向き合う勇気
「二人とも、どうぞ入って」
コンドとレインについてきた私は、コンドの家であるクトール邸の中に招き入れられていた。
「ありがとうコンド、お邪魔します」
「すっごい豪邸だ…お、おじゃましま〜す…」
コンドは私達が入りやすいように扉を大きく開き、慣れたように小さくお辞儀をしたレインは、スッと部屋に入る。
私はそんな二人の後から、ちょこんと頭を下げて中に入った。
ご…豪華そうな物ばっかり…。触らないように気をつけよう……。
部屋の中の装飾品や置物を避けるようにして慎重に進んだ私は、客室の椅子に座ってからようやく緊張の糸を解いた。
その後…
「子ども達に避難を促された町の住民達は、騒ぎが落ち着いた後、僕とリハイトの二人で家に帰したんだ」
私はコンドから、自分が眠った後の出来事を教えてもらった。
彼は部屋の窓に近寄ると、空を指差して続けた。
「それからは見ての通り…祠にいた謎の生物の力が弱まったからか、空には雲一つ無くなって…町に、暖かい太陽の光が射すようになったんだ。
まだ雪は積もっているけど…きっと太陽の光を浴びていれば、元通りになるはずだよ」
「そっかぁ…よかった…!ぴーちゃん達、ちゃんと住民達の避難しててくれたんだ!豪雪問題も無くなったし、これで安全に過ごせるね!」
コンドの話を聞いて、私がホッと胸を撫で下ろすと、彼は深く頭を下げる。
「君の協力あっての結果だ。
君の…突発的発想には本当に助けられたよ」
そして、私に謝礼の言葉を伝えてくれた。
「君がいなかったら……僕達は、民と町への被害をここまで抑える事ができなかったと思う。
…君は、この町の住民達の命と、彼等の平穏な暮らしを守ってくれた恩人だ。
ありがとう探偵…。英雄として、この町の町長として…僕は君に、心から感謝する。
……我ながら、お客人の手を煩わせるなんて、だいぶ情けなかったね…申し訳ないよ…」
コンドはそこまで言うと、すっかり肩を落としてしまった。
「そんな事ない!情ないなんて言わないで!
勝手に突っ込んだの私だしさ…。
それに英雄…ううん、アルテには魔物から守ってもらったし、コンドとリハイトには、この町で何度も迷惑かけた…。
ちゃんと助けてもらってるもん!
私にできる事があるなら手を貸したいよ!」
落ち込む彼を見ていられなくて、私は思わず全力で自分の気持ちを伝えた。
すると…
「そ、そっか…有り難いよ」
コンドは驚きながらも、照れくさそうに笑う。
一先ずアルテよりは素直に、私の"善意の押し売り"を受け入れてくれそうだ。
コンドからの報告が一段落した後…ふと疑問が浮かぶ。
そういえば…あの化け物はどうするんだろう…?
……と。
私は、その考えが浮かんでからすぐにそれについて尋ねようとしたのだが、どうやらレインも同じ事を考えていたようで……
「…それで?化け物…とやらはどうするつもり?」
彼女は私よりも先に口を開いた。
「私達だけでは、どうにもできないわ…。
帝国軍を使うにしても、元町長の許可がいる。
彼に、協力を仰ぐしかないんじゃない?」
「そう!それが聞きたかった!さっきも言ったけど、できる事があるなら勿論私も手伝うよ!
で…コンド、どうするの?」
「あ、えっと……」
レインに続いて私からも質問をすると、コンドは眉を下げて黙り込んだ。
……?何か引っかかる事があるのかな?
と、彼の様子を見て私が首を傾げていると、コンドはどこからか分厚い本を取り出す。
そして付箋の貼られたページを私達に向けて呟いた。
「…あの生物は、祠に戻すべきだ…。僕達は雪の化け物…なんて呼んでいたけど…。今朝、古い書物を読み漁っていたらこんな事が書いてあったんだ。
二人とも、読んでみて…」
そう促されて私達は身を乗り出し、本に書かれた文字に目を通した。
「…祠に住まうは…聖なる化身…
町を守りし……氷の、獣…?!」
ホコリやシミで読みにくくなった字を辿るように、レインは文を読み上げる。
それを聞いて私は驚愕してしまった。
「ゆ、雪の化け物は……
この町の守り主…聖獣だったの?!」
「うん…そうなんだ。
何故、町を雪で包んだのかはわからないけど…。あれが本当に聖獣なら、扱いには気を付けないといけない」
コンドはそう言うと、すぐに難しい表情をした。
「大叔父さんは信じてくれるかな…」と。
悩み続けるコンドを見て、私は今朝の元町長とのやり取りを思い出し……苦笑した。
…でも、このままじゃ解決しないよね…。
よし!当たって砕けろだ!とにかく元町長さんと、もう一回話し合ってみよう!
