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-第十一話-【vsカミラ&ユーリ】

「あった!」


エミールが森の茂みの中にある小さな光の欠片を手に取った。


「おーっと、アレンフォード兄弟のエミール選手、さっそく星の欠片スター・シャドー1個目ゲットだー!」


エミールはそれを控室で配られた「星の欠片スター・シャドー格納ポーチ」にしまい込む。


「えらいぞ、エミール」

「えへへ」


ヴィクターはエミールの頭を撫でてやる。

その姿が魔法カメラを通してスクリーンに映し出される。


「なんて仲のいい兄弟なのでしょう! 美しい!」


ミレイが言う。

それを観戦しながらクレールとセシルが「いつも通りだな」という顔をしていた。


「あーら、こちらも発見ですわぁ~!」

「おーっと! 第一学年主席のイザベラ選手も早速『星の欠片スター・シャドー』をゲットー! 星の欠片スター・シャドーは各所にちりばめられています! どんどん集めていってくださいねー!」


「……イザベラさんも見つけたのか……」

「俺たちもどんどん行くぞ」

「うん!」


コロシアムの魔法鏡アルカナ・ミラーには「オーッホッホッホッ」と高笑いするイザベラが映し出されていた。

そしてあちらこちらで各選手が随所にちりばめられている星の欠片スター・シャドーを入手していく。

その度にミレイが実況するものだから、各選手にもライバルの状況が伝わり、より一層「もっと他の選手より集めなければ」という欲を刺激した。


「おおっとぉ? 広大な浮遊大地に転送された去年の王者、ディアナック兄弟は動く気配がないぞぉ?」


「ディアナック兄弟?」

「覚えていないか? 去年優勝した兄弟チームだ」


エミールがヴィクターの方を見て尋ねると、ヴィクターは去年の学園祭のことを思い出してエミールに説明してやった。

――ディアナック兄弟。

ヴィクターは覚えていた。

彼らは前回の優勝者。

自ら『星の欠片スター・シャドー』を集めることはせず、『星の欠片スター・シャドー』をたくさん集めた者たちを倒し、奪い去っていく。

きっと今年もそのような戦略なのだろう、と一番警戒している相手でもあった。


「――いいかい、リュカ。僕たちは『待つ』んだ。より多くの『星の欠片スター・シャドー』を持った者たちが現れるまで」

「承知しています。兄上」


クラウス・ディアナック――ディアナック侯爵家の長男であり、炎の固有魔法を持つ前年度の王者。

一見物腰は柔らかいが、学園内でも不遜な態度で『覇王』の異名を持つ冷徹な男だった。

そしてその弟リュカ・ディアナック。

常に兄の後ろに控え、兄の影として付き従う影の固有魔法を持つ物静かな弟だった。


2人は浮遊島の上から、各選手の動きを見つつ、ただひたすら「その時」を待っているのだった。



ヴィクターとエミールがようやく森を抜け出た頃、サク、という草を踏む音で振り返る。


「あら、誰かと思えば……」


ふり返ると、そこにはオレンジがかった赤いショートヘアにペリドット色の瞳を持った長身の美少女が立っていた。

その後ろには「影」のように長身の美少女よりさらに背の高い男が付き従っている。


「おーっと! ここでアレンフォード兄弟、カミラ・ノクターン&ユーリ・オルブライトペアと対峙だぁー! カミラ選手、ステージから戦場へ、そのままの流れで参戦ですぅう!!」


ミレイの実況に、エミールがきょとんとする。


「え、カミラさん? って……さっきのセラフィナさんを演じてた人?!」

「うふふ、そうよ」


カミラがふんわりとした表情で笑みを浮かべる。


「ここで出会ったということは……」


ヴィクターが少し体の重心を下げる。


「ええ、あなたたちの集めた『星の欠片スター・シャドー』、私たちに譲っていただけないかしら?」

「力ずくでな」

「もちろんよ」


「おわぁーっと!! ここで戦闘勃発!! アレンフォード兄弟、どう出るかぁ!」


コロシアムの魔法鏡アルカナ・ミラーはカミラ&ユーリとアレンフォード兄弟をメインで映し出す。


「アラやだ、いきなり強敵と当たっちゃったわねえ」


観戦しながら優雅にセシルが言う。


「まあ……ヴィクターがいれば何とかなんじゃね?」


初めっからエミールを頭数に数えていないクレールが軽く言い放った。

それに対してセシルがぺしんとその頭を叩く。


「弟クンだってやる時はやるわよ」

「お前エミールに妙にご執心だな」

「アタシ、信じてるのよ。彼の進化をね」


そんなやり取りをしている間にも、カミラは自身の魔法具である指揮棒コンダクター・バトンを取り出す。


「指揮棒がワンドの代わり?!」

「ああ、相手は『音楽』の固有魔法使いだ」


ヴィクターがエミールに説明しつつ、エミールをかばうように一歩後ろへ後退させる。


(――しかしユーリ・オルブライト……奴は何の魔法使いだ? 演劇部員なのだろうが……見たことがない……)


