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生彩放つ無神世界  作者: 美緑
〜第二章〜❅٭豪雪に包まれし鳥獣町٭❅
14/89

摩訶不思議

❅*┈✼••┈┈┈┈••⋆͛ ✼ ⋆͛••┈┈┈┈••✼┈*❅

《リハイト視点》


雪の化け物…を倒した後、眠りについた探偵をおぶって、コンドは宿へ向かった。


「コレは……」

そのため、俺は一人で罠に掛かった化け物を調べていたのだが……。


コイツの鱗…普通の魔物とは全然違う…。

瘴気じゃない、神聖なエネルギーを感じる…。

コイツ、本当にただの化け物なのか…?


いくら見回しても、分厚い鱗から禍々しい瘴気は感じられず…むしろ神聖な光を放っている。


「まさか……コイツ"聖獣"か?!」


魔物や魔獣は人にとっての猛毒…"瘴気"に体が包まれている為、傍に寄るだけでも害が及ぶ。

しかし……ただの化け物だと思っていた目の前の生物は、瘴気を纏っていない。


むしろ、瘴気を浄化されるような光を纏ってる…。

……祠の中にいたのは聖獣だったのか…?

でも…ならなぜ、この町をこんな状態に…?

俺は辺りを見渡して考えた。

町に渦巻いていた豪雪は止んだが…冷たく溶けることない雪は、未だに分厚く地面を覆っている。


本来"聖獣"とは、人々を苦しめるのではなく、あらゆる厄災から守る為に存在するのだ。

誰かが故意的に…暴走化させたのか?

…だとしたらなんの為に?

俺は化け物……聖獣に手を当てて覗き込んだ。

……今なら話を聞けるかもしれない…。


「…どうして町に害を与えてしまったんだ?

聞かせてくれ…お前の意思じゃないんだろ?」


俺が問うと、聖獣は目を見開いてこちらを見た。

……どうやら、意思の疎通はできそうだ。


『お、おぬし…こと…ばが、わかるのか…?!』


「あぁ…俺は少し特殊な力を持ってるんだ。

こうして身体に触れている時だけ、魔物や魔獣…生き物達の声を聞くことができる。

聖獣(おまえ)の話も聞いてやれるから……教えてくれ。

一体"(なに)が"お前をそうしたのか」


聖獣は俺の言葉を聞いて、絞り出すように声を上げた。


『かお…顔を隠した…あ、怪しいヤツが…わ、我が身に…あ、やしい…宝珠を埋め込んだ…。

いつかは…おぼえ…ていないが……ヤツは、この町の…たみ、では…ない…』


「祠に入ったヤツがいるのか?!

しかも……町の外の者が?」

俺は信じられない話に目を剥いた。


町の住民以外の者が町に入ること自体(じたい)簡単ではないというのに……あの祠に入っただと?

果たしてそんな事が可能なのだろうか?

