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生彩放つ無神世界  作者: 美緑
〜第二章〜❅٭豪雪に包まれし鳥獣町٭❅
16/89

懈怠故殺事件✘

·̩͙꒰ঌ୨__.・*’’┈┈·········┈┈’’*・.__୧໒꒱·̩

《コンド視点》


「…なんだ、もう知ってたのか。こいつが聖獣だってこと」


「うん…今朝、調べたんだ。あの祠の事も…聖獣の事も、資料を見て初めて知ったよ…」


祠の中で衰弱した聖獣を眺めながら、僕はリハイトとそんな会話をしていた。

あの後、大叔父…ユーゴさんは約束通り、町の大人達を集め、聖獣を祠へと帰してくれたのだ。


驚くべき事に…それだけではなく、彼は今まで町に受け入れてこなかった外の客人達のために町を開放し、これまでの無礼を正式に詫びた。

……そして、そこには勿論 探偵も含まれていた。


「…それにしても…まさか、元町長が協力してくれるとは…」

「本当にね…。僕も、驚いてるよ…。

小さい頃から大叔父(ユーゴ)さんと暮らしてたのに…あんなにも優しい人だったなんて、知らなかった…」

僕は、そう言いながらクトール邸の方向を向いて、拳を握りしめた。……そして、大叔父さんの穏やかな表情を思い出しながら口を開く。


「大叔父さんの期待を裏切らないように、皇帝候補止まりは、早く抜け出さないとね」

そのまま清々しい笑顔をつくると、リハイトは感心したように目を見開いていた。


「…あのコンドに、ここまでのやる気を出させるとは……探偵は何者なんだ…?」


「はははっ!…本当、不思議だよね。

きっと…彼女は大物になるよ、間違いない!」


心底驚いているリハイトが何だかおかしくて…僕は笑い声を上げながら、探偵に感謝した。

君のおかげで、正しい道に進めそうだよ。…と。


✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿

《探偵視点》


レインに連れられて祠に戻ると、中には既にコンドとリハイトがいた。

祠の中に眠る聖獣は、朝まで暴れていたのが嘘みたいに静まっている。


「とりあえず、聖獣は無事に祠へ戻せたわね。私達も言われた通り、町の人を帰らせてきたわ」


「あ!ありがとうねレイン、探偵」

「あぁ、助かったよ」


レインが報告すると、コンドとリハイトは私達に気が付いてお礼を伝えてくれた。

どうやら英雄同士の感謝の伝え合いは普通に行われているようで安心する。…いや、本来それが当たり前なんだけども!


なんて考えながら私はリハイトの方へ向き直ると、気になっていたことを切り出した。

「それで、リハイト。

“見てほしいものがある”って……何?」


「おっと、少し待ってろ。今、取り出すから」


するとリハイトはそう言って、空中に手を伸ばした。

──その途端、魔力の光がゆらりと揺れ、彼の掌の中に“何か”が形を持つ。

私はそれを見て息を呑んだ。


快晴の空のように鮮やかな光を返す、碧天色の"宝珠"。

優しくて、それでいて力強いオーラを放つ宝珠は、まるで生きているかのような活力を感じさせてくる。

見れば見るほど胸がふっと温かくなり、心の奥の何かを撫でられたような…そんな心地よい感覚に包まれた。

「わぁ…綺麗…」

気が付くとつい、そんな言葉が漏れてしまい、私は首を傾げる。


宝珠を目にしてから妙な感覚にとらわれているような…? それに何だろう、この既視感……初めて見るはずなのに、どこか懐かしい…。



「……それ、“加護の宝珠”じゃない?」


すると、そんな私の隣でレインが小さく息を呑むのが聞こえた。

──その瞬間、場の空気がわずかに張りつめる。

彼女の声には、ただの驚きではなく、危機を察した人間特有の硬さがあったから。



「加護の宝珠?聞いたことがないな」と言ったのはリハイトだ。

その後で「僕も……」とコンドが続く。


「えっ、二人とも知らないの?」

不思議そうにレインを見る二人に、彼女は呆れたように額に手を当て、深く息をついた。

そして、教師のように丁寧な口調で"宝珠"とは何なのかを教えてくれる。


「加護の宝珠は、私達“英雄”が加護神の祠に入るための鍵であり、英雄の力を完全に覚醒させるための核でもあるの。……つまり、これがなければ本来の力を出せないって事ね」


「なっ……!?」

「そんな……!」

レインの言葉に二人が同時に驚愕の声を上げた。

その反応を見て、私の頭の中で点と点が繋がる。


つまりこの宝珠は、英雄の(ため)のもの……。

それを悪用して、聖獣を狂わせた人がいる…?

