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生彩放つ無神世界  作者: 美緑
〜第三章〜聖水汚染事件
20/89

片耳に揺れる耳飾り

「探偵、貴方が芸術心祭を楽しめるように、このお祭りのメインイベントを教えてあげるわ。

知識があった方が、何倍も楽しいからね」


「メインイベント? 知りたい! 教えて、教えて!」


私が思わず身を乗り出すと、レインはそんな私を見て小さく笑い、軽やかにスカートを翻した。



朝の冷たい風が吹き抜ける中、私達はカテドールフェアリーの教会へと向かっていた。

会場の中心はその教会だから、今まさに機材の運び込みや飾り付けの準備が進められている。


「このカテドールフェアリーにはね、昔から“ある不治の病”が伝わっているの。

だから毎年、その病を広げないように祓い清める儀式――“逆さクラゲの舞”が行われるのよ」


「逆さクラゲの舞……?」


初めて聞く名前に、私は首を傾げる。

すると、レインは歩みを緩めて、振り返りながら説明を続けてくれた。


「ええ。逆さクラゲは毒を広範囲に撒く生き物なの。

その性質を模した特別な舞が"逆さクラゲの舞"。

病を祓う“ワクチン”みたいなものをこの地に撒くんだけど……それが本当に美しい舞なのよ。」


「へぇ〜! 華やかだったら人も集まるし、ワクチンも一気に広められる!

お祭りも盛り上がって、一石二鳥だね!」


「ふふ…そうね」


私が興奮気味に言うと、レインは肩をすくめて笑った。




他愛のない話を交わしているうちに、いつの間にか教会が見えてきた。

…あ!もう着いたんだ!

白い外壁の教会の前では、既に里の人たちが色とりどりの布や花飾りを運び込んでいる。

色彩溢れる里は陽の光を受けて、まるで宝石みたいにきらめいていた。


「わ〜! レイン!私、先行ってるね!」

あっちも気になるしこっちも気になる…!

私は好奇心を抑えられず、胸の高鳴りのまま駆け出した。


「本当に元気な子ね……転ばないでよ!」


レインの声が後ろから追いかけてくる。…けれど、祭りの装飾があまりに綺麗で、私は彼女へ返事を返す事も忘れてしまった。

すごい! 色んな色が使われてる! 光が反射してキラキラしてる!


――と、そんな中で。

賑やかな人混みの奥、妙に目立つ三人の姿を見つけ、私は立ち止まった。

上等な衣を纏い、どこか威厳のある立ち姿をした彼らは、どう見ても貴族だ。

おそらく…いや確実に、礼儀の"れ"の字もなっていない事を自覚している私は、失礼のないようにと静かにその傍を通り過ぎようとした。……のだが、その中のひとりを見て、驚き固まってしまった。

