戦略会議1-②
ヴァルカンの口調変えました!
「次の問題は、誰が冒険者になるかって話。」
「え、全員じゃねーのかよ?」
僕が次の話に移ると、すかさずレイジがツッコんできた。
まあ、そうなるよな。
話の流れ的に、全員で活動する感じだったもんな。
でもさ…
「さすがに9人パーティーは大所帯すぎるでしょ。なるべく地味に活動したいのに、そんなに大勢でいったら目立ってしゃーないじゃん。」
「まあ、そりゃそーだけどよ…」
「それに、僕らが調査したいのは表に出回ってる情報だけじゃないだろう?」
僕がそう言うと、レイジはニヤリと笑って、
「なるほど、人間の薄汚ねぇ裏社会を俺に探らせようってんだな? ……悪くねぇ。そういう連中なら、遠慮なく燃やしても文句は言われねぇだろ?」
と。
やる気満々のご様子。
だけど残念。
それは半分正解で半分不正解。
目をキラキラさせて「了解!」とか言いながら家を飛び出して行こうとするレイジを引き留め、僕は話を続ける。
「いや違うよ。レイジは冒険者側。君は裏工作するにはちょっと好戦的すぎるからね。」
「あぁ? なんだそりゃ。遠回しに『お前じゃ無理だ』って言ってんのか?」
レイジが不満げに目を細める。
僕は苦笑しながら、彼が一番食いつきそうな理由を提示した。
「違うさ。適材適所の話だよ。裏社会の調査は、あくまで隠密行動だ。敵に見つからずに情報を抜くのが仕事だから、基本的には戦っちゃダメなんだ。……でも、冒険者は違う。」
「……どう違うんだよ。」
「冒険者ギルドにはランク制度があるって、ソフィアが言ってただろ? 高ランクになれば、ドラゴンや古代の魔物といった、規格外の化け物の討伐依頼が舞い込んでくる。それに『ダイヤモンドランク冒険者』と呼ばれる、一騎当千の猛者たちとも手合わせできるかもしれない。」
「……猛者、か。」
「そう。裏でコソコソ動くより、堂々と最強の魔物や人間と戦える。……レイジ、君が火を噴くべき場所は、どっちだと思う?」
レイジは数秒ほど僕の目を見つめ、やがて「フッ」と短く笑った。
「ケッ、よく回る口だこと。……わーったよ、ボス。アンタの言う通り、表で暴れてやるよ。その代わり、退屈な仕事ばっかだったら承知しねぇぞ?」
「ああ、約束するよ。」
よかった。
納得してくれたようだ。
彼のこういう物分かりの良さには、いつも助けられる。
僕は改めて全員を見渡し、人選を発表する。
「人選はすでに考えてある。まず僕は当然、冒険者として動く。指揮系統の確保のためだ。ソフィアも僕についてきてくれ。僕のバックアップをしながら、戦闘経験を積もう。」
「ええ、了解よ。」
「で、レイジはさっき言った通り冒険者側の火力担当。あとは……グラントとセリーナも冒険者サイドだ。」
「俺か? 俺は別にどっちでもいいが……」
「グラント、君の『絶対巨躯』は隠密には不向きだ。それに、冒険者パーティーには前衛を守る盾役と、全体を見渡せる回復役が不可欠なんだ。セリーナも、いいかな?」
「ええ、任せて。カサンドラと離れるのは少し心配だけど……仕方ないわね。」
セリーナが優雅に頷く。
これで表のパーティーは決まりだ。バランスも悪くない。
「残るリリス、リュウ、ヴァルカン。この3人には、裏サイドの情報収集を頼みたい。」
名前を呼ばれた3人が、それぞれの反応を見せる。
「あら、わたくしですの? ふふ、適任ですわね。人の心の隙間に入り込むのは得意ですもの。」
リリスが扇子を広げ、妖艶に微笑む。
彼女なら、酒場の酔っ払いから貴族の側近まで、あらゆる人間から情報を引き出せるだろう。
「私も異存はありませんよ。方士の私にとって、虚実入り混じる裏社会は庭のようなものですからねぇ。」
リュウも飄々とした様子で承諾する。
そして、最後に残ったヴァルカンは、静かに腕を組んだまま口を開いた。
「人間の裏側、か。……まあいい。」
ヴァルカンは赤い瞳で虚空を見つめるように、淡々と言葉を続ける。
「表の綺麗事よりも、裏に潜む欲望や因果の方が、その国の『本質』を映し出すものだ。戦略を練る上で、より純度の高い情報が得られるのはそちらだろう?」
「さすがヴァルカン、話が早くて助かるよ。君なら、どんなに堅牢な情報網もすり抜けられると見込んでる。」
「当然だ。俺の血が届かぬ場所など、この世には存在しない。……カシウス、貴様の描く絵図、俺の集めた情報でより完璧なものにしてやろう。」
「頼もしい限りだよ。」
決して驕るわけでもなく、ただ事実として自分の能力と役割を肯定する。
この絶対的な安定感こそが、最古の吸血鬼たる所以だ。
「そして最後に、カサンドラ。」
僕が視線を向けると、影の中に溶け込むように座っていた彼女が顔を上げる。
「……ん。」
「君には、冒険者サイドと裏サイドの連絡役をお願いしたい。一番隠密行動が得意で、機動力があるのは君だ。手が空いてるときは、リリスたちの手助けをしてあげてほしい。できるかな?」
カサンドラは無言のまま、スッと右手を上げた。
