-閑話休題-【告発】
ある日の王家に黒い影が訪れる。
「貴様、ディアナック家の次男だな」
「折り入って王に謁見を願い出たい。国家を揺るがす一大事だ」
衛兵たちは顔を見合わせながら、「でもあの兄を裏切った弟だし……」というように言い合いながら、監視付きで王との謁見を許された。
そしてリュカは洗いざらい白状する。
両親が今の王国の在り方をよく思っていなかったこと。自分と兄は固有魔法を『書き換え』られたこと、また、自分たちの駒にするために教育されたこと。
そして自分は許されないことをしたこと。
そして――
「どうか罰するなら自分めを。兄上はただ両親に洗脳されていただけなのです。どうか兄上に温情を」
「――それはそなたも同じだ、リュカ・ディアナック」
固有魔法の書き換えは禁忌。また、国家転覆を目論むようにディアナック領民を手駒にしようと洗脳していたことも明らかになっていく。
そしてレクスフォード卿の記録から星の欠片争奪戦の一幕が映し出される。
――このバカ者が!! リュカ!! 帰ったら仕置き部屋で鍛え直してくれる!!
「兄弟への虐待……か。それも幼い頃から。大変な思いをしただろう……」
「いえ」
「それでも兄を守ろうとするか」
「……はい」
「……そなたはどうするつもりか」
「東方の国へ旅に出ようかと」
「帰るつもりは?」
「おそらくありません」
「……そうか。……達者でな」
国王はただ、旅立つと言ったリュカに見送りの言葉を投げかける。
「……自分を罰さないのですか?」
「こんな重大なことを告発することには勇気がいただろう。それも身内のことだ。大儀であった。東方の国で、違う世界を見てくるがよい」
「寛大なお心遣い、痛み入ります」
こうしてリュカは「兄を守ってくれ」と残すと遥か遠く東方の国へと旅立ったのであった――。
それからディアナック夫妻は取り押さえられ、尋問にかけられる。
最初は兄弟への虐待、禁呪による固有魔法の書き換え。
聞けば聞くほどにぼろぼろと出てくるありとあらゆる『国家転覆』への証拠。
挙句の果てには「今の王国は腐りきっている!! 精霊などというものの加護に酔いしれた力のない王に権力など相応しくない!」という発言。
また、「わたくしはただ、夫の言われるがままにしただけです」と涙ながらに訴えて逃げようとしたヴァレンティナ婦人も、「男児のみを生む魔法の紋章」を腹に刻んでいるところを見つけられ、「ディアナック兄弟は『兄弟』であることを前提に生まれさせられた」ことが判明した。
これも禁呪の一つとされており、投獄は免れなかった。
そして固有魔法の書き換えの禁呪はヴァレンティナが施したものということも判明する。
「グリモワール・アカデミアでは成績優秀だったそなたらが、まさかそのような考えの者たちだったとはな……」
本当に残念そうに言う国王。
そしてディアナック家の家名と領地は剥奪された。
何とか生きていけるだけの財産をクラウスに残し、ディアナック領は他の領地の一部となってしまった。
村の端にある小さなあばら家の中で、クラウスは廃人同然になりながら、雨漏りのする一室でただ1人、弟の帰りを待つのだった。




