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生彩放つ無神世界  作者: 美緑
〜第四章〜帝国軍
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覚悟の重さ


帝国軍本部の正門をくぐった瞬間、空気が変わった。

さっきまで聞こえていた賑やかな王都のざわめきが、分厚い壁の向こうへ置き去りにされたみたいにスッ…と消えていく。


中は静かで、やたら広くて、

石の壁も床も冷たそうで――

なんか、こう……ちょっとした牢屋みたいに感じる。


…ここ嫌いだな…息が詰まる…。

私は緊張で肩をすくめながら、施設内をキョロキョロ眺めた。

すると……


「よく来てくれたね探偵、久しぶり!」

背後から、聞き覚えのある声に呼び止められた。


「あ!コンド!」


振り返ると、コンドが軍服姿で手を振っていた。

その姿が妙に似合っていて、何故かちょっと誇らしい気持ちになる。


「久しぶりぃ〜ッ!!」


アルテほどじゃないけれど、コンドにもなかなか会えていなかった私は、その反動で、嬉しさのあまり彼の手を上下にぶんぶん振って握手してしまった。

皇族に対して、ここまでフレンドリーに接することができるのは、きっと私ぐらいだろう。


「はははッ…君は相変わらず元気だなぁ」


別に誇れることではないし、寧ろ不敬だと突き放さないコンドの優しさに感謝すべきなのだろうけど……友達と親しくする事はやめられない。

それに……


「やっぱり……探偵といると、元気になれるよ」


心做しか嬉しそうにコンドが微笑むので、やっぱり調子に乗ってしまうのだ。

皆も私の事を、大事な友達だと……そう思ってくれているんじゃないかって。



そのまま暫くコンドと言葉を交わしていると、不意に……ソフィアがそっと私の横に寄ってきた。

彼女は眉を下げたまま、心配そうに私を覗き込んでくる。


「ねぇ…探偵さん、その……ヴァルタちゃんから聞いたけど…帝国軍に入りたいって…本気?

説明してなかったけど、帝国軍ってね、私達英雄が核になってる組織なの。

…つまり隊員の役目は、英雄達(わたしたち)が向かう危険な任務に同行して、その任務を手伝う事なんだよ……」


言葉の重さに合わせるように、ソフィアの手が胸元でぎゅっと握られる。

その仕草が、どれだけ“本気で止めようとしている”のかを物語っていた。


「…最悪、戦闘で死んじゃう隊員も少なくない……。だから相当な覚悟が無いと、辛い……と思う…」


彼女は私の答えを待つように、じっと目を合わせてくる。

その優しい瞳に反射して、私の胸がちくりと痛んだ。


…そういえばレインも言ってた。

帝国軍人は命懸けの仕事だって……。

英雄が危険なのはわかってたけど、それは行動を共にする隊員だって同じだよね……。


「探偵さんは、" 瘴廃国から来た "という

特殊な経歴を持っています。ですが……」


納得しかけたところに、今度はアルテが静かに一歩近づいた。

さっきまで柔らかく微笑んでいた表情が、真剣そのものになっていく。


「今からでも、"この帝国の民"として、平凡な暮らしをすることもできるんです」


彼女はそう言いながら、そっと私の手元に視線を落とした。

それはまるで “貴方は安全な場所にいてほしい” とでも願うような……そんな優しい目だ。


「貴方はまだ……

"普通の女の子"として、生活できるんですよ?」


普通の生活……。

それはなんて魅力的なんだろう…と、私は目を閉じ考える。

すると、アルテは言葉を続けた。


「それに……この星の事情を知ったばかりの貴方が、この帝国の為にここまでする必要はないはず…。

……それでも尚、危険な道を選ぶのですか?」


彼女の目はどこまでも真剣で、どこか痛みすら含んでいた。ソフィアも胸に手を当てて不安そうにしている。リハイトとコンドも黙ったまま……だけどどちらも、私の返事を待っていた。


この瞬間、空気がぴたりと止まる――。



……でも、ずっと前から、答えは決まっている。



「私にとっての幸せは…

確かに、普通の暮らしかも」


私は息を吸って、

胸の奥で考えていたことをゆっくり言葉にした。


「でも……英雄(みんな)の支えになりたい!とか、

英雄(みんな)の幸せを願いたい!って気持ちの方が……もっと、ずっと強くて」


口にして初めて気づく。

自分がどれだけ“英雄(みんな)と生きたい”と思っているのか。


「……だからね、きっと…この先、どんなに辛くても、苦しくても……私、逃げないよ。

なんの苦労もしてない私だけが“普通の暮らし”を選べて、英雄(みんな)は選べないなんて……そんなの絶対イヤ」


言い終えると、四人がぽかんと口を開けていた。

私はニッと笑い返す。


「ッ…私は……私達は……」

一番強く反応したのはアルテだった。

彼女は人の心の中まで視える。

だからこそ、私の言葉に嘘偽りなど無いと……わかってくれるはずだ。


私は緊張しながらアルテの言葉を待つ。

すると少しの間を置いて、彼女は小さく息を吐いた。


「…私達は、隊員の命までは守れません。

どんな時も、民の命を優先する為……守れなかった隊員は大勢いました…」


アルテの声は震えていなかった。

……けれど、


「…もし、先の未来が…運命が、最悪な結末だと確定していたとしても…喩えそれが変えられないとしても……立ち上がれますか?」

その目の奥に、

過去の光景がちらついている気がした。


彼女はまるで……

実際にそれらを見届けた経験があるかのように、かなり…悲痛な表情をしている。


「言葉で言い表せないほど苦しい別れが何度あろうとも……残酷で、救いがなくて…夢も希望も残せない……護りたい人を、誰一人救えない事があっても…。それでも……貴方は、この道を選んだ事を後悔しないのですか?」


