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生彩放つ無神世界  作者: 美緑
〜第二章〜❅٭豪雪に包まれし鳥獣町٭❅
12/89

朝日で冷たい氷を溶かそう作戦☼

「いい?二人とも、探偵が合図を出してから

魔物を走らせるんだよ?」


『はーい!!』


コンドは子ども達に指示を出すと、空へ舞い上がった。


「雪の化け物の姿を確認した。

……準備はいいか、探偵?」

「うん!いつでもいいよリハイト!」

リハイトは私の返事を聞くと同時に、上空のコンドへ向けて魔法陣を向ける。

するとリハイトの使い魔は、その魔法陣に近づいて冷気を送り出した。

……徐々に冷たい魔力が溜まっていく。


「いくぞ…コンド!」

「了解!」


コンドに声をかけ、魔法陣から大きな氷の球体を創り出すと、彼は上空にそれを吹き飛ばした。

リハイトの得意魔法属性は氷と雷……そしてコンドは…


『魔音作曲…火と水の精霊レザーよ!

…僕、コンドは、君と共に譜面を辿る。

爆音轟音騒音と音を連ね、

永遠に消える事なき音を奏で 響かせよう。

…第一詠唱、水禍破裂”蒼天エタニティ”』


───火と水の魔法だ!


氷の球体が届くと、コンドは空中で自身の足元に魔法陣を展開した。

そして彼はその球体を怪物目掛けて蹴り上げ…

「頼んだ、レザー!」

と、自身の精霊を呼んだ。


『キャンッ!』

"レザー"と呼ばれた犬の精霊は一声吠えると、彼に合わせるようにして燃え盛る炎を氷へ吹き込む。

すると……


───ッッボバアァァァンツ!!


怪物の身体に触れた氷は一瞬で内部蒸発し、圧縮された水蒸気が爆ぜる。

実は今飛ばした氷の球体はただの氷ではなく、リハイトが錬金術と魔法で創生した“可燃性の魔導氷”だったのだ。


今の一撃で雪の化け物は大きくよろめく……が、

これだけでは終わらない。


リハイトは更に魔法陣を重ねると、雷の火花を走らせ……追加で飛ばした魔導氷に当てた。

「……爆ぜろ!」


その言葉と共に、雷と炎の混ざった気体が一気に膨張する。

───ドドドドーンッ!ッッバアァァァンツ!!

轟音と共に球体は爆散し、炎の柱が化け物を包み込む。

……それはまさに、魔法と科学が融合した“魔導化学爆発”だった。


───ッヒュガアァァツ!!!