──ッそれって……!


「リハイト、コンド!とりあえず宝珠自体のことは後にして。問題は、それを悪用する知識を持った誰かがいるってことだよ!」


私が口を挟むと、レインも頷いた。


「確かリハイトの話では、聖獣の中に宝珠が埋め込まれたのが暴走の原因なのでしょ?犯人が宝珠の使い道を知っていて今回の騒動を仕組んだのだとしたら……厄介極まりないわね。」


「俺達が知らなかった宝珠の情報を持っているとしたら……帝国上層部の者、()しくは帝国軍の中にいる奴か…?」

と、リハイトが低く呟く。


「……僕たちが“知らされていなかった”のも、偶然じゃないかも」とコンド。


場の空気が、更にぐっと重くなったのを感じる。

英雄達の力の覚醒や加護神に関わる情報……それが意図的に遮断されていた───そう悟った瞬間、私は背筋が冷たくなった。


英雄達の敵で、帝国の内情を知る者がいるって事?なにそれ、怖い。……でも、放っておけない。


「英雄に危害を加えるなら、誰であろうと――私は黙っていないから」

心の奥でそう呟いた。


けれど声には出さず……

私は三人の後を追って祠を出た。

✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿





「……あ――――ッ!!」


祠を出て間もなく、私はある事を思い出して叫んでいた。

私の叫び声に、前を歩いていた三人が一斉に振り向く。


「ど、どうしたの?」とコンド。「魔物でも出た?」とレインが眉をひそめる。

そしてリハイトは、わずかに身構えながらも冷静に問う。

「なんだ探偵、何かあったのか?」


「やっちゃった……!」

私は彼からの問いに頭を抱えながら答える。


「今日、アルテと“約束”してたの、すっかり忘れてたんだよ!」


「はぁ?約束?」

「今、本人いないけど…大丈夫なわけ?」


リハイトとレインが心配そうに…それでいてどこか呆れたような声で聞いてくるので、私は約束の内容を三人に話した。


「私の記憶が今日までに戻らなかったら、アルテの知り合いの人に会って、この世界の神の信仰とか歴史の話を聞かせてもらうって約束だったの!

