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-第十四話-【vsディアナック兄弟Ⅱ】

クラウスとリュカが少し高い岩の上から降り立つと、ヴィクターとエミールに少しずつ近付いていく。

それを警戒するようにヴィクターはエミールを自身の後ろへ隠す。


「気に食わなかったんだよねえ、ヴィクター・アレンフォード。氷の貴公子……だっけ……? 特待生で生徒会副会長で……」

「だったら何だ」


クラウスが首をコキリと鳴らす。


「エミール、隠れていろ。こいつらは今までの奴らとは違う。絶対に兄様がいいと言うまで出るんじゃないぞ」

「でも……」

「そう……それでいいよ。僕たちが興味があるのはキミだけだから。ヴィクター・アレンフォード」

「ヴィクター兄様……」


心配そうな目をしながら、でもエミールは物陰にそっと身を隠した。


「先に教えておいてあげよう。僕は炎の固有魔法を持っていてね。キミは氷だったよね。……相性的に、最悪なのはわかったかな?」

「フン、そんな炎、氷で消し飛ばしてやる」


(――氷に炎属性……ヴィクター兄様が圧倒的不利じゃあ……)


物陰で静かに息を殺しながら、エミールが2人の会話に耳をそばだてる。


「最初から全力で行くしかないな……」


ヴィクターは自身の白銀のワンドを振りかざす。


「いいよいいよぉ! 全力で来てもらわないと! こっちも楽しめないからねえ!!」


クラウスの笑みが凶悪な笑みに変わった瞬間、ヴィクターは先制攻撃を仕掛けた。


「フロスト・エクスプロージョン!!」


先ほどカミラ&ユーリペアを吹き飛ばした氷の爆発魔法だ。


(ヴィクター兄様……最初からあんな大技を……)


「アブソルート・バリア」


クラウスが静かに唱える。

するとクラウスの周りに炎の壁が出来、クラウスの氷の爆発と重なって大きな水蒸気の爆発となった。

魔法鏡アルカナ・ミラーはその様子を映し出すが、しばらくは水蒸気で2チームの様子が見えない状態となっていた。


「か、完全に見えません! どうなったんだぁ?!」


「いきなり大技、か。やる気を見せてくれて嬉しいよ、ねえ、リュカ?」

「はっ、兄上」


水蒸気が晴れると、全く無傷と言った状態で両手を広げ、あまつさえ余裕そうにヴィクターに背を向けてリュカの方を見るクラウスの姿が魔法鏡アルカナ・ミラーに映し出された。


「ヴィクター選手の魔法、無効化――!! やはり炎相手に氷魔法は不利かーっ!!」


ミレイの実況にも熱が入る。


「不利なものか……」


ヴィクターは全身で魔力を練り、その圧倒的な魔力制御の力で辺り一面を氷の世界に変えていく。

パリパリと音を立て木々は凍り、岩も草も全てが凍ったドームが出来上がった。


「へえ……」


面白そうにクラウスがその氷のドームを見上げる。


「これでリュカの『影』を封じた、ってことか……」


一面の氷の世界。

そこに『影』は存在しない。


(――ヴィクター兄様本気だ……初めて見たかもしれない……子供の頃からずっとずっと魔力の研鑽を積んできたんだもんね……)


エミールは息が白くなるのを感じながら、兄の冷たくも温かい氷のドームに守られている気がしていた。


「ねえ、ヴィクター・アレンフォード。僕が『炎だけ』だと思っていたかな?」

「なに?」


(――二属性持ちか?!)


――二属性持ち。

ごく稀に固有魔法を二つ持つ者が現れることがある。

それは突然変異であり、特異体質であり、王国でも丁重に保護される対象となっていた。


「いいや、別に僕は二属性持ちってわけじゃないよ。僕がもう一つ持っているのは……」


クラウスが右手をかざす。

その右手には真っ赤な魔法石のはまった指輪がはまっていた。

彼もまた、魔法石で魔法を操るのが得意なタイプらしかった。


「シャドウ・ドミネーション」

「――な?!」


ヴィクターの中に突然、ローゼンバウム伯爵家での虐げられていた日々が思い出された。


「『支配』だよ……」


そう言ったクラウスの目は冷酷に光っていた。


――シャドウ・ドミネーション。

相手の心を操り、幻覚を見せ、強烈な恐怖感を与え、相手を完全に恐怖の中に閉じ込めることが出来る魔法である。


――アレンフォードのガキが……生意気に魔法なんぞ訓練しおって。


祖父の声が頭の中に響く。


そして雪の中に放り出された『あの日』の出来事、両親の葬式の時に感じた無力感が押し寄せてくる。


「こんな幻覚……こんなもの……」


ヴィクターは頭を振る。

しかし心の揺れは魔力の揺れ。

徐々に氷のドームが溶け始めていく。


「フフ……どうしたのヴィクター・アレンフォード。氷のドームが溶け始めてるよ? リュカの影魔法が使えるようになっちゃうよ?」

「くそっ……」

「ヴィクター兄様!! 惑わされないで!!」

「エミール!」


エミールの声援で何とか持ちこたえたヴィクターが再びワンドを構える。


「人の心を操るたぁ……いい趣味してんじゃねぇか……」

「ふぅん……弟の声で我に返ったか……」


冷静にクラウスはその状況を読む。


「でもまあいい。キミの弟は取るに足らない劣等生。相手にもならないね」


クラウスの言葉に、エミールはグッと拳を握る。


(――そうだよ。その通りだよ……僕じゃこんな強い人たちに敵うわけない……でも、ヴィクター兄様が黙ってやられているのを見ているだけの僕でもない! 僕には僕にしか出来ないことをするんだ!)


