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閑話休題:王家の兄弟

セレスト王国、王宮。

時期王にしてクレールの兄、エリオス・セレストが執務に励んでいた。

長期休暇で帰っていたクレールは久しぶりに兄の顔を見ようと兄の部屋の前までやってくる。

すると自動ドアの魔法でもかかっているかのようにドアがバタンと開いた。


「うおっ、びっくりした!」

「帰ってたんだねクレール!」

「うわうわなんだよ兄上! 俺もう子供じゃね……兄上!!」


エリオスもまた、……極度のブラコンだった。


普段は穏やかににっこりと笑っていて、瞳の色すら知る者は少ない。

鮮やかな金髪は切り揃えられており、まさしく『第一王子』を名乗るのに相応しい容姿と物腰をしていた。

そして執務のスピードも目を見張るほど早かった。

何しろ、趣味が執務・公務であるほどだからだ。


しかし弟のクレールが戻ってくるとあれば話は別だった。

弟の微量な魔力を察知したエリオスはクレールが扉に手をかけんとしたまさにその瞬間にドアを開いてハグで大歓迎したのだった。


「兄上、仕事で忙しいんだろ」

「それとこれとは別さ! クレール、お茶にしようか? それとも抱っこするかい?」

「俺185cmあるんだけど!! いつまでも子ども扱いすんなって言ってんだろって!」

「ええー。昔はあんなに『あにうえだっこーだっこー』って言ってきたのに……」


しゅんとした顔をしてもエリオスは笑顔を崩さない。


「いつの頃の話だよ……っていい加減離せよ……大の男がハグしてる姿なんか誰が喜ぶんだよ……」

「うーん、私かな?」

「兄上だけじゃねーか!!」

「一部のメイドも喜ぶと思うよ」

「腐女子じゃねーか!! とりあえず放してくれ。放してくれたら話をしよう……」


じりじりとクレールはエリオスから距離を取る。

エリオスは残念そうに手を泳がせながらクレールを開放した。


そして顔の横でパンパン! と手を叩くと、使用人を呼んだ。


「お呼びでしょうか、王太子殿下」

「お茶とケーキの用意をお願い出来るかな?」

「かしこまりました」


使用人は下がっていく。


「兄上、話をするとは言ったけどお茶会をするとは言って――」

「さあ、入って入って」

「ああーもうダメだ聞いてねえこの兄上」


ぐいぐいと手を引かれてエリオスの自室へとクレールは招かれた。


そして窓辺のテラスにはアフタヌーンティーが用意される。


「何でも欲しいものがあったら言うんだよ。兄上が取ってあげよう」

「だーかーら。いつまで子ども扱いするんだって」

「いつまでって、いつまでも、だよ」


にこにこ笑うエリオスの真意は誰にもわからない。

むしろ、常ににこにこと笑っているため本心を知る者は誰一人いなかった。

実の父親――国王――ですら。


しかしその実力はお墨付きで、時期王に恥じない活躍をしていた。

精霊魔法についても一流、座学でも学園時代では常にトップ、また武術にも長け、特に剣術を得意としていたし、一見細身に見えるが、体術にも精通していた。

それでいて趣味が公務とあっては、これ以上ない王の逸材だった。

――弟バカ(ブラコン)を除けば。


クレールは幼い頃こそエリオスは憧れだった。

勉強をやらせればあっさり難問でも解いてしまい、武術をやらせれば師範代の資格まで取ってしまう。

また、外交のため他国の言語を何言語も習得し、おまけに手先が器用でクレールのハンカチに刺繡をしてくれたこともある。

芸術の面においても秀でていて、歌声は美しく、またピアノを弾くことも出来た。

弟であるクレールはそんな兄に引け目を感じていることもあった。

事実、グリモワール・アカデミア魔法学園に二年も第四学年でダブっているのは、より精霊魔法を極めるため、自分から志願して留年していたのだ。

「第二王子は成績が悪いから留年しているんだ」と囁く者もいたが、その真実は、思った以上にクレールにとっては深刻なものだったのだ。

王家の重責からはどう足掻いても逃れられない。

優秀な兄を持つと弟は苦労する。

それを一番理解しているのもまたクレールだった。


「――で、兄上」

「何かな?」

「どーして俺は兄上の膝の上に乗ってるんでございましょ?」

「抱っこしたくて」

「だーかーらー…………」


もう敵わない、と観念したクレールはがっくりと項垂れた。


「いやあ、懐かしいなあ。昔からクレールは羽のように軽いよ」

「嘘つけよ!! 185cmで70Kg以上あんだぞ俺?!」

「私は188cmあるよ」

「ぐ、ぐぬぬぅ……」


その差たったの3cm。

しかし、されど3cmなのだ。

右膝にクレールを乗せたまま、優雅に紅茶をすするエリオス。


(ああ、ここにもいたか弟バカ……)


いつも生徒会で見ていた弟バカに気を取られ過ぎていて、自身の兄もまた弟バカであることにクレールは実家――王宮――へ帰って改めて思い知らされたのであった。


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