-第十二話-【イザベラ&シャルロット】
「オーッホッホッホッ! また1つ見つけましたわぁ~!」
「さすがですわ、イザベラ様」
イザベラ&シャルロットのペアは誰と鉢合わせるわけでもなく、着々と地道に星の欠片集めに集中していた。
そしてその数はもう17個にも達していた。
「これはもう、わたくしたちが優勝と言っても過言ではありませんわね」
「あとは誰にも鉢合わせなければよろしいだけですものね」
「お任せなさい。もし戦闘になってもこの第一学年主席のわたくしがお相手をして差し上げますわ!」
「頼もしいですわ、イザベラ様」
「おっと~イザベラ選手とシャルロット選手、誰とも鉢合わせずにもう17個目の星の欠片ゲットだ~~! これはすごい! まさに運! 運の強さも実力のうち!」
ミレイの実況に、イザベラはまた高笑いをする。
「オーッホッホッホッ! 当たり前でしてよ~!! 精霊たちがわたくしたちを加護してくださっているのですわ~!」
「さすがですわ、イザベラ様」
観客席からも、「あの第一学年の子、すごいな」と言った言葉がちらほらと聞こえてくる。
「ほー、あのイザベラちゃんか」
いつかの日、エミールと話していたところに割り込んできた伯爵令嬢。
クレールはその「おもしれー女」を覚えていた。
イザベラが18個目の星の欠片を入手したまさにその時、クレールは魔法鏡を通して声援を送った。
「いいぞー! イザベラちゃーん!」
「えっ?! はっ?! ク、クレール殿下っ?!!」
一気にイザベラの顔が紅潮する。
すると、手からぽろり、と18個目の星の欠片が転がり落ちてしまった。
「あっ、お待ちあそばせ!」
しかしそれを手に取ろうと屈んだ瞬間、ポーチが開きっぱなしだったせいもあり、ポロポロ、ポロポロとこれまで集めた星の欠片がこぼれ落ちていく。
「あらっ? あらあらあら、あら~っ? お待ちあそばせ! お待ちったら!」
そして転がっていった星の欠片たちは崖からコロコロと転がり落ちていってしまった。
「おぉーっと、イザベラ選手! 見事なドジっ子披露で星の欠片を全損だ―――ッ!!」
「そ、そんなぁ~! 今まで溜めた星の欠片がぁぁぁ!!」
「あちゃー。……ねえ、セシル。今のって俺のせい?」
「……アンタもホント、罪な男よね……」
「イザベラちゃーん、ごめんねぇー!」
「でででっ、殿下のせいではございませんでしてよっ?!」
明らかにクレールの声で動揺してしまったイザベラだったが、殿下に不敬は働けまい、まして自分を応援してくれたのだと否定する。
崖の下は川になっており、星の欠片たちはキラキラときらめきながらその川の中に落ちていってしまった。
「ど、どういたします……? イザベラ様……」
「……仕方ありませんわ……崖を降りるしかありませんわ!」
「で、ですが……」
「大丈夫ですわよ!」
そういうと、イザベラはそろりそろりとその崖を降りていく。
幸い、急勾配と言うわけではなく、「かなり傾斜のきつい坂道」のようになっており、慎重に降りさえすれば川までたどり着くことが出来そうだった。
「そーっと、そーっと……って、あら、あらあら? あらあらあらあらぁぁぁぁ~~~っっっ??!」
ずざざざざ、と崖にへばりついていた『藻』に足を取られ、イザベラはなす術なく滑り落ち、
『ボチャーン!!』
派手な音と共に川の中へとダイブしてしまった。
「いっ、イザベラさ……あああああああ!!!」
後を追いかけていたシャルロットも同じく滑り落ち、2人仲良く川の中からぷはっと顔を出す。
幸い川は流れも急ではなく、深くもなかったため怪我はなかったものの、次の瞬間イザベラの大きな目からはぽろりぽろりと涙がこぼれ始める。
「っ、うっ、こっ、こんなのって……こんなのってあんまりですわぁー!!」
「お待ちくださいませイザベラ様。シャルが川の中を見てまいりますから!」
言うとシャルロットは川の中へ潜り、少しでも星の欠片が残っていないか泳いで探し回った。
そしてしばらくしてから薄い栗色の髪をゆるく結った髪が水に濡れてぺっとりとしたままシャルロットが水上に顔を出し、首を横にフルフルと振ってみせた。
「探してみましたけれど全て川に流されてしまったようですわ……」
「せっ、せっかく集めましたのにっ……ぐすっ……」
観客席からも「かわいそう……」「可愛い……」という二種の声が聞かれた。
「おっとー! 本当に全損!! イザベラ選手大損だぁ!!」
「言わなくてもわかっておりますわ!! わぁぁ~ん!! もういやですわこんなのっ!! いやですわ~~!!」
大泣きするイザベラをシャルロットが宥めながら、小さく手を挙げて「棄権いたしますわ」と発した。
「ここでイザベラ&シャルロット選手、棄権発言! 頑張ったのにまさに水の泡! 残念ながらイザベラ&シャルロットペア、ここで敗退です! 運は良かったのになぁ〜おっしい!! 来年もあるからぜひ頑張ってくださいねーっ!」
「も、もうやりたくありませんわぁ……」
ぐずぐすと鼻を鳴らすイザベラに、シャルロットは小さなキャンディを渡す。
「まずは甘いものをお食べになって」
「……甘い……ですわ……」
「部屋に戻って御髪を整えましょう。シャルがして差し上げますから」
「……お願いしますわ……」
「いいぞー!」
「イザシャル推せるー!」
「可愛いー!!」
意外なところで人気を得てしまったイザベラとシャルロットの2人だった。