私は気を取り直して、コンドに提案した。何もしないままでは何も始まらないから。
「ねぇコンド、元町長さんと
ちゃんと話し合える場を設けられない?」
「えっ…た、探偵…また、大叔父さんと会う気…?
まともに取り合ってくれるかわからないし……ヘタしたら君が追い出されるかもしれない…」
「あら、私は案外いいプランだと思うわよ?」
コンドが判断を渋ると、そう言って賛成してくれたのはレインだ。
「正式に話し合える場なら気難しいあの人も、少しは私達の申し出…聞いてくれるかもしれないじゃない?
まぁ…帝国側に報告して、大事な聖獣を処分する手伝いがしたいなら止めないけれど…ね?」
レインはそこまで言うと、「貴方はどうしたいの?」…とでも言いたげな視線をコンドへ向ける。
しかし……
「でも…大叔父さんは……」
コンドは私達の意見を聞いても尚、俯いて答えを出せずにいた。
「コンド…向き合うことも大事、だと思う」
「…」
遂に黙ってしまったコンド…。
変化のない彼の反応を見て、 私はリハイト顔負けの盛大な溜息を吐いた。
……言いたくないけど、コンドって…。
「コンドはさ…次期"皇帝"なんでしょ?」
「?…えっと、僕は次期皇帝…の……ただの候補者だよ。でも、それが…どうかしたの?」
「ただの候補者…へ〜…じゃあ、なる気は無いんだ?」
「…へ?!」
いきなり関係のない話題を出されたからか、コンドは酷く驚いている。
…が、私はそんな事気にせず、
「なんかコンドって、自信とか威厳が無い!」
続けて、棘のある指摘を投げつけた。
「ウジウジしてて、消極的…候補止まりでかまわないって感じで皇帝になる気、全ッ然なさそう!!会ったときから思ってたけど…コンドは謙虚すぎるよ!」
「…! 確かに…そうね」
すると、レインも参戦してくる。
「私も、今の貴方が皇帝に向いてるとは思えないわ。会ったばかりの探偵にここまで見抜かれているうえ…実際、支持率低いものねコンド?」
「ゔっ…」
……やっぱりか…。
私とレインからのダブルパンチを受けて、コンドは情けなく縮こまってしまった。
「……ねぇ、コンドは本当に皇帝になりたくないの?
イヤイヤ候補やってるなら…やめてもいいんじゃない……?」
「ち、違う…!僕は…皇帝になりたい!
だけど、僕には…」
「…だけど?」
再びコンドの意思を聞くと、彼は言葉に詰まりながら声を上げた。
「僕には…なれっこないんだ…!
僕の憧れた皇帝陛下…完璧な皇帝だった従叔父さんでさえ、この帝国を治められなかった…。
最期までこの帝国の為に戦い抜いたのに…結局、民に見捨てられて…。彼の生きた証や栄華の歴史は消されてしまった。彼にできなかった事を、僕が…できるはずないよ…」
「…でも、叔父さんに憧れてたなら…その姿を見てコンド自身、学んだ事も沢山あったでしょ…?
