꧁雪の化け物꧂
真夜中になり、静まり返った町に影が一つ……そう、私、探偵だ。
リハイトに見つからないように、私は、そっとそーと歩みを進める。
町の奥にあるという祠を目指して、とにかく奥に奥にと歩いていた。
それにしてもこの町…ひ、広すぎる……はぁ…疲れるなぁ。
歩いても歩いても祠らしいモノが見つからないので、私は心の中で音を上げた。
そもそも、口頭で伝えられただけの建物を、この大町内で簡単に見つけられるはずないのだが…。
私は弱気になりながらも、諦めずに祠を探した。
幸い宿に町の地図があったので、手元にはそれを写したメモがある。
…あれ、ここどうなってるんだ?へ〜ここで曲がれるのか……なんて、私はそのメモだけをを頼りに町を移動する。
そうして暫くそのまま歩き続けていると…町の住宅地から少し離れた場所に、古びた廃墟が建っているのが見えた。
その廃墟の扉は私の背丈よりも遥かに大きく、押しても引いてもビクともしない。
あ!この扉、鍵穴がある!
これが開かずの祠なのかも……!
うーん…でも肝心の鍵が無いんだった……これじゃあ中に入れないじゃん!
祠を見つける事はできたが、中を探索できなければ無駄足を運んだだけになってしまう。
私は祠を見つける事に囚われ過ぎて、鍵の事までは考えていなかったのだ。
はあぁ……バカだな私…。寝てないから頭回ってないのかな……?
そのまま暫く祠の前に立ち尽くして考えたが、やっぱりせっかく苦労してここまで来たし……扉が開かないからって簡単に引き返せない!
「よし……もう意地でも開けてやる!」
私は扉をこじ開ける為にピッキングの真似ごとで悪あがきをする事にした。
自分で言うのもなんだが無謀である。
馬鹿だなぁ…とわかっていても引くに引けなくなっていたので、そのまま一人、扉と戦っていると……
「た、探偵?!どうしてここに……」
「はぁ……お前そんな所で何やってるんだよ…。
寝てろって言ったよな?」
後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
言わずもがなさっきぶりの二人である。
「コンド……リ、リハイト…」
結局あっさりとリハイトに見つかり、私は冷や汗をかいた。
そりゃ子供達の話をリハイトに言ったら、本人が調べに来るよね英雄だもん。……おい私、どこまで考えなしなんだ。
自分の浅はかな考えに苦しめられるのは、帝国に来てからこれで、三度目だ。いやもっとかな?
「ハハ……どぉしても気になっちゃってぇ…」
私はまともな言い訳すら思いつかず正直に話す。
するとリハイトは大きな溜息を吐いた。
「はぁ…お前は、問題児と一緒だな……」
「類は友を呼ぶからね」
「うっせ」
私が余計な事を言うと、彼は眉間を指で押さえて更に大きな溜息を吐く。
「まぁいい…なんとなくだが、コイツ絶対大人しく寝る気ないな……と予想はしてたから問題ない」
「えう"……」
やっぱりバレてたみたいだ…。
自分の行動が完全に読まれていた事を痛感して、私は潰れた声を上げた。
……しかしすぐに、ある疑問が頭に浮かんで二人に尋ねる。
「そういえば、鍵は手に入ったの?」
鍵が無ければ祠の扉を開くことはできない。
ここに来たって事は探索、調査目的だよね……?
