-第十三話-【vsディアナック兄弟Ⅰ】
「――あれ?」
川沿いを歩いていたヴィクターとエミール。
エミールがふと足を止めると、大量の星の欠片が水際にぷかぷかと浮いているのを見つけた。
「これって……」
「ああ……」
先ほどのミレイの実況が届いていた2人は顔を見合わせる。
イザベラとシャルロットのペアが落とした星の欠片たちだろう。
「せっかくだ。もらってやろう」
「そ、そうだね。その代わり、イザベラさんたちの分も頑張ろうね!」
「ああ、そうだな」
エミールは星の欠片たちを優しく水から救い上げ、ポーチにしまい込んだ。
「あぁーっと! ここでトレント&マーシャ・バレル兄妹がセディ&ノア・フィニットペアに敗北~! やはり第四学年は強い!」
ミレイの実況が届く。
どこかで他の選手たちも戦いを繰り広げていたらしい。
「それにしても、ご兄弟での出場が多いですねえ、エリオス殿下?」
「そうだねえ……兄弟はいいものだよね」
実況席から聞こえてきたのは時期王と名高い第一王子、エリオス・セレストの声だった。
その声に観客席にいたクレールがズルっと椅子から滑り落ちる。
「ああああ兄上?!! 何やってんだ?!!」
「あ、クレールー!」
「おおっと、エリオス殿下、クレール殿下を見つけて満面の笑みだぁ! いや、エリオス殿下はいつでも笑顔ですが!」
クレールを見つけたエリオスが笑顔で実況席から手を振る。
「やっぱりねえ、兄弟って言うのは絆も深いし、連携を取りやすいと思うんだよね。小さい頃からお互いを知り尽くしているからこそ……」
「さっきの兄妹負けてんだけどーっ?!」
切々と語るエリオスに、クレールのツッコミが冴え渡る。
会場からも小さな笑みがこぼれていた。
王立グリモワール・アカデミア魔法学園祭は王国の祭りと言うこともあり、観客席の中には特別席が用意されており、マルグリット学園長の他に国王や王妃も観戦に来ていたのだ。
そしてあろうことか、ミレイがダメで元々エリオスに解説役をお願いしたところ、快く引き受けてもらえたという状況だった。
「雑魚に興味はないよ、――灰燼に帰せよ。インフェルノ・デスカール」
静かなクラウスの声に、カルム&リゼットペアが炎に焼き尽くされる。
「兄上、やりすぎは……」
「これくらいでは死なないよ、リュカ」
「おっとおー! 冷徹無慈悲な前年度の覇王、クラウス・ディアナック! カルム&リゼットペアをもろとも焼き尽くしたァー!! って救護班早く! ホントに死んじゃいますよぉーっ!!」
しかしミレイの実況にも全く動じずに、クラウスは黒焦げになっているカルム&リゼットペアから星の欠片の入ったポーチを奪い取ると中身をざらりと自身のポーチに移し替えた。
「ああ、今年も手応えがないね」
どこか哀愁を帯びたようにクラウスが呟く。
「もっと燃えるような、熱い戦いをしたいものだけど……」
そこに、先ほど勝利を決めたセディ&ノア・フィニットペアに遭遇する。
「ディアナック兄弟だな」
セディが言う。
爬虫類系の召喚魔法を得意とする冷静な眼鏡をかけた女子生徒である。
そしてその相棒のノア・フィニットは魔法考古学オタクで攻撃魔法は苦手だが、サポートの腕は十分だった。
2人とも第四学年であり、ここまで勝ち上がってきたのだ。
「去年の王者と戦えるとは光栄の極み。今回は私たちが勝たせてもらおう」
「……はて、キミのような子は見たことがないけれど……」
クラウスが薄い笑みを浮かべる。
「まあいい。どうせキミたちもすぐに救護室行きだよ」
「ディアナック兄弟! 余裕の笑みだぁ! しかしセディ&ノア・フィニットペアも強力だぞ~!!」
「ふん、関係ないね……リュカ」
「はっ、兄上。 ――フォース・ブースト」
リュカが小さく唱えると、クラウスに強力な強化効果がかかる。
「2人まとめて一気に仕留めてあげよう――リュカ」
「はっ、兄上。――影縫い(シャドウ・コントロール)」
「なっ……?!」
セディとノア・フィニットの動きがぴたりと止まる。
「おっとぉー? これはどうしたことだぁ?! セディ&ノア・フィニット選手、突然動きが止まったぞ?」
「解説してあげようか。リュカの影縫い(シャドウ・コントロール)は影魔法の一つでね。影を縫い付けて動きを封じる魔法なんだ」
説明しながらつかつかとクラウスが2人に近づいていく。
「残念だったね。僕たちと出会ったときからキミたちの負けは決まっていたんだよ。それじゃあ、さようなら――炎弧衝」
クラウスが詠唱すると、その手には炎の剣のようなものが現れ、動けなくなった2人を薙ぎ払った。
「きゃああああ!!」
「熱いいいいい!!」
「どう? 降参する? それともまだやる?」
にこにこと笑いながら、まるで拷問を楽しむかのようにクラウスがその手の上に何個もの炎弧衝を召還する。
「もういい! 棄権! 棄権します!!」
「こ、これって禁呪じゃないんですか?! 死んじゃいますよぉっ!!」
「そこまで! そこまで! そこまでーっ!! クラウス選手、落ち着いてください! 命を奪うのはルール違反ですよー!」
「……わかっているよ……冗談だよ」
焦ったような声でクラウスに制止をかけるミレイに、クラウスは楽しそうに笑いながらその炎の剣を収めた。
「セディ&ノア・フィニット選手、棄権により敗退!! これにて亜空間フィールドに残されたのはディアナック兄弟とアレンフォード兄弟のみとなりましたぁーッッッ!!」
観客席からどよめきが起こる。
「ディアナック兄弟……去年もだったけど……相変わらず容赦ねーな……」
「さすが『覇王』……敵に回したくねぇ……」
「アレンフォード兄弟、カミラ&ユーリペアを撃破したけどさすがにディアナック兄弟は……なあ……」
皆が皆、ディアナック兄弟に恐れをなしていた。
そして、その時が訪れてしまう。
「あ、星の欠片ここにもあった!」
「へえ。いいなあ。それ、僕たちに全部くれないかな……」
「え?」
星の欠片を見つけ、ポーチにしまったエミールがふと顔を上げると、少し高い岩の上から見下ろす影と目が合った。
「エミール! 下がれ!!」
「えっ、わっ!!」
即座にヴィクターがエミールのローブを引っ張り、自身の後ろへエミールを隠す。
「キミたちがアレンフォード兄弟? ……フフフ……少しは骨のある子たちだといいなあ……ね、リュカ?」
「はい、兄上」
「来ました来ました来ましたーっ!! ディアナック兄弟とアレンフォード兄弟がついに対決の時を迎えましたーッ!!!」
「うん、兄弟はいいよ」
「兄上少し黙っててくれよ! ここすっげぇシリアスな場面なんだよ!!」
陽光に映える柔らかな金髪を風に揺らしながら、『覇王』と呼ばれるクラウス・ディアナックとその影と呼ばれるリュカ・ディアナックがアレンフォード兄弟の前に立ちはだかった。




