ep8 新武器〈作成〉
いつもより少しだけ長いです。
次の日、麗華が武器を新調するために鍛冶屋へ行くというので、俺もを一緒に行くことになった。
「行きつけの店があるのよ。腕の良い鍛冶師がいるから、興味があるなら一緒に来るといいわ」
麗華にそう言われ、少し気乗りしないまま後をついていくと、到着したのは一見普通の鍛冶屋だった。看板には「ライズ スミス」とだけ書かれている。
「ここか……」
「さ、入るわよ」
麗華に促されて扉を開けると、中には熱気がこもった空気と鉄の匂いが広がっていた。そして店の奥のカウンターの向こうには、茶髪を頭の後ろでひとつ結びにした小さな女の子が立っていた。
一瞬、客か何かだろうと思ったが、そんな俺の思考を遮るように麗華がその子に声をかける。
「こんにちは、ライズ。私の武器を新調したいんだけど、お願いできるかしら?」
「……えっ、この子がライズ?!」
思わず疑問の声が漏れると、子どもだと思われたことに気づいたのか、女の子は頬を膨らませて俺を睨みつけた。
「どうせ身長が低いからって舐めてたんだろう!僕はライズ!身長は低いけど、中身は大人な鍛冶師なんだぞ!」
「失礼ですが……おいくつなんですか?」
俺が恐る恐る尋ねると、ライズと名乗るその子は堂々と胸を張りながら答えた。
「14歳だ!」
「ガキじゃねえか」
俺の正直すぎるツッコミに、ライズの顔がみるみるうちに真っ赤になり、次の瞬間、彼女は驚異的な高さのジャンプを見せた。
「ガキって言うなーーーーーー!!」
怒りの叫びとともに、俺の頭を狙って猛然と頭突きを繰り出すライズ。
「ゴンッッッ」
鈍い音が響いた瞬間、俺の視界は真っ暗になった。
(この……くそ……ガキ……)
目が覚めた時、俺は見知らぬ工房のような場所に横たわっていた。天井には木の梁がむき出しになり、周囲にはハンマーや鉄材が無造作に置かれている。
「気がついた?」
麗華の声がして振り向くと、少し呆れた顔をした彼女がこちらを覗き込んでいた。
「……ああ、なんとか。頭がガンガンするけどな……。って、あの子はどこに?」
俺が頭を押さえながら尋ねると、麗華は肩をすくめるように笑った。
「ライズなら、向こうで作業してるわよ。言ったでしょ?あの子、鍛冶の腕は確かだから」
「いや、『あの子』って……14歳だろ?本当に大丈夫なのか?」
「外見に惑わされちゃダメよ。見た目は小さいけど、ライズの技術はこの辺でも評判なんだから」
そう言われても、いまだに信じがたい。あんな小さな体でどうやって鍛冶なんかやっているのか。だが、麗華が信頼しているのなら、とりあえず見てみるしかない。
「ほら、立てる?さっきの暴力の謝罪代わりに、ライズが頑張ってくれると思うわ」
麗華の手を借りて立ち上がり、俺は少しだけ興味を覚えながら工房の奥へと向かった。
「で、何か用なのか?」
ライズが腕を組みながら、じっとこちらを見上げてくる。その鋭い視線は、14歳とは思えないほどの威圧感を持っていた。
俺は軽く咳払いしてから、言葉を選ぶように話し出した。
「……俺の斧なんだけど、そろそろ限界が近い気がするんだ。性能的にも、今のモンスター相手だと力不足になってきてる」
「なるほどね」
ライズは俺の斧をじっと見つめながら、ふむ、と小さくうなずいた。
今の斧はNPCの鍛冶屋で簡単な素材で作ってもらったものだ。
〈アイロンアックス〉
【必要ステータス】攻撃力40
【ランク】E
【攻撃力】20
【製作者】ラウス・カージ(NPC)
【値段】5000G
スキルも「リカル」という簡単な強攻撃のようなものだ。ダメージは普通に殴るときの1.5倍でるが、スキルの使用前と使用中は移動ができず攻撃をくらいやすいので使い所もあまりないスキルだ。
「確かにその斧、もうすぐ寿命だな。素材も古いし、これ以上強化しても耐久性が持たないだろう」
「だろ?だから、もし可能なら新しい斧を作ってほしい。強くて、長く使えるやつを」
