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日本一のコンサルタントの異世界転生記  作者: Hiro
序章~出会い、別れ、旅立ち~
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突然死

「ありがとうございます!お陰様でなんとか事業が軌道に乗りました。どこのコンサルティング会社に依頼しても全然ダメで、高橋さんがいなければ、もう本当に倒産するところでした。本当にありがとうございました!!」


今、僕と泣きながら握手しているのは、建築のスタートアップ企業の社長様。

大手ゼネコン会社を辞めて、自分でビジネスを開始したは良いものの、なかなか事業が軌道に乗らず困っていたそう。

そこで僕を頼ってくださり、試行錯誤の末ようやく成果が出て、現在喜びを分かち合っている次第であります。


これまでいくつもの組織に助言をしてきて、彼らを成功に導き、感動して泣かれることも少なくなかったけど、この社長様は群を抜いて喜んでいらっしゃる。体中の穴という穴から体液が出まくっていて、正直かなり汚いが、それでもこれだけ感謝されるのは、コンサルタントとして嬉しい限りだ。








僕の名前は高橋一郎。

35歳独身。

大学で経営戦略の研究をしている。こうしてコンサルティングも行っているが、基本的には研究室に引きこもっている。研究室から出るのは、オンラインで出来ないクライアントとの打ち合わせのときと学生への講義のときくらいで、大学内でも異常なほど研究熱心だそう。

その甲斐あって、僕は日本ではそこそこの有名人である。



だから、少しくらい女性にモテても良いと思うんだけど、色恋沙汰とはまったく縁がない。

女性起業家のコンサルをしたことも多かったし、女性との接点が皆無という訳ではないんだけど…。


恋愛したくて仕事してるわけじゃないけど、それでも、僕ってそんなに魅力ない??


このことを何かのタイミングで既婚の同僚に話したら、そいつから


「お前、イケメンってわけじゃないんだから、自分から出会いを求めないと。」


とか偉そうにアドバイスされたから、半年くらい前にマッチングアプリで何人かの女性とデートしてみたんだ。


結果、全敗。


頑張ってそれなりに大人っぽいデートプランを立てた。

(エッチって意味じゃないよ!?)

会話は苦手だけど、せっかく僕とのデートを了承してくれたんだから、そんな女性を楽しませるために話しやすい会話のトピックを選んで、なんとか繋いだ。

気遣いとか思いやりとかもよく分からないけど、なるべく紳士に徹した。


それなのに。


後日、それを例の同僚に話したら大爆笑され、飲み会のネタとして現時点でもう5回はこすられてる。

アイツ、次の学会でいじめ倒したる、マジで。



まあ、それはさておき。


今日はこれから社長と別れた後、デスクに向かって論文を執筆する予定。

社長にもご協力いただいた研究だ。

今日の分を書き終えれば、投稿して、査読結果を待つのみ。ようやく、長期の休暇が取れそうだ。休暇中はいつも海外旅行に行っており、今回も入念に計画を立てている。

はぁ~楽しみ。








午後6時、論文の執筆がひと段落して、少し休憩しようと立ち上がった。

空はもうすぐ日の入りを迎えようとしていた。今日は快晴で、地平線に沈む太陽の光がよく見える。疲れた目に染みる、とても美しい夕日だ。


そのときだった。


突然、心臓が激しく痛んだ。

比喩などではない。

間違いなく、僕の心臓に異常が発生している。


なぜ?


僕には、何が起こっているのか分からなかった。

こんな持病は抱えていない。

食事も運動も睡眠も、現代を生きる人と比べたら、気味が悪いほど健康的なものだったはず。

大好きな研究に心血を注ぐため、自分の生活を意識的にそう変えてきたのだから。


しかし、そんな僕の考えとは無関係に、無慈悲に心臓の容態は悪化していく。


徐々に僕は何かを悟り始めた。


あ。

これ、あかんやつや。

マジのやつや。

死ぬやつや。


死んだこともないくせに、不思議とそのとき、死を確信していた。


次第にまともに立つことも座ることも出来なくなり、その場にうずくまり、倒れた。


もう一度起き上がる力なんて無かった。


そして、今更思い出したかのように助けを呼ぼうとしたが、もう声を出す気力すら残っていなかった。


やがて、僕の心臓は静かに活動を停止した。

日本一のコンサルタントの、あまりにも静かすぎる最期だった。


時刻は午後6時1分を指していた。


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