できないなんて決めつけて、やりたい事…なりたい姿、諦めるのは勿体ないと思う…」
私はリハイトの言っていた大戦争を思い浮かべながら口を開く。
従叔父さんって事は……前皇帝陛下の事だよね…。大戦争…一体どれほどの人が傷付いて、コンドみたいに夢を諦めたんだろう…。
気づくとレインも難しい顔をして、コンドを見つめていた。
彼等…英雄の話は、聞いていると心を締め付けられるような辛いものがある…。
でも、話す事…口に出す事で、楽になれたってアルテも言ってた…。きっと普段声に出せない辛い想いは、彼等の心の中にいくつもあるはず…。
だから私は彼等一人一人に向き合う事にしたのだ。
……コンド、辛いかもしれないけど…話してほしい…。私は、聞く事しかできないから…。
そんな願いを込めて、私は彼を見る。
すると、コンドはゆっくりと……それでも確かに自分の気持ちを教えてくれた。
「うん…あった…。沢山見てきたし、沢山学んだ…。
だから、わかるんだ…。僕が…あの人みたいに立派な皇帝になれない事。
僕はこの帝国の民を愛せない…。
…ううん、赦せないんだ。
散々自分たちの重荷を押し付けた後、彼を捨てた民を…。
それでも……彼はこの帝国の民を、本当に大切にしていた…。民は同じ事を、次の皇帝にも望んでいる。
自分達にとって都合のいい存在であれと、押し付けたんだ。
民が求めているのは、自分達を守り、愛してくれる王…。僕にはそれが理解できない…したくもない」
それだけ言うと、彼は拳を握りしめる。……苦しそうな表情をして…。
「……?皇帝になる条件って、それだけなの?」
しかし…私はそれを聞き、首を傾げてしまった。
「結局コンドは…民の言う事聞いて…"帝国民大好き優しい皇帝!"を目指したかったの…?」
「………え?」
疑問に思った事をそのまま尋ねると、コンドは目を見開いて固まる。レインも不思議そうに見てくるので、私は「あれ…私、変な事言った…?」と、更に首を傾げた。
「民の声に従って彼等を律儀に愛する事以外でも、皇帝になる為にできる事、大切な事があるんじゃないかな…って、思ったんだけど…。
ん〜例えばえっと…コンドは他の候補者と違って英雄としての力もあるし、仲間への思いやりの心もあるし……それから…えぇと…?」
「……なるほどね、探偵。
貴方の言いたい事はわかったわ」
たどたどしい話し方になってしまったが、レインには私の考えが伝わったようで安心する。
「確かに民を愛する事…大切に守り、束ねる事は、上に立つ者としての重要な…素質。
でも…それが無いからって、皇帝になる事自体を諦める必要は無いわよね」
彼女はそう言うと、コンドを見て…
「…民の声に振り回されるだけでは、皇帝なんて大役やり遂げられないわ。
コンド、貴方は探偵の話を聞いてどう思ったの?」
…彼に問う。
すると、コンドは暫く考え込むように俯いてから答えた。
「……その通り、だと思う」
そしてその一言の後に、言葉を続ける。
「…民を愛する事だけが良き王になる条件じゃないし、彼等の言う通りにする必要だって無い。
でも……たとえ、完璧じゃなくても…従叔父さんのように…なれるのかな?」
レインの問いかけに答えたコンドは、ひどく寂しそうな表情をした。
コンドはきっと…理想に近付く事を諦め続けてたんだ…。
民を心から愛し、全力で守る事…。前皇帝にできた事が、自分にはできない。…それでも、理想の前皇帝のように完璧でありたい。
……その矛盾に耐え続けるのは、すごく苦しかっただろうな。
「……叔父さんに近づきたい…っていうその想いは、捨てずに持ち続けていいと思う」
私は、そんなコンドを見て静かに提案した。
「でもさ…憧れの人と全く同じになんて、誰でもなれないよ。それに、ちょっとぐらいできない事があってもいいじゃん。民を愛せないって欠点があっても……きっと、コンドなら大丈夫だよ。だって君は凄く優しいもん。
皇帝も"人"だよ。きっと完璧じゃなくたっていい。
コンドの意志が、なによりも大切…でしょ?」
「探偵…」
私の言葉を、コンドは最後まで聞いてくれた。
そして……
「うん、そうだね…その通りだ。
完璧じゃなくていい…か。
そんな事、今まで…考えもしなかったよ」
ようやく、笑ってくれた。
「強く憧れて、どれだけ努力しても、理想と同じ存在にはなれない…。当たり前だ…。それぞれが自分のやり方で精進する…芸術と、同じ…。
どうして、そんな簡単な事に気づけなかったんだろう……。
それに…"僕の意志"が大切だなんて…今まで誰にも…」
コンドは自分の考えを改めるように呟きながら言葉を続ける。
……当たり前、か…。そういえば、アルテも言ってたな…。
私はそんな彼を見て考えた。
彼等が"当たり前の事"に気付けないのは、きっと…この帝国の環境が悪過ぎるからだ…。
私が伝えてから、初めてそれが当たり前だと気付くのだって…おかしい。
そこまで考えると、私は無言で今朝の手帳を開く。
そして、短いメモを書き込んだ。
『私にできる事、すべき事!:
・彼等に当たり前の事を気付かせる。
・彼等と話し合って、少しでも心を軽くさせる。
☆できるようにする事!:英雄達を支える事!』
不服ではあるけど、メモ帳欲しいと思ってたんだよね……。
あの人が言ってた事と、ここに書くべき事は、まだよくわかんないけど…大事な事や私のすべき事は、忘れないようにちゃんと書いておこう…。
私はメモを書き込むと、再びポケットに手帳をしまった。
…数分の沈黙の後、コンドは何かを決意したように口を開いた。
「ありがとう探偵…。君の話を聞いて、決めたよ。
もう一度この帝国に、民に…そして大叔父さんに……向き合ってみる。ちゃんと向き合いたい!