ライズは目を輝かせながら頷き、少し誇らしげに胸を張った。
「お安い御用さ!僕に任せておけば最高の斧を作ってやるよ。ただし――」
「ただし?」
「そのためには『プラズマキューブ』って素材が必要だ。それがないと、お前の望む性能の斧は作れないな」
「プラズマキューブ?」
俺は首を傾げた。
「聞いたことないな。それってどこで手に入るんだ?」
「マナゴーレ・プラズマっていうフィールドボスが持ってる。そいつを倒さないとプラズマキューブは手に入らないよ」
「フィールドボス……か」
俺は少し眉をひそめた。フィールドボスはフロアボスほどではないが、それでもソロで挑むには危険な相手だ。
すると、横にいた麗華が静かに口を開いた。
「ちょうど私もそのプラズマキューブが必要なの。私の新しい武器にも使う素材なのよ」
ライズがにやりと笑いながらこちらを指差した。
「だったら話は簡単だな!陽翔と麗華、お前たち2人で協力してマナゴーレ・プラズマを倒してきなよ。2人なら何とかなるだろ?」
「簡単に言うなよ……」
俺は心の中でため息をついたが、麗華が小さく頷いたのを見て、仕方なく同意した。
「わかったよ。行ってくる」
「いい返事だ!それじゃあ、頼んだぜ!」
数時間後、俺たちはマナゴーレ・プラズマのいるフィールドに到着していた。その場所は暗い洞窟の奥深くにあり、空気がピリピリとした緊張感を漂わせている。
「ここにいるのね、マナゴーレ・プラズマ」
麗華が周囲を確認しながら小さく呟いた。
「ああ、姿は見えないけど、この雰囲気は間違いない。すぐに出てくるはずだ」
俺がそう言った瞬間、洞窟の奥から重々しい音が響き渡った。次の瞬間、紫色に輝く巨大なゴーレムの姿が現れた。その全身はプラズマのようにゆらゆらと揺らめき、目はまるでこちらを威圧するかのように赤く光っている。
「これが……マナゴーレ・プラズマ……!」
「油断しないで、陽翔」
麗華が背中の大鎌を構えながら警告する。
「一瞬でも気を抜いたらやられるわよ!」
「ああ、わかってる」
俺も手にした斧を強く握りしめた。
「いくぞ!」
マナゴーレ・プラズマが両腕を振り上げると、まるで雷のような電流が周囲に放たれた。俺たちは素早く左右に散り、攻撃をかわす。
「攻撃の速度が速い……!」
麗華が鋭くつぶやく。
「だけど隙がないわけじゃない。俺が前衛で引きつけるから、その間に麗華は攻撃を叩き込め!」
「了解!」
俺は斧を振りかざし、マナゴーレ・プラズマの目の前に飛び込む。その一撃は巨大なゴーレムの硬い装甲に食い込み、わずかに動きを止めた。その瞬間、麗華がその隙を狙って大鎌を大きく振り下ろす。
「これでどう!」
麗華の攻撃がマナゴーレ・プラズマの体を切り裂き、紫色の光が一瞬揺らめいた。だが、敵の体力はまだ底が見えない。
「しぶとい奴だな……!」
「でも、私たちなら倒せるわ!」
2人で連携を取りながら攻撃を繰り返し、マナゴーレ・プラズマの動きを徐々に封じていく。
「今よ!」
麗華が声を上げ、全身の力を込めて大鎌を振り下ろす。その一撃はゴーレムの核である胸部を正確に捉えた。
マナゴーレ・プラズマがうなり声とともに両腕を振り下ろす。その瞬間、紫色の電流が地面に走り、洞窟全体が稲妻のような光で満たされた。
「くそっ、範囲攻撃もあるのか!」
俺は咄嗟に横へと飛び退き、地面に発生した電撃の波をギリギリでかわした。
「陽翔、上!」
麗華の鋭い声が響く。
俺が顔を上げた瞬間、巨大な拳が迫っていた。振り下ろされたその一撃は地面を大きく抉り、岩の破片が飛び散る。俺はその衝撃を受け流しながら距離を取った。
「こいつ、本当にゴリ押しするタイプだな!」
俺が呟くと、麗華が横を駆け抜けながら言った。
「でも無闇に力任せというわけじゃない。動きをよく見て!」
「わかってる!」
俺は斧を握り直し、再び距離を詰める。
俺が前衛として注意を引きつけ、麗華が隙を見て攻撃を仕掛けるという形が自然と出来上がっていた。だが、マナゴーレ・プラズマの硬い装甲は予想以上に厄介で、こちらの攻撃を受け流しながら反撃してくる。