化け物の雪の装甲が砕け、灼熱の蒸気が吹き上がる。

私はその光景を見て、作戦会議の時の会話を思い出していた。

⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆


「あの化け物、絶対熱いのが苦手だと思うんだけど、二人は火の魔法使えたりしない?」

相手は雪の化け物…なら火属性が有効かもしれない。……という、私のひねりのない考えに、リハイトとコンドは真剣に答えてくれた。


「コンドの得意魔法は火と水、俺は氷と雷だな」

「でも火魔法単体じゃ威力が足りないかも…リハイトの錬金術で“可燃性の氷”を創生するのはどう?」

「可燃って、燃える氷……!? そんなのあるの!?」


コンドの提案に驚く私に、リハイトは頷いていた。

「あぁ。メタン氷っていう、自然界にもある可燃性の氷だ。錬金術と魔法を上手く組み合わせれば、本物より特殊な氷を創生できる」

「それに火と雷を合わせれば、更に爆発的な熱を作れるかも……」

「つまり…魔法と科学の合わせ技ってことね!」


⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆

まさか氷を“燃やせる”なんて思わなかったな……。

そう思いながら、私は小さく笑みをこぼした。


そして…

「……よし!!今だ二人とも!走って!」

空中でふらつく化け物を確認してから、子ども達に合図を送る。

攻撃を食らった直後なら、いくらあの化け物でも子ども達を追えないはずだ。


「うん!いっくよー!魔物さん!」

「ぴーちゃん達あっちから行くよー!」


私の合図を聞いて、子ども達二人は魔物を走らせる。




……化け物はその後すぐに飛行体勢を整えたが、私達の計画通り…"コンド"を追い始めた。


✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿



この作戦の目的が"討伐"ではなく"足止め"なのには理由があった。

それは……


「一度、あの化け物と話してみてもいいか?」

…と、リハイトが言ったからだ。


「話すって?」

彼の言葉を理解できず首を傾げた私に、リハイトは教えてくれた。

「俺の英雄力は対象の魔物や魔獣に触れさえすれば、話す事も可能にできるんだ。

……どんな生き物にも心が存在する。

理性を失って暴れる化け物相手だろうと、試してみる価値はあるだろ?」

……その言葉に、私もコンドも賛成した。


化け物が突然町を豪雪で包んだのには理由があるかもしれないし、討伐しなくていい可能性があるならその方がいいから。





──先ほどの攻撃で化け物の動きを鈍らせる事に成功した私達は、雪の化け物を"足止めする"為の作戦を続ける。


コンドはあれからずっと、化け物の注意を引きながら空中を飛び回っていた。空中で追いかけっこしていれば建物が崩れる心配もないので被害を抑えることもできるだろう。


───ヒュウゥゥゥゥ…グアヒャアァァァッ!!

化け物がコンドを追い回している隙に、私達は罠のあるリハイトの工房まで向かう。


「おい探偵、ボケッとするな走れ」

「走ってる……って、ま、待って…はや…速いよ…」


とても普通の人間とは思えない速さで先へ進むリハイトに、私は息切れながら付いていく。

あぁ、ちゃんと休んでないから余計に疲れて……ってダメダメ!なんのこれしきだ!走れ走れ!こんな重要なとこで皆のお荷物にはならないぞ!

弱気にならないようにと自分を説得しながら、私は兎に角必死に走った。


「コンドは、大丈夫か?」

「な、なんとかね…」

いくら化け物の動きが鈍ったとはいえ、長時間飛びっぱなしなのだ……。流石にコンドも疲れてきているのかその返事に元気はない。




「うぅ……あと少し…ケホッ」

ようやく見覚えのある道が見えたところで、私は血を吐きそうなほど喉が痛い事に気が付いた。


───すると、


「……え」

不意に、私の身体が浮く。


一瞬の事に、何が起こったのか理解できなくて視線を動かすと、すぐ傍にリハイトがいた。

…なるほど、私は彼に持ち上げられているらしい…。それも小脇に抱えられる感じで。

……いや、どういう状況だコレ。


「ラストスパートだ。このまま行くぞ!」

「…え、えぇぇぇぇぇッッ?!?!」

リハイトは私の返事など待たずに走りだす。

その速度はとにかく速かった。

嘘でしょ?!私のこと運んでるのに全然速さ変わってな……いやなんならさっきより速いいぃぃぃ!!ッおぇ!


……あまりの速さに吐きかけた事は内緒である。


✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿




「ここで曲がるぞ、家に着いたら俺が罠を持ってくる。その間、探偵はコンドの様子を見ててくれ」


「わかった!なるべく早く来てね」


リハイトの足の速さは凄まじく、担がれてからの記憶は殆どないが……その速さによって作戦は順調に進んでいた。


彼は家に着くとすぐに中へ駆け込んで行った。

罠が設置されるまで、ここからはコンドだけで持ちこたえなければならない。

私も貢献したいが……やはり魔法が使えないので戦力外である。

うぅ…力になれなくて不甲斐ない…。

上空を見上げてそう思っていると、


『───ッ、キャウゥンツ?!』

コンドの精霊…レザーが、空中でよろけだした。

化け物の放つ冷気に直撃してしまったのだ。


精霊であるとはいえ、レザーは犬……。

鳥の精霊翠羽とは違い、飛翔するのは苦手なようで……

『キャイィンッ!』

弱々しく鳴くと、そのまま抵抗できずに落ちてしまった。


「ッレザー?!」

コンドはレザーの危機に気付いて叫ぶ。


…ッこのままじゃあの子、落ちちゃう…!

どうにかレザーを受け止めようとして私も駆け出す……が───

「ッ?!……ケホッごほッッ…!」

すぐに噎せて走れなくなった。

口の中には鉄の味が広がってくる。


「ッなんで…うツ……ケホッ」

ま、まさか…さっき沢山走ったから?!

ッ私は、なんて体力がないんだ!


