ep7 分け合う
投稿する日はだいたい夜八時が多いと思います。
一週間。俺と彼女は、毎日一緒にダンジョンでモンスターを狩り続けていた。レベルも21まで上がりステータスもだいぶ上がってきた。
《ステータス》
【名前】 Noharu
【レベル】 21
【タレント】 エンチャント
【属性】 氷
【武器種】 大型武器
【攻撃力】 C+50(100)
【防御力】 D+20(30)
【体力】 D+20(30)
【素早さ】 F+5(2.5)
【賢さ】 D+10(15)
【運】 E+0(0)
《スキル》
【ウェポンスキル】リカル E
【マジックスキル】アイスプレベント D
【タレントスキル】エンチャント F
最初の頃はぎこちなかった連携も、今では言葉を交わさずとも自然に動けるようになった。互いの攻撃が見事に噛み合い、力を補い合うその感覚は、これまで一人で戦ってきた俺には新鮮なものだった。
そしてその日の夜、俺たちは初めて出会ったあのレストランにまた足を運んでいた。薄暗い店内には相変わらず客の姿はなく、聞こえるのは微かな風の音だけ。テーブル席に座り、俺たちは無言で出された料理に手を伸ばしていた。
「一週間も一緒に戦ってるんだな、俺たち」
俺はふと呟いた。
「そうね」
麗華の柔らかい声が返ってくる。
「でも、こうして誰かと一緒に戦うのは悪くないわ。あなたとなら、ね」
「俺もだよ」
自然と口をついて出た言葉に、自分でも少し驚いた。
「正直、一人で戦ってる方が気楽だと思ってたけど……あんたと組むのは、なんていうか、悪くない」
麗華は微かに笑った。その横顔を見ているうちに、俺はあることを思い出した。
「そういやさ……一週間も一緒にいるのに、まだお互い名前を知らないよな」
俺の言葉に、麗華は少し驚いたように目を瞬かせた後、微笑んだ。
「確かにそうね。どうして今まで気づかなかったんだろう」
「まあ、気にしてなかったからだろうな……俺は、陽翔だ」
自分の名前をあらためて口にするのは、どこか気恥ずかしい。それでも、彼女には知っておいてほしかった。
麗華は一瞬だけ考え込むように目を伏せてから、俺を見つめ、小さく微笑んだ。
「私は、麗華。よろしく、陽翔」
「麗華か……きれいな君によく合ってる名前だな」
思ったことがそのまま口を突いて出た。
次の瞬間、麗華がわずかに頬を赤らめたのが見えた。俺の言葉に戸惑いを覚えたのか、彼女は目を逸らしながら「そ、そう……ありがとう」と、いつになくぎこちない声で応えた。
俺は特に気にも留めず、「ああ」とだけ頷き、テーブルの上のコップに手を伸ばした。麗華が何を考えているかなんて、俺にはわかるはずもない。
「これからも、よろしくな……麗華」
麗華は視線を伏せたまま、小さく頷いた。
「ええ、よろしく、陽翔」
その一瞬、どこか気恥ずかしい空気が流れたが、不思議と心地よくもあった。それが相手を信頼し始めた証なのだと、ぼんやりと感じていた。
「ねえ、陽翔」
麗華がぽつりと口を開いた。
「ん?」
俺はコップを置きながら、彼女の方を見た。
「……初めて出会った日のことなんだけど。どうして、あんなに暗い顔をしてたの?」
彼女の声はいつもより少しだけ慎重だった。迷いながらも、どうしても聞きたいという気持ちが伝わってくる。
俺は一瞬、言葉を失った。暗い顔?自分ではほとんど意識していなかったが、確かにあの日の俺は、何もかもに疲れ切っていた気がする。
「そんなにひどい顔してたか?」
冗談めかして返してみたが、麗華は笑わなかった。その真剣な瞳に、適当な言い逃れをすることはできなかった。
「ごめんなさい。言いたくなかったら言わなくていい。でも、気になって……。あの時のあなた、何か抱え込んでいるように見えたの」
彼女の言葉に、俺は目を伏せた。あの日のことを思い返すと、胸の奥が締めつけられるような感覚が蘇る。
少しだけ、黙ったまま時間が過ぎた。その間、麗華は何も言わずに待ってくれていた。俺はようやく口を開いた。
「……俺には、海里っていう親友と、桜っていう妹がいた」
「親友と……妹?」
麗華が小さく首を傾げた。その声には優しい興味と、少しの緊張が混じっていた。
「ああ。2人とも、俺にとって大切な存在だったんだ。でも……もう、いない」
自分の口からその言葉が出ると、胸の奥がズキリと痛んだ。まだ、ちゃんと受け入れられていないのかもしれない。それでも、麗華が耳を傾けようとしてくれているのを感じると、少しずつ話す気になれた。
「このゲームがデスゲームになった翌日のことだ。フロアボスの攻略戦に2人は参加した。でも……海里と桜は、その戦いで命を落とした」
麗華は息を呑んだようだったが、何も言わなかった。ただ、俺の言葉をじっと待っている。その静寂が、逆に話しやすかった。
「俺は一緒に行かなかった。行ったとしても結果は変えられなかった。あいつらは死んだんだ。俺だけ……生き残った」
その言葉を口にすると、自分の中に溜まっていた何かが少しだけ吐き出されたような気がした。
「……俺は、彼らを守れないどころか一緒に戦うことすらもしなかったんだ。そのくせ、俺だけ生きている。正直、何のためにこんな風に生き続けているのか、わからないままだ」
気がつくと、握りしめた拳が震えていた。けれど、麗華がすぐ近くに座っているのを感じると、その震えは少しずつ収まっていった。
「陽翔……」
彼女の声は、かすかに震えていた。俺の話が彼女にどんな感情を与えたのか、正直わからない。ただ、その声からは俺を責めるような色は一切感じられなかった。
「……ごめん、変な話をして。別に同情してほしいわけじゃない」
「そんな風に思わないわ」
麗華がすっと背筋を伸ばして言った。
「あなたがその2人をどれだけ大切に思っていたか、よくわかった。……そして、きっと2人も、あなたのことを大切に思っていたはずよ……2人だけじゃない……私もよ。あなたが生きていてくれて私、嬉しいもの」
その言葉に、胸の奥が少しだけ温かくなるのを感じた。麗華は本当に俺の気持ちを理解しようとしてくれている。彼女の言葉は、心のどこかに染み込むようだった。
俺は軽く息をついて、彼女に視線を向けた。
「ありがとう、麗華。こういう話を誰かにするのは初めてだ。なんだか、少しだけ楽になった気がする」
麗華は静かに微笑んだ。
「私でよければ、いつでも話を聞くわ。あなたが抱えているものを、少しでも分け合えるなら……」
その言葉に、俺は何も言えなくなった。代わりに、小さく頷いた。
2人が行っているレストランの設定を出す機会がなかったためここに。
シュヴァルディアの路地裏にポツンとあるNPCが運営するレストラン「Eisspeise Sonne Springen」
街の外れ、古びた石畳の路地に佇む隠れ家的なレストラン。
外壁は黒を基調とした木造建築で、蔦が絡まり、時折淡い光を放つ不思議な花が咲いている。
冷菓を表すEisspeiseと
陽を表すSonneと
翔を表すSpringen EisspeiseSonneSpringen
偶然かにゃ?……