんな言葉を残すと部下達を引き連れ、

誰よりも早く会場から退出する。




「――彼女の入隊は、満場一致で承認された」


そうして老軍師が退出した後…

コンドは私の入隊を認めるとする宣言を、議場の隅々まで響く声で述べ、締めくくった。


「これより、彼女は我等帝国軍の一員。

異国の客人ではなく――正式な帝国の民となる」


しかしどうやら、その宣言を不満そうに聞く貴族…性悪達が、まだいたようだ。


「……議決後の口出しは一切認めない。

次の議題に移る」


リハイトはコンドの言葉に続いて、

性悪達を睨みながら告げた。



…あぁ…!何はともあれ、ようやくだ…!

「ッ……やった!」

私は自分の両手を強く握って、喜びを噛み締める。

スタート地点に立てた事。

それが、震えるほど嬉しかった。


✿ ✿ ✿ ✿


『てい……たんてい…探偵!』

「……ん?」


ようやく決まった入隊に、

私が胸を撫で下ろしていると、不意に聞こえてきたのはコンドの声……。


顔を上げると、

いつの間にか私の目の前まで来ていたレザーを経由して、彼の声が届いている事に気が付いた。


『この後も会議は続くけど、

君は一旦、待合室で休んでいてくれ。

あと、できればそこで所属したい部隊を決めておいて』


コンドからの言葉に、私は慌てて返事を返す。


『疲れたから休憩できるのは有難いけどさ、

私まだどんな部隊があるか知らないよ?』


──もちろん、ホノを飛ばして。


『それについては、大丈夫』


彼に声を届けると、

間を置かずに穏やかな声が返ってきた。


『待合室には“彼等”がいるからね』

『えっ?誰か説明してくれるの?』


『あぁ。僕から頼んでおいたから、

安心して行っておいで?』


それはすごく助かる。

『わかった!行ってきます!』


私はコンドに返事を返すと、彼の指示に従って

そっと席を立つ。



───すると、

「……?」

その瞬間、また"魔力の流れ(・・・・・)"を感じた。

それはさっきと同じ…私が会議中に探そうとした魔力だ。


誰かが魔法を使った……?

でも何の…?

私は魔力の出処が気になって周囲を見渡す……が、

やっぱり見つけられない。


…あぁ!

そういえば、レインの授業で

この現象について聞いた気がする。

確か……魔力を極限まで制限して運用すると、魔力跡を見つけにくくできるとか何とか……。


───つまり、これはかなり"凄腕の魔法い"が発動させた術である可能性が高い。


私は思考を巡らせながら扉へ向かう。

そして、そこでまた気が付いた違和感…。


……まただ…誰も私の事、"見てない"。


そう、こんなに一人堂々と扉まで歩いているのに、

私は周囲に"認識されていない"のだ。


「……あ!」

ッまさかこれって……!

私はある可能性(・・・・・)を導き出して、英雄達(みんな)の座る席を振り返った。

すると……


「あらぁ?どーしたの〜、ひよっ子?」

「ふふっ…早く行った方がいいんじゃないかな?」

「お前の出番は終わりだ。さっさと行け、半人前」


なぜか、レインとソフィア…

リハイトまでもが、私を見て笑っていた(・・・・・)

…なんでだ…三人とも、"今日一"楽しそうだぞ…。


困惑しながらコンドを見ると、彼も頷いている。

わ、訳が分からない……。


助けてアルテぇ…!

もう頼れるのは彼女だけだ。そう思い、最後の頼みの綱としてアルテに視線を向けた。


……が、

「あら……お部屋までお連れしましょうか?」

ッア"違うッ!そうじゃないッ!


「ッ魔法!"私に"使ってるの誰?!」


これが英雄達の内の誰の術なのか…

それが気になって気になって抑えきれず、

私は遂に自分の口から聞いてしまった。


「あら…自力で()分けようとしないの?ひよっ子」

「降参ッ!分かりませんでした!」


「んまァ清々しい」

「素直だねぇ……」


教えてほしくて頭を下げると、

レインはちょっと残念そうな顔をする。

彼女の隣でソフィアも苦笑していた。


レインに言われてもう一回…

「ッンむむむゥ……!」

頑張って視てみるけれど……

「ッ……ッんうぅ!色も形も視えないッ!」


薄い魔力は、まだ肌に纏わりついているはずなのに…

どうしても目視できなかった。



「…まぁ、時間はかかったけど……」

……すると、頑張る私を暫く楽しそうに見下ろしていたレインは、ようやく口を開く。


「これだけ薄い魔力反応に気付けた事は、

評価しましょうか」

「ギリッギリ合格(・・)にしといてやるよ、半人前」


彼女の言葉に続いて飛んできたのはリハイトの声だ。

彼は頬杖をつきながら

フンッ…と視線だけ私に向けてきた。


……ん?

…というか……え?今、合格とかって……え?