自分の不甲斐なさに驚いて絶望していると、不意に……私は肩の上に違和感を覚えた。

『ぴッ』

何かが乗っているのだと気づいた時、視界に黒い羽が映り込んでくる。

「ッ!君は……!」

この小さな使い魔は…リハイトのひよこだ。

私はそれに気がつくとすぐに頼み込む。


「君、リハイトの使い魔だよね? 緊急事態なんだ!私は君の主じゃないけど……力を貸してくれないかな…?」

不安定な飛行で必死にもがきながら…それでも確実に落ちてくるレザーを指さして、私は肩のひよこに話しかける。

すると……

『……ぴッぴよ』

言葉が伝わったのか、ひよこは私に力を送ってくれた。

……ひよこが助けてくれてる今なら、コネクト魔法を使えるはず!


「ッ水よ!お願い…!レザーを助けて!」


唱えるべき詠唱も分からず、ただ必死に叫ぶと、ひよこが地面をつついた。

───コツンッ『…ぴよ』


その瞬間……地面から水の柱が吹き出し、レザーの身を包んだ。ひよこの力を借りたとはいえ、この水魔法を創り出したのは私だからだろうか……?驚く事にその水は、私の意志と連動するように動く。

『キャウ!キャン!キャン!』

水はレザーの身を上へ上へと押し上げて、遂にコンドのいる上空まで届いた。

「探偵…いま君、魔法を……」


驚くコンドを見ながら、私もその場に立ち尽くす。

咄嗟のことで……自分の魔法が起こした奇跡を理解できなかったから。



「持ってきたぞ…!」

しかし猛スピードで中から戻ってきたリハイトの声を聞いて、私は我に返る。


「思いっきり押し込め!コンド!」

罠を広げながらリハイトがそう叫ぶと、コンドは戻ってきた相棒の無事を確かめ……そして呪文を唱えた。


『制裁の炎よ、愚かなる者に鉄槌を…!

終止符を打ち、罪を貫き叩き込む音色

第六詠唱…炎帝演舞"ブレットノート"』


コンドの詠唱にレザーが反応する。

魔法陣から炎の弾丸が現れると、レザーは熱を帯びた身体で化け物に向って走り出した。


『───キュワワンッ!キャン!!』

───ッッヒュガアァァ!!!!

炎の弾丸はいくつも連なり、レザーと共に化け物を地面へと押し込める。


「頑張れレザー!!」

私は夢中で小さな犬を応援した。

何度も魔法攻撃を受けて弱ってきた化け物は、あっという間に押し込まれて罠にかかる。


「あ……!」朝日だ…!

怪物が地面に落ちると同時に、空には薄い光が差し込んできた。

すると朝日の暖かさに反応して、化け物は呻る。


───ヒュゔぅオ"ぉ"アァ"…!!!


荒れる暴風のように大きな声で叫んだ後……呪縛紐に全身を巻かれて完全に身動きが取れなくなった化け物は、そのままぐったり倒れ込んだ。


「や、やった…やったよ!成功だー!!」

私はそれを見て、ようやく気を緩めることができた……が、

「あ、あれ……おかしいな…足が……」

その場で足の力が抜けてしまい、立てなくなった。

実はもうとっくに限界だったのだ。


それでも無理矢理立ち上がろうとして足を叩いていると、コンドとリハイトに止められた。

「探偵!大丈夫?!とりあえずそれやめようか」

「叩くんじゃない、怪我してたら悪化するぞ」


これは力を入れ直す為に叩いていたのだが……怪我が悪化するのは困る。仕方ない、ここは言う通りにしておこう。

二人に足が動かない事を正直に伝えると、コンドが私を宿まで送り届けてくれる事になった。……申し訳ない。


大人しくコンドにおぶられた後、自分の足を改めて見ると、思いの外ボロボロで驚く。

そういえば化け物から逃げてた時何回か転んだ気がする……その時の傷かな?

私はそんな事を考えながら雪の止んだ空を見上げた。


「コレは一体…!なんの騒ぎだ!!」


その時だ……。

誰かの不機嫌な声が、その場に大きく響いた。


え…誰?…もしかして逃げ遅れちゃった人かな?なんて考えながら声が聞こえてきた方に目を向けると、そこには眉間に思いっきり皺を寄せているおじさんが立っていた。



「大叔父さん…こ、これはえっと…」

「…お前の仕業かコンド!」

大叔父…目の前にいるおじさんの事をそう呼んだ時、コンドの体が小さく震えた。

……なるほど、この人が"元町長"か。


「そこの化け物を町に入れたのも…

勝手に祠の鍵を持ち出したのも…!