なんて考えていると、リハイトはコンドに何かを出すよう促した。
すると、彼は懐から何かを取り出す。
「コレが鍵だよ」
彼の手の中にある鍵は、変わった形だが祠の鍵穴にピッタリハマりそうなサイズだ。
「おおー!凄い!本当に鍵だ!……でもどうやって手に入れたの?管理者の元町長…大叔父さんって、厳しい人なんでしょ?」
鍵の入手方法が気になって聞くと、コンドは何故かふいっ…と目を逸らして苦笑いしながら、小さく呟いた。
「大叔父さんの部屋から、ちょっとぬす...いや、拝借したんだ」
今絶対、盗んできたって言いかけたよね?…と思ったものの……私はその事について追求しなかった。
よく見れば、コンドが今身に纏っているのは先程のような立派な民族衣装ではなく、簡素な平民服と顔を覆うように織ったローブだ。
許可無く鍵を持ち出しているのは誰が見ても明白だろう……。
「朝日が昇る前に戻せば問題ない……多分な」
コンドと共犯なのか、リハイトはそう言うと平然とした様子で祠の前まで歩いて行く。
これって私も共犯者になっちゃうのかなぁ…なんて考えながら、私もそれに続いて歩みを進めた。
✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿
コンドが鍵穴に鍵を差すと、扉は意外にもすんなりと開いた。
もしかしなくても、開かずの祠って言われてた理由……元町長のせいだったのでは?と、私が余計な考えを持つのと同時に、とてつもなく鋭い冷気が流れ出てきた。
「ッ……祠の化け物の噂は、本当だったのかもしれないな」
身体を刺すような冷気に、リハイトは眉をひそめて呟いた。
「うん…子ども達の話はよく聞くべきだって分かったよ」
コンドも寒さに身体を震わせている。
もちろん、私も。
さっむぅ……リハイトに服貰っといて良かった。
祠に入る前にコンドから体を温める魔法をかけてもらったが、それでも寒い。
こんな冷気が祠付近だけでなく町へ広がったら…
……一大事だ。
私は事の重大さに気がついて、別の意味で震える。
雪の化け物をなんとしてでも鎮めなければ…。
私達は身体を擦りながら、祠の奥へと進んで行く。
祠の中には、重たく頑丈な扉がいくつもあった。
扉を開けるたびに、周りの気温が下がっていく……気がする…。
ところで雪の化け物には魔法が効くのだろうか?
少なくとも氷とか水属性は効き目弱そう…。
なんて、化け物と戦う前提で考察していると、祠の更に奥から、恐ろしい呻き声が聞こえてきた。
───ヒュオオヴヴウ...ビュウオオオオアアッ...!
「今のって……」
「…いつでも戦えるようにしておいた方がいいな」
言うが早いかコンドとリハイトは同時に体勢を整えた。
戦えない私は邪魔にならないように扉から少し離れた場所から二人の様子を見守る。…すると突然、コンドの足元に犬が、リハイトの肩にはひよこが現れた。
「精霊……と?」
犬の方は仄かに光を帯びているのでアルテの相棒、翠羽と同じ"精霊"だろうとわかった。
しかし、リハイトの肩に乗っているひよこは影のように暗い色だ。
もしかして、あれが使い魔なのかな……?
ひよこが気になってリハイトに声をかけようとすると、再び恐ろしい呻き声が聞こえた。
─── ヒュオ"オ"...ビュア"ア"ア"ァ"ッ...!
私は思わず、更に扉から遠ざかった。
先程よりも大きいその声は、段々と三人がいる方に……と言うより、出入口の方面へ迫って来ているようだ。
まだ私達が開けていなかった目の前の扉が、大きな振動で軋む。
「豪雪の原因が化け物ならこのまま放ってはおけないし、祠から町に出す訳にもいかない。どうにか此処で抑え込まないと…!」
「……来るぞ」
「うぅ……怖くない…怖くないぃ…」
私達は扉越しの化け物を警戒して待ち構える。
しかし……
「聞こえたね〜」「雪の化け物がガオ〜ってした!」
──次に聞こえてきたのは、雪の化け物の鳴き声ではなく、誰かの話し声だった。
…え?今、後ろから……ッというか、この声って…!
今、此処には私の他に、コンドとリハイトしかいない……筈だ。しかも前方に……。
でも、声は後方から聞こえる。
「あれ?扉が開いてる~!」
「開かずの祠なのにオカシーね〜!」
「町の……子ども達ッ?!」
聞き覚えのある声に、私は思わず叫んでしまった。
「あ!その声はお客さん!なんでここにいるの?」
「祠開けたのお客さんだったの~?」
二人は祠の中へ入って来ていないようだが……此処は危険だ。
コンドもリハイトも、子ども達が来てしまうことは流石に予想していなかったのか……酷く焦っている。
コンドは振り返って私に素早く指示を出した。
「探偵……僕達はここを見張ってる。 その間に君は子ども達を祠から、なるべく遠くへ連れて行ってほしい」
「で、でも……二人だけで大丈夫なの?」
二人が英雄なのはわかっている……それでも自分だけ逃がされるとなると、どうにも落ち着かなくて私は
立ち尽くしてしまう。
……すると、リハイトが今日何度目かも分からない溜息を吐いた。
「お前がいても戦力外だろ。子ども達を避難させる事……それがお前の"任務"。
お前は俺の指示に従わず、自分の意志で祠まで来たんだ……任せたぞ、探偵」
「……うん!」
彼にそう促され、私はすぐに出口に走った。
そうだ……
私は、英雄の力になりたいんだ…!
