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生彩放つ無神世界  作者: 美緑
〜第一章〜瘴廃国の少女
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風光る巡り逢い

───どのくらい目を閉じていたんだろう……?


魔物の鳴き声も、あれだけ眩しかった光も、手が焼けるような熱も、いつの間にか消えていた。

力を入れると体が動く……死んだわけでもなさそうだ。


…助かったの……?


恐る恐る目を開けると、

私の目の前には、青々と茂る緑の美しい大地が広がっていた。


「わぁ…!」


清々しいほど青く澄んだ空。柔らかな風が頬を撫で、どこかで小鳥のさえずりが聞こえる。


私は、いつの間にか木陰の中で横になっていたようだ。

さっきまでいた場所に比べれば、ここは天国と言っても過言ではない。


……でも、どうしてあの場所から逃げてこられたんだろう……?

と思っていると、ズキッと左手から痛みが走った。

……見れば傷口が紫色に変色している。うぅ、毒々しい…。


「あの魔物……容赦なかったな……って、あれ?」


傷を見ようと手を掲げると、

まだあの時計があることに気がついた。


「まさか……この時計の力?!」


私は自分を包み込んだあの熱い光を思い出して、時計を見つめる。

これはただの装飾品ではないのかもしれない。


だとしたらコレ、

もしかして…すごく高価なものなんじゃ……?!

この時計の持ち主がいたら怒られそうだ。

いや、まぁ…

あんな所で暮らしてるわけないか……ない…よね?


持ち主には悪いが、もしあの場所にいるとしても、

時計を返すために命をかけて戻るなんて絶対にイヤだ。

……そもそも戻り方がわからないけど。


とりあえず…捨てるのも忍びないので一応捨てないでおこうと、時計はポケットの中に入れておくことにした。



死の危機から逃れることはできたが……

やはりこの場所も見覚えがない。


「……これからどうしよう」


時計に願いを叶えてくれる魔法がかかっているなら、ここは私でも生きていける場所なのだろう……。

辺りを見渡しても、今のところ近くに魔物や危険生物はいなそうだ。


しかし、いくら安全な場所でも一人だと心細い。

…そういえば、ここは私の他に人がいるのかな?

それも確か願ったはず……。

私以外の人が…生き物がいるなら……探そう。


一人では生きていけない。

私がそう判断して、人を探す為に移動しようと立ち上がったその時——


───ガサッ……ガサガサッ

…と、背後の茂みから物音がした。


何かが……こっちに近づいて来てる?!


──ガサッ、ガサガサ…ッガサ……


油断していた……。

時計が願いを叶えてくれるなんて私の思い込みで、ここにも危険があるかもしれないのに。

もし……魔物より怖いやつだったらどうしようぅ?!

…なんて考えながら私が身構えていると、茂みから白い布がひらりと出てきた。


ゆらり…ひらひら……


風に揺られて動くその布がお化けのように見えて——


「ひっ!」

私は反射的に後ずさって足が絡まる。


「あわっ、わわわ——ッ!」


そして盛大に転んだ。空が回って目も回る。

ああ……地面が冷たい。

ひっくり返った私の視界は逆さまだ。


「……大丈夫ですか?」


なんともおかしな体勢で地面に転がっていると、不意に声をかけられ、私は慌てて体を起こす。

今の、人の声だ……!


期待と希望を胸に声の主を見上げると、

さっきまでお化けだと思っていた布が、声をかけて来た相手のマントだと分かった。


「あ……」


茂みの中にいたのは魔物でもお化けでもなく、白いマントを纏った少女だった。


髪の生え際だけ暗い白翠色の髪と、ペリドットのような瞳…。

木漏れ日が彼女を照らし、まるで森の精霊のように——

いや、本当に人外の存在なのだと、尖った耳が物語っていた。


彼女をお化けと勘違いしていた自分が失礼すぎて恥ずかしい……。

少し気まずくなって、私は目を伏せた。


……でも、私以外の人が本当にいるなんて! 時計さん……!! ありがとう!!

私は人に会えた事に感激して、心の中で何度もポケット内の時計に感謝する。

人に会えただけで、今までの不安が吹き飛んだ。

私の心は軽やかに跳ね、時計への信頼度も跳ね上がった。

これは大切に保管しなければ…!


