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死神と天使  作者: 加藤 會田
第一章 白鯨、モービィー・ディック
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000_天使喰いのバアル・ゼブブ。

われ正路を失()、人生の覊旅(きりょ)半にあたりてとある暗き林のなかにありき

()荒れあらびわけ入りがた()この林のさま語ることいかに難いかな、恐れを追思(ついし)にあらたにし

いたみをあたふること死に劣らじ、されどわがかしこにけし(さいはひ)をあげつらはんため、わがかしこにみし(すべ)ての事を語らん

われ何によりてかしこに入りしや、(こころよ)く説きがたし、(まこと)の路を棄てし時、睡りはわが身にみちく(みち)たりき


 ───  ダンテ『神曲』  ───

   ──  第一曲・神曲總序(そうじょ) ──

 ─  禍ひの森、幸ひの山、導者  ─



私はいつもの様に、木陰(こかげ)に腰を寄せて、仲良くはなれない天使園の同級生達を見た。


此処(ここ)は天界、その中の第一区に属する。


天界は、地獄の様に区域ごとに分けられている。区域は全部で十二区存在しており、上空から眺めれば、それは時計の形になっている。


そしてその中央に、神すら崇め奉る、我らが『預言者』が眠られているとされているのだ。


そしてその区域ごとに、我らが崇める神々の種類や宗派が違うのも特徴。理由は、違う宗教同士の対立を避ける為に存在しているのだろう。


──まあ、そんな事よりもだ。


第一区、キリスト教を(まつ)る天界区域にて。


彼等(かれら)見習い天使が住まう、天使園の神殿の外。大きく、開けた芝生が茂った平野。


膝を曲げ、その(ひざ)を机に頬杖(ほおづえ)を着く私を背に、同級生の天使が笑っていた。……私は、彼等(かれら)の仲間にはなれない。嫌われ物だから。


昨日、またもや喧嘩をした。(ほお)の傷と、殴られた鼻の痛みが、まだツンツンと痛むのだ。そして皆は、そんな私を()け者にする。


………………(ただ)、一人を除いて。


「ねえ、アイン。君さ、ま〜た喧嘩したの?」


そう、(あお)る様に笑みを見せる天使が、一人で木陰(こかげ)に座る私の隣に座ってくれた。彼女の名前は……もう、覚えていないけれども。あの時の私にとっては、正に救世主の様な天使であった。向日葵(ひまわり)の様に明るい、彼女の瞳と目が合ったら、私は毎回ドキッとしてしまう。


「……別に、俺は悪くない。全部、彼奴(あいつ)らが悪いんだっ。俺が、お前と仲良くしてるからって、彼奴(あいつ)らが僕を神殿(しんでん)の裏に呼び寄せたんだ」

「んもぉ、これじゃあ、神殿(しんでん)の包帯が無くなっちゃうよ。けど、いつも通りの君で安心したよ。私は、今のアインが好き」


その時、生暖かい微風(そよかぜ)(なび)いたのを、私は今でも覚えている。その言葉に、私は返答を返せなかったから。

──返事をする様に、私は天使園の郊外(こうがい)。向こうの花畑を指差して。


「あ、あのさ。……今日、誕生日なんだろ。その、プレゼントとか……無いし。彼処(あそこ)まで、一緒に花でも摘みに行こう」


その花畑は、天使園の郊外(こうがい)にあった。


天使園の外に出来る事は禁止だったけれど。けれども、私達には、どれ程あの花畑が魅力的に写ったか、知る(よし)もない。


そして、彼女も彼女で、良い子のフリをした悪だった。


「うん、良いよっ。なら、今日の夜。皆が寝静まった時に、一緒に花を摘みに行こうね!」


私は、彼女と一緒に指を切った。彼女の小指は、私とは違って直ぐに折れそうな程か弱く、聖母マリアの様な母性に恵まれていた。


……その時に結んだ約束を、私はまだ忘れられない。あの出来事から、私の後悔(こうかい)は始まったのだから。


あの日に戻れるならば、私は何だってしよう。……だから、私は──。

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