なら…二人に任されたこの任務……失敗できない!
ぴーちゃん達……お願いだから、祠の中には入らないでね…!
───しかし、私達の心配は完全に無用だったようで……出口付近へ辿り着いた私はすぐに…
「祠はね危ないんだよ?」
「だからね!入っちゃダメなの!」
…と、祠の外で待機していた子ども達から逆にお叱りを受けた。
あれ……私よりもこの子達のが、しっかりしてる?
なんて怒られながらそう思ったが、今は子ども達を連れて祠から離れる事に集中しなくてはならない。
「う、うん……ごめんね。でも、今は緊急事態!
祠の化け物が出てきそうなの!
ここも危ないから、二人ともお家に帰ろう?」
「え~!化け物が祠の中から出ちゃうの?」
「ぴーちゃん達、大ピンチ!」
子ども達は落ち着きなくぴーぴ一騒ぎ立てていたが、すぐに町の方へと向き直り、私の手を取った。
そして頼もしい事に……
「お客さんを、安全なトコに連れてく!」
「ダイジョブ!ぴーちゃん達、町のコト詳しいの!」
と、先導して走ってくれた。
「うん、助かるよ!このまま行こう!」
私はまだこの町に疎いので、子ども達のこの発言は正直心強かった。この子達に付いて行けば迷うことなく町を移動できるはず。
「二人とも、ありが……」…と、私が子ども達へお礼の言葉を紡ごうとした……その時だ…
───ガ、ガッガリ…ドッゴオォーンッ!
……突然…祠の中から、凄まじい音がした。
「ピヤあ~スゴイ音!きっと化け物だよ!」
「走るよ!ぴーちゃん達、飛べないから走るよ!」
「うわっ...」
私は祠を振り返って思わず立ち止まってしまったが、子ども達は迷うことなく私の手を引いて走り出す。
コンド…リハイト……祠の中でいったい何が……?
……ううん、今は子ども達を避難させるのが私のやるべき事だよね。
二人のことは心配だけど、私は私のやるべき事をしなければ…。
そう自分に言い聞かせて、必死に走った。
───その時、私は背後から不快な視線を感じたが……怖くて、振り返る事ができなかった…。
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「もうダイジョブ!ココは安全だよ」
「お客さんはダイジョブ?」
「は〜……うん、大丈夫」
子ども達に心配されて、私は息切れながら返事をする。
祠からは距離を取れたが……まだ中に残っていたコンドとリハイトの無事は確認できていない。
……でもきっと、大丈夫…だよね?
私は不安になりながらも、今の騒動で子ども達が怪我をしていないか確認する。
「二人は怪我とかしてない?」
「ダイジョブ!」「もんだいナシ!」
うん……元気そうで何より。
私達はそのまま息を整える為に三人でくっついて休んだ。
そして、暫くじっとしていたのだが……
「え……あれって…」
───ッ?!まさか……な、なん…で…?!
その時…近くの建物に、"ありえないモノの影"が映った。
「お客さん今の、化けも…!」「大っきい影があ…!」
「二人とも、しーッ!」
驚いて思わず声を上げる子ども達の口を手で塞いで、私は二人を自分に引き寄せた。
今の巨大な影……化け物が町に出てきてる?
…ッ、まさか二人とも祠の中で…?!
最悪の事態を想像して私は震えた。
やっぱり一緒に祠を出るべきだった……?
ううん…考えるのは後だ。
化け物が近くにいる以上、此処でずっと震えてるわけにもいかない……切り替えろ!
見つかったら私だけじゃない、この子達が危険だ。
怖いけど……それでも私がこの子達を守らなきゃ!
