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生彩放つ無神世界  作者: 美緑
〜第十章〜禁色彩禍の画罪
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守護者か破壊者か

✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿

《探偵視点》




「皆さん、どうか落ち着いてください」


翠山の民達を鎮静化させる為、外へ出たアルテは、

群衆の正面に立ち、はっきりとそう告げた。

その背中はまっすぐで、声も震えていない。

――けれど。


「翠嵐様! あぁ翠嵐様……!

また事件ですか? そうですよね?!」

「どうか私達をお守りください、翠嵐様!」

「皆大丈夫だ!

だって翠嵐様は英雄様なんだから!」

「きっとこれは魔界の奴らの仕業よ!!」

「ま、魔界……?

確か翠嵐様は、魔女や魔王に狙われて……」

「あぁ……不安だ……恐ろしい……」

「まさか翠嵐様……

まだ妹様の事を諦めてないんじゃないか?」

「私達を捨てて、魔界へ行ってしまうの……?」

「そんな……」

「終わりだ……翠山は、もう終わりだ……」


――駄目だ。

火に油を注いだみたいに、話が歪んで、膨れ上がっていく。

辺りに渦巻くのは、混乱や嘆きの声ばかり……。


守ってほしい。

信じたい。

でも、怖い……。

その全部が、ぐちゃぐちゃに絡まって、

最終的に”アルテを縛る言葉”に変わっていく。



「ッ何あれ……

話が飛躍しすぎだよ!」


思わず、声が漏れた。


「面倒だな……」


隣でリハイトも低く吐き捨てる。

私達が何か言っても……いや、

喩え”アルテ本人”が何か言っても、今の民達には届かない。

きっと耳に入るのは、

自分達の恐怖を正当化する言葉だけだ。


……どうして、こうなるの。

為す術なく立ち尽くしていると、

永護が、静かに口を開いた。


「……“アレ”こそが、

姉上が華暖様を取り戻したくても、

魔界に長居できない理由だ」


永護は自分の顔に手を添え、

ほんの一瞬だけ、視線を伏せる。


「この山の民は皆、魔王の呪いを受け、

誰しもが一つ……"何か"を失っている」


そして、ゆっくりとアルテの方を見た。


「だから、喩え姉上が魔界へ行くだけであろうと、

魔の者と関わるだけであろうと……。

彼等は異常な程、不安になるんだ。

……彼女が魔王の手に落ち、

世界を……壊すのではないかと」

「バカバカしい……と、

言いたいところだがな」


永護の言葉を引き取るように、

間をおかず、リハイトが低く言った。


「自分の力で戦えない民からしたら、

あいつの存在は……不安定。

不安要素そのものだ」


「……不安要素?」


”不安要素”の意味が掴めなくて、

私は首を傾げる。

すると、彼は民達の前に立つアルテを見てから口を開いた。


「竜の力は、魔に染まりやすいんだよ。

神聖な力ほど、闇に呑まれやすいからな」


――帝国を護る力。

――同時に、壊す力。

アルテが持つ神獣の力の本質が、

胸の奥で、嫌な形を取る。


「この山の領主であり、英雄。

民にとって、アルテは守護者同然の存在だ」


リハイトは、アルテから目を離さないまま続ける。


「……だが、その守護者が、

魔の物の手で破壊神にもなり得る存在だとしたら?」


「……”守護者”が”破壊神”にならないように、

魔から遠ざける……」


彼の言葉の先を確かめるように私がそう言うと、

二人は無言で頷いた。


「……でも……」


胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。

アルテの置かれた状況や立場……。

それをどうにもできない事が、ただ悔しくて……。


「それでも、アルテの話を

全然聞いてあげないなんて……酷いよ……」


アルテが”必死に守ってきた民達”が、

彼女の一番護りたい存在を救えなくなる”足枷”になるなんて……。

……なんという皮肉だろう。


「……あぁ」


永護が、かすかに息を吐く。

その声は静かで……

でも、どうしようもなく辛そうだった。


「姉上は、英雄になる前からずっと、

この山と民を守り続けてきた。

だと言うのに……

それでも信じてくれない民には、

正直、うんざりしてるよ」


小夜家の護衛であり、アルテの弟でもある永護は、

きっと……

ずっと傍で、彼女を見守ってきた筈だ。

……悔しくないわけが無い。



「それはいつか解決すべき問題ではあるが、

今は感傷に浸ってる場合じゃない」


手の施しようがない民達の様子に黯然としていると、

リハイトが、重く溜息をつく。


「まずは、民達をどうにかする方が先だ」

「どうにかって……どうやって?」


「……。」


どうすればいいのか分からなくて首を傾げると、

それは言った本人であるリハイトも同じだったのだろう…。

答えは返ってこず、お互い沈黙したままだった。


……すると、その時。


「……俺達は一度、屋敷に戻りましょう」


そう言ったのは、永護だ。

彼の言葉に、私は思わず目を見開く。


「え? 戻ってどうするの?」

「民達に関する事は、

兄上に報告しなくては……」


そう言うや否や、永護は店の外へ出ようとする。

しかし、


「……アルテはどうするつもりだ?」


それを、リハイトが鋭く制した。


「まさか、このまま置いて行けと?」


私も強く頷く。

こんな状況で、アルテを一人になんて……できない。


「本邸に行くならアルテも連れていこうよ!

