表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日本一のコンサルタントの異世界転生記  作者: Hiro
第1幕~出会い、別れ、旅立ち~
11/17

カシウスvs魔族軍②

魔族軍総大将レクス・ヴァルネオンは、いきなり現れた8人に警戒心を強めた。


魔族は自分たち以外の種族(特に人間)を下等生物として見下す傾向にあり、血気盛んな者が多い。

「8人ごとき」と今にも飛び掛かっていきそうだが、レクスはそれを制止した。


(奴ら、明らかに作戦行動をとっている。戦えばこちらも無視できない程度には損害を受けるだろう。この戦力差では我らが勝つのは明白だが、この後の帝国戦のために、最小限の戦力で殲滅せねば。)


レクスは陣形を組む。


ルクシス教の定義によれば、

魔族というのは、知能を持つ魔物の総称。

そして、魔物というのは、生まれながらに”異能”を持つ生物の総称。

つまり、魔族は”知能”と”異能”を合わせもつ種族なのだ。


レクスの異能は、「念話読心(テレパシー)」。


大して特別な異能ではない。

というか、極めて平凡な異能である。


レクスの「念話読心(テレパシー)」が特別なのは、無数の個体に対して、同時に使うことができるからだ。

味方に指示を出すことはもちろん、味方が入手した情報であれば「念話読心(テレパシー)」で読み取ることもできる。

そのうえ、レクスは優れた戦術家だ。

自身の能力を最大限活用することで、状況に合わせて陣形を最適化することができる。

レクスにとって、5万の魔族を操ることなど容易いことだった。


レクスが好む戦術は、中央に強固な拠点を築き、敵にじわじわ圧をかけて主導権を握る戦法。

そのために最大火力を誇るバルグ・オルステアを中央に置いている。拠点を潰そうと出てきた敵を圧倒的な武力で屠れるからだ。

今回も同様の作戦をとっていた。


レクスは冷静に敵の陣形を観察する。


(中央4人、右翼1人、左翼3人…。しかも、敵の陣形が中央にかなり偏っている。ということは、敵もこちらの陣形を把握しているようだな。それに、中央のバルグの存在にも気づいているようだ。)


カシウスたちの配置は、

中央にヴァルカン、リリス、グラント、リュウ。

左翼にカシウス、セリーナ、カサンドラ。

右翼にレイジ。


中央に半数の4人を割いているうえ、左翼のカシウスたちも中央をかなり警戒した配置で、右翼のレイジも何かあればすぐに中央に移動できる態勢。

異常なほど中央に戦力が寄っており、左右は必要最低限。


とはいえ、いくら中央が厚いといっても、所詮8人。

攻略しようと思えば、その方法はいくらでもある。


レクスが敵の攻略法を考えていると、


「グオォォォォォォォォォォォ!!!」


敵陣中央から尋常ならざる咆哮が聞こえた。


(……分かりやすい陽動だな。しかし、この挑発には乗らざるを得ないな……。)


レクスは中央軍の前衛を突撃させた。




挿絵(By みてみん)











ソフィアは息を殺して観戦していた。


(魔族軍が動いた。)


互いに陣形を組んでいく中、先に動いたのは魔族軍であった。

中央軍前衛を突撃させたのだ。


(挑発と分かっていても、今の咆哮の正体は突き止める必要がある。それに、魔族軍最大の武器は、あのバルグ・オルステア。前衛突撃の真の狙いは先に彼を動きやすくすることね。)


レクスの狙いは、ソフィアの分析通りであった。

そしてその狙いは達成されることになる。


魔族軍前衛の突撃は咆哮の正体であるグラントにあっさり阻まれるのだが、レクスはグラントに関する情報を得たうえ、バルグの前方を軽くし、動きやすくすることに成功した。

レクスの命令でいつでもバルグは敵陣に突撃できる態勢だ。


前衛を犠牲にすること、中央の拠点を早々に捨てることなどのデメリットはあるが、それでもレクスは、最小の犠牲で最大の戦果を上げられると判断したのだ。


ソフィアは、この状況をひっくり返す策が何も浮かばなかった。


(まず、バルグの突撃に備えなければならない。でも、どう備えればいいんだろう。8人で何ができるの…………?)


10年前の帝国軍でさえ、バルグを抑えられず、縦横無尽に暴れられて敗北している。

それなのに、たった8人でどうするというのだろうか。


ソフィアがバルグへの対応を考えていると、本格的にレクスが仕掛け始めた。


中央軍を自在に運用し、敵陣に隙を作りにいっている。

あちこちから絶え間なくジャブを打ち、その中に罠を混ぜる。繰り出されるジャブが罠かどうかを見極め正確に捌かなければ、一気に勝負がついてしまう。

同時に左翼の遠距離攻撃部隊も正面のレイジにしっかりと対応できる態勢を整えつつ、中央やその先の敵陣左翼にいるカシウスを狙っている。


(敵の攻撃の手が止まない…。何か、反撃の手を考えないと。まさか、このまま魔族軍に押し切られるなんてことにならないでしょうね。隙をついて一発逆転を望めるような、そんな手は無いの…………?)