すると、彼女の影が生き物のように伸び、部屋の反対側にいるリリスの影と繋がったかと思うと、そこからカサンドラの手紙を持った手がにゅっと現れた。
「……どこにいても、繋げる。」
「うん、完璧だ。」
これなら、離れた場所にいてもリアルタイムに近い速度で情報を共有できる。
「OK。ここまでで何か聞いておきたいこととか、他に決めておきたいことはある?」
「……わたくしたちは、具体的に何を調査すればいいのかしら?」
リリスが小首をかしげる。
「アウレリア帝国やリューン王国、マルカディア自由都市連合といった国は、僕ら冒険者チームがある程度表から調査できる。だからリリスたちには、それ以外の国や組織を担当して欲しい。」
僕は地図を指差しながら説明を加える。
「例えば、セイレーン王国。あそこは排他的で、冒険者になっても行動にかなり制限がかけられると思う。他にも、僕らが把握できていない組織なり何なりがあれば、そこも頼みたい。とりあえず最初は、周知されていない裏の勢力をリストアップして、それぞれの概要を調べて。具体的な調査項目は、それからじゃないと決められない。」
「わかりましたわ。方法は、わたくしたちに一任してくださるということでよろしいの?」
「うん、やり方は任せるよ。ただ、やり過ぎないようにね。無意味に目立つのだけはやめてよ。」
「あら、人聞きが悪いですわね。……善処しますわ。」
リリスの含みのある笑みに一抹の不安を覚えつつも、僕は話をまとめる。
「OK。他に質問は?」
「……カシウス。」
重々しい声と共に、グラントが手を挙げた。
「帝国の調査も、リリスたちに任せた方がいいんじゃねえか?」
グラントの視線は、僕の隣にいるソフィアに向けられている。
「ソフィアは帝国から追われる身なんだからよ、わざわざ俺たちから帝国に出向いてやるのは避けた方がいい気がするんだが。」
「そりゃ、もっともな意見だね。だけど、リスクを課してでも帝国には行かないとならない。なぜなら、帝国は最大の敵になるかもしれないんだから。敵情視察はしなきゃだろ?」
「…だけどよ、敵情視察なら、リリスたちでもできるだろ?」
「そうだけど、帝国は現状いちばん警戒しなきゃいけない国だ。僕が直接見ておきたい。ここでリスクをとらないと、後の判断の精度に大きく関わる。たしかに帝国に行くのは危険だけど、その危険を冒さないと後でもっと大きな危険な目に遭う。だから行くんだよ。まあ、さすがにソフィアの身バレ対策ができないと僕も二の足踏んでたけど、幸いどうにかなるっぽいし。僕はソフィアの腕を信じてるよ。グラントも、ソフィアの魔法の腕は知ってるだろ?」
「それはわかるがよ……万が一、顔がバレたらどうする? 帝国軍相手に、ソフィアを守りきりながら撤退するのは骨が折れるぞ。」
グラントはまだ納得していない様子だ。
すると、それまで黙って聞いていたソフィアが立ち上がった。
「心配してくれてありがとう、グラント。でも大丈夫よ。」
そう言い終わると、彼女の周囲のマナが揺らぎ、光が屈折したような違和感が走った。
次の瞬間、そこに立っていたのは、黒髪の知的な女性ではなく、そばかすの目立つ、どこにでもいそうな茶髪の村娘だった。
声質も、少し低く、野暮ったいものに変わっている。
「これなら、どうかしら?」
「うおっ!? マジか、気配まで変わりやがった……」
グラントが目を丸くして驚く。
隣にいたレイジも「へぇ、こりゃすげぇな」と感心したように声を上げた。
「魔力感知にも引っかからないように調整してあるわ。これを見破れる魔導師は、帝国広しといえど宮廷筆頭魔導師クラスくらいじゃないかしら。」
ソフィアがパチンと指を鳴らすと、元の姿に戻る。
「……なるほどな。そこまで準備できてるなら、俺が口出しすることじゃねえか。」
グラントは頭をかきながら、苦笑いで引き下がった。
「それに、僕もグラントの方が心配なんだけどね。お前、やることなすことがいちいち派手だから……。巨人族だから仕方ないけど、街中でうっかり巨大化しないでくれよ?」
「……う。善処する。」
グラントはバツが悪そうに縮こまり、場が和んだ。
「じゃあ、最後にもう一度確認しておくよ。」
僕は机の上に置かれた地図に、それぞれの駒を置くイメージで宣言する。
「今後の方針は、まずエルミュージアを必要とするコミュニティ、あるいは後ろ盾となる勢力を発見・開拓すること。そのために僕らは冒険者になり、裏部隊は闇の世界を探る。」
「「「了解。」」」
「注意点は、なるべく目立たないこと。そして、最初は情報の"深さ"よりも"幅"を重視すること。冒険者側はアウレリア帝国、リューン王国、マルカディア自由都市連合を中心に。リリスたちはセイレーン王国と裏社会の勢力を中心に調査開始だ。」
全員が力強く頷く。
その目には、もう迷いはない。
「よし。そうと決まれば、善は急げだ。早速、『ギルド総本部』へ向かおうか。」
「ふふ、楽しみですわね。」
「久々に暴れられるぜ。」
こうして、僕たち9人の「エルミュージア再建計画」の第一歩が、静かに、しかし確実に踏み出されたのだった。