いや、ありえない……。あの祠に入るには元町長が管理している鍵が必要なんだぞ? 扉以外に出入りできる場所だってないのに…何故……。


不法に侵入した者がいる可能性に危機感を覚え、動揺していると、聖獣は続けて声を絞り出す。


『ヤツが…なぜ祠に、は…入って来られたのかは…我にも…わからぬ…。り、理由も…知らぬ…。

だが…今は…それ、より………お……ぬし…に、頼みたい…事がある…。

我が身に…埋め込まれた、"宝珠"…取り、出してくれ…』


聖獣はそう言うと、呪縛紐の中で無理やり身体を動かし、仰向けに転がった。

見ると聖獣の腹部が仄かに光っている…。


「聖獣…今の状態で体内にあるモノを取り出したら、お前が危ないぞ?」


『我を…放って…おけ…ば、また町に…害を与え…てしまう…やも……しれん…。

我の腹…など、切り……裂いて、かま…わない……。我が、死ねば…この、雪は溶け…る…。

これ以上…こ…の、町に…我は……』


聖獣は淡々とそう言うと、そのまま目を閉じた。

「……。」

どうやら探偵と同じく、体力が限界を迎えてしまったらしい。

…気を失っただけか。


……こいつが埋め込まれたのは、一体(いったい)なんなんだ…?聖獣を暴走させる代物……ろくなモノじゃないのは確かだな…。


未だに輝く聖獣の腹部を眺めて、俺は慎重に近く。

聖獣は本来人々を守る存在……死んでもらう訳にはいかない。……でも、かと言って、このまま体内の物を放ってはおけない…よな。


「……取り出してやるか」

悩んだ末…俺は聖獣の望み通り、宝珠とやらを取り出してやる事にした。



しかし……

「なっ…あッッッつ!!今度は、なんなんだ…?!」

思案に暮れながら聖獣の腹部に手を当てた途端、光が増し、俺の手に途轍もない熱が伝わった。


突然襲ってきた焼けるような痛みに、俺は思わず顔をしかめる。

「ッ……」

強まるばかりの光に危険を感じて、俺は直ぐに聖獣から離れた。

のだが……


─────いつの間にか、俺の目の前には、聖獣を苦しめた元凶である"宝珠"が浮かんでいた…。



「…………ッはあ"ぁ?!」


突然、物理を無視して聖獣の身体から飛び出してきた宝珠に、思考が追いつく筈もなく……。

俺はただただ驚愕して頭を抱えた。


……本当に、どういう事なんだ。


✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿

《探偵視点》


ん……?ここ…どこ?……夢かな…?


気が付くと、私は何も無い空間にいた。

辺りを見渡しても…白、白、白……ただ只管に白くて文字通り何も無いのだ。


目の前に広がる光景があまりにも非現実的過ぎて、私はすぐに自分が"夢の中"にいる事を悟った。


何も無いのでそのまま特に何もせず立ち尽くしていると、


『ろ……よ…しろ…依代(よりしろ)、余の声が…聞こえるか…?』


突然……

姿の見えない"誰か"に話しかけられた。


「ど、何処から声が?!というか…きみ……"貴方"は……だ、誰?」

声は聞こえるのに相手の姿が全く見えないので、私は辺りを一生懸命見回して問いかける。

すると"誰か"は…


『…余は、お前の………だ』

…と、やはり姿を現さずに答えた。


「えっ…なんて?よく聞こえない…」


姿の見えない相手は、私に問われた事を答えたようだが……肝心の"何者か(ぶぶん)"がどうしても聞き取れなかった。


『依代…お前は"己が使命"を……忘れてはならぬ…。

英雄達を支え、この…を……から守る…のだ』


「あ、言い直してはくれないんだ…。

しかも、何から何守るのかも聞き取れなかったよ…。

使命?なら、はっきり聞こえるように言ってよ!

英雄達が関わるなら尚更ね!」


姿も見せてくれないし、意地悪だな…。

と私が不貞腐れていると…相手は、またも一方的に喋りだす。


『…英雄達を大事に…思っている…なら良い。

…案ずるな、依代…余の姿が完全に見えた…き

……きっと、お前は記憶を………す』

「え…」

姿の見えない相手のその言葉に、私は思わず反応した。


「今のどういう事?!教えて!!

貴方、私のなにかを知ってるの?!」


自分の"記憶"……

それは私が今、一番取り戻したいものだ。


夢だし…自分の中で創り上げた想像とか嘘かもしれないけど……それでも、ちゃんと聞かなきゃいけない気がする…!

事件も異変も、無くし物も!なんでも解決の手がかりは多くないと…!