見覚えのある人がいたからだ。


「あ、あの人……!」

気づくと私は、相手に聞こえる声量で声を上げていた。

「……!」

すると、私の声に反応して、“彼”がこちらを振り向き……そのままこちらへ駆け寄ってきた。


「あなたは確か……探偵さん。

あの時は、難儀かたじけないことを……ご挨拶もできず、申し訳なかった。」


「え?!あ、え、い、いえ! そんな、気にしないで…ください!」


"彼"はリハイトの家にアルテを探しに来ていた、あの白髪無表情の少年だった。

今日は前よりずっと鮮やかな衣をまとい、陽光を反射してきらめいている。


この人も、アルテと同じで人間じゃないんだ…。

耳が尖ってて……それに頭に角もある。

私は相手の種族を考察しながら、できるだけ柔らかく声をかけた。


「あのさ……その敬語、っていうか……かしこまるのやめてほしいな。ほ、ほら!私達お互い子どもじゃん?堅い話し方、ちょっと落ち着かなくて」


「! ……わ、わかった。あねう…翠嵐様の友人からの要望なら、口調は直しま……直そう。

…とはいえ、初対面で名乗らなかった無礼は詫びる」


すると彼はぎこちなく、それでも真面目に言葉を選んでくれた。

その姿がなんだか可笑しくて、私は思わず笑ってしまう。


「いいって! 私は探偵。よろしくね!」


「俺は、小夜(さよ)……いや。“山守永護”だ。よろしく、探偵さん」


改めて自己紹介すると、彼…"永護"は、静かに腰を折って一礼した。

その所作はどこまでも丁寧で……けれど、まだどこか距離を取るような硬さも感じる。


「……?」


しかし私はそんな事よりも、彼の名乗った"苗字"が気になって首を傾げた。


今、"小夜"って言いかけたよね……?

小夜――アルテと同じ苗字。

もしかして、永護はアルテの家族……? 姉弟……とか?

でも…それならどうして言い直したんだろう……。

何か、理由が――


「こらーっ! 永護っ!」


私が頭の中であれこれ考えていると、その考えがまとまるより早く、勢いのよい声が飛び込んできた。

振り返ると、永護の背後から青年が二人駆け寄ってくる。

…あ!さっき永護と一緒にいた貴族の人達だ…!