何故…何故、お前はこうも……。

自分の立場をわかっているのか?!

……やはり、お前なんぞに

この帝国…いや、この町は任せられぬわ…!」


コンドの言葉には一切耳を傾けず、元町長は怒り任せに怒鳴り散らす。

するとコンドは言い訳が通用しないと悟ったのか……肩を竦めて口を閉ざしてしまった。


「あ、あの……何もそこまで怒らなくても…」

見兼ねて私が口を挟むと、元町長は怒りを抑えることなく、コンドの次に私へ目をつける。


「誰だ?見ない顔だな……っよそ者め…! 大方、愚孫の連れだろう? 早々に出て行ってくれたまえ、客人などお呼びでないわ!」


「お言葉ですが…元町長、彼女は…」


「黙れ…!魔物も満足に躾けられん愚公爵めが…!

子ども達に何を吹き込んだのかは知らんが、魔物を野放しにするなど…!

……もうよい、頭が痛い…全員、暫く顔を見せるな…」


(しま)いにはリハイトにまで怒りをぶつけると、元町長は踵を向けて立ち去って行った。

ッ酷い…話ぐらい聞いてくれてもいいのに…!

元町長の態度が腑に落ちず、私はムッとした。

しかし、まるで今のやり取りなど無かったかのように、リハイトは私の肩に乗ったひよこに話しかけた。


「なんで、そんなとこにいるんだ"アルケミー"…」

「…んぇ?アルケミー…この子?」

どうやらこのひよこの名前はアルケミーというらしい…。

アルケミーはリハイトに名前を呼ばれてから彼の肩に飛び移る。


「あぁ…探偵、もしかしてコイツに頼って魔法使わなかったか…?」

私の問いに答えたリハイトは、そのまま問い返してきた。


「よくわかったね、使ったけど…?」

私はリハイトの言葉を肯定する。

すると彼は大きく溜息を吐いた。

「あのな…。知らないかもしれないが、コネクト魔法を直接契約していない精霊や使い魔とやると、魔力がほぼ全部持ってかれるんだぞ?ダルくなったりしてないか?」

「言われてみれば…さっきより身体、重いかも…なんで?」


リハイトに指摘されてからすぐに目眩が止まらなくなる。

あぁ気付いたら症状が重くなるヤツだコレは…。

そんな事を考えている内に、段々足だけでなく手にも力を入れられなくなった。


「ごめん、探偵…無理に魔力を使わせて…。

レザーを助けてくれたからだよね」

「ううん…大丈夫!レザーが無事で良かった…」


コンドからの言葉に返事をすると、いつの間にかレザーがすり寄ってきていた。

レザーは、まるでお礼を言うかのように優しい目を向けてくれる。

可愛いな…やっぱり精霊や使い魔には言葉が伝わってるんだ。


私はレザーを撫でながら二人に質問した。

「魔力って使いすぎて無くなると…こんなにダルくなるものなの?」

すると二人は丁寧に教えてくれる。


「魔法使いなら誰でもダルくなるかな…。

僕達の身体の中には常に魔力が流れてるんだ。

身体を支える為に必須なエネルギーが足りなくなったら苦しいでしょ?」

「魔力は第二の酸素みたいなもんだ。魔力が高い奴ほど…症状は悪化する。 簡単に言ってしまえば、今のお前は過度な酸欠状態だな」


分かりやすい説明と的確な例えを聞いて、私は納得した。


「なるほど…眠い」


「あはは…それは ただの睡魔かな…」


…そっかぁ…ねむぃ…。

コンドの軽いツッコミが聞こえた気がするが……私の意識は朦朧としてしまって使い物にならない。

休まず一晩中走り回ってた疲労と、無理に魔法を使った事による魔力枯渇に負けて、私はそのままゆっくりと目を閉じた。


……おやすみなさい。



レザーはトイプードルみたいな犬の精霊です。

翠羽はオカメインコみたいな鳥の精霊です。

アルケミーはひよこです。ひよこの使い魔です。

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