摩訶不思議
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《リハイト視点》
雪の化け物…を倒した後、眠りについた探偵をおぶって、コンドは宿へ向かった。
「コレは……」
そのため、俺は一人で罠に掛かった化け物を調べていたのだが……。
コイツの鱗…普通の魔物とは全然違う…。
瘴気じゃない、神聖なエネルギーを感じる…。
コイツ、本当にただの化け物なのか…?
いくら見回しても、分厚い鱗から禍々しい瘴気は感じられず…むしろ神聖な光を放っている。
「まさか……コイツ"聖獣"か?!」
魔物や魔獣は人にとっての猛毒…"瘴気"に体が包まれている為、傍に寄るだけでも害が及ぶ。
しかし……ただの化け物だと思っていた目の前の生物は、瘴気を纏っていない。
むしろ、瘴気を浄化されるような光を纏ってる…。
……祠の中にいたのは聖獣だったのか…?
でも…ならなぜ、この町をこんな状態に…?
俺は辺りを見渡して考えた。
町に渦巻いていた豪雪は止んだが…冷たく溶けることない雪は、未だに分厚く地面を覆っている。
本来"聖獣"とは、人々を苦しめるのではなく、あらゆる厄災から守る為に存在するのだ。
誰かが故意的に…暴走化させたのか?
…だとしたらなんの為に?
俺は化け物……聖獣に手を当てて覗き込んだ。
……今なら話を聞けるかもしれない…。
「…どうして町に害を与えてしまったんだ?
聞かせてくれ…お前の意思じゃないんだろ?」
俺が問うと、聖獣は目を見開いてこちらを見た。
……どうやら、意思の疎通はできそうだ。
『お、おぬし…こと…ばが、わかるのか…?!』
「あぁ…俺は少し特殊な力を持ってるんだ。
こうして身体に触れている時だけ、魔物や魔獣…生き物達の声を聞くことができる。
聖獣の話も聞いてやれるから……教えてくれ。
一体"何が"お前をそうしたのか」
聖獣は俺の言葉を聞いて、絞り出すように声を上げた。
『かお…顔を隠した…あ、怪しいヤツが…わ、我が身に…あ、やしい…宝珠を埋め込んだ…。
いつかは…おぼえ…ていないが……ヤツは、この町の…たみ、では…ない…』
「祠に入ったヤツがいるのか?!
しかも……町の外の者が?」
俺は信じられない話に目を剥いた。
町の住民以外の者が町に入ること自体簡単ではないというのに……あの祠に入っただと?
果たしてそんな事が可能なのだろうか?
いや、ありえない……。あの祠に入るには元町長が管理している鍵が必要なんだぞ? 扉以外に出入りできる場所だってないのに…何故……。
不法に侵入した者がいる可能性に危機感を覚え、動揺していると、聖獣は続けて声を絞り出す。
『ヤツが…なぜ祠に、は…入って来られたのかは…我にも…わからぬ…。り、理由も…知らぬ…。
だが…今は…それ、より………お……ぬし…に、頼みたい…事がある…。
我が身に…埋め込まれた、"宝珠"…取り、出してくれ…』
聖獣はそう言うと、呪縛紐の中で無理やり身体を動かし、仰向けに転がった。
見ると聖獣の腹部が仄かに光っている…。
「聖獣…今の状態で体内にあるモノを取り出したら、お前が危ないぞ?」
『我を…放って…おけ…ば、また町に…害を与え…てしまう…やも……しれん…。
我の腹…など、切り……裂いて、かま…わない……。我が、死ねば…この、雪は溶け…る…。
これ以上…こ…の、町に…我は……』
