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生彩放つ無神世界  作者: 美緑
〜第四章〜帝国軍
29/89

英雄

帝国軍の大広間には、身なりのいい貴族や有権者、そして各部隊を代表する隊員達がずらりと並んでいた。


ざわざわとした空気が胸を押しつぶしそうになる中…視線が自然と、最奥に座る五人へ吸い寄せられる。


─────"神域の五英雄"。


…どうしてだろう。

この場にいる誰よりも若いはずなのに、背負っているものの重さが、周囲を歪ませているように見えた。


聞いた話では、彼らは帝国軍で最高位とされる――元帥、でもあるらしい…。

そもそも"帝国軍"という巨大な仕組みそのものを創り上げたのも、彼らだという。

それを知った途端…

胸の奥に、ざらりとした疑問が生まれた。


あんなに位が高いのに……なんで、帝国やこの国の民に振り回されてるの?どうして従うの?どうして傷つけられてまで戦い続けるの?

どうして…?

皆が苦しまないといけない理由が……

この帝国にあるの?


気になってしまったら、もう、止まらなかった。

だから会議が始まる直前――

私は勇気を振り絞って、英雄たちへ声を掛けた。



✿ ✿ ✿



「どうしてって……

普通に、皇族ども()から下命されてるからだよ」


私の感じた疑問を全て投げかけると、誰よりも早くリハイトが肩をすくめながら答えた。


「俺達は、ただ生きるために戦い、帝国を守る。

……それだけだ」

ぶっきらぼうなのに、その声には…どこか諦めの色が滲んでいる。


「まぁ、そもそも力のある私達が戦わなければ、

帝国(エデンカル)は一瞬で瘴廃国になってしまうし…

民がいなければ、国が回らない…」

するとその横でレインが静かに続ける。

彼女は凛とした表情をしてるのに、心の奥底にある疲れをごまかせていなかった。


「英雄であるが故に…強さを示さないと立場も居場所も失うからね。帝国全土を守らないといけないのは確かに大変だけど……この(せかい)を投げ出してまで英雄の役目を放棄したいとも思えないし」


二人の言葉が、思っていたよりずっと重くて……

胸がきゅっと縮む。


「じゃあ英雄が帝国のために戦ってる理由って……やっぱり“自分達がやるしかないから”…それで、仕方なく……ってこと?」


私の問いに、アルテがそっと右手を持ち上げる。

そこには、あの鮮やかな紋章――

"英雄の証"が刻まれていた。


「この星で生きるには、戦い続けるしかない。

それが、私達に課された運命なんです」

彼女の長い睫毛が震え、俯いた横顔がほんの一瞬だけ弱々しく見えた。


戦っても傷付く…けど、戦わないと帝国が…ヘタしたら(せかい)が潰れてしまう……。

だから生きる為には戦うしかない……。

そんなの……そんなのって…!


「ッでも……おかしいよ!」

気づけば、私の声は震えていた。


「だって…皆、まだ子どもなのに……!

子どもが働くのが当たり前の世界なのは知ってる、でも……だからって! 英雄(みんな)が都合のいい道具みたいに扱われるのは絶対おかしい!

どうして…なんで大人たちは助けてくれないの…?」


するとその言葉に、

英雄たちの表情が一斉に陰る。

───それはまるで、

触れてはいけない部分に触れたみたいに…。




「強い者が弱い者の上に立つ……それが帝国(エデンカル)


……長い沈黙の後、

ソフィアが静かに前へ出た。

彼女は両手を握りしめて、苦しそうに言葉を紡ぐ。


「そんな国で最も強い存在とされる英雄(わたしたち)が“弱者”だと思われたら……人権すら危うい。

たとえどれだけ身分が高くても、"英雄"という勲章を持つ限り、私達は帝国の兵器。

力を奮わず、民に…大人に頼ったら……結界維持の魔力資源にされる。それこそ人柱(道具)として扱われるだけなの……」

そう言いきった彼女の声音は、震えていた。


「……それに、

そもそも大人より僕達の方が強いからね…」

続いて、コンドが控えめに口を開く。


「でも…英雄以外に、帝国を守る戦力…

僕等が頼れる人達が全くいないわけじゃないんだ。

嘗て帝国の友好国だった国民や、周辺の国で運良く生き残った“頼れる人達”もいるし、"英雄に理解ある人"も……少しだけどね」


“頼れる人達”、"英雄に理解ある人"……。

そんな存在がいる事を聞いて、私は少しだけ希望を見出す。……が、


「けど残念ながら、僕等がいないと成り立たない」

続くその言葉に、肩を落とした。

彼の笑顔は優しいのに……どこか寂しげだ。


「僕達にしかできないから、

仕方無く…って探偵の言葉は適切かもね」


「身分がどうとか関係なく、

英雄は英雄っていう扱いなんだね……。

それに、帝国軍って…大人も子どもも、

英雄じゃない人もごちゃ混ぜで……

そんな状態で邪神に挑むなんて……」

皆の話を聞いて、私は言葉を失った。


すると私の心を視たのだろうか……


「邪神に挑む事……」

アルテは静かに…そして、淡々と言う。


「それがどんなに無謀でも、やるしかないんです」

その表情は、無色透明みたいに感情が見えなかった。


「この星で生きるために…私達は戦い続けるのです。

逃げ場も、代わりも……何処にもないから」


その顔は――

初めて会ったあの日と同じ。

壊れた感情を隠して、ただ立つためだけに感情を捨てたような……全てを諦めてしまった痛々しい顔。


あぁ…この子達は、

今までどれだけ傷ついてきたんだろう…。

胸が……ぎゅっと痛む。



「私達が帝国の為に戦う事…。

それが当たり前だからこそ…皆、貴方の言葉に救われたんですよ」


俯いた私に、アルテはそっと…微笑んだ。


「民から感謝の言葉すらもらえず、命をかけて戦い抜いても、活躍を認められないのは……

案外…苦しいものなので」


「ッ……」


無理して笑顔を作る彼女を見て、

私は小さく息を呑んだ。

そうだ…そうだった……あぁ…嫌になる。

英雄って……なんて残酷な立場なんだろう。


私は嘗て、アルテが幼い頃"視てしまった"という民達の心の声を思い出した。

『力のある英雄が困っている民を助けるのは、やって当然、できて当然…。

英雄が使命を果たす事に対して、感謝する必要はない……それは当たり前の事だから。

どんなに危険な仕事も、英雄ならば片付けられる。

どれだけ幼い子供でも……”英雄"であれば…』


……この帝国(くに)は腐っている。


逃げ道のない場所(せかい)で戦い続けるなんて、苦行という言葉じゃ足りない。

痛みや辛さに慣れてしまった彼等の心と身体は、どれだけの傷が残り続けているのか……私には想像もできなかった。



帝国を……変えなきゃ。民の考えを改めたい…。

でも……どうしたら…?


この帝国の手遅れな現状に向き合うと、

私は強く打ちのめされた。


このままじゃ、だめなのに……何ができるの…?

私なんかに……彼らを救えるだけの“力”なんて…。

考えれば考えるほど、

改めて自分の無力さを痛感させられ…

……そして、思い知らされた。

計画もないまま飛び込んだ己の愚かさを。

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