それもそのはず。

ユーリ・オルブライトは演劇部でも主に裏方の仕事をしているのだった。

照明効果や音響、全てを1人でこなしてしまう器用さを持ち合わせており、カミラの舞台ではその演出の全てを彼1人で行っていたのだ。

誰にも知られていないところで、カミラとの連携は申し分ない男であった。


「来ないならこちらから行くわよ。ユーリ、サポートを頼むわね」

「……ッス」


口数の少なさそうなユーリの小さな肯定の声に、カミラは指揮棒コンダクター・バトンを振りかざす。


「ラ・シ・ド・ミ……重唱デュエット、共鳴せよ」


カミラの詠唱と共に、パアッと辺りが明るくなる。

ヴィクターは「何の魔法だ」と身構えながら自身の白銀のワンドを構えた。


「アイス・ウォール! ――守れ!!」


ヴィクターの詠唱と共に氷の壁がヴィクターとエミールを包み込む。


「フフ……守るだけじゃ戦いにはならないわよ! ソ・ファ・ミ・レ……不協和音ディソナンス、響け――!」


カミラの詠唱と共に、耳元でワンワンと不協和音が鳴り響き、ヴィクターの魔力が不安定になる。


「くっ……」


パラパラと氷の壁が崩れ始めたその時、


「続けざまに行くわよ! ユーリ!」

「ッス」

「ファ・ソ・ラ――」

「――っと」

「――いつの間に?!」


ユーリは「音の届いた地点」へ跳躍出来る。

そしていつの間にかヴィクターの背後を取った。


「失礼します、先輩」

「くっ!!」


そして戦闘スタイルはなんと肉弾戦だった。

ユーリの拳が届くわずか数瞬の間に、ヴィクターは地面を凍らせてその上を滑り、間合いを取った。


「あら、逃げるのがお上手だこと。でも言ったわよね。守るだけでも逃げるだけでも、私たちには勝てないわよ?」


音に合わせた跳躍魔法に加えた肉弾戦。

戦闘のスタイルが見えてきたところでヴィクターは戦略を脳内で巡らせる。


(――エミールを守りながら戦う最善の方法は……)


「ド・ファ・シ――ユーリ!」

「ッス!」


考える間もなく、カミラの音階による座標支持が飛ぶ。

そしてその指示通りにユーリが跳躍し、ヴィクターの目の前に現れる。


「くそっ!」


またも地面を凍らせ、その上を滑って間合いを取る。


(――やりにくいなコイツっ……)


「――また届きませんでしたか。……先輩」

「ええ、いいわよ」


カミラとユーリはアイコンタクトを取り、カミラが指揮棒コンダクター・バトンを振りかざす。


「強打の合奏ストレッタ・フォルティッシモ!!」


カミラの声と共に、重低音が響き渡る。

地面が揺れ、空気が揺れる。

そしてその揺れをものともせずユーリが飛び上がった。


「ヴィクター兄様、上!!」

「――ッッ!!」


足元が揺れる中、氷を張ることが出来ない。

ユーリは両手で拳を作り、それを思いっきり振り下ろした。


(――防御が間に合わな――)


「水よ、集え!!」

「基礎魔法ですって?!」


咄嗟の判断で、エミールはヴィクターの頭上に水の膜を張った。

ユーリの拳が水の膜に当たり、バシャアという音と共に衝撃が分散され、ヴィクターに当たったのはほんのわずかな衝撃だけだった。


「エミール!」

「僕だって、ヴィクター兄様の役に立ちたいんだ!」

「……よし、わかった。サポートは頼んだぞ」

「うん!!」


「おおっとぉー! まさかの基礎魔法で水の膜を張って衝撃を逃がしたぁ! エミール選手! なかなかやりますねえ!」


「すごーい!」

「エミールくーん」

「「がぁんばれぇ~~」」


ハーヴェイ領のモリーとソフィアが魔法鏡アルカナ・ミラーに声援を送る。

そしてそれはエミールの耳にも届いた。


(――僕もいていいんだ。僕のままで。ヴィクター兄様の隣に!!)