聖獣は淡々とそう言うと、そのまま目を閉じた。
「……。」
どうやら探偵と同じく、体力が限界を迎えてしまったらしい。
…気を失っただけか。
……こいつが埋め込まれたのは、一体なんなんだ…?聖獣を暴走させる代物……ろくなモノじゃないのは確かだな…。
未だに輝く聖獣の腹部を眺めて、俺は慎重に近く。
聖獣は本来人々を守る存在……死んでもらう訳にはいかない。……でも、かと言って、このまま体内の物を放ってはおけない…よな。
「……取り出してやるか」
悩んだ末…俺は聖獣の望み通り、宝珠とやらを取り出してやる事にした。
しかし……
「なっ…あッッッつ!!今度は、なんなんだ…?!」
思案に暮れながら聖獣の腹部に手を当てた途端、光が増し、俺の手に途轍もない熱が伝わった。
突然襲ってきた焼けるような痛みに、俺は思わず顔をしかめる。
「ッ……」
強まるばかりの光に危険を感じて、俺は直ぐに聖獣から離れた。
のだが……
─────いつの間にか、俺の目の前には、聖獣を苦しめた元凶である"宝珠"が浮かんでいた…。
「…………ッはあ"ぁ?!」
突然、物理を無視して聖獣の身体から飛び出してきた宝珠に、思考が追いつく筈もなく……。
俺はただただ驚愕して頭を抱えた。
……本当に、どういう事なんだ。
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《探偵視点》
ん……?ここ…どこ?……夢かな…?
気が付くと、私は何も無い空間にいた。
辺りを見渡しても…白、白、白……ただ只管に白くて文字通り何も無いのだ。
目の前に広がる光景があまりにも非現実的過ぎて、私はすぐに自分が"夢の中"にいる事を悟った。
何も無いのでそのまま特に何もせず立ち尽くしていると、
『ろ……よ…しろ…依代、余の声が…聞こえるか…?』
突然……
姿の見えない"誰か"に話しかけられた。
「ど、何処から声が?!というか…きみ……"貴方"は……だ、誰?」
声は聞こえるのに相手の姿が全く見えないので、私は辺りを一生懸命見回して問いかける。
すると"誰か"は…
『…余は、お前の………だ』
…と、やはり姿を現さずに答えた。
「えっ…なんて?よく聞こえない…」
姿の見えない相手は、私に問われた事を答えたようだが……肝心の"何者か"がどうしても聞き取れなかった。
『依代…お前は"己が使命"を……忘れてはならぬ…。
英雄達を支え、この…を……から守る…のだ』
「あ、言い直してはくれないんだ…。
しかも、何から何守るのかも聞き取れなかったよ…。
使命?なら、はっきり聞こえるように言ってよ!
英雄達が関わるなら尚更ね!」
姿も見せてくれないし、意地悪だな…。
と私が不貞腐れていると…相手は、またも一方的に喋りだす。
『…英雄達を大事に…思っている…なら良い。
…案ずるな、依代…余の姿が完全に見えた…き
……きっと、お前は記憶を………す』
「え…」
姿の見えない相手のその言葉に、私は思わず反応した。
「今のどういう事?!教えて!!
貴方、私のなにかを知ってるの?!」
自分の"記憶"……
それは私が今、一番取り戻したいものだ。
夢だし…自分の中で創り上げた想像とか嘘かもしれないけど……それでも、ちゃんと聞かなきゃいけない気がする…!
事件も異変も、無くし物も!なんでも解決の手がかりは多くないと…!