そのとき、ようやくカシウス側に動きが出る。


突然、バルグの部隊の前に異様な集団が現れたのだ。

その数100体ほど。


(…………吸血鬼?…………ヴァルカンの仕業ね。)


吸血鬼100体の中に混ざっている、他を寄せ付けない圧倒的なオーラを放つ吸血鬼。

自分や他人の血液を自由自在に操り、瞬く間に辺り一帯を支配していく吸血鬼。

名はヴァルカン。

その正体は最古の吸血鬼。

すべての吸血鬼の始祖である。

ヴァルカンは、自身の身体を血液状に流動化して高速移動しながら、仕留めた魔族を自分の眷属としていく。


しかし。


(でも、たった100体。すぐに殲滅されてしまう…………。一体何のために100体の吸血鬼を出してきたの?)


そう。

前にいるのは、あのバルグの部隊。

100体の吸血鬼など、何の苦も無く排除できる。

普通に考えれば、吸血鬼100体の部隊など、いてもいなくても変わらない。


しかし、カシウスの放ったこの一手に、驚愕を隠せない人物がいた。


レクスである。




挿絵(By みてみん)











レクスは、ジャブを打ちつつカシウスの挙動を注意深く観察していた。


(俺の攻撃すべてに正しく対処してみせている。罠にも引っかかる素振りはない。敵として、まずは及第点といったところだな。しかしこのままでは我らが押し切るぞ。さあ、どうする。)


そのとき、バルグの部隊の前に100体の吸血鬼が現れた。


(何だ、それは。そんなもの、すぐに殲滅でき…………)


レクスは思案を巡らせる。

そして気づいた。

これは罠であるということに。


(バルグが吸血鬼どもを殲滅しにいくと左翼に隙が生まれる。左翼はバルグがサポートに行けるから隙が無かったが、この一手でその態勢を崩しに来たわけか。)


ヴァルカンの吸血鬼部隊を殲滅しようとすると、バルグが釣り出され、左翼のカバーに入れない。

もしもカシウスに遠距離攻撃の手段や空挺部隊のような駒があるのなら、左翼に甚大な被害が出てしまう。

しかしこのままヴァルカンに居座られると、かなり目障りだ。

遠すぎず、近すぎない。

そういう絶妙な位置にヴァルカンがいる。

このままではヴァルカンの部隊が邪魔すぎて、バルグが敵陣に突撃できない。

かと言って、殲滅しに行くこともできない。


レクスは驚愕していた。

こんな単純な一手で、バルグが抑え込まれそうになっている。

そして同時に、焦りが生じ始めた。


(この部隊を殲滅できないとなると、目の前で敵の拠点ができるのを大人しく見ているしかできないということか。たった8人を相手にした戦で、この俺がそんな無様な戦い方をするなど、許せるわけがない。早々に手を打たねば。)


考えた末にレクスが捻り出した作戦は、空挺部隊を運用するものだった。


レクスは中央軍を操り、敵陣に一瞬だけ小さな隙を作り、空挺部隊を投入する。

そうすることで、敵陣に楔を打ちつつ裏からヴァルカンを狙い、抑え込みを解消するのが目的だ。


しかし、その目論見は失敗に終わる。


空挺部隊が突入したタイミングで、これまで潜伏していたリュウが姿を現し、空挺部隊と対峙したのだ。




挿絵(By みてみん)




空挺部隊に所属する魔族たちはすぐさまリュウを倒そうと動き出す。

空挺部隊は、魔族軍の精鋭たちで構成されている。

バルグほどではないが、そこいらの魔族とは格が違う。


しかし、リュウの対人戦闘能力は恐ろしいものであった。


ヴァルカンのような圧倒的なオーラは感じない。

優雅で神秘的でミステリアスな雰囲気。とても強そうには見えない。

しかし戦闘を進めていくうち、リュウとの実力の差を思い知らされていく。


見えているようで見えておらず、倒せたようで倒せていない。

北に進んだかと思いきや、南にいる。

東に逃げたかと思いきや、西から攻撃される。

目の前にいるようで、背後にいる。

背後に回り込めたかと思いきや、逆に背後に回られている。

捉え所がなく、何をやっても手応えがない。


魔族軍の精鋭たちが、まるで子供扱いだ。

「中央にいる敵4人のうちヴァルカンとグラント以外の2人は、戦闘開始からずっと潜伏しているため、後方支援系が得意で直接戦闘の力は持っていない」というレクスの読みが完全に外れた。


それならばと、レクスは中央に予備隊を投入し、抑え込みをこじ開けにいく。

カシウスたちとの戦の後に控える帝国戦に備えて、これまで戦力を温存していたが、そもそも5万vs8なのだ。

数に物を言わせて戦えば、抑え込みをこじ開けられると踏んだのだ。


しかしそのタイミングで、今度は左翼で問題が発生する。


いきなり突風が吹いたかと思えば、風に乗って1人のハイエルフが姿を現したのだ。




セリーナである。




挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