エミールはエミールなりに、自分が出来ることを必死に考えていた。


「アイス・インペル!!」


ヴィクターがワンドを振り下ろすと、氷のドームの中に大量の氷柱が降り注ぐ。


「兄上!」


即座にリュカが反応し、クラウスを抱き抱えながら氷柱を器用に避けていく。


「くそ、全部避けたか……」


完全にヴィクターのフィールドでありながらも、クラウスとリュカの連携にそこはかとない不利な状況を感じ取ってしまう。


「――それなら……」


ヴィクターが再びワンドを構えると、静かに詠唱した。


「エテルネ・スノーリア、応えてくれ――!」


そう言うと、ヴィクターのワンドが氷の剣に姿を変えた。


「へえ……いいじゃん。それなら僕もそれ相応の魔法で対抗しようじゃないか……」


クラウスが右手を掲げる。


「燃えろ、我が覇炎。ドミヌス・イグナシア……我が手に宿りし王の証よ」


するとクラウスの魔法石の指輪から、炎をまとった剣が姿を現した。


「おっと~~っ! クラウス選手! ヴィクター選手に合わせて剣vs剣の戦いだぁ!!」


ミレイの声と共に、2人は雄叫びを上げてぶつかり合う。


「うおおおおおお!!」

「はああああああ!!」


キィン! とまるで金属同士がぶつかったような音で剣と剣が鍔迫り合う。

基礎が魔法の剣のため、氷と炎であっても氷が溶けることはない。


「いいねその目……反抗的だ……是非とも僕の支配下に引き入れたいよ」

「冗談抜かせ。誰が貴様なんぞの配下になんか下るものか」


キンッ! と音を立て、2人は間合いを取る。


「兄上」

「下がっていろ」

「はっ」


クラウスは手助けをしようとするリュカに制止をかけた。


そこにエミールは違和感を覚える。


(――あのリュカって人も弟なんだよね……? 何で……兄弟なのに助け合わないんだろう……? なんだかずっと兄様の命令を聞いているだけみたいな……)


「では兄上、俺は弟の方を」

「黙っていろと言っているんだ!」


クラウスの怒声に、リュカがびくりと肩をいからせる。


「出過ぎた真似をいたしました」

「それでいい……弟は兄の言うことを黙って聞くものだよ」


それを聞いたヴィクターがピクリと反応する。


「お前……クラウスとか言ったな……弟を何だと思っている?」

「弟は忠実な部下……優秀な駒だ。兄の言う事だけを聞いていればいいんだよ!」


そういうと再びクラウスがドミヌス・イグナシアで斬りかかってくる。


「違う! それは間違っている!!」


ヴィクターはエテルネ・スノーリアで応戦する。


「兄弟は支え合うものだ! お前たち兄弟は歪んでいる!!」

「貴様に何がわかる!!!」

「ヴィクター兄様!!」


炎の剣の威力が増し、ヴィクターを吹き飛ばした。


「……ぐっ……」

「兄は絶対的支配者であらねばならない……だからキミの弟は使い物にならない……それはキミが間違っているからだ。違うかい?」


クラウスがゆっくりとヴィクターに近寄りながら言う。


「それが間違っていると言っているんだッ!!」


負けじとヴィクターが氷の剣でクラウスを吹き飛ばす。

吹き飛んできたクラウスを弟のリュカが支えた。


「兄上、大丈夫ですか」

「何、問題はない。お前はただこの僕に従っていればいい。そうすれば絶対に勝てる。あんな甘い考えの奴らに僕らが負けるはずがないからね……」

「……」


そのクラウスの言葉の後、一瞬、リュカの目の奥で何かが揺らいだ。


「いい加減飽きたよ! 呪火の玉座カース・オブ・スロウン


クラウスが右手を下から上に動かすと、地中からゴゴゴという地鳴りと共に黒い玉座のような椅子が姿を現した。


「下僕にふさわしい玉座をくれてやろう」

「――な……」


ヴィクターは氷の上を滑って逃げようとするも、その玉座からは無数の黒い手が伸びてきて、強引に引っ張られるようにその椅子に拘束された。


「くっ……」

「エミールくん……だっけ。キミのお兄さんは今から僕の支配下に引き入れることにするよ……」

「なんっ……」

「呪火の玉座カース・オブ・スロウンよ――囁け」

「あっ……ぐ、があああああっ!!」

「ヴィクター兄様ぁっ!!」


――圧倒的な精神支配。

ヴィクターの精神に直接干渉してくる『クラウスが王だ』という囁き。


「やだ……やだ……やめてよ……ヴィクター兄様を離して……」


エミールは震えながらただヴィクターが呪火の玉座カース・オブ・スロウンによって精神を破壊されていくのを見ているしか出来なかった。


「……様……は……王……」

「ん?」

「クラ……うす……さマ……こそ……ガっ……我が……王……」

「そう……いい子だね……」

「ダメ、やだ、やだよ、ヴィクター兄様!!」


ヴィクターの魔力は完全に無効化され、氷のドームはすっかり溶け切ってしまっていた。


(――いやだ、ヴィクター兄様がヴィクター兄様じゃなくなっちゃう!! 応えて、魔法石……僕に力を……力が……ヴィクター兄様を助ける力が欲しいッ……!!)


エミールが強く願った瞬間、それは起こった。


「――何だ?!」


エミールの周りにパアッと明るい光が満ち、その光はエミールの魔力の色――新緑色――が具現化して現れた。


「え……ミ――――る……」

「ヴィクター兄様に……それ以上触れるなぁ――――ッッッ!!!」


「――何だ、あの魔力の色は……?!」


リュカが呟く。


物陰から出てきたエミールは新緑色の魔力を纏い、目の色がアレンフォード家の血筋を示す金色からエメラルド色へと変わっていた。


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