……なんて、心の中で大はしゃぎしていた私は、

少女に声をかけられたことをすっかり忘れていた。


「あの……」

とさっきよりも心配そうな様子で私を見ている彼女に声をかけられ、そこでようやく私は「はっ!」と我に返った。


「だ、大丈夫!」

一体何に対しての大丈夫なのかは自分でもよく分からないが…できるだけ心配されないようにと、大袈裟に首を振る私を見て、彼女は安心したのか少し表情を緩めた。


「……。」

……しかし、すぐにむっと拗ねたような表情で、私を諭すために彼女は口を開いた。


「飛行術が安定していない内に空中散歩するのは感心しません……危険ですから、次はお気をつけくださいね」


「え?……空中散歩? わ、私が?」


予想外すぎる彼女からの注意に驚き、声が裏返った。

…空を飛んでたの? 私が?

いや……何で?どうやって?

意識が無いときに飛ぶなんて、私って……びっくり人間なのか?!


指摘された事を理解できず、私が驚いていると、

彼女も同じように驚き……コテンと首を傾げて言った。


「覚えていないのですか……?

空に大きな魔法陣が現れて、そこから貴方が落下してくるのを確かに見たのですが…」


空に、魔法陣……?

はっ…!もしかして時計の? 移動するにしても空から落下って……危なすぎる?!

よく分からないけど、時計への信頼度が下がった。…すごく下がった。


あれ? でもそれなら……

「何で私、怪我してないんだ?」


上空から落下したなら、怪我の一つぐらいしていてもおかしくないはず……。


「——いッ……!」

左手の傷がまた痛んだ…けど、

……体のどこを見ても、魔物にやられた傷以外に新しい傷は見当たらない。


不思議そうに自分の体を見回している私を見て、彼女は可笑しそうにクスッと笑い——


「誰かを見殺しにするほど、私は冷たくないですよ」

と言って、痛がる私の左手に自分の手を重ねた。


「…?」

何だか痛みが和らいでいくような……気がする。


「君が……? 助けてくれたってこと?

でも……どうやって?

落下してる私をキャッチ……なんてできないよね? 魔法……とか?」


魔法陣があるなら、魔法も珍しくはないはず……。

私が思いつくまま質問すると、


「ええ、魔法です。

さすがに落ちてきた貴方を素手で受け止める……などという離れ業……私にはできません」


と私の質問にゆっくり答えながら、彼女は私の左手に包帯を巻いてくれた。

もうほとんど痛くない。

不思議だ…。これも魔法なのかもしれない。


「今みたいに、落下した時の傷も魔法で治してくれたの?」


私が聞くと、彼女は首を横に振り、

少し申し訳なさそうに言った。


「……いいえ、これはただの"おまじない"です。

私にできるのは、少し…風を操ることぐらいですから」


聞けば彼女は遠くから風魔法で私を受け止め、自分もここに急いで駆けつけて来たと言う。

だからさっきこの子は茂みから出てきたのか……。


「見知らぬ私のこと、助けてくれるなんて……君は優しい人なんだね…」


空から落下する素性の知れない初対面の変人を迷いなく助けるなんて……。

きっと、彼女はすごく親切な人なのだろう……。

と、私が尊敬の眼差しで彼女を見ると、

彼女は……何故か少し、表情を曇らせた。


「それはどうでしょう……。

誰かが困っていれば、助けるのは当然のことですし……私はただ、風で貴方を受け止めただけですよ」


人一人の命を助けたのにも関わらず、謙虚すぎる彼女の言葉に私は戸惑った。

魔法なんて使えない私からすれば、風を操ることだってすごいことだと思うけど……。



あ、そういえば…。

私は彼女の反応を不思議に思いながらも助けてもらったお礼を言い忘れていたことに気がつき、慌てて頭を下げた。


「それでも私のこと……助けてくれた。

ありがとう!……君は命の恩人だよ!」

「え……」


しかし、彼女は私の感謝の言葉を聞いて……何故か驚いたように目を見開いた。

そして困惑しながら——


「い、いえ……恐縮です……」

と、ぎこちなく返答した。


あれ? なんでだろう……まるで……初めてお礼を言われたような……?