「……まさか、私の事試してたの?!」

思わず声が裏返る。


ッなんてこった!

皆から聞かされていないだけで、これもある種の試験だったのだ!

合格出来たから良かったけど、もし不合格判定されてたら…どうなってたんだろう?!

……あぁ!抜き打ちだなんて恐ろしいッ!酷いや皆!


「あはは…ごめんね探偵、君の実力が見てみたくて…

通常の試験より難しい事してみたんだ」


私が震えていると、コンドが謝りながら苦笑した。

その目は、ちゃんと私を信じてくれてたことを物語っていた。……けど、ゆるさないッ!

笑えば許されると思うなよ美形めッ!



「さてと……

試験官(リハイト)からの合格判定が出たことだし、探偵」


私が思いっきり皆を睨んでいると、

不意にレインが私を呼ぶ。


「な、なんでしょぅ?」

睨みすぎたかな…。


なんて反省しながら返事を返すと、

彼女は浮遊魔法で小さなカード(?)を飛ばしてきた。


「貴方にソレをあげる」

私が慌ててキャッチすると、レインはそう言って微笑む。


「使うかどうかは、"お前次第"だ」


カードを受け取った私を見ると、

リハイトは気怠げな態度でぶっきらぼうに言い足す。

……いや、それよりも

使い方教えてほしいんだけど…。


「えっと、これは……何?」

このカードが何なのか…

二人が教えてくれないので、また私から聞く。


するとレインは、少しだけ説明してくれた。


「それは"特別な部隊"に所属できる貴重なアイテムよ」

「待合室に行けば使い方、わかると思う!」


彼女に続いて口を開いたソフィアは、

扉を指し示して微笑む。

…なるほど、つまりこのカードについても

コンドが待機させてる人達に聞けばいいわけね。



「それ持ってさっさと行け、会議が進まん」


彼女の言葉を聞いて、私が再び会議室の扉へ足の先を向けると、リハイトが面倒くさそうに手をひらひら振る。


…ンッもぉリハイト!うるっさい!

行きますよ行けばいんでしょーッ!


私は改めて彼だけを睨みつけると、

扉目指して一気に会場内を駆け抜けた。



そして、ドアノブに手をかけ

扉を開いた――その時。


「……探偵さん」


背中に、そっと風が触れるような

静かな声が届いて…

……振り向くと、そこにいたのはアルテだった。



「ア……アル、テ…」


会議中なのにこんな所まで来ちゃっていいの?とか、

早く席に戻りなよ……とか、

言うべき事は頭に浮かぶのに、言おうと思えなかった。



今日、英雄としての皆を改めて見て…知って……

英雄(みんな)が、自分よりすごく遠くにいる事を痛感した。


いつか本当に…私の手の届かない場所まで皆が行ってしまったらどうしようとか……色々考えてしまった。

…そう、だから……ちょっと、物理的に、

離れたくないのだ。



私が暗い思考に沈むと、頬に……アルテの手が触れる。

「……?」

彼女が何をするつもりなのか…不思議に思って見つめると、不意に……

魔力の流れ(・・・・・)を感じた。



「……?」

…あれ…?魔力の…流れ……?



「……あ、」



その途端、私はようやく"視つけた"。

…大きな竜……翠の風を纏う、"(まりょく)"を。


「あぁッ…」

会議中……

私を包んで()()()()()()()()のは、やっぱり…

「やっぱり……(アルテ)だったんだね」

アルテだったんだ。



彼女の(まりょく)を視つけると、

私の視界は、一気に翠色へと染め上げられる。


会議室全体に淡い翠色の風がそよぎ、

空気そのものが光を帯びて……

竜が風と調和しながら、絵画のような軌跡で宙を舞う。



「…探偵さん」


彼女が、改めて私の名前を呼んだ。


「ッ……なぁに?」


応えると、風が一瞬だけ強く…まるで……

私を祝福(・・)するかのように、舞い上がった。



「入隊試験合格……おめでとうございます」


その声は風に乗り、耳ではなく心に、

直接届くような感覚だった。

透明で…静かで……

なのに、心を震わせるほどの力がある。



「!……ッうん!」


思わず胸が熱くなって、声が弾む。

自然と、笑顔がこぼれた。


アルテの風が、(まりょく)が、私を包んでくれる。



…そうだ……どれだけ遠くにいたって、

いつだって(アルテ)は…私を護ってくれた。


英雄(みんな)は、私を優しく迎え入れてくれた。

何があったって……私は、一人じゃない。




私、合格したんだ…入隊、できたんだ……

『……おめでとう』

あぁ……やっぱり、何度言われても嬉しい。


皆の仲間として認められた事……それを実感する度、

胸が高鳴りすぎて、言葉が震えてしまう。


私はレインから受け取ったカードをぎゅっと握りしめ、仲間達の視線に背中を押されるように――

待合室へ向かって走り出した。


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