……ううん。

アルテを、連れていかなきゃダメだよ!」


声が、思ったよりも強く出た。


「このままじゃ、アルテが傷付いちゃう!」


アルテの抱える辛さを痛い程わかっているはずの永護が、

どうして、そんな選択をしようとするのか分からなくて……。

私はただ、彼を見た。


……すると、


「……俺は、小夜家の護衛であり、

兄上達と姉上の臣下です」


酷く悲しそうな声色で、

永護は、伏し目がちに言った。


「故に……”姉上の意思”に、

逆らう事はできません」


「……アルテに、頼まれたって事?

私達だけで……破天さん達の所に向かえって?」


彼の言葉を確かめるように、私が聞き返すと、

永護は……ただ一度だけ、頷いた。


「……はい」


胸が、きしむ。


「このまま御二人を連れて、

兄上達の元へ向かうように…と」

「納得しかねる」


永護の言葉を遮るように、

次はリハイトが声を荒げた。


「この状態の民を、あいつ一人に相手させるのか?

お前はそれでいいのか?あいつの護衛なんだろ?

ッ護りたいと思わないのか?!」


それは噛み付くような勢いで……

まさしく、獅子が獲物を捕食するかの如く迫力だ。

抑える気の無いリハイトの気迫に、隣にいる私まで萎縮しそうになる。



「……護りたいですよ」


リハイトからの詰問に、永護はそう答えた。


「ですが……それと同じくらい、

彼女の意思を尊重したい」


呪いの影響で表情の変わらない永護は、

それでも確かに……

強い光を宿した眼差しで、アルテを見つめる。


「どうすれば……

何をすれば姉上の為になるのか……。

わからない……。ッ判らないのです」


「――仲がいいから、心の距離が近いからこそ、

お互いを、客観視できない……」


──あぁ……そっか。

きっと永護は、

アルテを救うには"近すぎる存在"なんだ。

心の底からアルテを敬い、

彼女の為にできる事を常に考えているからこそ、

永護は……

自分のすべき事が、分からないのかもしれない。


私は、いつか……

アルテが口にしていた言葉を思い返す。


『──幼い頃から同じ境遇にいたら、

支え合うのが当たり前過ぎて…。

話し合う事で、お互いの心の負担を軽くできるなんて……

考えた事もありませんでした』


英雄ではない永護も……これまで沢山、

アルテと”一緒に苦しんできた”んだ。

だからこそ、自分の事のように心を痛めてしまう。

……やっぱり、

皆の心を癒すには、”私の異能力”が必要なんだ。


私は改めて、自分の力で"皆を救いたい"と……。

何度目かも分からない決意を込めた。



「……ねぇ、リハイト。

悔しいけど、私達じゃ民達を落ち着かせられないと思う。

ここは破天さんと雅火さんに頼った方がいいのかも」


心の整理がついた私は、

未だに険しい顔をしているリハイトに声をかけた。


「だが……アルテは…」


すると、当然ながらリハイトは決断を渋る。

……が、


「私がここに残るよ!

リハイト足速いし、すぐ行ってこれるでしょ?

……ほら、神足で!」


私だって、アルテ一人を置いて行くつもりは無い。

というか、できない。絶対に。


「ねぇ永護、それでいいよね?」


喩えアルテ自身が、今一人になる事を望んでいたとしても、

私はそれに黙って従える程無関心でいられない。

アルテは初めての友達で、仲間で……

何度も私を護ってくれた命の恩人だ。


「私もアルテが大事。

私も、アルテを護りたいの!」


私は永護に自分の気持ちを伝えた。

彼にとって、アルテは自分の姉であると同時に、仕えるべき主……。

故に、今ここに私が残るのを許したら、

永護は主の意思に背く事になる。



……それでも、


「……あぁ。

姉上からは探偵さんも連れて行けと言われたが……

やはり心配だ。

彼女は……いつも、お一人で無茶をなさるから……」


永護は選んでくれた。

命令に背いてでも、”アルテを護る選択”を。




「……頼んだぞ、探偵」

「姉上を……頼みます。探偵さん」


「任せて!」


そうして二人は走り去った。

……これで、きっと大丈夫。

破天さんに報告が行けば、火災事件はすぐに落着するだろう。

……それに、破天さんと雅火さんが此処に来てくれたら、

民達も少しは落ち着いてくれるはず……。


……しかし、

私がそう思っていた矢先……


────。


何故か……

さっきまで渦巻いていた不安と騒音が、消えた。

嘘みたいに、ぴたりと止んだのだ。


『……。』


胸の奥が、嫌な予感でざわつく。

……まさか。


✿ ✿ ✿ ✿

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