私は彼らの姿を認識して、再び体を硬直させる。



「また“山守”なんて名乗っとるんか! お前は立派な"小夜"家の一員やで? もっと誇り持たなあかん!」


見た目は年上っぽいけど、声は妙に明るくて元気な青年は、永護に向かってそう言うと、彼の頭を勢いよく撫でた。

すると、そのすぐ後ろから落ち着いた低い声が続く。


「兄者、無作法ですよ。会話に割り込むなど……あと、声が大きいです」


「あ、あにう……破天様、雅火様……!」


永護がわずかに肩をすくめた瞬間、私はようやく彼等の姿をはっきり見た。

一人は狸耳の少年。もう一人は狐耳の少年。

二人とも品のある装いをしているのに、どこか柔らかい雰囲気がある。

……でも――

「え、耳……四つある……!?」

驚いて、思わず声が出た。

顔の横にはアルテと永護と同じような尖った耳、頭の上にはふわふわ動く獣の耳。

どっちもぴょこぴょこ揺れて、ちょっと……かわいい。

この人達も人間以外の種族なんだ。


「おっと、驚かせてもうたな!ごめんやで!」


耳が四つもあるなんて不思議だなぁ。……なんて、私が彼らの耳に夢中になっていると、彼らは私に声をかけてきた。


「ワイは小夜“破天”!こっちは弟の“雅火”と、永護や!」

そう言って、金茶色の狸耳の方――破天がにかっと笑う。


「兄者がいきなりすみません」

すると狐耳の青年…"雅火"が、少し困ったように微笑んで頭を下げた。


「僕は小夜“雅火”です。以後お見知りおきを」


「あ、はい!ええと……私は探偵です! こんにちは、破天さん!雅火さん!」


急な自己紹介に慌てて頭を下げると、二人も同時に軽く会釈を返してくれた。

…のだが、

「あ……」

それを見て、私は驚く。


彼らの目つきや立ち姿、そしてふとした仕草――それらが、どこかアルテに似ている気がしたからだ。

特に破天さんと雅火さんは、笑い方まで少し似ていて、思わず目を細めてしまう。


二人がアルテの兄妹…少なくとも血縁者である事は間違いないだろう。


そう確信に近いものを感じたけれど、どうしても気になるのは永護の方だった。

違う苗字を名乗っていたのに、破天さんは彼を「弟」と呼んでいた。

……ということは、やっぱり永護もアルテの家族?うーん…少なくとも、“小夜家”に縁のある人間であるのは間違いなさそう。


…と、その考えに至った理由は至極単純な事で…。

三人の片耳に、"同じ形の耳飾り"が光っていたからだ。


破天さんのは黄色、雅火さんのは青色、永護のは白色――三つとも色は違うけれど、形も大きさもまるで同じ。

家族でもなければ、こんなふうに装飾品を揃えることなんて滅多にないだろう。


そんな事を考えながら彼らの耳飾りを観察していると、そこでふと胸がざわめいた。

…あれ?そういえば、この耳飾り……どこかで見たことあるような……。


ぼんやりと、アルテが風に髪を揺らした時の横顔が頭に浮かぶ。

太陽の光を反射して、耳元で緑の光がきらりと揺れていた。

そうだ――あれも同じ形の飾りだった。

ペリドットのような優しい緑色……。


それを思い出すと同時に、私は思わず息を呑んで、彼らに耳飾りの事を聞こうと口を開きかけた。

けれど――


「あら、その声は…。

小夜家の兄弟さん方、ご機嫌よう。本日は準備のお手伝いに?」


後ろからレインの声がして、言葉が喉の奥で止まった。

彼女は軽やかな足取りで私の隣まで来ると、柔らかい笑みを浮かべて、彼らに声をかける。


「おぉ〜レインやないか! 久しぶりやな!

せや! 我々小夜家も、逆さクラゲの舞――病祓いの儀に参加するからな!」

「今年は家族揃って祭りに参加できそうなので、下見も兼ねて参りました」


「まぁ嬉しい!今年も翠雨様がいらっしゃるのね?」


すると、どうやらレインと破天さん、雅火さんは旧知の仲らしく、楽しげに談笑を始めた。

耳飾りの事は気になるけど仕方ない。

私はレイン達の会話を邪魔しないように暫く様子を見ていた……のだか、私と同じく会話に混ざらずにいる永護を見て、思い出す。

そういえば…あの日……どうして永護はあんなに慌ててたんだろう?


「あのさ……あの日、何があったの?

その……アルテ、随分顔色が悪かったから…。

もしかして、これから(なに)か悪いことが起きるの?」


気付けば単刀直入に、私は気になった事を聞いていた。

「……!」

するとその問いに驚いたのか、永護は一瞬大きく肩を揺らした……が、やはり無表情のままで、視線を落とし、短く息を吐く。

風に揺れる髪が頬をかすめても、彼の表情は変わらない。……けれど、その沈黙が、やけに長く感じた。



「―――悪い、こと……そうだな」


ようやく聞こえてきた声は穏やかで、どこまでも静かだった。

なのに、その静けさの中に、重い覚悟や苦しみの気配が混ざっているように思える。


「――大事無いと言えたら、どんなに良かったか……」

「え……それ、どういう意味……?」


私が問い返すと、永護はそっと顔を背けた。

それ以上、彼は何も言わない。

目元を隠す仕草は、まるで何かを封じ込めるようで……表情がないはずなのに、その沈黙の奥に、ひどく優しい痛みが滲んでいた。


そんな永護が心配なのに、様子を伺う事しかできずにいると、背後からレインの明るい声が響く。


「ごめんなさいね、つい話し込んでしまったわ。

探偵、私達は逆さクラゲの舞で踊り子さん達が身に纏う衣装の修整を手伝いに行きましょう。 里の装飾品作りは、小夜家の方々がやってくださるから」

 

「あ……う、うん! 今行くよ、レイン!」


私は彼女に返事を返すと、永護を見る。


「アルテのこと、教えてくれてありがとう。

悪いこと……対象できるように祈ってるね。

…お互い、頑張ろう!永護!」


そう言ってから手を振ると、彼は小さく頷き、控えめに手を振ってくれた。

…もっと聞きたいことはあるけど、今はやるべき事をやらないと……だよね。

私は自分にそう言い聞かせてレインの傍へ戻った。



程なくして……

破天さんと雅火さんの後を永護が歩き出す。

彼の背筋は真っすぐで、どこにも迷いがないように見えるのに、その影だけが、ひどく寂しげに揺れていた。

…どうしてだろう。

言葉にならない胸のざわつきだけが、風に残った気がした。

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