……なのに、それを丸ごと忘れてた……!」

全て説明した後、約束をすっぽかしてしまった事に改めて絶望し、私はその場でがっくり膝をつく。


さ、最悪だ……。アルテの知り合い、きっと待ってたよね……。どうしよう、迷惑かけたぁ……。


沈んでいく太陽が落ち込む私の影を染める。

紫がかったオレンジ色の空は、今日がもうすぐ終わるのを嫌でも感じさせてきて……今から行っても遅い…とでも言ってきそうだ。


しかし、そんな空を見上げて私が嘆いていると…

「神の信仰について……ああ!」

と、コンドが何かを思い出したように手を叩いた。


「えっ?」

そして次の瞬間、彼は私の腕を取って立たせてくれる。


「大丈夫だよ、探偵! 多分、心配いらない。

君が会う予定だった相手には、ちゃんと事情を伝えてあるから!」


「……え? いつの間に!?」


聞けばコンドは、ちょうどアルテが町を出るところに居合わせたらしい。

その際、彼女から「明日は二人で迎えなくなってしまった」と、約束の相手へ伝えてほしいと頼まれたという。


「伝言を伝えてくれたのはレザーなんだけどね」

「レザー…!コンド!二人とも、ありがとう……!」

どうやらコンド達のおかげで約束を無断で破るという最悪の事態を、ギリギリ免れたらしい。良かった…。


「そうだ、もし良ければ明日、僕達四人で会いに行こうか?」

胸の力が一気に抜けて安堵の息をついていると、そんな私に彼がにっこり笑う。


コンドの提案は凄く嬉しかった。

……しかし、

「えっ……いいの? でも、英雄の仕事があるんじゃ……?私、ただのよそ者だし、そこまでしてもらうのは……」

自分が彼らの世話になり過ぎている事に気がついて、私は俯く。

…帝国民みたいに英雄たちに頼ってばかりにはなりたくなかった。それに、みんなの手を煩わせるのも嫌だったから。



「行ってやるよ」


これ以上頼っていいのか分からなくて、躊躇していると、リハイトがそう言ってくれた。


「錬金の仕事もまだ再開できそうにないしな。

暇なうちは、別に気にする事ないぞ。頼れるうちに、頼っておけ」


「そうね。アルテの友人なら、貴方は私の友人も同然。少しくらい優遇してあげてもいいわ」

レインも少しだけ口元を緩めて続けた。


「それに……まだ私、貴方に魔法を教えてなかったものね?」


「君はこの町を救った救世主であり、僕の恩人でもある。力になるのは当然さ。……そうだ、今日は僕の家に泊まってよ!一番いい客室、用意するから!」

コンドも改めてそんなふうに言ってくれるので、私はなんだかむず痒くなる。


……えっと。あ、どうしよう…。

すごく、嬉しい…。


三人の言葉が、心をぽかぽかと温めてくれる。

それがあまりにも心地好くて…

結局、彼らの優しさに流されるように、私は明日の予定を立てることになった。



✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿

───その日の夜。

私は確かに目を閉じたはずだった。

けれど――気づけば私は、白い霧の中に立っていた。


……また、夢だ。

昨晩も見た覚えのある場所。

音も風もない、ただ白いだけの空間。

見渡しても、やっぱり此処には何も無い。


『依代…英雄の心、よくぞ救った… 。

彼の迷いを消すとは…大儀に存ずる』

そして今日も…

姿の見えない" 誰か "が、一方的に語りかけてくる。


「…はっ!ここは…!また夢か…。

あ!!というか、貴方何して…?!」

声を辿って上を見上げると、靄のような…姿形が不安定な" 誰か "が、私の手帳を掴んでいた。


…あれ?なんか昨日より、姿が見えやすくなってる…?

急に目視できるようになった" 誰か "を見て、私が首を傾げると、" 誰か "は手帳を開いて勝手に内容を読みだした。


『なんだ、このメモは…』

「え、ちょっと…!もうソレ

私の手帳なんだから、勝手に見ないでよ!!」


手帳の中を相手に覗かれて、 私は焦りながら、思わず顔を赤くした。

…人に見られると、なんか恥ずかしいな… というか、人…人なのか…?


『ふむ…お前は、自分の力を知るべきだな…。

依代、よく聞け…余がお前に与えた"特別な力"の効力を…』

もう興味を無くしたのだろうか…

" 誰か "は失礼にも、私から奪った手帳を放り出すと、 真剣な声色でそう言った。


「貴方が…私に与えた"力"?」


私は、落ちた手帳を拾い上げながら聞く。

"特別"というからには、少なくとも誰でも使える魔法ではないのだろう……なら、まさか異能力?!

私は少しの期待を込めて、" 誰か "を見る。

すると、相手は昨日よりかは聞きやすい声で教えてくれた。


『お前は英雄達の心の傷を軽くさせ、救う事ができる…。これからの戦いで、英雄達は長年の苦労苦痛が更に大きな枷となるだろう…。 お前の言葉でしか救えない程、心を閉ざしてしまう者もいるはず…。

お前の使命は英雄達の心の支えになる事だ。

その力を持って、これからも励め…よいな?』


「それが、私の力…。へぇー?

貴方なかなか役に立つね! 私でも異能が使えるなんて…!って……あれ?  私、精霊も使い魔もいないんだけど…なんで力が使えるの…?」


自分も異能力を使えると知り、私は単純にも舞い上がったが、相棒もいないのに力を使えてしまう事に首を傾げた。

実は見えないだけで…この人が私に相棒を付けてくれたとか? 異能もくれたし、ありえる…。

なんて考えていると、" 誰か "は静かに口を開いた。


『その力だけは、相棒に頼らずともお前一人でも使える…。余がそう手を加えた…。

英雄達の心は、その力無しでは救えない。 普通の言葉で救うには……手遅れだ。 ましてや、家族や旧友でもない他人(おまえ)が…その力無しで彼等を救える筈ないだろう…』


「厶ッ!…悪かったね。"異国の客人"で!