アルテの並べた最悪の例は、

聞くだけでも震えが止まらない状況だった。


─────でも…


「……うん、勿論!」


───答えを変えるつもりはない。


「あの時アルテに救ってもらった命を、そんな簡単に手放さない。それは約束する。

でも、私は英雄(みんな)の力になりたいんだ!

一人だけ平和に、のうのうと生きていくより…後悔しない…!…絶対に!」


私は笑顔を崩さず、続ける。


「それに私……決めてるんだ。

皆を助ける為、幸せを届ける為になら……何処までも…喩え、ええと……あ!足がなくなって走れなくなっても!這いつくばってでも追っかけるから!」


「ッソレは ただただ恐ろしいわ……!」


最後の最後で言葉選びに失敗した私は、リハイトのツッコミを食らった。

でもそのおかげで、場を少しだけ和らげる事ができた。


「その強さと素直さ…

何度見ても、見習いたいものです…」


アルテは手で口元を押さえながら、

困ったように笑う。

そして……


「…えぇ、いいでしょう。

その覚悟、私達"神域の五英雄"が見届けます」

「アルテ…!」


彼女は、私の入隊を認めてくれた。

それが嬉しくて……胸の奥がぱっと明るくなり、熱が一気に広がった。


けれど——。


「しかし――」


…どうやら、話はまだ終わっていなかったようだ。

その一言とともに、アルテはコツ、コツ、と静かな足音を響かせながら私の方へ歩み寄ってくる。

近づくにつれ、さっきまでの優しい笑みは消え、瞳の色がすっと引き締まった。

──

音も無く空気が変わったのを感じて、

思わず背筋が伸びる。



「入隊に関しては誰であっても特別扱いはしません」


目の前に立ったアルテは、

真剣そのものの表情で私に告げる。


「貴方にも例外なく、他の入隊希望者と同じ"入隊試験"を受けてもらいます」


「し、試験…?」


思った以上に声が上ずり、私は自分の胸に手を当てた。

アルテはその反応を静かに見つめ、一つ頷く。


「えぇ。ある程度の力を持っていなければ、入隊できたとしてもすぐに命を落としかねませんからね」

言いながら、

アルテは袖口の影から小さな銀色の鍵を取り出した。


光を受けてきらりと輝くそれを、両手を添えるように優しく持ち、私へ差し出す。

彼女の指先が触れた…その瞬間、なぜか胸が強く跳ねた。


「……わかった」

私は息を飲み、震えそうになる手を必死に押さえ込みながら、その鍵を受け取る。


「試験だろうとなんだろうと…私、絶対合格するよ!

それで…え〜と…この鍵は?」


でも鍵の使いどころが分からなくて早速首を傾げた。するとその問いに、リハイトが答えてくれる。


「試験会場の鍵だ。

部屋の中には試験用の魔物が常に待機してる。

だから鍵付きなんだよ」


彼に指し示された試験部屋の扉は、確かに…

異様に頑丈で……

もうすでに危ない空気が漏れてきていた。

まるで「入るなら覚悟を持て」と無言で訴えているみたいだ。


た、倒せるよね……? 一人でも……。

喉の奥が勝手に鳴る。

緊張で胃がひゅっと縮み、体温が一瞬下がった気がした。



「探偵さん……なるべく怪我せず、頑張ってね……」

横からソフィアの細い声。


彼女はぎゅっと両手を握りしめ、唇を噛んでいた。

その震える瞳が、逆に胸を締めつける。

アルテは静かに手を胸の前で組んだまま、祈るような姿勢で私を見守り、リハイトは腕を組み、眉間に深い皺を刻んでいる。

コンドに至っては視線こそ優しいが、何か言いたげに拳を握っていた。


四人の思いが、温かいのに重くて……

背中をしっかり押してくれる。


「スウゥゥッ…」

私はゆっくりと息を吸い、

肺がいっぱいになるまで満たした。



「……私達は、貴方を信じます」


扉の前に立った瞬間、アルテがそっと歩み寄り、

静かにそう言った。

それは柔らかい声なのに、芯があって……

胸の真ん中にストンと落ちる。


「うん!大丈夫……!

私の覚悟が口だけじゃないって、証明するから!」


振り向いて笑うと、皆の目がわずかに揺れた。

少しは……私の気持ちが伝わったのだと思う。




─── カチリ…。


勇気を振り絞って鍵を差し込むと、錠前が外れ、重い音が響く。

心臓が一拍、大きく跳ねた。

私は勢いをつけ、扉を押し開ける。


――ギィィ……ッ!

その瞬間、内部から冷たい空気が流れ出し…肌を撫でていく。

薄暗い闘技場のような室内の奥で、何かがうごめく気配がした。



「行ってきます…!」

私は一言そう叫ぶと、試験会場へ飛び込んだ。


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