あの日、モリーに言われたことがエミールの小さな自信に繋がっていた。


カミラの元に一瞬戻ったユーリがカミラの耳元で呟く。


「あの弟、劣等生と聞いていましたが、厄介ですね」

「心配はいらないわ。使えるのはせいぜい基礎魔法とその応用ぐらいよ」


言うと、カミラは再び指揮棒コンダクター・バトンを振りかざした。


「幻惑の即興カデンツァ・ミスト


カミラの静かな詠唱ののち、ブワッと波紋が広がる。


「――何だ?!」


複数の音が重なり、ヴィクターの視界が揺らぐ。

目の前にいるはずのカミラとユーリが二重にも三重にも見える。


(――幻影か――!)


しかし気付いた時には、ユーリが跳躍魔法でエミールの近くにまで迫っていた。


「エミール!」

「わ……」

「……ごめん、痛いかもしれないよ」


ユーリの威圧感に、エミールは尻もちをついてしまう。

――その瞬間、辺りがパリパリと凍り付いていくことにカミラが気が付いた。


「ユーリ! 離れて!!」

「――?!」


ゆら、とヴィクターが幻影を振り払うように立ち上がる。


「――……今、エミールに手を出そうとしたな…………?」

「共演の悲歌エンセムブル・ラメント!!」


見たことのないまでの怒りの形相になったヴィクターに一瞬ひるんだカミラは、ここで決めてしまおうと慌てて指揮棒コンダクター・バトンを振るう。

ユーリがそれに合わせて空高く跳躍する。


「クワイエット・フィナーレ」


ユーリの静かな声と共に詠唱された魔法に、ヴィクターは普段から鋭い目をさらに鋭くし、ユーリを睨みつける。


「お前たちの『劇』はこれで終幕だ――フロスト・エクスプロージョン!!」

「きゃああっ!!」

「先輩ッ!!」


ヴィクターの怒りのこもった氷の大爆発が辺りを吹き飛ばす。

その爆風に飛ばされたカミラを、すんでのところでユーリが横抱きに抱き留めた。


「あーらら、やっちゃったわねユーリちゃん」


観戦席で見ていたセシルがクスクスと笑いながら言う。


「エミールに手を出した時点で負け確なんだよなあ……」


クレールも「それ見たことか」と言わんばかりに言い放つ。


カミラはユーリの腕の中で心臓が早鐘を打っていることに気が付いた。


(――何……さっきまでのヴィクターとは全然違――)


「フリーズ・チェイン」


畳みかけるように、ヴィクターが詠唱すると、カミラを抱いたままのユーリごと、氷の鎖が2人を拘束した。


「う、動けません先輩……」


そしてつかつかとゆっくりヴィクターが歩み寄ってくる。


「――……まだやるか?」


白銀のワンドをユーリの眉間に突き付けるヴィクター。

明らかに引きつった表情になるユーリ。


「わ、わかったわ……こ、降参……するわ…………」

「先輩」


「おおっとぉ―――!! カミラ選手! 降参だぁ――――!!!」


「みっともない負け方はしたくないもの。ここは潔く幕引きよ」


カミラの降参の言葉と共に、氷の鎖はほどけ、カミラとユーリの拘束が解ける。


「ふう……負けちゃったわね……敗因は……やっぱり弟くんに手を出しちゃったせいかしら」

「……エミールには指一本触れさせん」


ヴィクターの言葉を聞くと、カミラは小さくため息をつき、控室で配られた星の欠片スター・シャドーを入れるポーチを開いてその全てをヴィクターに託した。


「その代わり――私たちの分まで、優勝しなきゃ許さないわよ?」

「……当たり前だ」


ヴィクターはエミールを呼び、その預けられた星の欠片スター・シャドーをしまうように言った。


「……それじゃあ、また、舞台で会いましょう」


こうして、カミラとユーリは亜空間フィールドから姿を消した。


「ヴィクター兄様……僕たち勝ったの?」

「ああ」


しかしヴィクターの怒りはまだ少し治まってはいないようだった。


(――次こそは……エミールを絶対に守り切る……)


「アレンフォード兄弟、勝利ー! 星の欠片スター・シャドー大量ゲット! おめでとうございまぁす!!」


フロート・アイからコロシアムの実況席に移動していたミレイが2人の健闘を称える。

そしてついに、ディアナック兄弟が動きを見せ始めた。


「ふぅん……アレンフォード兄弟、か」

「兄上、行きますか」

「そうだね……」


その言葉と共に、浮遊島の上からディアナック兄弟の姿は消えていた。


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