︎五加護神の密談 ✴︎
月光さえ届かぬ古の神殿の奥――
崩れた柱の間を、淡い燐光が静かに漂っていた。
その中心、円卓を囲む五つの影が、祈りのような沈黙を保つ。
手にする杖の先には、それぞれ異なる光がかすかに揺らめいていた。
赤――深きワインの輝き。
蒼――澄み渡る水の滴。
金――祈りのように温かな輝き。
緑――大地に根ざす竜の光。
橙――刃の閃きにも似た残光。
彼らこそ、帝国を見守る五加護神。
だが、この國に その正体を知る者はいない。
最初に口を開いたのは、ワイン色の光を宿す影――聖獣神。
その声音は、雲の上のような穏やかさであった。
「おや……英雄たちは、あの聖獣を討たずに“宥めた”ようだね。
ふふ…あの子達も少しずつ、己の力を学んできたみたいだ」
すると、緑の光を放つ影――聖竜神が低く笑う。
「はっ、あの程度で成長などと笑わせる。
飛ぶだけの大獣ひとつ宥められぬ方がおかしいであろう。
…今後も“英雄”の名に恥じぬよう、精進してもらわねばならん」
その鋭い声音を、金の光…聖精神がそっとやわらげた。
「まぁ!そんな事ないわ!
まだ覚醒もしていないのに……心を通わせて聖獣を鎮めたのよ。
あの子達、本当に凄いわ」
その隣で、水色の光を放つ聖水神がきらきらと弾ける。
「そうそう!ボクもそう思う!
英雄じゃない子も凄かったね〜!!ボク感動したよ~!」
凄い!凄い!と椅子から立ち上がって声を上げる聖水神の弾ける声が、神殿の石壁を反射して静寂を少しだけ明るく照らした。
…しかし、その温かさをすっと断ち切るように、橙の光がふっと瞬く。
「……確かに凄いね。あの子達は頑張ってるよ。
でも…果たしてあれだけの力で帝国を守り抜けるのかな?
まぁ……彼等が無事なら、どんな結末でも構わないけどね」
最後の一人…聖釼神だ。
そのやる気のない声に、聖獣神が静かに答える。
「帝国が滅びれば、英雄たちも無傷では済まないだろうね。
彼らが本当に大切なら、我々がきちんと力を授けなければならないよ――そう思わないかい?」
聖獣神の言葉に、橙の光がわずかに揺れる。
「……彼らがそれを望むなら、ね。」
聖釼神はそう言うと口を噤んだ。
それを見て、聖獣神は立ち上がり、自分以外の四人を見渡し……静かに言った。
「どうやら、これ以上語ることもなさそうだね。
それでは――みんな…」
彼がそこまで言うと、五つの杖が掲げられる。
すると、忽ちそれぞれの光が絡み合い……天へ昇るように神殿を満たしていく。
『我ら、英霊の五加護神は誓う――
意思を継ぎし神域の五英雄に精魂を込め……それぞれに、
“封印”・“治癒”・“奇跡”・“共鳴”・“神獣”の力を授けん』
石壁が震え、崩れた天蓋の隙間から微光が差す。
五つの光の中で、それぞれの加護対象である英雄達の紋が……静かに浮かんだ。
誓いの唱え言葉を終えると、五つの影は踵を返す。
──その去り際、彼らはそれぞれの声で静かに囁いた。
「帝国を守る意志と覚悟……君の中には、どれほど眠っているかな」──橙の光が射す。
「なるべく怪我はしないでね。……けど、早くキミに会いたいな!」── 水色の光が照る。
「フフッ……貴女のこと、私も妖精たちも待っているわ」── 金の光が耀く。
「童よ――その未熟な身で構わぬ。我もとへ参れ」── 緑の光が煌めく。
「さて……では英雄くん。
どうか、すべての宝珠を取り戻しておくれ」── ワイン色の光が閃く。
……やがてその光が収まると、神殿には再び静寂が訪れる。
けれど、そこには確かに――
五色の残光が、祈りのように漂っていた。




