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日本一のコンサルタントの異世界転生記  作者: Hiro
第1幕~出会い、別れ、旅立ち~
12/17

カシウスvs魔族軍③

突然現れたセリーナが左翼を制圧していく。

巨大な竜巻を発生させ、同時に雷撃で次々に魔族たちを仕留める。

灼熱地獄を生み出したり、逆に極寒で凍死させたり。

火力が高いうえ手数も多く、魔族たちには対処のしようがない。

天候を自在に操る姿は、「天災の支配者」の異名に恥じない、まさに”カタストロフ”であった。


セリーナの力を見たレクスは、直ちに陣形を組み替える。

部隊を広範囲に分散させ、被害を最小限に抑える。

また、常に部隊を動かし続けてセリーナの照準を外し、的を絞らせない。


(このタイミングで左翼を狙うのはなぜだ?この戦は中央の封じ込めを敵が成功させるか、あるいは俺がそれをこじ開けられるかに左右される。ならば、敵目線だと中央を補強するのが自然な一手だ。それなのに、左翼を狙ってきた。その目的は?俺の注意を中央から離すためか?そんな姑息な手が、この俺に通用するとでも思ったか。舐められたものだな。)


レクスは、セリーナを止めようとはしなかった。

予備隊を使えば止められるだろうが、一体どれだけの戦力を投資することになるか予測がつかないからだ。

過剰投資すれば、中央の封じ込めをこじ開ける戦力が残らない。


レクスは、左翼の対応を最低限にとどめ、中央をこじ開けに行く。

予備隊を投入し、ヴァルカンに狙いを定める。

倒す必要はない。

とにかくヴァルカンを孤立させ、その間に他の吸血鬼を蹴散らし、バルグを突破させる。


レクスは中央軍を操り、ヴァルカンを少しずつ部隊から切り離していく。

ヴァルカンは強い。異常なほどに。

たとえ無限に湧いてくる予備隊があったとしても、おそらく倒せないだろう。

少なくとも、バルグと同等のレベルの魔族が100体は必要だ。

しかしどれだけ強かろうと、これだけの数を1人で相手すれば、一瞬突破する隙が生まれるはずだ。

それは本当に一瞬でほとんど無いのと同じだろうが、バルグならば、その一瞬をついて突破できる。


(よし。今だ、バルグ!!)


レクスはバルグに突撃の命を下す。

同時に、バルグの部隊がものすごい勢いで敵陣目掛けて突撃してくる。

途中の吸血鬼の部隊を突破できるかが、この戦の勝敗を分ける。

そして、バルグはレクスの期待に見事に応え、吸血鬼部隊を一気に蹴散らして行く。


(よし!勝ったぞ!!)


バルグが吸血鬼部隊を突破した。

その瞬間、レクスは勝ちを確信した。

あとは、グラントの守りを抜くだけだ。

こんなところで思わぬ足止めをくらったが、ようやく帝国へ向かうことができる…………。




レクスが柄にもなく歓喜していると、バルグ隊の前に1人の青年が現れた。


その優雅な佇まい。

涼しげな目元に中性的な美貌。

長い黒髪を銀の簪でまとめ、淡い青色の長衣を纏った姿。


間違いない。

リュウである。


挿絵(By みてみん)


(なぜ、ヤツがここに?空挺部隊の相手をしているはずでは??)


その疑問の答えはすぐに判明する。


リュウの後ろにぞろぞろと付き従う者たち。

魔族軍空挺部隊だ。

死んではいないようだが、どう見ても正気を失っている。

ただリュウに従うだけの、生きた屍と化しているようだ。




リュウは徐に笛を取り出す。


バルグは直感的に危機を察知し、後退する。

レクスも同様に、【念話読心(テレパシー)】の聴覚を遮断する。


そして、リュウが笛に口を当て、演奏を始める。




実に美しい音色だった。

ここが戦場であることを忘れてしまう。

「殺し合いなど止めて、平和にいこう」と、そんな気持ちになる。

目の前には、平和の伝道者リュウ。

彼に従えば、こんな殺伐とした場所を離れ、穏やかに、幸せになれる…………




リュウの仕掛けた【音呪調律(おんじゅちょうりつ)】。

楽器の音に呪力を乗せて演奏し、相手に”術”を仕掛ける技。


逃げ遅れたバルグ隊の大半の魔族が、まんまとリュウの術に引っ掛かる。

殺し合いの最中、平和などという都合の良い幻想を見せられ、魔族たちはあっという間にリュウの手駒として操られる。


敵の封じ込めを突破しかけたバルグ隊は、勢いを完全に失い、後退せざるを得なくなった。

ヴァルカンは拠点を構築し直し、リュウも加わって、より強固な拠点と作り変えられる。




レクスは苛立っていた。

出し惜しみせず予備隊を使った結果、敵の拠点を突破するどころか、より盤石な態勢となったのである。

しかもリュウの、相手を弄び挑発するかのような振る舞いが、余計にレクスの神経を逆撫でする。


しかし、レクスの次の一手は早かった。


もはや困難となった中央の突破は諦め、ヴァルカンとリュウを足止めする方針に切り替える。

そして、セリーナにより壊滅した左翼からバルグを突撃させた。

セリーナの力は確かに驚異的だが、この状況で直接戦闘すればバルグが勝つと読んだのだ。


その読みは的中する。


バルグは左翼で猛威を奮っていたセリーナ相手に善戦する。

その理由は、この状況では、セリーナの力が制限されるからだ。

バルグは桁違いの馬力を持っている。

通常の魔族を相手にする分はまだしも、そのバルグを相手にできるほどの威力で魔法を行使してしまうと、隣の戦場も巻き込むことになる。折角の中央の抑え込みが台無しだ。

結果的にセリーナは、バルグとの直接戦闘では距離を取らざるを得ず、徐々に押し込まれていく。


ただその一方で、バルグがいなくなった中央は完全にヴァルカンの独壇場となった。

つまり、左翼のバルグの突破と、中央のヴァルカンによる壊滅のどちらが先かの勝負になった訳である。


挿絵(By みてみん)


