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生彩放つ無神世界  作者: 美緑
〜第三章〜聖水汚染事件
19/89

名付け

『依代…』


「また、あんたか…!」


私はその日の夜も、あの夢を見ていた。

正体不明の" 誰か "に三日も連続で会うと、慣れるどころか、さすがに語気も少し荒くなってくる。




「今日は何? あ…まさか……また誰かが!?」


しかし、相手からの用件を聞く途中で昨日の出来事が頭をよぎり、思わず声が震えてしまった。

もしまた誰かが危ない…等と伝えに来たのだとしたら……。そう考えると恐ろしなり、身構えて相手の言葉を待つが、“彼女”は少し沈黙したあと、静かに溜息をついた。


『……昨夜は、すまなかった。

余がもう少し早く気づいていれば……』


「え?い、いや……別に、あんたのせいじゃないよ」


警戒したものの、思っていたよりも優しい声が返ってきて、胸の緊張が少しだけ緩む。

どうやら、今日は危険を知らせに来たわけじゃなさそうだ。


…あれ?…とゆうか……。

でも、ふと疑問が浮かぶ。



「……ねぇ、ユーゴさんの危険を察知できたなら、犯人も分かったんじゃないの?」


そんな淡い期待を込めて聞くと、彼女は残念そうに首を振った。


『ユーゴに危険が迫っているのはわかった。

…だが、犯人までは。……すまない。』


「そ、そっか…いいよ別に…」

事はそう、うまくは進まない…か。


期待通りの答えが返ってこなかったので反応に困ったが、こればっかりはしょうがない。



『依代…』


どこか申し訳なさそうな声色で私の問いに答えた彼女は、沈黙が流れたあと、ゆっくりと口を開いた。

……かと思うと、


『今日は、お前に授けるモノがある…。

受け取れ…』


「え、あっちょ!あんた…丁寧に渡せないの?」


それと同時に、こちらに何かを投げつけてきた。

な…なんて乱暴なんだ…!

突然放り投げられた何かを、私は慌ててキャッチした。そして地面に落ちる寸前で受け止めたものを見て、首を傾げる。

…?何、これ毛玉…?

手の中には、私の顔より少し小さな、ふわっふわの毛玉が乗っていたから。


『お前が魔法を使うには、使い魔がいるだろう…。

そのモノと共に励め…』


「え…?これ、使い魔なの…?」


改めて見てもただの毛玉だ……。

とても動物には見えないので、恐る恐る指先で突いてみる。

すると……


『モッフゥ…!』


「うっわ!な、鳴いた?!」


ただの毛玉だと思っていたソレは、丸っこい体からぴょこんと角や羽を出し、ふわふわの耳と長い尻尾を揺らして小さく跳ねた。


『フッファ…!モ、モッフゥ…!』


「つ、使い魔って……魔物でもいいの?」


私は手の上で跳ねる生き物を見て驚いてしまう。

だって、どう見ても魔物だ。

今まで見てきた精霊や使い魔が動物だけだったせいもあって、その衝撃は大きい。


『魔物が使い魔となるのは別段珍しく無い……さぁ、今日はこれだけだ。現世に戻るといい…』


「えっ、ちょっ、またいきなり――!」


私からの問に答えると、" 誰か "はすぐに夢から現実へ私を戻した。


呼び止める間もなく、夢の景色が崩れていく。

最後に見えたのは、あの毛玉――じゃなくて“使い魔”が、ふわっと私に尻尾を振る姿だった。


✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿



「……うぐっ、い、息が……ん?

なんか、ふわふわ……?」


『モッフゥ!』

「……へ?」


ぼんやり目を開けると、白い光の粒がふわふわと宙に浮かんでいた。

まるで夢の名残が、まだ部屋の中に溶け残っているみたいだった。

光の中心には――私の鼻と口をふさいでいる、ふわふわの毛玉。

その毛並みは朝の光を反射して、やさしく輝いていた。


……やっぱり。夢の中の出来事が、現実に干渉してきてるんだ。

ここまでくると、さすがにもう驚かなくなってくる。


「…君、名前は?」


『モ?モッフゥ?』


「あ、そっか。使い魔って、契約主が名前をつけてあげるんだっけ」


私は魔物の名前を呼ぼうとして、自分がこの子の名前を考えなければならないのだと思い出した。

名前は一度決めたら変えられない…。

下手な名前はつけられないので、腕を組み、真剣に毛玉とにらめっこする。


「“モッフ”は鳴き声そのままだしなぁ……。

探偵に似てる名前は……タンタン?