私だって瘴廃国(あんなとこ)にいたくていたわけじゃないもん…!」


英雄達にとって私は、まだ"他人"…。

その事実が寂しくて、それを指摘された事が悔しくて……ついつい頬を膨らませてしまう。


───しかし……

ふん!どーせ貴方に優しい言葉を期待した私が馬鹿ですよーだ!

なんて、私が不貞腐れていると、

『?!……ッ依代!早く起きたほうがいい!』

" 誰か "は突然慌てだした。


「え、ちょっと!どうしたの?!」

その声色があまりにも追い立てられているように感じて、私も嫌な焦りに包まれてしまう。


『ユーゴが…こ…され…き…』


「ッ!ユーゴさんが、なに?!?!」


突然ユーゴさんの名を出されて、 私は目を見開いた。

まさか、ユーゴさんに…何かあったの?

……嫌な予感がする。


『ほこ…ら…で……ユ…危険…』


「き、危険…?ちょ、最後まで言って、あ…まって!」


私は続きを教えてほしくて促したが、またも"誰か"の声は薄れてしまい……詳細を聞く事はできなかった。

「あぁもう!どうすれば……!」

昨日より、会話できたから…もっと聞き取れると思ってたのに…!


私は既に、これがただの夢では 無いことを悟りだしていた。

「はっ…!起きた…!はぁ…まぁいい、よくわかんないけど…ユーゴさん、探さないと…!」

だから" 誰か "の言葉を信じる事にした。


素早く起き上がると、私は部屋を飛び出す。

そうだここ、コンドの家だった!なら、とりあえずユーゴさんの部屋…覗いてみよう!

タイミング良くも悪くも今日はコンドの家に泊めてもらっていたので、ユーゴさんの部屋には直ぐに辿り着けた。


けれど……


「ッ!いない!」


ユーゴさんの部屋の中に、彼の姿はなかった。それどころか部屋の扉は開かれたままで鍵すらかかっていない。


「あ、探偵…!どうしよう、大変なんだ…」

「うわぁッコンド?!どうしたの?!」


開きっぱなしの扉を不審がっていると、コンドが突然部屋から出てきたので私は横転する。

び、びっくりした……ッて、それよりも!


「ね、ねぇ大丈夫?顔色……悪いよ?」


私はユーゴさんの部屋から出てきたコンドを見て、その顔色の悪さに驚いた。

「これ……大叔父さんの部屋に置いてあって…」

心配して近寄ると、彼が震える手で何かを手渡してくる。

「手紙……?」

それは手紙だった。

どうやらこの手紙を書いたのはユーゴさんのようだ。手紙の一番下…差出人の欄に彼の名前が書いてある。


『 コンドへ  

今日はすまなかった…。

祠にいる生物が聖獣である事…実は以前から知っていた。

だが、聖獣に関する古書はあまり残されていない。  今回のような異変が何故起きたのか…原因がわからない以上…下手に関わるのは最善ではないと考えたのだ。

私は、お前を危険な目に合わせたくなかった。

だから知らないフリをした…。


感情的になって、咎めてしまった事…反省している。  今日、遠目で見たが…お前達のおかげで、 聖獣は以前よりも、異常が見られなかった。

今夜は少し、聖獣の様子を見て来る。

もし朝までかかったら、 お前に心配をかけるな…。  だから、手紙を書いておくよ。

必ず戻る、心配するな。    …ユーゴ 』


本当に祠に行ったんだ……。

私は手紙を読んでから、夢の" 誰か "の言葉を思い出して、嫌な汗をかいた。


「こんな時間に祠へ…。 まだ犯人もわかってないのに、危険過ぎる。大叔父さんは、魔法を使えるけど…流石にほっとけないよ…」


コンドの言う通り、今夜犯人がまた祠にいたら…。

ユーゴさんが、危ない…!

