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《The Woken Era》  作者: なめこ
第一章 斧と鎌と虎
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ep.6 鎌の女

本日第五話も投稿されてるのでご注意を

何もかもが色を失っていた。太陽の光も、風の音も、何一つ心に響かなくなっていた。ただ、無意識に斧を振り下ろす。目の前のモンスターを、何も考えず、ひたすらに倒していく。攻撃を受けてHPが削れていくのが見えるが、それすらも無感覚だった。死が怖いわけではない。むしろ、死んでしまった方が楽になれる。そう思えてしまう自分がいる。


5日前、フロアボスの攻略隊に参加した海里と桜の2人は命を落とした。一緒に戦っていたとしても、結果は変わらなかっただろう。だが、俺が感じるのは彼らの死への後悔ではない。彼らと共に死ねなかった自分への苛立ちだった。その思いが、じわじわと胸を蝕む。しかし、涙はとうに枯れ果てている。ただ、胸の奥に空洞が広がるばかりで、何も感じられない。虚しさだけが重く残っている。


それからというもの、俺はただひたすらにモンスターを狩り続けている。レベルは上がり、装備も強化された。しかし、喜びも、達成感も、何もない。生きている実感がない。ただ、死んだ二人への罪悪感を薄めるために斧を振るうことだけが、俺の生きる目的となっていた。


街外れの小さなレストランに入る。薄暗い店内には、誰もいない。カウンター席に腰を下ろし、ぼんやりと窓の外を眺めていると、隣に気配を感じた。


隣の席に座ったのは、女。「黒」──それが彼女への第一印象だった。

深い黒のローブに身を包み、フードを深く被った女性。肩にかかるかかからないかほどの、白に近い銀灰色の髪が、フードの影から光を受け、時折反射している。その輝きは、まるで月明かりを浴びた雪の結晶のよう。背には、精巧な骨のような質感を持つ大鎌が鎮座している。その異質な存在感とは裏腹に、フードの隙間から覗く顔立ちは驚くほど繊細で美しい。まるで、闇夜に咲く一輪の花のような、儚げながらも凛とした美しさだった。


所詮データでしかない飯を口へと運ぶ。


(あぁ……また今日も生きてしまった。)


「その大鎌、重くないのか?」


不意に、俺の口から言葉が漏れた。自分でも驚いた。ここ数日、いや、もっと長い間、誰かに話しかけることなどしていなかったのに。


彼女は一瞬だけこちらを見て、小さく笑ったようだった。


「重さなんて、慣れれば気にならないわ。それに、この大鎌は私の一部みたいなものだから」


その声は低く落ち着いていて、不思議と安心感があった。俺は続けて尋ねた。


「一部……か。じゃあ、それを持っている理由は?」


彼女はしばらく沈黙した後、言葉を選ぶようにゆっくりと答えた。


「私にも、背負わなければならないものがあるの。どんなに逃げたくても、それが私の存在そのものでもあるから」


その答えに、俺は思わず息を止めた。彼女の言葉は、まるで自分の心を見透かされているようだった。


「君も、何かを背負っているんじゃない?その斧と同じように」


俺の手が自然と斧の柄を握りしめる。まるで答えを探すように、視線を斧に落とした。


「……背負ってる、か。でも俺は、自分が何を背負えばいいのかすらわからないんだ。だから、ただモンスターを狩り続けてるだけだよ」


彼女は静かに頷いた。


「それでも、目の前にあることをこなしている。まだ進む力が残っている証拠よ。もし本当に終わりたいなら、こんな場所に来ないでしょ?」


その一言に、胸の奥がズキリと痛んだ。彼女の言葉に反論することはできなかった。


「……俺は、生きている意味なんてもうないと思ってた。でも、誰かにこんな話を聞いてもらったのは久しぶりだな。少しだけ、楽になった気がする」


彼女は微笑みを浮かべた。


「話すことで少しでも軽くなるなら、また話せばいいわ。私も、あなたに話したいことがあるから。……それに、あなたの目はまだ完全に死んでいないもの」


その言葉に、胸にわずかな温もりが灯るのを感じた。自分でも信じられないが、少しだけ、生きていてもいいのかもしれないと思えた。











翌日、いつものようにダンジョンへと足を運んだ。深い闇と湿気の中、無心でモンスターを狩る。それが俺の日常で、死んでしまった仲間たちのことを忘れるにはこれしかなかった。

しかし、その日、予想外の出来事が俺を待ち受けていた。


「……また会ったわね」


背後から聞こえた声に反射的に振り返る。そこには、昨日レストランで隣に座ったあの黒いローブの女がいた。肩掛けの大鎌が、淡い光を浴びて不気味な影を作り出している。


「……君、どうしてここに?」


俺の声は少し驚き混じりだった。

彼女は微かに肩をすくめる。


「ここは私がよく来るダンジョンよ。むしろ、どうしてあなたが?」


「俺は……ただ、モンスターを狩り続けるだけだ。理由なんて、特にない」


口にした言葉が、昨日の自分を思い起こさせる。無意味に思えてしまうこの日々。それを打破する方法なんて、見つけられないままだ。


「そう……なら、少しだけ付き合ってくれる?」


彼女が大鎌を軽々と肩に担ぎ、俺を見上げた。その瞳には、昨日見た穏やかさの中に、鋭さが宿っている。


「付き合う……?戦いを一緒に、ってことか?」


「ええ。あなたの斧がどれだけ強いか、確かめてみたい」


俺は一瞬言葉に詰まったが、頷いた。どういう風の吹き回しかわからないが、彼女と一緒に戦うのは悪くない気がした。


ダンジョンでの戦いは、俺がこれまでに経験したものとは少し違っていた。彼女の大鎌は、まるで生き物のようにしなやかに動く。一撃ごとにモンスターの動きを封じ、俺の攻撃を引き立てるような動きだった。


「あんた、鎌なんて珍しい武器だろ。扱いが難しいんじゃないのか?」


戦いの合間に思わず尋ねた。彼女は軽く笑う。


「よく言われるわ。でも、私にとってはこれが一番しっくりくる武器なの。大鎌はね、敵を一気に薙ぎ払う力があるけど、それ以上に重要なのはタイミングと動きの精密さ。それが合わないと、ただの鈍器になってしまう」


「……なんだか、それって使う人間を選ぶ武器みたいだな」


「そうね、だからこそ、私にとってはこの大鎌が特別なの。きっと、あなたの斧も同じじゃない?その重さを背負えるのは、あなただけだと思うわ」


その言葉に、俺は何故か胸がざわついた。彼女の話はただの武器のことを語っているのに、それ以上に深い意味を含んでいるように思えた。


戦いを終える頃には、俺たちは自然と息の合った動きをするようになっていた。彼女の攻撃に合わせて斧を振り下ろし、俺の動きを彼女が補う。これまで一人で戦い続けていた俺にはなかった感覚が、そこにはあった。


「……悪くなかったな」


俺は不器用に言葉を紡いだ。

彼女は少し驚いた顔をしたが、すぐに微笑んだ。


「そうね、なかなかいいコンビだったと思うわ」


「コンビ、か……」


その言葉を口の中で繰り返しながら、俺は彼女を横目で見た。彼女と一緒に戦うことで、自分が何かを取り戻しつつあるような気がした。

メインキャラの三分の二死んだと思ったらヒロイン登場。これ私うまく書けてるんですかね?

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