しかし、その勝負は互角ではない。


先に折れたのは…………セリーナだ。


状況を把握していたカシウスが、セリーナに撤退を命じた。


(やはり、仲間の命は重要か。お前たちは8人しかいない。たった1人でも欠ければ致命傷だ。しかしその判断は、些か甘すぎやしないか。)


レクスはバルグを突撃させ、同時に空軍も展開。

本当は空軍まで使いたくは無かったが、ここまで来たら、出し惜しみはなしだ。

グラントに照準を合わせて砲撃し、バルグの正面にいるレイジにも砲撃。

バルグを援護しながら、敵陣の守備の要であるグラントを崩し、最後の詰めに入る。


すると、これまで沈黙していたレイジが動いた。

黒炎を纏い、バルグに向かって真っ直ぐ突撃してきた。

その速さと勢いは、バルグ以上だ。

レクスは、レイジの予想外のスペックに驚いたが、バルグが近接戦闘で負けるとは思えなかった。

バルグを信じ、作戦を続行した。


しかし、ここでさらに予想外のことが起こる。

レイジは、戦う気満々のバルグを尻目に、完全無視で素通りしていったのだ。

バルグは拍子抜けし、レクスは敵の目的を探っていた。


(素通り?敵の狙いはこちらの左翼を完全に制圧することか?今更そんなことして何になるというのだ?まあいい。戦う気が無いならば、有難く突破させてもらおう。)


レクスはそのままバルグを突破させ、カシウスのいる敵陣左翼に突撃させる。

空軍もグラントに集中砲火し、最後の壁をこじ開けに行く。


挿絵(By みてみん)


しかし。


グラントの守備が一向に崩れない。

自身の身体はもちろん、周囲の地形もグラントによって操作され、要塞と化している。

魔族軍最高の貫通力を持った砲撃でもびくともしない。

辺り一帯の慣性もコントロールされているようで、突撃が意味をなさない。

魔法攻撃も簡単にはじき返されたり、逆に吸収され、エネルギーとして再活用されてしまう。

一点突破を試みても、瞬時に衝撃を拡散、要塞全体の損害を平均化することでほぼ無傷を保っている。


鉄壁過ぎて、戦意を喪失してしまう。

心が、折れてしまう。


敗北の予感が、レクスを襲っていた。

援軍を送ろうにも、中央はすでに壊滅、左翼はレイジにほぼ制圧されている。

今更のように、レイジの突撃の意味を理解したが、もう遅い。


残された手段は…………


「行くぞ、お前たち。」


レクスは自らの近衛兵を率いて出陣した。

バルグたちがグラントの相手をしている間に、薄くなったカシウス正面を自ら突撃する作戦だ。


しかし直後、その最終手段すら潰えることになる。


突如、近衛兵が次々と倒れていく。

レクスの近衛兵は選りすぐりの精鋭100人で構成されているが、そのうち90人が一気に殺られた。

皆がバタバタと倒れていく中、その中心に立っていたのは、1人のアサシン。


黒いローブを纏い、フードを被り、マスクで鼻と口を覆っている。

顔も体つきも分からないので確証はないが、おそらく女。

じっとレクスを見てくる。

そして、手ぶらだったその手には、いつの間にか真っ黒な剣が握られており…………


そのアサシンの女が目にも止まらぬ速さで突撃してきた。

次の瞬間、残りの近衛兵でレクスの側近であった10人が血を吹き倒れた。

全員、頸動脈を一撃で切断されている。


そしてその女はどこに行ったのかと辺りを見回すと…………


目の前に、ゆっくりと歩みを進めてくる青年。

パッと見、20歳弱。

その背後には、先ほどの女。

青年は彼女に声をかける。


「ありがとう、カサンドラ。あとは僕がやるよ。」


カサンドラと呼ばれた女はこくりと頷き、青年の影に溶け込むように消える。


そして、青年はレクスに目を向ける。


目つき、表情、歩き方、佇まい、纏う空気…………

そのすべてが、青年が只者ではないことを物語っていた。


レクスは本能的に死を感じ、その場から逃げようとしたが、それも叶わない。


その理由は、背後に広がる、先ほどまでは無かったはずの濃霧。


(ちっ。左翼にいたハイエルフの仕業か。)


レクスの予想通り、濃霧を発生させたのはセリーナ。

その霧の中から、ヴァルカン、リリス、リュウ、レイジ、セリーナが現れる。

彼らによって、退路が完全に塞がれていた。


挿絵(By みてみん)


(もはやこれまで、か。)


レクスは剣を抜き、青年カシウスに挑むが、そんな悪足搔きが通用するわけもなく。

カシウスの一太刀でレクスの首は、胴体から切り離された。


遠くで、グラントの雄叫びが聞こえる。


(バルグ、お前も、ダメ、だった、、か、、、)




カシウスたち8人vs魔族軍5万で始まった戦。


その結果は、カシウスたちの圧勝だった。

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