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-第十六話-【vsクレール&セシル】

「さぁ! やってまいりました最・終・決・戦! ここまで勝ち上がってきたアレンフォード兄弟vsクレール殿下&セシル公爵子息ペア! 結果は~~~その目に焼き付けろッ!!」

「クレール~! 兄上が応援しているよ~!」


魔法鏡アルカナ・ミラーはしまわれ、コロシアムに対峙するクレール&セシルとアレンフォード兄弟。

しかしエリオスの声援に真面目な顔をして立っていたクレールは膝から崩れ落ちた。

実況席の方を見上げれば「クレールこっち見て」「I♡弟」といううちわを持っているエリオスがいた。


「兄上~……決勝戦なんだよ……頼むからもうちょっとこう……さあ……」


「さすがエリオス殿下! ブレません! クレール殿下も頑張ってください!」


「何を頑張れってんだよ……」

「はいはい、お喋りはここまで。さぁて、アタシもちょっと本気、出しちゃおうかしら」


「よ、よろしくお願いしますっ!」

「おめーらかよ……」


各々試合前の挨拶(?)が終わったところで、試合開始の笛が鳴り響いた。


「そういえばヴィクター兄様、僕、殿下とセシル先輩の魔法って知らない……」

「……実を言うと俺もだ」


事実、クレールは王族のため、精霊と交信出来る精霊魔法が固有魔法ではあった。

しかしこの星の欠片スター・シャドー争奪戦では『王族の魔法はチート』過ぎるため、禁止魔法とされていた。

そのため、クレールがどんな魔法で何をしてくるかが全く予測がつかなかったのだ。


「アラ、来ないの? それじゃあアタシから行くわよ」


セシルがウィンクし、まるで魔法少女のステッキのようなスタッフを取り出す。


「ヴェルト・ボルテックス!」


セシルが唱えると、ゴロゴロと雷の音が鳴り、周囲に雷雲が発生する。

そしていつどこで雷が発生するかわからない完全にランダムな雷の魔法だった。


「セシルのやつ……雷魔法の使い手だったのか!」

「うふふ、教えてなかったかしらぁ~」

「わっ、こっちに来たっ!」

「重心を低くしろ! 当たるぞエミール!」


エミールが両手を抑えてしゃがみ込む。


「やーだぁ! 弟クン可愛い」

「っるせぇ!! フリズ・オブ・グラウンド!!」

「あらやだっ、足元を凍らせるなんて」


ヴィクターはすかさず氷魔法で相手を足止めする魔法をかけるが、セシルが乙女チックにぴょんと飛び跳ねてそれをかわした。


「頭抱えてたら魔法使えねーだろ? エミール」


言うと、クレールは自身のワンドを取り出して振りかざした。


「エミールよ、浮け!」

「え? ふわっ?! え、ええーっ?!」

「な、基礎魔法だと?!」


どこから落ちてくるかわからない雷雲が立ち込める中、エミールの体が宙に浮く。

それをヴィクターが抱き留めて押さえた。


「俺ほどの実力があれば精霊魔法なんかに頼らなくても基礎魔法だけで戦えちゃうってわけ。そーれ、水よ、集まれ! 散開しろ!!」


水鉄砲のように、いやそれよりも鋭い水の弾がヴィクターの頬を掠める。

初期魔法でありながら、さすがは王族と言ったところか、水の弾が掠った部分に血が滲む。


「わっわっ、ヴィクター兄様大変! 傷の封印ヴァリオ・バインド


エミールが急いで応急処置魔法をかける。


「これくらい傷の内に入らないのに……」

「ねえヴィクたん。水って電気を通すのよ」

「はっ!」


クレールの放った水の弾に雷が当たり、それが乱反射してあちこちに雷が走る。


「危ないッ! 光のルミナ・シェル!」


ふんわりと光の盾がヴィクターとエミールを包み込んだ。


「おおっとぉー! 相性のいい属性を組み合わせての連携攻撃! なかなかに手強いぞ! それにしてもエミール選手の光の盾! 綺麗ですねぇ~」


ミレイの率直な感想に、「いや言ってる場合か」と観客からのツッコミが入る。


「アラ、盾の魔法もあるのね弟クン。それじゃこれはどうかしらぁ!」


セシルが舞うようにスタッフを振るう。


「ランブ・サンダー!」


雷の力で周囲の空気を一瞬で熱し、強力な衝撃波を発生させる。

しかしその攻撃も光のルミナ・シェルに弾き返されてしまった。


「ふぅん? 完全防御、ってワケ。じゃあ、ちょっと痛いのいくわよ。クレール!」

「任せろ! 水よ、集まれ……霧となれ!!」

「エレクトラ・インフェルナ!」


セシルの詠唱と共に空から巨大な雷が落ち、地面に亀裂を生じさせた。

そしてクレールの放った霧状の水がその雷を吸収し、辺り一面を雷の海に変える。


「っぶねぇじゃねえか! 直撃したら死ぬぞ!!」

「だからぁ、ちょっと痛いのいくわよって言ったじゃないの」


ヴィクターはエミールを抱きながら光のルミナ・シェルに守られて無傷だったものの、地面には大きな亀裂が残る。


「コロシアムの破損はなるべくしないでくださいよぉ~~! 修繕費がぁ~~」


「ちょっと、決勝戦で修繕費とか言わないでよ!」


生徒会であるセシルは実は会計担当でもあった。

そのため「費用」に関する言葉は彼(彼女?)にはかなり『効いた』。


「しっかし厄介だな、エミールの光のルミナ・シェル……何の攻撃も効かねえ」

「固有魔法が発現したばかりなのに完全にモノにしちゃってるわね……魔力切れを待つしかないかしら」

「いや、エミールの魔力は底知れねえってマルグリット学園長が言ってた気がする。魔力切れを待ってたらこっちが魔力切れを起こしちまう」