私は縋るような思いで耳を傾ける……が、
『知って……も…な……お前…つ……』
そこで段々と、相手の声が遠ざかって行く。
「あ…ちょ、ちょっと待って!もっとはっきり…!」
私は必死に叫びながら手を伸ばした。
……しかし、
それで姿の見えない誰かが捕まるはずもなく…。
「……あ〜…」
起きちゃった…。
バッチリ目覚めてしまったのだ。
きっと二度寝しても…同じ夢は見れないんだろうな〜…。
そう考えてしょげながら身体を起こすと、枕元に見慣れない手帳が置いてある事に気が付く。
「…?こんなの、昨日あったかな…?」
私が眠っていたのは、コンドが手配してくれていた宿の一室だ。
少なくとも昨日は無かったはずなんだけどな…。
私は手帳を取ると、軽くパラパラ捲ってみた。
……どのページも真っ白で新品同様だ。
「…なんだ全部真っ白じゃん……ってあれ?!」
しかし最後のページをめくると、不思議な事に薄っすらと文字が浮かんできた。
「ンげぇッ?!」
その内容を見て、私は思わず渋い顔をしてしまう。
『依代…お前が全てを忘れないよう
これを託す…"新たな記憶"は何一つ手放すな…。
取りこぼす事は赦さない…。
全ては…コピルムの為に……。』
「…コレ、絶対夢の人の仕業じゃん!
え……というか…
なんで現実世界にまで影響してるのあの夢…!」
夢がただの夢では無い可能性に気が付いて、私は「こっわ!ありえない…!」と声を上げて手帳から離れた。
そのまま震えて布団に包まっていると、不意に……誰が部屋の扉をノックした。
───コンコン…コンコン
「え…だ、誰……ですか?」
相手が何者なのかわからないので、私は慣れない敬語で問いかけた。
コンドより身分高い人は、いないと思うけど…一応ね……。
「探偵、僕だよ"コンド"…。
大丈夫?中で大きな声がしたけど…」
しかし、警戒した後に返ってきたのはコンドの声だった。
「な、なんだ…良かったコンドか〜…。
あ、大丈夫!ただ夢見が悪くてね…」
「寝心地が悪かったのかな……。
それともやっぱり昨夜巻き込んでしまったから…」
「え、あぁ、違う違う!寝心地最高だよ このベッド!
それに昨日は私が、自分から突っ込んだだけで……とにかく!本当に気にしなくていいよコンド!」
扉越しで彼とそんな会話しながら、私は急いで身支度を済ませた。
…雪の化け物が大人しくなったからかわかんないけど、今日は暖かいな……あ、この手帳どうしよ………一応、持っとくか…。
私は正体不明の誰かから貰った手帳と睨めっこした後……結局それも持っていく事にした。
時計を入れたポケットとは反対のポケットに手帳を入れると、最後に髪を結んで……ようやく部屋の扉を開いた。
「改めて……おはよう!コンド!」
「うん、おはよう探偵!」
部屋を出てから朝の挨拶をすると、コンドは笑顔で挨拶を返してくれる。
元気な挨拶から始まる一日は気持ちがいい。
「貴方達、朝から元気ね…」
「うんうん、元気でしょ…え?」
あれおかしいな…今、聞き慣れない声が…?
コンドと会話しているつもりで答えたあと、私は自分が返事を返した相手が彼ではない事に気が付いて首を傾げる。
「…?君は……えーと?」
……誰だろう?
声の主はどうやらコンドの後ろにいるらしい。
でも彼の背が高くてよく見えない……。
「色々聞きたい事はあると思うけど、
まずは挨拶ね…」
私が自分の背の低さに改めて気付かされていると、声の主はゆっくりとコンドの横に並んだ。
「ごきげんよう。
私は神域の五英雄が一人…。
"レイン・スレッド"よ。」
緩やかに編まれた金色の髪と、輝く刈安色の瞳…。
華やかな容姿の"彼女"は私に向けて、フワッと優雅にカーテシーをした。
「"風の噂"で貴方の事は聞いてるわ…探偵」
「は、はじめましてレイン…さん…」
「あー…貴方、アルテの友人なんでしょう?
敬称は付けなくていいわ。
なんだったら、私の事も呼び捨てでかまわないから」
品が良すぎるレインの挨拶に圧倒され、思わず敬称をつけてしまった。
凄い綺麗な子だ……お、お姫様みたい…!
