目覚めた先に悪夢
───神よ…創造主よ……。
我々愚かなる生き物の、過ちを…大罪を……どうか…どうか……赦し給え……。
──神はお怒りだ…我々の愚かさに、お怒りだ……。
きっと…きっと……この星を…壊しに来る……潰しに来る……。
──この星が、輝く限り…罪は消えず、救いは訪れない……。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
────不気味な夢を見た。
悍ましい姿の何者かが、世界を……いや、星そのものを握り潰す光景が目に焼き付いている。
凄まじい轟音が鳴り響き、私は目を覚ました。
瞼をあげ、目を開けると、見覚えのない場所で横になっていた。
「──ここは…?」
周りを見渡すも、周囲は暗くてよく見えない。
把握できたのは、おそらく建物の中にいるということ。
なんでこんなところに……。
そう思ったが、
自分が何故こんな場所にいるのか以前に——
「あ、あれ?…私って……誰だ…?!」
——自分自身の記憶さえ思い出せない事に気がついた。
……これはいわゆる、記憶喪失というやつなのかもしれない。…困った。
──ゴオぉぉぉぉッ…グワアぁぁぁぁッ……。
記憶を戻すために頭を抱えている間も、
最悪な目覚めの原因の一つであるあの轟音は鳴り続けている。
この音……建物内で鳴っているとは思えない。
「外に……何かあるのかな……?」
私は壁を伝って、音が大きい方へと室内を移動する。
音の正体を確かめたくなったから。
「扉だ…」
音を追って進んだ先には扉があった。
その隙間からは、微かに光が射している。
「……。」
音の元は扉の向こうにありそう……だけど…何故か、嫌な気配を感じる。
開けない方がいいのは確かだ。
そう思っていたのに……
────ガチャッ…。
気がついたときには、扉の取っ手を握っていた。
軽率な行動は如何なるときも避けるべきかもしれないが、好奇心には勝てない。
何より……ここにある物を片っ端から探れば、自分の記憶が蘇るかもしれないと思っていたから。
──しかし、
私の小さな期待とは裏腹に、外の様子は……最悪だった。
「なに……これ…」
禍々しいほど不気味な色の空。
紫と赤が混ざり合ったような、生命を拒絶する色彩…。
立ち込める瘴気は肌を刺すように冷たい。
…そんな最悪な光景の中でも一番恐ろしかったのは、
枯れた大地を這いずり回る魔物たち……。
「ッ……」
私はあまりの恐ろしさに耐えきれず、扉を閉め、急いで鍵をかけた。
「……あの音は、魔物の鳴き声だったのか」
扉を開けたから、外の魔物に気づかれたかもしれない……。
「私は……今までどうやってこんな所で生きてきたんだろう……」
記憶が蘇るどころか、さらに混乱することになった。
私は……誰?
この場所は……世界は……これも悪夢の続きなのかな?
……いや、そうであってほしい。
だって、これが現実なら……生きていける訳がない……。
戦うこともできない私が外に出れば、魔物の餌になって終わりだ。
そうでなくても、淀んだ瘴気を長時間吸い続ければ衰弱死は確定なのに…。
そんなことを考えながら立ち尽くしていると——
──ガッコンッ!オぉぉぉぉッ!!!
大きな振動で体が崩れ、その場に倒れ込んだ。
やはり魔物に気づかれたのだろう。扉の向こうに蠢く気配を感じる。
「ッうわぁ?!」
止まらない振動によって、私の体は呆気なく倒れてしまった。
地面が硬くて結構痛い。
──カシャンッ!
そのとき、手に何かが触れた。
「?、なんだろうこれ…」
暗くてよく見えないが、
扉の隙間から射し込む僅かな光を頼りにそれを見ると、それは腕時計だった。
「変なデザイン……なんで地面に落ちてたんだろう……?」
気にはなる…でも、今は逃げなきゃ……。
魔物の声と振動は更に大きくなっている。
私は不思議な時計を握りしめたまま、建物の奥に移動することにした。
────ウゴオぉぉぉぉッ!!!
なんとか扉から離れると、
バキッ……メキメキ……という嫌な音と共に、背後の扉は破壊され、魔物が物凄い勢いで迫ってくる。
「ッ?!」
私も慌てて走った。
だが——すぐに追いつかれた。
室内は狭い。逃げ場がない。
魔物は鋭い爪を私に向け、振りかざしてきた。
「──うっ……!」
左手に爪が当たった。
……腕が取れたりはしていない。
幸い傷が浅く、出血も多くなかったが、次も無事でいられるとは限らない……。
……怖い。
震える手。止まらない心臓の音。
この場所も……魔物も……あの悪夢までもが、私を飲み込もうとしている。
……せめて。
「せめて、他にも人がいて、私でもちゃんと生きていける場所に行きたい……!」
私は、心からそう願った。
──すると……
「えっ……あっつ?!」
手の中にあった腕時計が急に光を放ち、熱を帯び始めた。
「なに?!なんなのこれッ?!」
手から離そうとしても離れないッ…!
魔法陣のようなものが現れ、さらに光が強くなっていく…。
私が謎の光に包まれると、なぜか魔物は光に怯え、逃げて行った。
「私……魔物じゃなくて……
よくわからない変な時計のせいで死んじゃうの?!」
光の眩しさに耐えられず、
その叫びを最後に、私は再び目を閉じた…。




