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生彩放つ無神世界  作者: 美緑
〜第四章〜帝国軍
24/89

帝国軍からの手紙

あれから数ヶ月。

私はレインの“正式な生徒”として、魔法漬けの日々を送っていた。

それは、まるで地獄のような……でも確かに“生きている”と感じられる環境…。



朝から晩まで座学と実技を詰め込み…魔力の流れ、術式、自然力の扱い、詠唱の意義、使い魔との連携、古代魔法に戦闘補助魔術……あらゆる魔法の知識を、骨の髄まで叩き込まれた。


レインは、優雅な見た目とは裏腹に、鬼より鬼だった。

「探偵、違うわ。

魔力の流し方が甘い。最初からやり直し」

「魔力使いすぎ、これじゃ十分も持たないわよ」

「はい次、詠唱二十回。噛んだら倍よ」

「気を抜いたわね?ホノごと吹き飛ぶわよ!

集中しなさい!」

「さぁ立って。倒れてる暇なんてないわよ」

…一日中これである。


どの授業も休みなし、容赦なし、甘えなし。

私は何度も魔力切れで倒れたし、魔力過負荷で鼻血どころか口から血を吐いた日もある。

てる坊よりもドロドロな酷い顔になって、立ち上がれず床に沈んでいたら、レインは溜息を吐きながら髪をかき上げて言った。


「……まだいけるわ。立てるでしょう?」

その声だけで、なぜか本当に立ててしまうんだから不思議だ。


もちろん、レインが無理を強いているわけじゃない。

彼女は私が本当に限界を超えると、真顔で淡々と治癒魔術を施してくれた。

「はい、治った。再開よ」

「え、えぇ!?い、今治ったばかりなんだけど……」

「治ったなら問題ないでしょう?」

……休む暇は与えてくれないけど。


でも、どれだけ厳しくされても不思議と嫌じゃなかった。

なぜなら――レインはいつも、私の努力に本気で向き合ってくれていたから。

詰め寄るような視線も、鋭い注意も、全部“ちゃんと見てくれている”証拠だった。

私は“彼女の二番目の生徒”を目指している。

なら……挫けてなんかいられない。

毎日ふらふらになっても、時々意識が遠のいても…


『モキュキューッ』

「嫌だぁ!まだ休む、もうちょっと!」

『モッモッモッ!』

「ホノオォォォッ」

ホノに引きずられてレインの授業に運ばれる日があっても……。


それでも、心のどこかはずっと熱かった。

だって、帝国戦力の頂点に立つ英雄のひとり、

"レイン・スレッド"から魔法を叩き込んでもらえるなんて、普通はまずあり得ない。

…贅沢なんて言葉では足りない。

こんな環境で文句なんて、あるわけがない。

私は、この日々を誇りに思っていた。


✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿

その日も、いつも通り。

私はレインと一緒に、屋敷の練習場で初級魔法の反復練習をしていた。

すると――。


「レイン様、お届け物です」

スレッド邸の使用人さんが、深い藍色の封筒を両手で抱えて現れた。


「探偵、受け取ってきて」

「はーい!」

レインに言われるまま、私は手紙を受け取る。


「わぁ……!高級そう……」


手に取って眺めると、封筒は夜空のように美しく、細い銀の装飾がきらりと光っていた。

紙の知識はあんまりないけど、素人でも触るだけでわかる。これはいい紙だ。


「……探偵、開ける気あるの?」

私があまりに見惚れているものだから、レインが呆れた声で言った。


「えー…だって綺麗だから……つい…」

なんて言い訳も虚しく、彼女は無言でレターナイフを抜くと、容赦なくスパッと封を切った。


───ザシュッ。


「イヤァッ!ちょ、いまの音ッ?!

レイン、そんな雑に……!

かわいそうでしょこの封筒が!」


「見た目は綺麗でも内容は綺麗じゃないもの」


まだ読んでもないのに内容の事を断言されたので、私は思わず頬を膨らませた。

「なんでわかるのさ!」


するとレインはすぐ答えた。

「だってそれ、帝国軍からの手紙だもの」

「――て、ていこくぐん?!」

嘘でしょ…。


私はその言葉を聞いて、固まった。

レインは英雄だから、帝国や軍から手紙が届くのは不自然じゃない……。なのに、なんでこんなに不安になるんだろう。なんだか嫌な予感がする。


「内容、読み上げましょうか?」

冷や汗をかく私とは対照的に、レインは落ち着いたまま、すらすらと内容を読み上げる。


すると…その中に、

“瘴廃国から来た客人”という項目が

ばっちりあった。


はい、嫌な予感的中〜!やったね☆

「……ッじゃなくて!

なんで軍が私のこと知ってるの……?!」


「私達は貴方の事、一切報告してないけど…

英雄は常に何処からでも見張られているようなものだからね…。完璧に隠す方が難しいのよ」

レインは嫌そうに眉を顰めて溜息を吐く。


「ど、どうしよう……!私が瘴廃国から来てるのもバレてるし、誰かに監視されてる?!あぁどうしよう…私どうなっちゃうのぉ…?!」

私は怖くなって震えながらレインの袖にすがりついた。


「心配いらない。ほら、落ち着きなさい」

「助けてよぉレイン…へぶッ」

すると彼女は私をひょいっとひっ剥がして、腰に手を当てた。


「貴方は何も気にする必要はないわ。

それに――」

そして…その先を言いかけて、レインは少し表情を曇らせた。


「それに……?」

私が覗き込むと、レインはゆっくりと言葉を紡ぐ。


「帝国軍に目をつけられているなら……逆に、それを利用しなさい。帝国軍に“入隊”するのよ。

貴方は、英雄達の力になりたいんでしょう?」


「私が軍に……入隊…?」

その思いもよらない提案に首を傾げると、

レインは続ける。


「帝国軍の隊員は、英雄の任務を支える重要な役割を担っているの。隊員になれば、堂々と、そして近くで英雄達(わたしたち)を助けられるわ。

貴方はそのために、魔法を学んできた……そうでしょう?」


……命懸け。

でも、皆の力になれるかもしれない近道。

私は目を閉じて、この国(エデンカル)に来てからの事を思い返した。


どれだけ皆に助けられたか。

どれだけ皆に救われたか。

 ――あぁ……私、守られてばかりだ。

英雄(みんな)の…友達の力になりたい。

その気持ちは、ずっと胸にあった。


だから気持ちをしっかり整理して、私はレインの目をまっすぐ見た。


「……私が命を懸けたからって、皆の力になれるとは…まだ全然思えない。

でも……一人でできる事を増やしたいんだ。私…いつまでも、皆に頼るだけじゃいられないから!」


「……そう」

するとレインは少し驚いたように目を見開いたが、すぐに柔らかく笑った。

 

「……じゃあ、明日の会議、貴方も同行しなさい。

他の英雄達にも、貴方の入隊について伝えておくわ。

入隊…できるといいわね」


そう言いながらも、レインの表情は沈んでいた。

それは私の決意を喜ぶというより――

どこか、心配で仕方がないような顔で……

胸の奥がザワついた。

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