きっと…これが僕の意志だ!」
「…!うん…!!」
キッパリと、自分で決意を固めたコンドを見て、私は思わず跳ね上がってしまう。
よかった…!やっぱり皇帝になりたいっていう意志は、強かったんだね!
「…とは言っても…今更、本気になって皇帝を目指すのは、遅すぎる……かな?」
決意を固めたのは良いものの、現状の不安が消えないのだろうか……コンドは側にいたレインに向ってそう問いかけた。
すると、レインは首を横に降り柔らかな表情で答える。
「いいえ…そんなことないわ、コンド。
貴方は努力を怠った事が無いもの。
殆どの教養や経験は文句無しで充分…。
そして力や魔法は探偵が言っていたように、他の候補者よりも遥かに上…。私もさっきは、支持率が低い…なんて貴方に言ったけど、候補上位はキープし続けてるもの…誤差よ、誤差。今からでも、すぐにトップの座は取り戻せるわ。あとは貴方の意志と、目に見える功績、新たな人脈が必要かしら…。
…まぁ結局は、貴方の努力次第ね。本気を出せば心配いらないでしょう」
「そっか……うん、そうだよね。
僕、今からでも頑張るよ」
レインに自分の評価を示され、コンドは窓の外の青い空を見上げて口を開いた。
私はそんなコンドを見つめて強く思った。
コンドが治めるなら…此処はきっと、立派な国になるよ……と。
✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿
「…大叔父さん、お時間よろしいですか?」
あれから数時間後。
私たちはコンドの大叔父であり、元町長である"ユーゴ・クトール"さんの部屋の前に立っていた。
「コンドか…。足音が複数聞こえたが、使用人ではないのだろう?客人が来るなら、先に伝えなさい」
コンドが緊張した面持ちで扉をノックすると、重く低い声が返ってくる。
「ごめんなさい、大叔父さん…。
客人は、スレッド嬢と……探偵です」
「探偵?聞かぬ名だな……。お前が余計な事をしたから私は忙しいのだが…まぁいい、短い用ではなさそうだ。入りなさい」
「…失礼します」「ユーゴ様、失礼いたします」「し、失礼し、いたし…ます!」
ユーゴさんの許可を得て、私達は部屋へ足を踏み入れた。
しかし入るなり、ユーゴさんの鋭い視線がこちらを射抜き、私は思わず肩をすくめる。
――ヒェ…!目力、すごい……!
するとその様子に気づいたのか、レインがそっと私の肩に手を置いて落ち着かせてくれた。
…そうだ、怖気づいてなんていられない。ちゃんと言わなきゃ!雪の化け物……聖獣のこと!
「……探偵とは、早朝の…。
ふんッ…町の外の者が、私に何の用だ?」
「えっと、その……祠にいた謎の生物を、祠に戻したいんです!英雄達の働きで大人しくなったので、町が混乱する前に――」
「私たちだけでは祠まで運べません。ですから、帝国軍の介入を許可していただきたいのです。……もしそれが難しいようであれば、人員を回していただけないでしょうか?」
ユーゴさんの機嫌を損ねないよう、私とレインは慎重に言葉を選んだ。
朝よりも落ち着いて見える彼の様子に、わずかな希望を感じながら。
「なるほど、英雄だけではこの町の者を動かせんから私に協力してほしいと。
……だが、帝国軍の介入など論外だ。許可できん。
あの雪を降らせた元凶が祠の生物だったとは聞いたが、なぜ戻す必要がある?大人しくなったなら放っておけ。再び暴れたなら、その時は処分すればよかろう。……まさか情でも移ったか?無駄な干渉はよしたまえ。君達はこの町のことに口を出す立場ではないだろう?」
しかし返ってきたのは冷たい言葉だけだった。
「無駄な干渉ではありません、大叔父さん。これを見てください」
それでもコンドが一歩前へ出て、古びた本を差し出した。
「あの祠の生物は……
この町の守り主、"聖獣"なんです。
だから、きちんと祠に帰す必要が――」
「聖獣?馬鹿な。守り主が町に害をなすなど聞いたことがない。 そもそも根拠はその本だけか?信じられん。この話は終いだ。 ……もう二度と危ない真似はするな。さあ、客人を帰しなさい」
必死に説得しようとするコンドの言葉を遮るユーゴさん。
どうしよう……まともにこっちの話聞いてくれない!