私は縋るような思いで耳を傾ける……が、


『知って……も…な……お前…つ……』

そこで段々と、相手の声が遠ざかって行く。


「あ…ちょ、ちょっと待って!もっとはっきり…!」


私は必死に叫びながら手を伸ばした。

……しかし、

それで姿の見えない誰かが捕まるはずもなく…。


「……あ〜…」

起きちゃった…。


バッチリ目覚めてしまったのだ。

きっと二度寝しても…同じ夢は見れないんだろうな〜…。

そう考えてしょげながら身体を起こすと、枕元に見慣れない手帳が置いてある事に気が付く。


「…?こんなの、昨日あったかな…?」

私が眠っていたのは、コンドが手配してくれていた宿の一室だ。

少なくとも昨日は無かったはずなんだけどな…。

私は手帳を取ると、軽くパラパラ捲ってみた。

……どのページも真っ白で新品同様だ。


「…なんだ全部真っ白じゃん……ってあれ?!」


しかし最後のページをめくると、不思議な事に薄っすらと文字が浮かんできた。

「ンげぇッ?!」

その内容を見て、私は思わず渋い顔をしてしまう。


『依代…お前が全てを忘れないよう

これを託す…"新たな記憶"は何一つ手放すな…。

取りこぼす事は赦さない…。

全ては…コピルムの為に……。』


「…コレ、絶対夢の人の仕業じゃん!

え……というか…

なんで現実世界にまで影響してるのあの夢…!」


(あれ)がただの夢では無い可能性に気が付いて、私は「こっわ!ありえない…!」と声を上げて手帳から離れた。

そのまま震えて布団に包まっていると、不意に……誰が部屋の扉をノックした。


───コンコン…コンコン


「え…だ、誰……ですか?」


相手が何者なのかわからないので、私は慣れない敬語で問いかけた。

コンドより身分高い人は、いないと思うけど…一応ね……。


「探偵、僕だよ"コンド"…。

大丈夫?中で大きな声がしたけど…」

しかし、警戒した(のち)に返ってきたのはコンドの声だった。


「な、なんだ…良かったコンドか〜…。

あ、大丈夫!ただ夢見が悪くてね…」


「寝心地が悪かったのかな……。

それともやっぱり昨夜巻き込んでしまったから…」


「え、あぁ、違う違う!寝心地最高だよ このベッド!

それに昨日は私が、自分から突っ込んだだけで……とにかく!本当に気にしなくていいよコンド!」

扉越しで彼とそんな会話しながら、私は急いで身支度を済ませた。


…雪の化け物が大人しくなったからかわかんないけど、今日は暖かいな……あ、この手帳どうしよ………一応、持っとくか…。

私は正体不明の誰かから貰った手帳と睨めっこした後……結局それも持っていく事にした。

時計を入れたポケットとは反対のポケットに手帳を入れると、最後に髪を結んで……ようやく部屋の扉を開いた。


「改めて……おはよう!コンド!」

「うん、おはよう探偵!」


部屋を出てから朝の挨拶をすると、コンドは笑顔で挨拶を返してくれる。

元気な挨拶から始まる一日は気持ちがいい。



「貴方達、朝から元気ね…」

「うんうん、元気でしょ…え?」


あれおかしいな…今、聞き慣れない声が…?

コンドと会話しているつもりで答えたあと、私は自分が返事を返した相手が(コンド)ではない事に気が付いて首を傾げる。


「…?君は……えーと?」


……誰だろう?

声の主はどうやらコンドの後ろにいるらしい。

でも彼の背が高くてよく見えない……。


「色々聞きたい事はあると思うけど、

まずは挨拶ね…」

私が自分の背の低さに改めて気付かされていると、声の主はゆっくりとコンドの横に並んだ。


「ごきげんよう。

私は神域の五英雄が一人…。

"レイン・スレッド"よ。」

緩やかに編まれた金色の髪と、輝く刈安色の瞳…。

華やかな容姿の"彼女(レイン)"は私に向けて、フワッと優雅にカーテシーをした。


「"風の噂"で貴方の事は聞いてるわ…探偵」


「は、はじめましてレイン…さん…」


「あー…貴方、アルテの友人なんでしょう?

敬称は付けなくていいわ。

なんだったら、私の事も呼び捨てでかまわないから」


品が良すぎるレインの挨拶に圧倒され、思わず敬称をつけてしまった。

凄い綺麗な子だ……お、お姫様みたい…!