「リカルを使うタイミングを見つけないと、このままじゃジリ貧だ!」
俺は自分に言い聞かせるように呟いた。
「陽翔、右腕の関節部分が甘いわ!」
麗華が叫ぶ。その声に応じて俺は斧を上段に構え、一気に振り下ろす。斧の刃が右腕の関節に食い込み、マナゴーレ・プラズマの動きが一瞬鈍る。
「今だ、リカル!」
俺の声とともにスキルが発動する。
斧に淡い光が宿り、重力が増したような感覚が腕に伝わる。それを勢いのまま振り下ろすと、マナゴーレ・プラズマの右腕が軋む音を立てて砕けた。
「いいわ、陽翔!」
麗華が微笑みながら、その隙を逃さずに大鎌を振り抜く。彼女の一撃がゴーレムの胴体を切り裂き、紫のプラズマが散り散りに飛び散った。
だが、次の瞬間、ゴーレムは大きく後退しながら、その失った右腕を再生し始めた。
「再生能力まであるのか……!?」
俺は驚きと苛立ちの声を上げた。
麗華が冷静に答える。
「でも、再生には時間がかかるみたい。今のうちに一気に畳みかけるわよ!」
俺たちは再び連携を取り、ゴーレムの動きを封じるように攻撃を繰り出した。俺が正面で注意を引きつける間に、麗華はその隙を見て鋭い一撃を叩き込む。
「リカルをもう一度奴に叩き込めれば勝てる。隙を作ってくれないか?」
俺が尋ねると、麗華は頷いた。
「やってみせるわ!」
俺は一度後退し、斧を構え直した。「リカル」の準備に集中するためだ。その間も麗華はゴーレムの背後に回り込み、大鎌を振り抜いて攻撃を続けている。
「いくぞ!」
俺が再び前に出ると同時に、「リカル」を発動。斧に再び光が宿り、敵の胴体を貫くような一撃を叩き込む。その瞬間、ゴーレムの装甲が大きく崩れた。
「今よ!」
麗華が声を上げ、全身の力を込めて大鎌を振り下ろす。その一撃はゴーレムの核である胸部を正確に捉えた。
紫の光が一瞬だけ激しく輝き、次の瞬間、ゴーレムの体は崩れ落ちた。残ったのは、淡く光る「プラズマキューブ」だけだった。
「やった……」
俺は肩で息をしながら、崩れ去ったゴーレムを見下ろした。だが、その瞬間、自分の手に違和感を感じる。
「……ん?」
手元を見下ろすと、俺の斧――〈アイロンアックス〉に無数の亀裂が走り、かすかに音を立てて崩れていくのが見えた。
「おいおい、嘘だろ……」
俺は慌てて斧を握り直そうとしたが、無情にも刃の部分がポロリと地面に落ちる。耐久値がそこを尽きたようだ。
「陽翔!」
麗華が驚いた声を上げる。
「……これが限界ってやつか」
俺は苦笑しながら、柄だけになった斧を見つめた。なんだかんだ長い間戦い続けてきた相棒。何度も手入れしてきたが、ついにその役目を終えたらしい。
「でも」
俺は柄をそっと地面に置きながら、ふっと息をついた。
「最後まで頑張ってくれたよ。このゴーレムを倒すまで、よく保ってくれた」
麗華がそっと俺の隣に立ち、微笑みながら言った。
「その斧もきっと、あなたの力になれたことを喜んでるわ」
その言葉に、なんだか少し胸が熱くなるのを感じた。俺は静かに頷き、地面に転がったプラズマキューブを拾い上げた。それはほんのり温かく、手に吸い付くような不思議な感触があった。
「これで、ライズのところに持って帰れるな」
そう言いながら、俺は麗華に視線を向けた。
「ええ。新しい武器が楽しみね」
麗華も軽く息をつきながら答える。
「それにしても……」
俺は壊れた斧をちらりと見て、苦笑いを浮かべた。
「帰り道、どうやってモンスターを追い払うか考えないとな。俺、もう丸腰だし」
「ふふ、それなら私が守ってあげるわ」
麗華が冗談めかして微笑む。
「頼りにしてるよ」
俺も笑いながら答えた。
俺たちは満足感と少しの疲労感を抱えながら、戦いの余韻を心に刻みつつ、洞窟を後にした。
ちゃんとした戦闘シーンを始めて書きました。
どうだったでしょうか?
臨場感、緊張感のある戦闘がお届けできていれば嬉しいです。