「あの2人を引きはがす必要があるわね……」


戦闘中にもかかわらず、冷静に戦況分析をする2人。


そしてまたヴィクターも、光のルミナ・シェルに守られてはいるものの、光のルミナ・シェルはどんなものからも守る代わりにこちらから攻撃することは出来なかった。

完全に守りに特化しているため、攻撃するならば一度光のルミナ・シェルを解かなければいけない。


セシルとクレール、アレンフォード兄弟はじりじりと次はどの手で行くか考えながら戦況を冷静に判断していた。


「いいぞ、エミール。いったん光のルミナ・シェルを解除してくれ」

「え、でも」

「守るのも大事だが、こちらから仕掛けなければ決着はつかん。その代わり、傷ついたら回復してくれ」

「うん、わかった!」


「アラ、やっとその完全防御を解除してくれたわね」

「やる気になったってことかあ?」


「次で決める」

「そんなこと言ってぇ。アタシたち、ずっとアナタたちを観戦してきたのよ? 手の内は全部覚えちゃったわ」

「軽口をたたいていられるのも今だけだ」


ヴィクターは言うと、白銀のワンドを振りかざした。


「誰がさっきので全部見せたと言ったよ。氷晶一閃( クリスタル・クレスト)――貫け!!」


「キャッ!」

「おおっとぉ!!」


まるでクリスタルのように透き通った氷の槍がクレールとセシルを分断した。


「へっ、なんだよ。まだ隠し玉があんじゃねーか」

「余裕こいていられるのも今のうちだぜ、王・子・様」


珍しくヴィクターがクレールを挑発する。


「――風よ……」


クレールがワンドを振りかざす。


「切り裂く刃となれ!! ウインドエッジ!!」


基礎魔法の応用、風の魔法を極限に圧縮し、刃状にした物が無数襲い掛かってくる。


「エミール、後ろに隠れてろ! アイス・ウォール!!」


ヴィクターはそれを氷の盾で防いだ。


「っかー! 惜しいな。本当に反射速度は高ぇな……」

「まだ行くぞ……」

「へえ、見せてみろよ」


言いながら、クレールの頬に冷や汗が伝う。

ほんの少し焦りを感じ始めていた。


さすがは『氷の貴公子』と呼ばれるだけはあり、また自己研鑽を怠らなかった特待生としての実力が今は肌で感じることが出来る。

普段こそ生徒会室で軽口を言い合う仲だが、こうして魔法を通して語り合うことは初めてのことだった。


「次こそ決める。――静寂のゼロ、氷界にて命を閉ざせ……凍界終息ゼロ・エターナル!」


「え……ヤダ……」

「おい……」

「あれ……?」


キィィン! と澄んだ音が鳴ったのち、全員の魔法具が地に落ちる。

そして一瞬ののち、皆――仲間であるエミールも含め――魔力が一切使えないことに気が付いた。


「魔力凍結ってやつかよ……」

「ちょっ……聞いてないわよそんな呪文があるなんて!」

「これじゃヴィクター兄様を守れないよ~!」


詠唱ののち、ヴィクターもしばらくは声を発することが出来なくなってしまうため、ヴィクターはただエミールの黒髪を優しく撫でるだけで応えた。


ほどなくして凍界終息ゼロ・エターナルの効果が切れ始めたときに、クレールは慌てて自身のワンドを拾った。


「――っこの、エレオス・アルカナ――」

「静止せよ! クレール・セレスト!!」

「――ッッ!!」

「クレール!!」


会場にマルグリット学園長の声が響いた。

初期魔法でありながら、実力者が使うとその威力は絶大となる。


制止の魔法をかけられたクレールは一瞬ののちに我に返り、


「あれ……俺……今…………」


と自分がしでかしたことに気が付いてしまった。


「ああ―――――っとおおおおお!!! クレール王子! まさかの禁止呪文、精霊召還魔法を使おうとしたことでマルグリット学園長に制止魔法をかけられたーッッッ!! これによりクレール殿下&セシルペア、失格負けです!!」


「あ……」

「あーあ。やっちゃったわね」

「……俺……焦って……」

「仕方ないわよ。やっちゃったもんはやっちゃったんだもの」


セシルが呆れたように肩をすくめてみせた。


「――え……僕たち……勝っちゃった……の?」

「ああ、そうだ! 俺たちの勝ちだ!!」

「わっ!」


ヴィクターはエミールを高らかに抱き上げ、くるくると回る。


「あははははっ! やった! やったねヴィクター兄様っ!!」

「お前のおかげだ!」

「ううん! 最後のヴィクター兄様最高にカッコよかった!」


「うふふ。こういう負け方も、まあたまにはアリなんじゃないかしら」


セシルが言うが、クレールの落ち込みようは尋常じゃなかった。


「絶対使うつもりなんてなかったのに……」

「それだけ『本気』だった、ってことでしょ」


会場からは歓声と拍手が巻き起こる。


「まさに兄弟愛と奇跡のアレンフォードペア! 今年の優勝者がついに決定しましたーッッッ!!!」


観客席にいたモリーとソフィアも両手を合わせて「やった~~」と歓喜の声を上げる。


マルグリット学園長も思わず立ち上がってしまったが落ち着いて席に着き、


「……成長しましたね、……2人とも」


と静かに漏らした。


こうして、王立グリモワール・アカデミア魔法学園祭のメインイベントである『星の欠片スター・シャドー争奪戦』はアレンフォード兄弟の優勝で幕を閉じたのだった。


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