微妙な反応をする彼女を不思議そうに私が見ていると、不意に彼女は空を見上げて——


「えっと…私だけではなく……

あの子も貴方を助けてくれたんですよ」

と言い、私にも空を見上げるように促した。


あからさまに話を逸らされたことには触れず、

私も空を見上げると、上空には白い鳥が一羽飛んでいた。

よく見るとキラキラと輝いていて、普通の鳥ではないことがわかる。


「あれは……?」

私が首を傾げて聞くと、彼女は——


「私の精霊です。魔法を使うには、精霊や使い魔の相棒が必要なので」

と答えた。


「精霊の…相棒……そうなんだ」

それなら私は、どっちもいないから魔法は使えないのかな……。


私が残念そうに肩を落とすと、

彼女はそんな私を見て口を開く。


「やはり……貴方は異国の方のようですね」

「異国……?」

記憶がないだけではなくて、ここは私の出身地でもないのか……。


となると、あの場所が私の……?

それは……なんかヤダな…。


「……ええ、魔法や精霊、使い魔の知識はこの国で一般常識ですから」


私が瘴気に満ちたあの場所を思い出して落ち込んでいると、彼女はそう言いながら、空にいる自分の精霊を呼び寄せた。

そして手に精霊を乗せると、精霊と共に深く一礼して、私に丁寧な挨拶をした。


「…自己紹介が済んでいませんでしたね。

はじめまして、異国の方。ここはエデンカル帝国。

私はこの帝国の民、名は"翠嵐"といいます。……知人には渾名で"アルテ"と呼ばれているので、お好きな方でお呼びください。

そしてこの子は翠羽といいます。どうぞ以後お見知りおきを」


私は彼女の洗練された美しい動作につられ、一礼した。


私もすぐに名乗ろうと思ったのだが——


「うん! よろしく……えっと、アルテ! 私は……」

あ……私、自分の名前も忘れてたんだった……どうしよう…。


なにも思い出せない。


記憶喪失のことをアルテに話すべきかな…?

私も名乗らないと無作法だよね……。

と思ったが……

私が挨拶を長々と途切れさせたせいか、翠羽がアルテにちょっかいを出し始めた。

うーん……タイミング逃した。



「えっと……何だか二人とも名前が似てるね?」


仕方なく挨拶を中断して私が聞くと、アルテは——


「自分の精霊や使い魔には、名前を授けることができるのです。私はこの子に自分と似た名前を付けていますが、もちろん契約主と全く違う名を持つ子も珍しくはありませんよ」

と翠羽を撫でながら教えてくれた。


『ぴぁッ!』


たくさん撫でてもらったからか、満足そうな顔をして翠羽は空へ飛び立って行く。


「そうなんだ……いいなあ……私も魔法が使えたらな……」


戯れ合う二人を羨ましそうに見て私がそう言うと、アルテは心配そうに聞いてきた。


「……使い魔もお連れではないのですか?」


彼女曰く……他国でも魔法は珍しくないそうで……。

精霊を知らないだけでなく、魔法まで使えない、魔法に無知すぎる私が心配になってきたらしい。

あ……今が切り出すタイミングかな…。

私はそこで、今まで起きたことを彼女に説明することにした。


「実は……」


✿ ✿ ✿ ✿


……私の長話を聞いて、

アルテは「信じられない……」と驚きながら教えてくれた。


「貴方がいたというのは、やはり……他国で間違いありません……。ですが……瘴気がそこまで満ちているのは、殆どの生き物が生活することのできない過酷な地……"瘴廃国"しかありません。そんな場所で眠っていたなんて……貴方は見たところ人間ですよね? なのにどうして…」


そう言いながら深刻そうな様子で考え込むアルテだったが、すぐに顔を上げ、私の目を見て言った。


「とにかく……。

今日は貴方の宿を近くの町で探しましょう。私も協力します。この国も魔物はたくさんいて……日が落ちた頃は特に……危険なので」


町に案内してくれる上に、宿まで一緒に探してくれるのか!やっぱり優しい……いい人に会えたな…。

これが優しさでないのなら何と言うのか……と思い感動しかけた私だったが、アルテの最後の言葉を聞き逃さなかった。


「うっ……ここにも魔物っているんだ……」


「えぇ。かなり……沢山います。

なので逸れないように、私にしっかり付いて来てくださいね、異国の方」


「……かなり……たくさん……か……」


私を不安にさせないためなのかは分からないが、たまにアルテが言葉を濁す。

逆に不安になるから……ストレートに伝えてくれてもいいんだけど……。


やっぱりここも安全な地ではないようだ。

時計への信頼度がまた下がりそうになった……が、


……アルテと翠羽に出会わせてくれたから…

…今回はいいか。


私はようやく立ち上がり、アルテに連れられ、見知らぬ地を歩きだした。

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