レインに見惚れて紅くなった頬を抑えながら、私は彼女に問いかけた。


「レ…レイン…。 風の噂って…アルテから私の事、聞いたの? あと、私に何か用かな…?」

用が無かったら、私の部屋の前で待ってる必要ないよね…?

そう考えながら、私はレインに目を向ける。

すると、彼女は静かに頷いてから教えてくれた。


「えぇ、そうよ。貴方の事はアルテから聞いたの。

…今日はコンドに呼ばれたのよ。

貴方に"魔法の使い方"を指導してほしい…ってね」


どうやら彼女は私の為にわざわざ駆けつけてくれたらしい……。

そういえば、この子も英雄だって言ってたな…これも仕事の内…ってこと?

だとしても申し訳なくて、私は恐縮してしまう。


「探偵…貴方、魔法の知識が薄いのに、無理やり魔力を引き出して魔法を使ったらしいわね?精霊も使い魔もいないのに…。下手したら…死んでいたわよ?

貴方がつまらない事で命を落とさないように…私が、正しい魔法の使い方…"英雄"として、指導するわ」


「し、死んで……ひぇっ…」

アルケミーに頼って無理矢理魔法を使った行為……あれが生死に関わる行為だった事を聞き、私は青くなって肩を震わせた。

しかし……


「うぅ…なんか、死が身近すぎて怖い!」


「……」

「…何言ってるの探偵? この世界で一番軽いのは命よ? 気を抜いたら常に死が近づく…。貴方は記憶が無いから、知らないのかもしれないけどね」


私の言葉にコンドは口を紡ぎ、レインは呆れ気味に口を開く。

い…命が一番軽いって一体…?

信じられないレインの言葉に目を丸くしていると、コンドがその話の続きを遮るように話しかけてきた。


「探偵…レインとの挨拶はこれぐらいで…。

協力者の君には、騒ぎ後の報告がしたいから…付いてきてくれないかな?」

……そう言った彼の表情は翳っていて…どこか悲しそうだ。


「あ…うん、勿論…」

私は暗い表情のコンドを見て、これ以上聞くのはやめておいた。


そしてそのまま大人しく、二人の後に付いて行く…。


✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿



宿を出て町の大通りに出ると、町の民何人かがコンドとレインに向かって挨拶をした。

「神域の五英雄コンド様!レイン様!

おはようございます!」

「お二人にご挨拶申し上げます!」


すると二人は、民達の挨拶に軽く答えて会釈する。

「あぁ、皆おはよう…。

君たちに"紺青の炎の加護"があらんことを…」

「…"黄金の月の加護"があらんことを…」


加護…やっぱり挨拶した人に言ってあげる決まりがあるのかな…?

興味を引かれてその様子を見ていると、加護を受けた民達は去り際にはしゃぎながら、ボソリと呟いた。


「これで今日も英雄様に守ってもらえる!」

「英雄様がいれば加護が受けられるもの…!

やっぱり"神"なんていらないわよね!」


「…!」

民達のその言葉を聞いた途端、私は激しい怒りに包まれ、思わず拳を握りしめてしまった。


酷い…!皆…英雄に自分達を守ってもらう為に媚を売ってるってこと…?そんなの…!


私はそこでリハイトの言葉を思い出す。

『あの面倒くさい制度は、" 帝国の奴らが勝手に創って押し付けてきた "だけだ。』

……そしてようやく、彼の言っていた意味を理解した。


しかし私がそのまま帝国への不快感に顔を歪ませていると…

「探偵、凄い顔…。

せっかく可愛いんだから、眉間に皺を寄せないで」

…と、レインに眉間を指で ツンっと抑えられてしまった。


「僕等は慣れているから…大丈夫だよ、探偵。

でも……怒ってくれて嬉しいな」

私に聞こえていたのだから、当たり前に二人にも民達の声は聞こえていたようだが……レインもコンドも、民達の言葉など気に留めず進んで行く。



「二人とも…」

私は、何もできないのが悔しくて……ただ俯きながら歩みを進めた。

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