レインに見惚れて紅くなった頬を抑えながら、私は彼女に問いかけた。
「レ…レイン…。 風の噂って…アルテから私の事、聞いたの? あと、私に何か用かな…?」
用が無かったら、私の部屋の前で待ってる必要ないよね…?
そう考えながら、私はレインに目を向ける。
すると、彼女は静かに頷いてから教えてくれた。
「えぇ、そうよ。貴方の事はアルテから聞いたの。
…今日はコンドに呼ばれたのよ。
貴方に"魔法の使い方"を指導してほしい…ってね」
どうやら彼女は私の為にわざわざ駆けつけてくれたらしい……。
そういえば、この子も英雄だって言ってたな…これも仕事の内…ってこと?
だとしても申し訳なくて、私は恐縮してしまう。
「探偵…貴方、魔法の知識が薄いのに、無理やり魔力を引き出して魔法を使ったらしいわね?精霊も使い魔もいないのに…。下手したら…死んでいたわよ?
貴方がつまらない事で命を落とさないように…私が、正しい魔法の使い方…"英雄"として、指導するわ」
「し、死んで……ひぇっ…」
アルケミーに頼って無理矢理魔法を使った行為……あれが生死に関わる行為だった事を聞き、私は青くなって肩を震わせた。
しかし……
「うぅ…なんか、死が身近すぎて怖い!」
「……」
「…何言ってるの探偵? この世界で一番軽いのは命よ? 気を抜いたら常に死が近づく…。貴方は記憶が無いから、知らないのかもしれないけどね」
私の言葉にコンドは口を紡ぎ、レインは呆れ気味に口を開く。
い…命が一番軽いって一体…?
信じられないレインの言葉に目を丸くしていると、コンドがその話の続きを遮るように話しかけてきた。
「探偵…レインとの挨拶はこれぐらいで…。
協力者の君には、騒ぎ後の報告がしたいから…付いてきてくれないかな?」
……そう言った彼の表情は翳っていて…どこか悲しそうだ。
「あ…うん、勿論…」
私は暗い表情のコンドを見て、これ以上聞くのはやめておいた。
そしてそのまま大人しく、二人の後に付いて行く…。
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宿を出て町の大通りに出ると、町の民何人かがコンドとレインに向かって挨拶をした。
「神域の五英雄コンド様!レイン様!
おはようございます!」
「お二人にご挨拶申し上げます!」
すると二人は、民達の挨拶に軽く答えて会釈する。
「あぁ、皆おはよう…。
君たちに"紺青の炎の加護"があらんことを…」
「…"黄金の月の加護"があらんことを…」
加護…やっぱり挨拶した人に言ってあげる決まりがあるのかな…?
興味を引かれてその様子を見ていると、加護を受けた民達は去り際にはしゃぎながら、ボソリと呟いた。
「これで今日も英雄様に守ってもらえる!」
「英雄様がいれば加護が受けられるもの…!
やっぱり"神"なんていらないわよね!」
「…!」
民達のその言葉を聞いた途端、私は激しい怒りに包まれ、思わず拳を握りしめてしまった。
酷い…!皆…英雄に自分達を守ってもらう為に媚を売ってるってこと…?そんなの…!
私はそこでリハイトの言葉を思い出す。
『あの面倒くさい制度は、" 帝国の奴らが勝手に創って押し付けてきた "だけだ。』
……そしてようやく、彼の言っていた意味を理解した。
しかし私がそのまま帝国への不快感に顔を歪ませていると…
「探偵、凄い顔…。
せっかく可愛いんだから、眉間に皺を寄せないで」
…と、レインに眉間を指で ツンっと抑えられてしまった。
「僕等は慣れているから…大丈夫だよ、探偵。
でも……怒ってくれて嬉しいな」
私に聞こえていたのだから、当たり前に二人にも民達の声は聞こえていたようだが……レインもコンドも、民達の言葉など気に留めず進んで行く。
「二人とも…」
私は、何もできないのが悔しくて……ただ俯きながら歩みを進めた。