私はその様子を見て焦る。
だって、コンドにここまで来るよう促したのは私だ。この話し合いが二人の仲を悪化させるきっかけにでもなったら……コンドが更に傷ついたら…。ッそんなの嫌だ…!
自分が軽率に言った言葉にどれだけの責任が伴うのかようやく理解した私は、思わず震えてしまう。
どうか平和的に終わってくれ!と、ただひたすらに願うばかりだ。
「……嫌です」
…しかし、私の心配とは裏腹に、コンドはユーゴさんの部屋から逃げ出さなかった。
「聖獣をあのままにする方が危ないです。
この町の為に、僕は引きません」
即座に返したコンドの声に、部屋の空気が凍りつく。
「何だと?」
コンドの性格からして普段は従順なのだろう……そんな彼からの反抗に、ユーゴさんは眉をひそめた。
「大叔父さん、ちゃんと僕たちの話を聞いてください!確かに根拠はこの本だけですが、僕は……町を、民を守りたいんです!」
「国を治める覚悟もないお前が、民を守るだと?
……未熟者の戯言に付き合っていられるか」
どんなに冷たい言葉を浴びても、コンドは一歩も退かない。彼は苦しいほど真剣な眼差しで、なおも言葉を紡ぐ。
「ええ、僕はまだ未熟です。
町長としても、皇帝候補としても…。
でも――それでも、この帝国と向き合いたいと思った。この帝国を統べる覚悟を、決めたんです」
「コンド……!」
私とレインは、決意を込めた彼の言葉に思わず頷いた。
「…皇帝というのは、生半可な覚悟で務まる地位ではないぞ」
「承知しています。 僕は、皇室や民からの押しつけではなく――“自分の意志”で皇帝を目指します!」
コンドは確かにハッキリとそう言いきった。
「僕は僕の信じた道を選び、最期まで進み続けます」
彼は目指す理想をそのままに、覚悟を"自分で"決めたのだ。"自分から"選んだのだ。
すると……
その瞳に宿る熱い炎を見て、ユーゴさんはゆっくりと息を吐き、口元を緩めた。
「……そうか。ついに、決めたか」
「大叔父さん……?」
そのあまりの穏やかな表情に、私達は思わず目を丸くしてしまう。コンドも信じられないものを見るような表情をしていた。
「いいだろう。お前が皇帝になるまで、私は全力で支える。聖獣の件も、こちらでなんとかしよう」
さっきまで険しかった顔が、嘘のように……ユーゴさんは優しく微笑んでいる。
「お前が覚悟を決めたのなら、もうこの町に閉じこもる必要もない。好きにするといい」
突然の協力宣言に、私たちは唖然とした。
……え、えっと…?
つまり、この町が閉鎖的だったのも、コンドへの過干渉も、ただの過保護だったってこと?
頭の中でそんな考察が浮かぶ中、コンドが感極まったように頭を下げた。
「あ、ありがとうございます……!
大叔父さん…今まで僕のことをそんなにも想ってくれていたなんて、知りませんでした。
迷惑ばかりかけて……ッごめんなさい」
「気にするな。私が勝手にしたことだ。 ……思えばお前に“護らせてほしい”と、きちんと伝えたことはなかったな。子供が大人に守られるのは当然のことだ。
皇帝候補に選ばれたその日から、前皇帝───リータクトのような悲劇を繰り返させぬよう、この町で安全に育ててきた。
……だが、もうこの生活はお前には狭いのだろうな」
穏やかに微笑むユーゴさんの言葉に、私はようやく腑に落ちた。
――あぁ……そうか…。
前皇帝リータクト様の父親が、ユーゴさん……。
自分の息子が大戦争で、民達にどう扱われたかを知っているからこそ…ここまで過保護にコンドを…。
「お前も、大きくなったな。
本当に……リータクトを思い出すよ」
コンドを見上げるユーゴさんの瞳が、誇らしげに細められる。
「……大叔父さん。僕は、リータクトさんのような立派な皇帝になります。絶対に!」
迷いのない誓いに、ユーゴさんは優しく頷いた。
「ああ……期待しているよ」