うーん、なんか違うなぁ……」

『モッフゥ〜?』


「あ、そういえば君、使い魔にしては毛の色がずいぶん明るい色だね。

淡く光ってて……仄かに明るい……“(ほの)”、ホノってどう?」


『モッフゥ!!』


悩んだ末に毛色を見てそう名付けると、その瞬間、毛玉――いや、“ホノ”の体から、ぱぁっと柔らかな光が弾けた。

まるで“名”を与えられたことで、命が完全に目覚めたかのように…。


「良かった!気に入ったみたいだね!」


ホノは私の腕の中でぴょんぴょん跳ねて、嬉しそうに鳴いた。

あったかくて、少し くすぐったい。

ふわふわすぎて、撫でてると眠くなりそうだ。


「よし……じゃあ今日からよろしくね、ホノ!」

『モッフキュ〜!!』


なんとか名付けが終わり、はしゃぎ荒振るホノを撫でていると、その時――コンコン…と、扉を叩く音がした。


「探偵?朝から、何騒いでるの?」


扉の先にいたのはレインだった。

私は彼女に魔法を教わるため、彼女の教え子として、暫くスレッド邸に滞在させてもらっているのだ。


「あ、レイン!実はね、今!

使い魔と契約した…!」


「へぇ、使い魔と……って、え?」


……まぁ、そうなるよね。

扉の向こうで固まるレインの気配を感じながら、私は慌てて服を着替え、扉を開けた。



「着替えは使用人に頼めばいいのに……。

ていうか、その丸っこいの、何?

さっき言ってた使い魔? はぁ…一晩で何があったのよ……」


「えっとね、この子、夢の中で貰ったんだ!」


私がレインの質問に答えてそう言うと、ホノは私の頭の上で小さく丸まり、得意げに鳴く。


「あー……寝ぼけてるなら顔洗ってきたら?」

「ちがうって! 本当に夢の中で――!」


しかし断片的にホノの事だけ話したせいか、レインが半分あきれ顔になってきたので、私は観念してこれまでの“夢”の出来事を全部話した。




「……ね?ここまでくると、ただの夢じゃないでしょ?」


「ふーん…。確かに、ただの夢では…なさそうね。

…その夢が、探偵の記憶回復に良い方向で影響するならいいけど…」


レインはそう言うと少し黙り込んで、やがて小さく息をついた。


「まぁ、この世界には説明できない現象なんて山ほどあるし、現実に干渉してくる夢も珍しくない。

……今は考えるだけ無駄よ」


レインは小さく肩をすくめ、呆れとも諦めともつかない笑みを浮かべた。そしてそこで一旦夢の話を区切ると、私の興味を引く話題を提供してくれる。


「――探偵、今日は授業を午後からにするわ。

使い魔探しの手間も省けたし、“芸術心祭”の準備を手伝いに行きましょう。」

 

「芸術しんさい……?」

その聞きなれない単語に、私は首を傾げながら聞き返した。すると彼女は透かさず"芸術心祭"について教えてくれる。


「神を祀らず芸術を祀る……芸術を極め、楽しむためのお祭りよ。開催は数ヶ月先だけど、帝国一の大行事だから、準備も長丁場なの。

芸術家たちの作品展示や体験会なんかもあって……変わってるけど、面白そうでしょう?」


「うん! お祭りなのに神様祀らないのはちょっと不思議だけど……なんか楽しそう!」


説明を聞いて私がすぐに乗り気になると、レインはパン!と手を叩いた。

「そう言うと思ったわ」

そして彼女はダイニングの方を指さして言う。


「じゃあ朝食、パパッと済ませてきなさい」

「はーい!」


その言葉に返事をした途端――ぐぅ〜っと、私のお腹が元気よく鳴った。

すると、まるで合図みたいに腕の中のホノも「モッフゥ〜!」と鳴く。


「えっ、君も? ……ふはっ!気が合うね!」


窓の外からは、柔らかな朝の光が差し込んでいた。

夢の余韻も少しずつ薄れていく。

私は笑いながらホノを抱き上げて言った。


「よし、まずは朝ごはんを食べよう!」


ホノが嬉しそうに鳴くのを聞きながら、私は香ばしいパンの匂いのするダイニングへ向かった。

✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿



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