表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神と天使  作者: 加藤 會田
第一章 白鯨、モービィー・ディック
4/19

003_全てを識る者は、白痴へ声を掛ける。

001



我を過()れば(うれ)ひの都あり、我を過()れば永遠(とこしえ)苦患(なやみ)あり、我を過()れば滅亡(ほろび)の民あり

義は含きわが造り(ぬし)を動かし、聖なる威力(ちから)が、比類(たぐひ)なき智慧(ちえ)、第一の愛我を造れり

永遠(とこしえ)の物のほか物として我よりさきに造られしはなし、しかしてわれ永遠に立つ、

(なんじ)等 こ()に入るもの一切の望みを棄てよ


  ───  ダンテ『神曲』  ───

 ──  第三曲・地獄の門、圏外(けんがい)の獄 ──

   ─  怯者 アケロンテの川 ─



「ねぇ、地獄ってさ、どんなの何だろう」


天界の、天使園。今や懐かしさすら感じる微風(そよかぜ)が、私達の髪の(そば)を通り過ぎる。


彼女はその話題の後に、髪を耳へくいっと掛けた。そして、私の胸が少し、ぎゅんと締め付けられた様な気がしたのを、覚えている。


正典(せいてん)では、悪い所だと聞いた。人間の欲望……七つの大罪に別れた層があって、堕ちた欲望に別れて罰を受ける。そんな所だ」

「けど、それは此処(ここ)、第一区の想像でしょ?何処(どこ)かの区域では、地獄に行くには、渡人のカロンじゃない人が漕ぐ船で、三途(さんず)の川って所を、渡るって。……不思議だよね、地獄も、私達の崇める御方(おかた)も、皆が皆違うんだもの」


そう言い、彼女は芝生に寝っ転がった。


「しっ、近くに大天使……先生達が居るぞ。お前がそんな事を話してたってバレたら、説教ならまだしも、朝飯のパンも無くなるぞ」


この言葉は多分、十戒(じゅっかい)(守るべき十個の(いまし)め)の中にある、『不妄語』に反するだろう。


それがバレてしまえば、少ない朝飯の白パンや一切れのバターすら、抜きにされてしまう。


成長が盛んな我々見習い天使には、とてもじゃないが問題だ。説教ならまだしも、昔の私は、朝食抜きだけは何とか避けたかった。


(あまつさ)え、十戒(じゅっかい)を破ると、鞭打(むちう)ちの刑罰まである。


「大丈夫よ、だって、私は何も変な事は言ってないもの。それに、私から言わせて貰うと、アインの方が余っ程変!鞭打(むちう)ちや説教よりも、朝食の白パンの方が大切だなんて!」

鞭打(むちう)ちや、正典(せいてん)の二時間朗読は俺も嫌だが……朝食を抜かれる方が、もっと嫌だ。食べ盛りの俺からすると、あんなにも少ない朝食を、もっと減らされるなんて馬鹿げてる」


私はそう言って、喧嘩をして傷を負った部分を少し隠しながら、彼女からそっぽ向く。


「確かに、朝食の気持ち程度のバターと白パンだけってのは、私も(いささ)か少ないとは思うけど……。うぅ、お腹が空いてきた……っ」

「今日の昼食は確か、ひよこ豆のスープと、半分の林檎(リンゴ)。それと、ライ麦パンだった筈だ」


ライ麦パン……通称、黒パンと呼ばれるパンだ。黒褐色(くろかっしょく)で、少し酸味があるのが特徴。


しかし、それは天使園の中では、一、二を争う程の不人気メニューである。理由は……。


「えっ、ライ麦パン?……私、あれ嫌いなのよね。硬くて、歯が折れそうになるし。スープに沈めてふやかしたって、全然美味しくないじゃない。……と言うか、それを覚えられるんだったら、普通に聖書の一句でも覚えなよ!」


そう言って、彼女は私の脇腹(わきばら)を優しく()った。それと同時に、天使園の鐘が鳴る。


自由時間の終わり。今からあと少しで授業が始まり、聖句(せいく)を読む授業が始まる合図。


私は、蹴られた脇腹(わきばら)を抑えながら。


「授業が始まる、行こう」


彼女へ向かって、手を差し伸べた。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「──……っん。──ぁ。此処(ここ)何処(どこ)だ?!」


(なつ)かしい夢から覚めた私は、驚きが隠せず、勢いのまま目を覚ます。……記憶が曖昧(あいまい)だ。


自分のやった事では無いような感じがする。確か昨日は、殺されそうになって、不思議な死神と少女と出会い。


それから、セフィラのケテルとお遊びの対戦後、気を失って……。


私が思考を(めぐ)らせる中、隣から、何やら良い匂いが(ただよ)って来たでは無いか。白いシーツの張られたベッドの上で、私は(となり)を見ると。


隣には、腰掛(こしか)けに座る、不思議な女が居た。


瞳や髪は、光も通さない黒色で。髪は長く、結んではいる物の、尾骶骨(びていこつ)まで届く程に。そして耳元には、ひし形の白宝石(しろほうせき)が付いている。


口元の黒子(ホクロ)を吊り上げて、紅茶のカップ片手に、不敵(ふてき)に笑う彼女の姿は、どうも悪魔だと言われ様とも、納得してしまいそうだ。


そして、彼女も彼等と同様に……

”在る(はず)の天使の輪が無かった”。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