「コンド!!早くユーゴさん探そう!もし何もなかったらその時は、二人でお説教でもなんでも受ければいいでしょ!」

最早(もはや)迷っている暇などない。

私は不安がるコンドの手をしっかりと握り、 そのまま彼の手を引く。


「た、探偵、一緒に来てくれるの…?

……うん、ありがとう…!」

コンドは一瞬だけ動きを止めたが、すぐに私の手を握り返してくれた。



『……行こう』

そう言って、私達はクトール邸を飛び出した。


·̩͙꒰ঌ୨__.・*’’┈┈·········┈┈’’*・.__୧໒꒱·̩

《コンド視点》





大叔父(ユーゴ)さん――!!」

「ユーゴさんっ、どこですか!!」


祠の中に響く声が、石壁に何度も反射して返ってくる。

僕と探偵は、灯りの乏しい回廊を駆け回りながら、大叔父さんの名を叫び続けた。


ッいない……ここにも、いない……!


祠の奥へと走るたび、胸の奥がどんどん締めつけられる。

大叔父さんがここに向かったと見張り達からの報告もあったのに、すれ違いもしていない。

つまり――彼は、まだこの中にいる。


ユーゴおじさん……なんで護衛も連れずに一人で行ってしまったんですか…!

どうして、返事をしてくれないんですか…!


僕は何度も呼びかけながら、大叔父さんへ言いたい事を心の中で叫んだ。


「こ、これだけ叫んでたら、き、聞こえるよね……?

祠の中には、いないのかな……」


探していないのが一番奥の部屋だけになった時、探偵の声は震えていた。

僕は彼女を落ち着かせる為、静かに首を横に振る。


「見張りたちが目撃してる。

大叔父さんは確かにここに入った。

屋敷にも戻ってない……。

――大丈夫、ちゃんと此処にいるはずだよ」


「そ、うだよね……」


探偵がごくりと息を飲む音が、冷たい空気の中でやけに響いた。

大丈夫……大丈夫だ…絶対、大叔父さんは此処に…。

探偵を安心させる為に口にした言葉を、僕は自分を落ち着かせる為にも唱える。

…そうしていないと不安に押しつぶされそうだったから。




不安を取り除きながら僕達は、祠の最奥――聖獣の部屋の前まで進んだ。

聖獣はもう落ち着いた状態だけど、念の為…僕は探偵を庇うように一歩前へ出る。


ユーゴおじさん……どうか、無事で……。


───ギギィ……。

と、重い扉が、軋む音を立てて開いていく。

凍えるような冷気が肌を撫で、室内に満ちていた死の静けさが、こちらへ流れ出した。



そして――

その暗闇の中で、僕の目に飛び込んできたのは、

"最も恐れていた光景"だった。


「あ……」


「ユ、ユーゴ……おじさん……そ、そん…な……」


部屋の中央、石床の上には、大叔父さんが横たわっていた。

彼は…ぴくりとも動かない。


僕は周囲への警戒など忘れて大叔父さんの傍まで駆け寄り、膝をつき……震える手で彼の肩を抱き起こす。


あぁ……冷たい。脈がない。



頭の中で、幾つもの言葉が音を立てて崩れていく。

声を出そうとしても、喉が張りついて息しか漏れなかった。


後ろで探偵が、小さく呟く声が聞こえる。

「……間に合わなかった……」


その言葉に、僕の胸の奥が焼けるように痛んだが、それと同時に、もう一つの異変に気がついた。



「ッ! 探偵、聖獣は?!」


「え?! あ……いない!? どこにも!」


二人で部屋を見回すが、日中までこの場所にいたはずの聖獣の姿は、跡形もない。

血痕も…争った形跡もない。

此処には、ただ不気味な静寂だけが残っていた。


聖獣まで……くっ…やられた…!


拳を握りしめても、冷気に包まれた指先は感覚を失っていた。


また何もできなかった。

守れなかった。

十年前の無力な自分と、今の自分が重なり……あの日の絶望を、嫌でも思い返してしまう。


「リー兄……」

僕の目の前で命を落とした前皇帝"リータクト"…彼の名前を呼んで、僕は涙も流せず俯いた。




その後……

結局、僕達は犯人の手がかりを掴むこともできず、冷たくなったユーゴおじさんを抱えて――静まり返る祠を後にした。


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