今は、兎に角ここを離れよう……。
私は無理やり震える足を押さえつけた。
自分ができる事をやる……そう誓ったでしょ探偵!
「二人とも歩ける?」
子ども達に目を向けると、二人とも元気良く頷いた。
「ぴいぃッ…!」
……しかし、
立ち上がる前に、二人は私を見て固まった。
「お客さん……後ろ…」「ぴあ……」
──いや……正確には、"私の後ろ"を見て…
「……え?」
背後を指差して怯えている子ども達を見て、私は恐る恐る振り返った。
すると……
「あ…」
そこにいたのは案の定……
───ヒュウゥ…グルゥビュアァァッ!
冷気を放ちながら呻き声を上げる"雪の化け物"だった。
見上げるほどの巨躯を翻し、爛々と黄色く光る不気味な目をギョロつかせ、怪物は三人を捉えている。
身体に幾つもの羽が付いていることと、上空から私達を見下ろしている状況からして、空中移動が得意なのは明白だ。
あれが雪の化け物……?!ッ危ない!
私達が逃げ出すより速く、化け物は襲いかかってくる。
「二人とも伏せて!」
私がすっかりへたり込んでしまった子ども達を庇うように抱きかかえると、すぐ傍にあった建物の壁が崩れた。
…なんて威力!あんな攻撃に当たったら……。
いとも簡単に破壊された建物を見て、抑えていた震えが戻ってきてしまう。
───だけど…
アルテ……私、どんなに怖くても、自分に与えられた役割から逃げないよ…。だって、誰よりも逃げ出したいのに、それが出来ない英雄達に失礼だもん。
私は今の自分にできる事を、全力で……!
絶対にこの子達を守らなきゃ!
帝国で初めてできた友達を思い返して、私は子ども達を抱えあげると、そのまま違う建物の裏に走った。
─── ヒュゥ"…グルゥビュア"ァ"ァッ!!!
…しかし、それでも化け物は速度を落とす事なく向かってくる。
このままでは、建物ごと吹き飛ばされてしまう。だ、駄目だやっぱり速すぎる……よ、ッ避けられない!
ならせめて子ども達だけでも守らなければと、私は更に強く二人を庇い寄せた。
これが……戦えない自分にできる精一杯…だった。
「ッ……」
衝撃を受ける覚悟をして、私は化け物を睨む……が、その瞬間───
───キュイィィィンッ!
という音と共に、目の前が目映いほどに光り……見覚えのある"竜紋"の刻まれた魔法陣が浮かんだ。
「……え?……ア、アル…テ?」
どれだけ辺りを見渡しても、当然彼女の姿は見えなかったが……力強い光を放ち続ける魔法陣を見て、私はアルテとのやり取りを思い返した。
『念の為、守護魔法をかけておきます』
『私が友達として……貴方を護るから』
あぁ……
「そっか……コレはあの時…アルテが私にかけてくれた守護の魔法なんだ」
私はその事に気がついて胸がいっぱいになる。
本当に……護ってくれた…。
「ありがとう……」
二度も命を救ってくれた友達に感激して思わずその場で固まっていると、化け物が魔法陣に押し負けて法んだ。
───ビュオアアアウゥ……。
その大きな唸り声で、私は我に返る。
「ッ二人とも走るよ!」
アルテがくれた逃げ切るチャンスを無駄にする訳にはいかないと判断し、子ども達の手を引く。
多分、あの魔法は一度切り……次は無いと思っていたほうがいい。
私達は再び化け物の目の届かない場所を探して隠れようとしたが…守護魔法は身を守る為の魔法だからだろう……怪物へのダメージは軽いようだ。
大きな羽を広げる化け物が目に入り、
私はとにかく走り続けた。
Q,どうしてコンドとリハイトは、探偵に子ども達を任せたのか。
↓↓↓
A,化け物のいる祠内にいる方が危険だったので、探偵を子ども達と一緒に避難させる為。
✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿ ┈ ⋯ ┈ ✿
探偵「えぇー?!"任務"とか言ってたのに、
逃がす為だったのー?!」
コンド「ごめんね探偵…」
リハイト「あの状況で戦えない奴を残す方がおかしいだろ…」




